自分の老後について、ふと不安になることはありませんか? 「下流老人」という言葉が2015年に流行語になりましたが、現役時代に平均かそれ以上の収入を得ている人でも、さまざまな事情が重なって、老後は一気に貧困に陥ることが少なくないといいます。

優雅な老後を送るには、そのときになってから焦るのではなく、元気に働ける今のうちからしっかりと対策を立てておくことが欠かせません。ファイナンシャルプランナーの菱田雅生さんから、老後の不安解消のために、現役世代のうちから身につけておくべき知識や習慣について教えていただきました。

■将来に対しての不安が減る「老後資金の目安」の確認法

老後のお金を計算

まずは老後資金の目安から。目隠しされた状態で「さあ歩け」と命じられても、足がすくんで動けませんよね。それと同様、現役世代にとって老後の生活は、先が見えない、正体がつかめないからこそ漠然とした不安がふくらんでしまうのです。

その不安を軽減するには、老後の生活についてできるだけ具体的なイメージをつかんでおくこと。まずは、老後生活にいくらお金が必要になるのか、ざっくりと計算してみましょう。

老後資金については諸説ありますが、もっともシンプルな計算式は

(1か月の生活費-1か月の公的年金支給額)×12か月×25年

です。以下、この計算式の意味、どのように老後資金を算出するのかについて、3ステップで解説します。

(1)1か月の生活に必要な金額を算出する

現在、1か月の生活にどれくらいのお金がかかっているのか?を明らかにしましょう。「高齢になると生活スタイルが変わるのではないか?」という見方もありますが、基本的に老後の生活は、今の生活の延長線上にあります。

現役時代にぜいたくな暮らしをしていた人が、リタイアを境に突然つつましくなったり、今、質素な生活をしている人が老後いきなり派手になったりすることは、ほぼ考えられません。もちろん、子どもにかかる費用などは除外してもいいですが、現在の生活費=老後の生活費と大まかにとらえて差し支えないでしょう。

(2)公的年金をいくらもらえるのか確認する

公的年金(国民年金や厚生年金)を将来いくらもらえるのか、概算でいいので確認しましょう。公的年金の支給額は、日本年金機構から誕生月(1日生まれの人は前月)に送られてくる「ねんきん定期便」で目安を知ることができます。また、同機構のサイト『ねんきんネット』でも試算可能です。

(3)1か月に足りないお金×12か月×25年

老後について、(1)で1か月の生活費(出費)、(2)で1か月の収入を出したら、(1)から(2)を差し引きましょう。これで1か月に不足する金額がわかります。その金額に12(か月)を掛けたものが、1年間に不足する額です。そして、65歳でリタイア、90歳まで生きると仮定して、1年間に不足する金額を25倍したものが、あなたに必要な老後資金ということになります。

ここで、90歳を寿命とする根拠について。厚生労働省「平成28年簡易生命表」によれば、日本人の平均寿命は女性87.14歳、男性80.98歳。ただ、平均寿命とは「0歳児の赤ちゃんがこれから何歳まで生きられるのか?」という平均です。65歳まで生きた人は、もう少し長く生きられることがわかっています。さらに、医学の進歩によって、日本人の寿命は今なおジリジリと過去最長を更新中です。

もちろん、人が何歳まで生きられるのかは誰にも予測不能ですが、平均寿命より少し長く見積もって90歳で試算すれば、大きく外れることはないでしょう。

■介護費や医療費に関して心積もりしておくべきこと

医療費の心積もり

前掲の計算式(1か月の生活費-1か月の公的年金支給額)×12か月×25年で算出できるのは、老後資金のなかでも生活費に限ったものです。年齢を重ねれば介護や医療にもお金がかかりますが、これらについてはどのような心積もりが必要なのでしょうか?

(1)介護費準備のために「自宅介護なのか施設介護なのか」を考えておく

医療も介護もかかる費用はピンからキリまで。一概に「いくらあれば大丈夫です」と決めることはできません。ただ、大まかな傾向として、自宅介護か施設介護によって、費用は大きく分かれます。

自宅介護であれば、公的介護保険を利用して、月々2~3万円程度の自己負担で済むケースが多いとのことです。他方、施設を利用する場合は、自己負担額が月に10万円を超えることも。

また、はじめは自宅介護で、途中から施設介護に移行する、というパターンも考えられます。自分が将来どのような介護を受けたいのか、具体的にイメージしてシミュレーションしておきましょう。

(2)将来の医療費節約のために「高額療養費制度」の利用を想定しておく

ケガや病気の頻度や程度、そして、どのような治療を望むのかによって、必要な医療費は変動します。たとえば、病気がちな人が入院時に必ず最高級の個室に入り、保険適用外の治療を受けることを希望するのであれば、莫大な金額にのぼることでしょう。

他方、個室などの特別待遇を希望せず、健康保険の範囲内の治療を受ける場合は、健康保険の高額療養制度があるので、費用をかなり低く抑えることが可能です。仮に1か月入院することになり100万円(自己負担30万円)の医療費がかかったとしても、実質10万円以内で済ませることができます。

老後の医療費について漠然とした不安を抱えている人も多いでしょうが、日本の公的医療保険の保障は意外と手厚いのです。きちんと制度について知識を持っていさえすれば、恐れるに足りません。


■現役世代から身につけておくべき「4つのマネー」習慣

現役世代のマネー習慣

老後資金や介護や医療にかかる費用がどれくらいか、具体的にイメージできれば、老後に対する得体の知れない不安はかなり軽くなるはず。ただ、必要な金額の目安がわかれば、今後はそれをいかに貯めるかが問題となりますよね。そこで、優雅な老後を送るために現役世代から身につけておくべき習慣をご紹介します。

(1)毎月の収入のなかから、一定の割合を必ず貯金する

お金を確実に貯めるための法則はきわめてシンプル。収入の範囲内に支出を抑え、浮いたお金を貯蓄にまわすことに尽きます。ただ、余裕ができたら貯金する、というスタンスでは、なかなかお金は貯まりません。収入のなかから一定の割合は、給与天引きでまず強制的に貯金にまわし、残った金額でやりくりしましょう。

収入の1~2割を貯金にまわせない場合は、身の丈に合っていない生活をしているものと考えられます。このままでは老後は貧困一直線なので、家計簿でお金の出入りをチェックして、生活スタイルを即刻見直しましょう。

「明治維新の2年前に生まれた人に、本多静六という有名な投資家がいます。このかたは日本の“公園の父”とも呼ばれる林学博士で、事業家ではありません。勤倹貯蓄で莫大な財産を築いたのです。その手法というのは、給与の4分の1を貯蓄にまわし、臨時収入も全部貯金するというもの。そして、貯金を元手に株式や不動産への投資も行うのですが、そこから得た収益の4分の1もやはり貯蓄にまわしていたのだそうです。

著書『私の財産告白』は今もなお、蓄財のバイブルとして読み継がれています。本多氏のやり方をそっくりそのまま真似するのは難しいかもしれませんが、収入のなかから一定の割合を必ず貯金にまわすというのは、普遍的な手法だといえるでしょう」(菱田さん)

(2)貯金の目的や譲れないものを明確にする

老後資金を貯める必要性は理解できていても、ただ漠然と「老後に備えたい」と思うだけでは、モチベーションが保てません。無理なく貯金を続けるには、その目的をまず明確にすること。それも、5年後に4000万円のマンションを買いたいとか、子どもを私立の高校・大学に行かせたいとか、老後に年1回は海外旅行に行きたいとか、できるだけ具体的で、かつ、ワクワクできるビジョンを描くことが大切です。

また、あれも無駄、これも贅沢だと、なんでもかんでも我慢するのはストレスになりますし、たとえ財産は築けても、豊かな人生とはとてもいえません。ひたすらストイックに徹しようとするのではなく、趣味嗜好なども収入と相談しながら、自分にとって譲れる部分と譲れない部分を冷静に整理しましょう。

「たとえば、私の場合、趣味嗜好のうち、タバコはやめましたが、お酒はやめていません。お酒の席での人とのつながりは、私の人生のクオリティを保つうえで欠かせないものだと思っているからです」(菱田さん)

(3)適度に自分へのご褒美も設定する

節約貯金のモチベーションを保つには、適度な自分へのご褒美も大切です。

「趣味嗜好を抑制した場合は、浮いたお金の半分を、うれしい消費にまわすというのも有効でしょう。たとえば、タバコを1か月やめて1万円浮かすことができたなら、半額の5,000円で豪華ランチを食べに行くなどです。このように自分に対するご褒美を設定するのは、やる気をより高めるためのひとつの方法だといえるでしょう」(菱田さん)

この方法なら、我慢するのが苦手な人でも無理なく貯金を続けることができそうですね。

(4)自己投資のお金を惜しまない

貯金といえば、お金を使わないことに着目しがちですが、逆に、現役世代のうちにお金をかけておくべき分野もあります。それは、自分を磨くための自己投資です。もちろん、無目的にただ「何となく役に立ちそうだから」というだけで高額なセミナーを手当たりしだいに受講したり、教材を買いそろえていたりしては、お金がいくらあっても足りません。

しかし、自分はこのように生きたいという明確な目的があり、その実現につながりそうなものであれば、セミナーでも書籍でも思い切って身銭を切る価値があるはず。お金がもったいないからといって自己投資を渋るのは、その人の可能性を狭めることにほかなりません。

「受ける価値があるのは、投資セミナーなど直接、財産形成に関わるものに限りません。脳科学や心理学を学ぶことで、仕事に対する姿勢が変わったり、自分の心がコントロールできるようになったりすれば、生き生きと仕事ができて収入アップにつながる可能性がありますし、何より人生が楽しくなるだけでも、自己投資の価値はあるといえます。

もちろん、セミナーからどれくらいの効果が得られるかは、その人しだい。お値段以上の価値があったと実感できることもあれば、ちょっと損したな……と後悔することもあるかもしれません。ただ、実際に受講してみなければ、自分にとってどうなのか判断することは不可能です。たとえセミナーの内容に満足できなくても、セミナーの善し悪しに対する目利きが磨かれますし、経験は無駄にはならないでしょう」(菱田さん)

まずは、老後に必要な資金を見積もる。概算でも具体的な金額がわかれば、「そのお金を貯めるには今のうちからどうすればいい?」という思考がはたらき、老後の不安からは解放されやすくなるでしょう。先を予測しながら、身の丈に合ったお金の使い方をして、経済的にも精神的にも満ち足りた老後を送りたいものですね。

菱田雅生さん
ファイナンシャルプランナー
(ひしだ まさお)1969年生まれ。早稲田大学法学部卒業後、山一證券入社。山一證券自主廃業後、独立系ファイナンシャルプランナーとなる。2008年に資産運用や住宅ローンなどを中心としたアドバイスを行うライフアセットコンサルティング株式会社設立。相談業務や原稿執筆、セミナー講師などに従事する傍ら、テレビ・ラジオ出演などもこなす。約20年の独立系ファイナンシャルプランナーとしての実務経験で培ったコンサルティングノウハウや、年間200回超(2000年以降の講演回数は約3500回)のセミナー講師をこなすなかで得た経験を活かし、金融機関の職員をはじめ一般の生活者にいたるまで、わかりやすくファイナンシャル・プランニングを伝えている。
『お金を貯めていくときに大切なことがズバリわかる本』菱田雅生・著 すばる舎刊
この記事の執筆者
TEXT :
Precious.jp編集部 
2018.3.9 更新
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
中田綾美
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