連載「Tomorrow Will Be Precious!」明日への希望をアクションに変える

雑誌『Precious』4月号からスタートの新連載【Tomorrow Will Be Precious!】では、明日への希望をアクションに変える人たちの活動に注目し、紹介していきます。

今回はそのなかから、インドアの垂直栽培を行うスタートアップ「ekonoke(エコノケ)」CEOのイネス・サグラリオさんの活動にフォーカス! ホップの垂直栽培を行うスタートアップを立ちあげ、農業の未来を変えようとしているイネスさんのお仕事に注目しました。

イネス・サグラリオさん
「ekonoke(エコノケ)」CEO
コンサルティング会社、アフリカ開発銀行を経て、’16年に起業。ホップの室内垂直栽培に成功し、ガリシア州のビール製造大手イホス・デ・リベラ社からの投資を得る。「エコノケ」のホップを使ったビールやノンアルコールビールは現在市場に流通している。現在いるスタッフ12名のうち半数が女性。マドリッド市内で12歳、10歳の子供と夫と暮らす。

ホップの垂直栽培で農業に変革を! 未来を変えるスタートアップ

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「ekonoke(エコノケ)」CEOのイネス・サグラリオさん

’16年にイネスさんと従姉妹で農学士のアナさん、そして大学で工業関連の専門職に就く仲間と立ち上げた「エコノケ」は、インドアの垂直栽培を行うスタートアップだ。水耕栽培の装置を縦に積み上げることで省スペースを実現する垂直栽培。当初はレストラン向けにレタスやハーブを提案していたところ、「壁の垂直栽培でレタスができますよ、と営業に行ったら、まるで火星人でも見たかのような目をされましたね(笑)。それでもあの数年間は、学びに満ちていました。大学で修士課程を修めるよりずっと役に立つ経験でした」。

コロナ禍の間も研究を続け、それまで不可能だといわれていたホップの垂直栽培に成功。ビール製造会社を回って、投資をとりつけた。現在ではスペイン北西のガリシア州にプラントを設立。収穫量も増大させた。

「ホップは、収穫までふつうの畑では6か月かかり、冬には実をつけませんが、私たちの農場では年間を通じて12〜14週間での収穫が可能です。土は使わず、水もリサイクルしながら循環させています。植物から出る湿気も集めて循環させており、畑で育てるときと比べて水の消費量が15分の1ですむんです。いずれ20分の1にするのが目標です。そして、除草剤も殺虫剤も除菌剤も使いません」

食料供給についての問題提起も重要だ。

「収穫量と品質を安定させるために、気候変動に強い種類を植えるという方法もあります。しかし、それは植物の多様性をなくすことにつながる。それぞれのビールの独自性は、原料となるホップにあるのですから。消費者は食に関する問題をもっと考えなくては」

今後はビールだけでなく、ホップがもつ消炎効果や抗酸化作用を生かして、化粧品への利用の研究も始めるという。「『できない』という理由で起業家を諦めさせることは不可能です」と笑う。常に何かを学んでいたい。挑戦したい。「エコノケ」を世界にもっと広げたい。イネスさんの道はまだまだ続く。

◇イネス・サグラリオさんに質問

Q. 朝起きていちばんにやることは?
シャワーを浴び、子供が元気になる音楽をかけ、家族で朝食をとる。
Q. 人から言われてうれしいほめ言葉は?
「よい人ね」。私の祖父母も両親も「よい人」になるように育ててくれたので。
Q. 急にお休みがとれたらどう過ごす?
自然のなかで子供たちとたくさん時間を過ごす。
Q. 仕事以外で新しく始めたいことは?
3年ほど前から会員制のコーポラティブ型スーパーに参加し、月に1度働いている。社会の理想のモデルの参考になる。
Q. 10年後の自分は何をやっている?
「エコノケ」のプロジェクトを世界の半分で遂行。これは私たちにとっての長期的な挑戦。
Q. 自分を動物にたとえると?
憧れるのはチョウ。イモムシがあれほど美しく生まれ変わることに魅了されるから。

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PHOTO :
Javier Penas Capel
EDIT&WRITING :
剣持亜弥、木村 晶・喜多容子(Precious)
取材 :
Yuki Kobayashi