7月に入るとスーパーマーケットなどにもお盆用の品々が並びます。果物やお菓子などのお供え物や盆飾り、迎え火・送り火用のおがらや素焼きの皿などを見かけることがあるでしょう。今回はお盆の「迎え火」について。お盆の基礎知識もあわせて解説します。

【目次】

集合住宅での「迎え火」はどうする?
集合住宅での「迎え火」はどうする?

お盆の「迎え火」とは?「意味」と「由来」

■意味

「迎え火」とは、客人や神霊を迎えるために焚く火のこと。神社では、神迎えといって、年に1度、出雲大社に旅立つ神さまをお迎えする神社の行事で行われ、婚礼、葬式などにも用いられますが、通常は、お盆の精霊迎えのために焚く火のことを指します。お盆の時期、ご先祖さまの霊が迷わず自宅に戻ってこられるように、目印として焚くのです。

■由来

日本では古代から火は神聖なものとされていました。神さまを迎え入れる目印となる「迎え火」をわたしたちがご先祖さまのためにお盆で焚くことは、故人を偲び、その生き方を尊重するという、敬意も表しているのです。


【「お盆」についての基礎知識】

■「お盆」とは?

旧暦(太陰暦/陰暦)の7月15日を中心に行われる「盂蘭盆会(うらぼんえ)」を、一般的に「お盆」と言います。盂蘭盆会は、お寺で仏事供養や供養のための法要・儀式のほか、自宅で盆提灯や盆棚を飾り付け、果物やお菓子などをお供えしてご先祖様や亡くなった家族の霊を迎えたり、お墓参りをして過ごすための期間です。

■「お盆」の時期

現在は8月13日から16日を「お盆」とするのが一般的です。会社などでの「お盆休み」といえばこの期間にあたります。

そもそもは旧暦の7月13日から16日がお盆期間でした。これは1872(明治5)年に日本が新暦を導入する前までの話。改暦が実施された同年12月3日が、新暦での明治6年1月1日となったため、旧暦7月15日は新暦で8月15日にあたることに。本来の時期を踏襲するなら、いまは来月の8月15日が「お盆」ということになります。しかし、新暦を推奨する明治政府のお膝元であった東京や神奈川、また北海道の一部や石川県金沢市、静岡県の都市部などでは7月盆が主流のようです。そのほかの多くの地域では、8月盆を実施することが多く、沖縄県は現在でも旧暦の7月15日(現在の暦の8月15日)をお盆とする風習が残っています。

ややこしいので、時期と地域をまとめましょう。

・7月盆:現在の暦の7月13~16日(東京、神奈川、ほか一部地域)

・8月盆:現在の暦の8月13~16日(多くの地域、お盆休みはこの時期に相当)

・旧暦盆:現在の暦の8月15日前後(沖縄県)

地域に関係なく、「お盆休みに帰省してお盆を執り行う」という場合も多いようですね。

■お盆にすべきこと

地域や宗派によって多少の違いはありますが、一般的なお盆の内容をご紹介しましょう。

1)仏壇の掃除:日常から清浄にしておくべきですが、お盆前日までに仏壇内部までしっかり拭き掃除したり、位牌や仏具を柔らかい布などでぬぐって清めます。

2)お盆飾りやお供え物、盆花などの準備:盆灯籠は、四十九日が過ぎて初めて迎えるお盆(「新盆(にいぼん、しんぼん)」や「初盆(はつぼん)」と言います)だけは白地(無地)を用います。また、「早く帰ってきてくれるように」という意味の精霊馬と、「ゆっくりお帰りください」という意味の精霊牛の置物や、それをキュウリとナスでかたどったものを飾り付けたり、そうめんを供える風習も。いずれも仏具屋などで揃いますが、故人が好きだった果物や菓子、花を備えるということだけでもいいでしょう。

3)迎え火:次の章で詳しく解説します。

4)送り火:安全に戻っていただくため「送り火」同様に焚くもの。

5)後始末:食品はいただき(傷みやすいものは最終日を待たずに食べても)、盆灯籠や盆飾り棚など翌年以降も使うものは、購入した際の箱などにしっかり納めます。盆灯籠は紙など虫がつきやすい素材が使われているので、防虫剤も一緒に入れて保管するといいでしょう。


【「迎え火」は「いつ?」「どうやる?」】

■いつ?

一般的にはお盆初日の夕方から日没くらいの間に行いますが、時間の決まりはありません。

■どこで?

玄関先や庭など、安全に火を焚ける屋外が理想ですが、マンションなどではベランダで行っても。集合住宅やお住まいが賃貸物件の場合は、玄関先やベランダで火を焚くことが可能かどうか、住居規定や地域のルールを確認するといいでしょう。

■準備するもの

必要なのは、おがら(皮を剥いで乾燥させた麻の茎)、ほうろく(おがらを焚くための素焼きの丸い皿)、マッチやライターなどの着火品、消火用の水です。新聞紙などホウロクの下に敷くものもあるといいでしょう。

■手順

1)新聞紙などの上にほうろくを乗せ、燃えやすいよう井桁などにおがらを組んで火を点けます。

2)すべてのおがらが灰になるまで火元を離れず見守ります。

3)ほうろくが冷めてから片付けるか、すぐに片付ける場合は敷いたものごと運んで始末します。ほうろくは割れない限り何度でも使えます。

■火が焚けない場合

玄関先、庭、ベランダなどがない、あるいは火を焚けないけれど「迎え火」をしたいという場合は、ほうろくにおがらがのったデザインのろうそくなど、市販されている代替品を利用するのも一案です。また、お墓参りに行くだけでもいいでしょう。形式より、故人を偲ぶ気持ちや先祖を敬う気持ちが大切です。

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お盆初日の夕方に「迎え火」をして故人の精霊を迎え、お盆期間を一緒に過ごし、最終日に「送り火」をしてお戻りいただく。現在の住居環境では玄関先で「迎え火」をするのは難しい場合もあり、実際にはやらないという人も多いでしょう。この仏事自体を実行するか否かは別として、「お盆」「送り火」「迎え火」などは、大人として知っておきたい常識のひとつですね。

この記事の執筆者
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参考資料:『日本大百科全書(ニッポニカ)』(小学館)/『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/『12か月のきまりごと歳時記(現代用語の基礎知識2008年版付録)』(自由国民社) :