俳優の菊地凛子さん、磯村勇斗さん、Netflixプロデューサー岡野真紀子さんが登壇「第37回東京国際映画祭」ケリング「ウーマン・イン・モーション」トーク開催
アジア最大級の映画の祭典「第37回東京国際映画祭」の公式プログラムとして開催された、映画界で働く女性を取り巻く環境について話し合う「ウーマン・イン・モーション」トークに、本映画祭のフェスティバル・ナビゲーターの俳優・菊地凛子さんをはじめ、磯村勇斗さん、Netflixプロデューサーの岡野真紀子さんが登壇。映像業界で働く女性の環境、課題、そして未来について、それぞれの視点から意見交換がなされました。
「ウーマン・イン・モーション」とはグローバル・ラグジュアリー・グループのケリングが2015年にカンヌ国際映画祭にて発足したプログラムで、映画界をはじめとする文化・芸術分野の様々なポジションで活躍する女性に光を当てる取り組みです。
自身も映画界の労働環境改善に取り組む、日本を代表する映画監督の是枝裕和さんもオープニングに登場され、映画制作の現場が誰にとっても働きやすい環境であるため、話し合いを重ねているとコメントされ
「僕たちが一番に考えなければいけないのは、子供たちに映画に触れる豊かな機会を用意する “映画教育”。もう一つは映画の制作現場を女性にとって働きやすく、出産を経ても戻ってきやすい場に変えていくこと」と、急いで取り組むべき2つの課題を挙げながら、
「僕は監督であり、プロデューサーであることも多い。良い映画を作ることはもちろんですが、参加してくれたスタッフが継続して映画制作に関わりながら、きちんと人生設計できる環境作りをする責任がある。そんな責任感から、今日は3人の話を楽しみにして来ました」と、このあとトークセッションを控える登壇者にエールを送りました。
菊地凛子さん、磯村勇斗さんが考える「映像業界における女性を取り巻く環境や問題」について
今回で4回目を迎える「ウーマン・イン・モーション」トークでは、「映像業界における女性を取り巻く環境や問題」について、それぞれの視点、立場から熱い議論が交わされました。
国内はもとより、海外での作品にも数多く参加されている菊地さんは、最近の国内での制作現場について
「プロダクションによって変わりますが、リスペクト・トレーニング(※Netflixが開発したワークショップ型のトレーニング)があったり、インティマシー・コーディネーターが入ったり、環境が少しずつ変わってきた印象がある」と振り返り、そのうえで
「立場や男女関係なく、いろいろな人が平等に働いていく環境が整っていくのにはまだまだ難しい問題がある。出産や子育て、介護の問題など、人生の局面でキャリアがストップした時に(仕事に)戻ってくるためにはどうしたらいいのか。映像業界に限らず、そういった意識を持って会話していく必要があると思っています」と率直な意見を述べられました。
昨年公開された映画『月』で、第47回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞された磯村さんは今年、デビュー10周年の節目を迎え、今のポジションから見える制作現場について、
「デビューしたての頃は、まだ現場に男性スタッフさんが多く、罵声が飛んだりしているのも見てきた。最近は女性スタッフの数が増えてきているのを感じています。女性スタッフが、半分以上の時もある」とし、だからこそハラスメントの問題や、女性が働きやすい環境にするための課題について、
「女性だけで解決できる問題ではないと思う。性別関係なく、男性も一緒に問題に向き合い、まずは理解していくことが大事。クリエイティブにはディスカッションがつきもの。話し合える環境が必要」と菊地さん同様、膝を突き合わせて話す必要性について語りました。
エグゼクティブプロデューサーとして制作に携わり、配信を間近に控えた話題作『さよならのつづき』も担当されたNetflixプロデューサーの岡野真紀子さんは、
「クリエイティブ面、現場のサポート面でも、男性のプロデューサーに意見を求めたり、お互いの強み、弱みをサポートし合うことが重要」とし、国内でまだ数の少ない女性監督についても、Netflixでは積極的に女性を監督やスタッフに起用しているとコメントしたうえで、
「今は物語や作品自体に多様性が求められている。オーセンティックなものを届けるためには、作り手も多様でなければいけない。誰かが想像して作り上げたものではなく、当事者がちゃんと実感して、共感して、物語として届ける。物語に真実性を注いで、作品を届けることを意識しています」と、これからは日本でも多様性のある起用が、力強い物語を作り上げることにつながると、現場ならではの意見を発信しました。
イベント後半では近年、話題の “インティマシー・コーディネーター(映画やテレビの撮影現場でセンシティブなシーンにおける俳優と監督・プロデューサーなどの間に入って仲介する役割を担う)”の起用についても率直なトークセッションが繰り広げられ、国内で初めてインティマシー・コーディネーターを登用したNetflixでの現場について、岡野さんは
「私がNetflixに入ってから、インティマシー・コーディネーターの方に相談しなかった作品はひとつもないです。私がインティマシー・シーンだと思わなくても、俳優さんは思うかもしれない。台本を読んでいただいて、『こういったシーンは、インティマシー・シーンだと考えてもいいのでは』とアドバイスをいただくようにしています」と、その重要性を明かしました。演じる側として、菊地さんも
「いてくださった方が、絶対にやりやすい。それは相手を守るためでもあるし、自分を守るため、クルーを守るためでもある。そういう立場の人がいて、『大丈夫ですか。何かありませんか』と聞いてくれることで、心が軽くなる。根性で行けます!ということでは、絶対にないので。(インティマシー・シーンを)きちんとデリケートなこととして捉える方がいるのは、とても必要なことだと思います」と、心強い存在だと胸の内を明かしました。磯村さんも「(いてくださると)安心してシーンに臨める」と信頼を寄せていると話し、
「今、日本には女性の方しかいらっしゃらないのでは?男性のインティマシー・コーディネーターがいてもいいなと思う」とコメントすると、岡野さんは「さっそく会社で話してみたい」と、今後につながる新たな可能性が見い出せた貴重な場となりました。
トークセッション終盤、岡野さんは
「10年後、20年後にこの業界に入る皆さんはどうなるんだろうと未来を意識したうえで、お互いを知って、サポート体制を考えていくことが重要」とし、将来を見据えてそれぞれが問題を知り、立ち上がり、助け合っていくことが豊かな映像業界の未来へつながるとの提言が述べられ、イベントは締めくくられました。
現場で真摯に仕事に打ち込んでいるキャストをはじめ、制作陣が現状を振り返って問題を討論し合い、今後、よりよい制作現場、そして作品へとつながるようにと率直な意見が交わされた今回のイベント。会場からは盛大な拍手が送られ、将来の日本の映画界に寄せる期待の大きさを物語る貴重な機会となりました。
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- EDIT&WRITING :
- 松野実江子(Precious.jp)