こんなに何を考えているかわからないセレブはいない

セレブ_1
第45代アメリカ大統領として最後にエアフォース・ワンに搭乗した際のドナルド・トランプ大統領とメラニア・トランプ大統領夫人。この場で支持者らに感謝の意を表した。150年以上の歴史の中で、後継者の就任式への出席を拒否した初めての大統領であった。2021年1月20日、メリーランド州アンドルーズ統合基地にて。(C)Pete Marovich - Pool/Getty Images

かつて「隠遁のファーストレディ」と呼ばれた人、メラニア夫人は、結局のところ再びファーストレディに返り咲くこととなった。それが実際に嬉しいのかどうか、本人に改めて聞いてみたい気がする。

表情をほとんど変えない上に露出も少ない。“神秘的”という言い方もできるが、神秘性にはもっと抗えないようなパワーが必要で、こちらが騙されるのではないかという怖さを宿しているものだが、メラニア夫人にはそういう怖さはない。ただただ、何を考えているのか分からない。ここまで分からない人ってなかなかいない、少なくともセレブでは絶対にいないはずなのだ。セレブって、ある意味非常にわかりやすい人々だから。もう一度ファーストレディになるとなれば、 やっぱりまた気になる。この人って一体どういう人なの?

スロベニアの片田舎でごく普通の家に生まれ、でも16歳の時にモデルとして見出され、高校卒業後は大学に進み、建築やデザインを学んだが、一年で退学してモデルのキャリアに集中したと言われる。ちなみに、自らのウェブサイトでは、建築とデザインの学位を取ったと書いているが、これが学歴詐称ではないかという疑惑を生んでいる。

セレブ_2
スロベニア語で「大統領夫人の故郷へようこそ」と書かれた看板。スロベニアで生まれたメラニア・トランプは、自動車セールスマンの父親と繊維工場のパタンナーの母親のもと、セヴニツァの町で育った。外国生まれのアメリカ大統領ファーストレディとしては歴代2人目である。2016年11月、スロベニアのセヴニツァにて。(C)Jack Taylor/Getty Images

超一流になれなかったモデルは、大金持ちとの結婚を狙うのに?

ただ学位を取ったか否かは別にして、ともかくモデルの道を選んでからは、パリかミラノでのへ仕事を模索しつつ、結局ニューヨーク行きを決意。その5年後にはアメリカ永住権を取得しているのは、故郷を捨ててまでモデルとしての世界的な成功を目指したわけで、明快な野望をもち、それを実現するだけの行動力ある人であったのは確か。

そんな中で、トランプ氏と初めて会ったときの逸話はこの人の本質を少なからず物語っている。あるパーティーの会場、 トランプ氏が彼女を見染める形で連絡先を聞いても応じなかったと言うのだ。その後もトランプ氏がアプローチを重ねて交際に至るまでは意外なほど時間がかかっている。

モデルとしてのピークは、1997年にたばこ「キャメル」の広告モデルに起用されたこと。ただ当時のスーパーモデルにはなれなかった。はっきり言ってしまえば、超一流のモデルになれなかった場合は、どこかの金持ちを捕まえると言うのが、この時代のモデルたちの典型的な人生設計だと言われていたことを考えると、そのガードの固さは異例というほかない。ましてや相手はトランプ、誰もが知る大富豪に何度言い寄られても動じなかったという事実に、何か信念がある人なのかと、妙に関心させられる。24歳年上とは言え、トランプが今よりだいぶスマートで、なかなかハンサムであった時代である。最終的に知り合ってから結婚するまで6年以上かかっており、そういう意味でもトランプにとって、メラニアは単なる“トロフィーワイフ”ではないのだろう。

セレブ_3
1999年、フロリダ州パームビーチのマール・ア・ラーゴ邸宅で行われたイベントに出席したトランプ一家。左から、銀行家である姉のエリザベス・トランプ・グラウ、メアリー・トランプ(母)、当時不動産王として知られていたドナルド・トランプと、彼の恋人という立場であったモデルのメラニア・クナウス(現・メラニア・トランプ)。(C)Davidoff Studios/Getty Images

一度も表紙を飾らなかったファーストレディ

手を繋ごうとする夫の手を振り払ったり、キスを拒んだりという場面は度々見られているけれど、それをそのまま受け取るならば、トランプ氏はメラニア夫人にまだまだぞっこんのよう。彼のような大富豪は自分の誘いをクールに断るような女性にやっぱり弱いのだ。結婚してからの力関係でも、それは続いているということ。今も妻の美しさを周囲に誇るような言動があるほどだというし。

ちなみにファーストレディとして雑誌の表紙を飾った回数、オバマ・ミッシェルは12回なのに対し(8年2期勤めた中で)、メラニア0回。それを受けてトランプは、彼女は最高のファーストレディなのに、どうかしてると雑誌の采配を揶揄したとされる。

ロシアの国営放送が、トランプ大統領当選を祝って、こともあろうにメラニア夫人の過去のヌード写真を取り上げて世界中で物議をかもしているが、そもそもこのヌード写真、駆け出しの時にうっかり撮ってしまったという種類のものではなく、なんとトランプとの婚約中に撮られたもの。トランプ氏は雑誌の表紙となったそのヌード写真に、いたくご満悦だったと言うから、おそらく今回も何のダメージにもならないのだろう。

メラニア自身も、自らのヌード写真について、まず裸体の美を描いてきた歴史上の芸術家たちを取り上げ、これもまた芸術作品であると言い切っている。「人間の体の美しさを尊重し、芸術を強力な自己表現の手段として使うという、時代を超えた伝統」であると。

そうした側面を見せられると、この人の「鉄仮面」とも言われる無表情や、公の場所にめったに姿を表さない閉鎖性も、なんだか1本筋が通っている気がしてくる。

しかもあるインタビューに「私はシャイじゃない」「控えめでもない」と語ってもいる。「私のことを知る人は多くないし、私のストーリーを知っているのは私だけ」という、意味深な言葉も残しているのだ。そして、さらなる突っ込んだ質問についても「自分についてわざわざ話す必要はないと思う。目立ちたがり屋になる必要はないし、何でもコメントしたり、何かを喧伝するのはよくない。そもそも私はそういう人間じゃない」と、結局多くを語らなかった。

異様なまでに自分を出さない内助の功、それがトランプを2回大統領にした?

一見矛盾しているようにも思えたのが、最近になってメラニア本人が回顧録を出したこと。ただそれも、トランプ夫人としての生き様が描かれたようなものではなく、息子に対しての一般的な母親の気持ちのようなものが多く、注目すべきものではなかったと言われる。しかしこの中に一つだけ、ハッとさせられる内容がある。それは、20年間にわたって英国のチャールズ国王と文通を重ねてきたという事実。

セレブ_4
2024年10月8日に販売となった米国大統領夫人メラニア・トランプの新刊『メラニア』。第45代アメリカ大統領ファーストレディ時の彼女の回顧録で、中絶の権利や2020年の大統領選挙を含む国家問題に関する彼女の考えがつづられている。(C)Brandon Bell/Getty Images

つまりそういうことを世の中にアピールするようなタイプでないのは確かなのだ。20年間黙っていたのだから。ふと思うのは、ひょっとしてトランプの妻がメラニアのような人ではなかったら、つまりもっとわかりやすく自分をアピールし人気を得ようとするタイプであったら、トランプ氏の大統領2回はなかったかもしれない。異常なまでに自分を出さない内助の功……だんだんそんな気がしてきた。ファッションは時々批判を浴びたりはするが、問題発言も問題行動もなく、さほど注目も浴びないが、彼女を嫌いとい言う声も聞こえない。それもトランプ夫人でありながら、欲張りな印象がないからではないか。

セレブ_5
チャールズ皇太子(現 イギリス国王・チャールズ3世)、エリザベス2世女王、ドナルド・トランプ アメリカ大統領、メラニア夫人がイギリスの国家記念行事に出席。2019年6月、イギリス・ポーツマスにて。(C)Karwai Tang/WireImage

最初の妻が、トランプ大統領誕生時に、「私こそがファーストレディよ」と冗談とも本気とも取れる発言をした時、メラニアは、そういう発言をするべきではないと発言。しかし元妻などに対する反論はこれで最初で最後だったと言われる。何かこの人、寡黙な上に、筋金入りの真っ当な人物なのではないかとも思えてきた。

圧倒的な美貌を誇るも、自己顕示欲を持たないファーストレディ……悪くない。そんな目で今後、このファーストレディーを見つめるのも面白いかもしれない。

この記事の執筆者
女性誌編集者を経て独立。美容ジャーナリスト、エッセイスト。女性誌において多数の連載エッセイをもつほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザー、NPO法人日本ホリスティックビューティ協会理事など幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。近著『大人の女よ!も清潔感を纏いなさい』(集英社文庫)、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)ほか、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。好きなもの:マーラー、東方神起、ベルリンフィル、トレンチコート、60年代、『ココ マドモアゼル』の香り、ケイト・ブランシェット、白と黒、映画
PHOTO :
Getty Images
WRITING :
齋藤薫
EDIT :
三井三奈子