ファッションで語る「アイデンティティ」とは——これからの20年も一緒に…あの人の「名品」物語
自分らしい価値観で選び、長く身に纏う名品は、その人の「アイデンティティ」の表現そのもの。人生経験を積んで、審美眼も磨かれた素敵なあの人が、名品と出合い、育んできた物語には、きっとこれからの名品選びのヒントが見つかるはずです。
尾上 紫さん「伝統を受け継ぐ者として石に秘められた思いをさらに美しく煌めかせていく」
白魚のような手というものがあるとするなら、尾上紫さんの手がまさにそれだろう。お母様の形見というダイヤモンドリングが煌めく左の薬指のサイズが “4” という、白く華奢な指先。ただ、ひとたび舞台に上がれば、この白い指はみるみるピンク色に染まり、爪の先まで血が巡っていく。しなやかであることは、同時に力強さも秘めているのだ。日本の伝統文化の明日を担うキーパーソンは、まろやかな和の真珠以上に、透明で硬質な輝きを宿す、洋のダイヤモンドが似合う人だ。
「2、3歳の頃から、キラキラと光るものが好きで、おもちゃの指輪には目もくれず、本物のダイヤモンドを身につけた女性を見つけると、後をついて回るので、“ダイヤモンド姫” と呼ばれていました(笑)」
紫さんが、早くに亡くなったお母様から譲り受けたのは、ダイヤモンドの婚約指輪だった。存在感のある3連リングを、指が細かったお母様のために特別に誂えたもので、紫さんにはまさにシンデレラサイズだ。
「母はいつもこの指輪と、金細工が施された “ピアジェ” の腕時計をつけていました。“ネジを巻いてあげる” と言い訳をして、時計に触らせてもらったものです。母のジュエリーにはたくさんの物語があり、目をやるたびに心が落ち着くので、大切なシーンでお守りとして身につけて、力をもらっています」
ほかにもお祖母様から紫さんまで3世代に受け継がれたジュエリーには、大きな翡翠のかんざしを切り分けたというリングなどもある。こっくりと深いグリーンの翡翠は、希少なものだ。
「昔の人はデザインよりも、石そのものに価値を見出していたようです。何かあったときは石が助けてくれるから、出し惜しみをせず、どんどんつけなさいと言われました」
お義母様から受け継ぐジュエリーをリフォームして、義姉妹で分けることもあったとか。血縁がなくとも、思いを共有することで、結束を強くしてくれる。それもまたジュエリーの魅力。
「愛情を込めて大切に使えば、20年、30年を経て、誰かの手に委ねられる日が来たとき、私がリングに母のイメージを重ねるようにその輝きはきっと持っていた人の個性をより強く、美しく印象づけてくれるのだと思います」
自分のために選ぶダイヤモンドリングは、直感を頼りに他の誰とも似ていないデザインを選びたい。2種類のシェイプのダイヤモンドを、肌の上に浮いているかのようにリズミカルにセットして、あらゆる角度から光を集めて、眩いほどに煌めく。
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
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