ファッションで語る「アイデンティティ」とは——これからの20年も一緒に…あの人の「名品」物語

自分らしい価値観で選び、長く身に纏う名品は、その人の「アイデンティティ」の表現そのもの。人生経験を積んで、審美眼も磨かれた素敵なあの人が、名品と出合い、育んできた物語には、きっとこれからの名品選びのヒントが見つかるはずです。

ヤマザキマリさん「名品は、時が与えてくれた品格を纏うもの。時の流れに研ぎ澄まされて今にいたるのです」

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Ph/ノザワヒロミチ
ヤマザキマリさん
漫画家、文筆家、画家、東京造形大学客員教授
1967年東京生まれ。17歳でイタリアに渡り、フィレンツェの国立アカデミア美術学院で美術史・油絵を専攻。結婚を機にエジプト、シリア、ポルトガル、アメリカなどの国々に暮らす。2010年『テルマエ・ロマエ』(KADOKAWAエンターブレイン)でマンガ大賞2010受賞、第14回手塚治虫文化賞短編賞受賞。2024年『プリニウス』(とり・みきと共著・新潮社)第28回手塚治虫文化賞のマンガ大賞受賞。著書に『ヴィオラ母さん』(文藝春秋)ほか多数。『続テルマエ・ロマエ』を「少年ジャンプ+」(集英社)で連載中、1巻 好評発売中。

「移動をデフォルトとして生きる」というヤマザキマリさんが最近、どこへ行くにも愛用しているのが、“ルイ・ヴィトン” のバッグ『スピーディ・バンドリエール』。それはやはり、旅先での衝撃的な出合いから始まった。

「パリやミラノの空港の待合では、かなりの確率で素敵な海外マダムに遭遇します。あるとき、ラウンジにひとり、目の前に座ったおば様は、身につけているジュエリーから品のよさを感じましたが、化粧っ気もなく、カーディガンに白いシャツといったごくシンプルないでたち。使いなじんだ感じの大きめの『スピーディ』から雑に投げ込まれた新聞を取り出し、コーヒーを飲みながら読み始めたのです。あの名品を従える力を持って、ひけらかすことも、虚勢を張ることもなく、ただあるのはインテリジェンスだけ。その格好よさに、私が求めていたのはこういうことだったのかと納得しました」

イタリア在住時代、日本からやってくる人々のブランドの “濫用” ぶりを目の当たりにして、ブランドロゴに抵抗を抱くようになったヤマザキさん。

「世界中を旅して、最も多く目にしたのが “ルイ・ヴィトン” のモノグラム・パターンでした。さまざまな思いや経験を経て、最終的にあの出合いによって結論を得たように思います。ブランドが勝たないこと、ブランドにぶら下がる必要がない人になってこそ、映えるものだと。自分がその域に達しているかは別として、60代、70代になっても、こんなふうに使っていたいと思って…」 

大きめの40サイズに『iPad』から進行中の原稿、お菓子までなんでも入れて持ち歩く。内ポケットがひとつというミニマルな構造で、中に入れたものを探すのは大変だけれど、それも愛嬌として楽しめるから、完成度の高いシンプルさを優先したいと考える。

「使ってみると、とても明るく楽しく、気さくに付き合える友人なのに、実はすごく知的で育ちのいい人だった…といった、このバッグの人格が見えてきます。古くからあるものが今もつくられ続けて、“これからも使ってもらいたい” と思っているところもいい。歴史と同じで、時代を経て残る名品は、時の流れを受け止めながら、研ぎ澄まされて今にいたるもの。品格が保たれているから、所有者に媚びない強さがあるのです」

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バッグ『スピーディ・バンドリエール 35』[縦23×横35×マチ18cm]¥299,200・コート¥1,050,500・ニット¥162,800/参考価格(ルイ・ヴィトン)

トラベルバッグ『キーポル』のタウンバッグとして1930年代に誕生して以来、アイコニックな存在に。1959年には現在のようなコーティング加工による「モノグラム・キャンバス」素材が登場。軽くて丈夫な名品ボストンバッグは、シンプルなフォルムと、ベーシックな配色から、着る服を選ばない。用途によるサイズバリエーションも絶妙。写真はA4サイズの書類が収まるもの。

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

問い合わせ先

ルイ・ヴィトン クライアントサービス

TEL:0120-00-1854

PHOTO :
浅井佳代子
STYLIST :
小倉真希
HAIR MAKE :
三澤公幸(Perle)
MODEL :
大塚まゆか
EDIT :
奥山碧子・木村 晶・遠藤智子(Precious)、藤田由美