【基礎から学ぶ「ラグジュアリーウォッチ」用語集】楽しむために覚えておきたい時計にまつわる用語を、時計ジャーナリスト・並木浩一さんがレクチャー!

『Precious』1月号の別冊【『Precious』ウォッチアワード 2024】では、毎年恒例の新作ラグジュアリーウォッチの祭典を大特集。2024年に発表された最新ウォッチを各界のスペシャリストが審査、唯一無二の受賞時計を発表しています。

時計_1,高級時計_1,ニット_1
時計『ゴールデン・エリプス Ref.5738/1』●ケース:RG ●ケースサイズ:縦39.5×横34.5mm ●ブレスレット:RG ●自動巻き ¥9,510,000(パテック フィリップ)、ニットプルオーバー¥165,000(マイケル・コース〈マイケル・コース コレクション〉)

今回はこの特集から、【基礎から学ぶ「ラグジュアリーウォッチ」用語集】をお届け。時計を楽しむために覚えておきたい【ウォッチにまつわるキーワード】を、時計ジャーナリストの並木浩一さんにレクチャーしていただきました。

並木浩一さん
桐蔭横浜大学教授・時計ジャーナリスト
(なみき・こういち)出版社勤務を経たのち、京都造形芸術大学大学院にて博士号を獲得し、研究者の道に進む。人間が行う「静」の表現として時計を探究する一方、「動」の表現としてダンスを研究。スイス取材には、日本のメディアが参加し始めた1990年代から参加。表象文化論的な切り口で時計を論じる視点に定評がある。

【基礎から学ぶ「ラグジュアリーウォッチ」用語集】

時計_2

1.ムーンフェイズ

「新月から満月へ。約29.5日の周期で満ち欠けする月の周期を、月の描かれたディスクで視覚的に表示。太陽暦のなかに太陰暦が混在するおもしろさも。満月/新月、大潮/小潮など、仕事柄関係が深い人には便利な機能。実用的ロマンティック機構です」

2.ベゼル

「風防をケースに固定するために設けられた枠。SSやセラミック素材を使うことが多い」

3.風防(ふうぼう)

「ダイヤルを覆って保護する透明な素材。高級時計ではサファイアクリスタルが多いが、ミネラルガラスやプレキシガラスも」

4.リュウズ

「主に3時位置にあり、主ゼンマイの巻き上げや時刻調整をするツマミ。竜頭(りゅうず)と呼ばれる朝鮮鐘の吊り手が語源」

5.レトログラード

「フランス語で “逆行” を意味する機構。扇形に運針する。パワーリザーブ表示に多いが、ときに分表示や秒表示などで採用されることもある。その際は終点に針が到着すると瞬時に帰零。円運動を主とする時計において、反復運動する特殊な動きが特徴」

6.トゥールビヨン

「一定方向の重力を受けることで偏る機械式時計のテンプ(振り子)の動きに対し、それ自身を回転させることで、偏りの相殺を試みた装置。複雑機構と呼ばれるが、クロノグラフに比べるとパーツ数は少ない。ただし、組み立てには手練の職人技を要するため、時計メーカーの技術力を示す重要な役割を果たす。機械式時計高級化の証であり、終わりのない永遠の競争の舞台。精度競争ではクオーツに負けたが、トゥールビヨンのおかげで機械式時計が付加価値においては圧倒的勝利を収めている」

7.ギョウシェ

「ダイヤルを装飾する彫金技法の一種。エンボスもあるが、手彫りが最高峰。クラシックな機械を用いて職人が作業。模様を途切れさせず入れるには、作業を途中で止めることができず、長時間の作業が必要になる。 “ブレゲ” のものが最高峰とされる」

8.ビッグデイト

「最大2桁となる日付表示を、0〜3と0〜9を示す2枚のディスクで表示する機構。高い技術を要し、配置場所も限られる。日付窓の大きなものをビッグデイトと呼ぶ。ブランドにより、アウトサイズデイト、パノラマデイトなど呼び名もさまざま」

9.ジャンピングアワー

「ディスク式の時間表示。60分に1回、瞬時に切り替わるため、動作には大量のエネルギーを必要とする。 “シャネル” の『ムッシュー ドゥ シャネル』などが有名。レトログラード針と組み合わせたモデルが多い」

10.クロノグラフ

「時計に併設されるストップウォッチのこと。センター軸にクロノグラフ針が備えられ、サブダイヤルで30分積算、12時間積算などが可能。手巻きを発祥とし、1969年には、世界初となる自動巻きクロノグラフが誕生。パーツ数が多く、トゥールビヨンよりも複雑。ダイヤルのレイアウトにも変化をつけやすい」

11.GMT

「グリニッジ・ミーン・タイムの略。グリニッジ天文台を基準とした国際標準時。一方でUTCは、協定世界時(ユニバーサル・タイムコーディネイテッド)。腕時計の機能としては、GMT針により第2時間帯を表示するもので、GMTもUTCも内容は同じ」

12.ワールドタイム

「広義では、地球上の各都市の時刻が知れる世界時計。腕時計では、世界の時刻帯を代表する24都市名の入ったリングを配置したルイ・コティエ式が一般的。そのほかには赤道で分断した半地球儀を南北で記す変わり種も。いずれにしても、世界を腕元に宿したロマンに浸れる機構」

13.年次カレンダー、永久カレンダー

「1年のうち31日に満たない5か月分の日付送り調整で1年正確な表示をするのが、年次カレンダー。4年に1度の閏年の2月29日の調整が不要で4年間周期で正確に表示するのが、永久カレンダー。現在は100年に一度の閏秒調整が不要なエターナルカレンダーもある。いずれにせよ、月末の日付調整を回避するために心血を注いだ機構。なお、エターナルカレンダーが正確かどうかを知ることはできない。なぜなら確認できるほど長生きはできないから(笑)」

時計_3
 

14.シースルーバック

「愛しのムーブメントを眺めるための仕様。裏蓋に風防と同じサファイアクリスタルを設置。細かなパーツまで露わになってしまうので、ユーザーに品質を担保する仕様ともいえる。これが流行して以降、各社細部の仕上げに抜かりがなくなった印象」

15.ゼンマイ

「主ゼンマイとヒゲゼンマイ。機械式の動力源である主ゼンマイは、歯車の付いた香箱に収まり、動力を伝える機構の中で1番車と呼ばれる。伸縮することで等時性のある往復回転運動を司るのがヒゲゼンマイ。両者共に時計のおもしろさの真髄」

16.ジュネーブシール

「ジュネーブ州内で製造された時計の品質基準を満たした機械式時計に与えられる称号。その役割は原産地認証に近く、パーツ調達などにも厳格。のちに厳しい精度認証も加わった。ワインでいうところのA.O.C.(原産地統制呼称)やA.O.P.(原産地呼称保護ワイン)に近い。正確にいえば、取得には技術的側面、機能的特性、美的側面など、あらゆる点で厳しい基準をクリアする必要がある。ケースバックやムーブメントに刻印されるジュネーブ市の紋章が目印」

17.ムーブメント

「機械式時計の心臓となる機械。キャリバーとも。ムーブメントの名称は、数字と英字の羅列で構成されることが多いが、 “ゼニス” の『エル・プリメロ』をはじめ、『ピタゴラス』といった固有名詞のペットネームも。覚えておくと愛着も湧きます」

18.ローター

「自動巻きムーブメントの主ゼンマイを、手を使わずに巻き上げる扇型の部品で回転錘と呼ばれる。慣性を優位にすべく、比重の高い金属がよく用いられる」

19.パワーリザーブ 

「主ゼンマイの持続可能時間。つまり全巻き上げした時計を腕から外し、止まるまでの時間。金曜に外して土日につけることなく月曜まで動く60時間(2.5日)以上のパワーリザーブが人気。多くの時計が実は表示時間よりも少し長く駆動する」

20.機械式時計とクオーツ

「機械式時計は主ゼンマイがほどける力を脱進機構で制御して歯車を駆動。一方、クオーツ時計は、電流を流したクオーツ(水晶)振動子が発する特定の周波数を1秒1振動に分け、モーターに送って歯車を駆動。厳密に並記するなら、機械式と電池式、あるいは脱進機制御式とクオーツ制御式となる。精度はクオーツの圧勝。 “セイコー” では主ゼンマイがほどける力をクオーツ振動子で制御するスプリングドライブという駆動方式も考案されており、ややこしい(笑)」

21.マニュファクチュール

「端的にいえば、自社でムーブメント製造ができるブランドをこう呼ぶ。ムーブメントが自社製か否かにこだわる時計好きも多い。所有する時計がマニュファクチュールならば、それがわかる相手には自慢できるポイントになる。自社製ムーブメントの対義語は汎用ムーブメントで、ETA社、セリタ社などのサプライヤーが製造している」

22.自動巻きと手巻き

「リュウズを引いて、主ゼンマイを巻き上げる手巻きと、代わりにローターが回ることで主ゼンマイを巻き上げる自動巻きがある。現在、多くの自動巻きが手巻きも併用可能な仕組みになっている。自動巻きは腕(時計)を振ることでも巻き上げ可能。一方で手巻き式は、定期的に手で巻き上げる必要がある。時計に “命を吹き込む行為” として、この巻き上げを楽しむ時計ファンも少なくない。そのため、巻き心地のよさも時計選びの重要な指標に。別名で私は “犬のエサやり” と呼んでいます」

23.日差・年差

「歩度といって、正しい時刻に対して1日に、あるいは1年に±何秒のズレがあるかを示す指標。現代の時計で日差±10秒ならば、ものすごく精度の高い時計といえます。個人の生活パターンによって遅れ・進みが出やすく、割と属人的な部分も」

24.ミニッツリピーター

「スライダーを引くと、現在時刻をゴングが打つ鐘の音の種類と回数で知らせてくれる “音響系” の複雑機構。ゴングの長さや素材などの技術革新も進む。使用する音階も好みが分かれる。鳴っている最中にリュウズをいじると一発アウト(壊れる)!」

25.オーバーホール

「時計の部品を分解して洗浄や修理、注油、組立、調整などを行う作業で、別名 “分解掃除” とも呼ばれる。歯車の摩耗や油ギレ、歩度調整や磁気帯びなど、使用することでどうしても精度に影響が出てくるもの。そのため、数年に1度、専門家にオーバーホールしてもらうことが重要になります。推奨期間は約3年といわれるが、近年では部品のクオリティが高まり、5年以上、そのまま使い続けても問題がないとされる時計も存在する」

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
※文中の表記は、RG=ローズゴールドを表します。
※掲載されている商品の価格は、2024年12月6日現在のものです。

 

関連記事

問い合わせ先

PHOTO :
長山一樹(S-14/人物)
STYLIST :
伊藤美佐季
HAIR MAKE :
ヘア/西村浩一(VOW-VOW)、メイク/SHINOBU ABE(関川事務所)
MODEL :
大塚まゆか
EDIT&WRITING :
下村葉月、安村 徹(Precious)
イラスト :
日笠隼人