【「モロッコ暮らし」を選んだ人の物語】新たな生き方を求めて旅慣れたキャリアが選んだのは異国情緒あふれるこの場所!

エキゾチックな街の喧騒と混沌、そしてダイナミックな色彩と、雄大な自然の王国。北アフリカに位置し、西は大西洋、北は地中海に面するモロッコは、ジブラルタル海峡を渡ればスペインというロケーションともあいまって、ヨーロッパとアラブの雰囲気が漂う魅惑の国です。

そんな独自の文化をもつモロッコに魅せられ、移住、二拠点、別荘と、それぞれの暮らしを楽しむ方々を取材。仕事とプライベートのバランス、人生との向き合い方など…海と空、色と風…モロッコに恋した人たちの物語です。

【美しいひとの美しい部屋】デルフィーヌ・ワランさん(フォトグラファー・アーティスト )のオリーブと暮らす家

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モロッコの中央都市マラケシュと、市街地から車で40分ほどの自然豊かな地での二拠点暮らしを送るデルフィーヌさん。
デルフィーヌ・ワランさん
フォトグラファー・アーティスト
(Delphine Warin)パリで生まれ、広告業界でキャリアを積む。モロッコに移住してからはフォトグラファー兼アーティストとして活躍。自宅の山でのオリーブオイルや野菜の生産に携わる夫と共に、山のキッチンで料理教室やワークショップも開催。delphinewarinphotography.com

「家は、自然と寄り添うもの。自然との暮らしは、五感を研ぎ澄ませ、あるべき自分を取り戻させてくれます」(デルフィーヌ・ワランさん)

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テラスでお茶の準備をするデルフィーヌさん。お茶請けは、採れたての旬のフルーツ。

パリでは広告業界に従事し、日々忙しく働いていたデルフィーヌ・ワランさん。同じく広告の仕事に携わっていたモロッコ人の夫・スワイルさんと結婚し、17年前、夫の故郷マラケシュへ移住しました。市内に一軒家を構えたものの、夫の夢を叶えるため、山に囲まれた自然が残る現在の土地を購入。ゼロから家を建て、2015年、二拠点暮らしを開始しました。

「敷地は10ヘクタール。山を丸ごとひとつ買いました(笑)。夫の夢は、自家製のオリーブオイルをつくったり、オーガニック野菜を育てたりと、  “自然と共に暮らす” こと。360度ぐるりと見渡す限りの大自然、視界を遮るものがないこの土地は、ふたりともひと目惚れでした。今は、2500本のオリーブの木を育て、実際にオリーブオイルを生産しています。畑で採れたオーガニック野菜と、自家製オリーブオイルを使ったモロッコ料理教室やワークショップも行っています」

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庭のキッチンから自宅を眺める。後ろの山もすべてデルフィーヌさん夫妻が購入。いずれはすべてオリーブ畑に。

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リビングは白を基調にイエローやグリーンでアクセントを効かせ、あえてバイカラーで塗り上げた。モロッコの植物を撮影したモノクロ写真は、デルフィーヌさんの作品を額装したもの。

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モロッコの家の特徴といえば美しい窓飾り。幾何学模様にデザインされた鉄製のラインは、モロッコの日差しを浴びて輝きを増す。伝統的様式として見る人を楽しませてくれる。

「自然界のつながりを感じ、旬を味わい、大地に感謝する暮らしは、この家だからこそ味わえる最高の贅沢です」(デルフィーヌ・ワランさん)

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お気に入りの部屋、黄色い壁のサロンで夫のスワイルさんと。

慌ただしくも便利なパリの日常から、雄大な自然との暮らしへ。

「この家は、マラケシュから砂漠のワルサザート方面へ車で約40分。道なき道を走り、やっと辿り着く地です。パリでの暮らしは刺激的でしたが、私自身、子供の頃はフランスの田舎でオレンジやレモンの木に囲まれて育ったせいか、この地で暮らすなかで、年々、自然と共に生きることの豊かさを実感しています」

できるだけ自然を壊したくなかったので建物面積はこぢんまりと。とはいえ、山の上で急な坂道もあり、家の建材を運び込むのもひと苦労。時間をかけて少しずつ土台をつくり室内を整え、住めるようになるまで一年半以上かかったとか。

「パリの17区で暮らしていたアパルトマンのインテリアは、ミックススタイル。1960年代のミッドセンチュリー家具を中心に、異なる時代のものを楽しんでいました。ふたりとも、そのスタイルは変わらず好きですが、年齢を重ねて、 “不完全な美しさ” に愛着が湧くようになりました。パーフェクトすぎるものより、ちょっと欠けていてもいいから個性的なものを愛おしいと感じます。一から自分たちで建てたこの家も、パリやマラケシュ市内の家に比べたらものすごく不便です。でも、柔らかな光が差し込む午後、鳥の声を聞きながらリビングで楽しむ読書や、開放的な庭のキッチンで、何かに追われることなくのんびりとクスクスを煮込む時間。ゆったりと流れる時間に身を委ねると、本来の自分を取り戻したような気がしてほっとします」

新品のデザイン家具より、味のあるアンティーク家具。 無機質な材質より、温かみのある天然素材。モノトーンよりカラフル。ふたりの好みは、家の随所に感じられます。

「部屋ごとに壁の色を変え、あえてざっくりと塗って小さなギャラリーのように仕上げました。壁には友人の作品や地元のアーティストの絵画、私自身が撮影した写真作品など、好きなアートを飾っています。そこに、ウッド系の器やオブジェ、天然のパニエなどで、部屋の中でも自然が溢れるよう演出しました」

自然と共存し、自然に寄り添う家、がデルフィーヌさん宅のテーマ。季節の移り変わりや、刻々と変化する空、どっしりと根をはる植物、懸命に生きる動物たち。

「自然界のつながりを感じ、旬を味わい、大地に感謝する暮らしは、この家だからこそ味わえる最高の贅沢です。ときどき、パリの喧騒が恋しくなるときもありますが、今この瞬間を生きることの大切さを、自然が教えてくれるんです」

暮らしの中心にあるのは食。まずはキッチンから間取りを構成

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家を建てる際、まず中心に配置したのはキッチン。ダイニングテーブルにはデルフィーヌさんの祖母が刺繍したテーブルクロスが。

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「2023年末に大きな地震が起きてからは、庭のキッチンを使うことも増えました。大自然の中でのんびりと料理する時間も大好きです」。

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庭のダイニングテーブルではアペリティフを楽しむことも。
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煮出したミントティーはティーポットを高く掲げて泡立つように注ぐとより香りがたって美味。
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採れたての新鮮ニンジンはシンプルにオリーブオイルと塩で。
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シェーヴルチーズにオリーブオイルと胡椒を挽いた前菜。焼きたてのパンと一緒に。

雄大な自然に寄り添う、モロッカンカラーのファブリック

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庭のリビングスペースはベルベル織のラグとクッションでリラックス感満載。

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玄関前にもカラフルなラグと小さなテーブル、椅子でおもてなしスペースが。
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歴史あるもの、人の手の温もりが感じられるものが好き、というデルフィーヌさん。アンティークショップで購入した古いドアには愛用のバッグが。
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マラケシュのスークで購入したタブレ(小さな椅子)と、ベルベル織のラグ、モロッカンジャカード生地のクッション。色のエネルギーを感じるカラフルなファブリックが並ぶ。

モロッコ建築の特徴のひとつ、美しきイスラムアーチが随所に

モロッコでよく目にする、先端が尖った馬蹄形のイスラムアーチ。出入口、窓、内装と、あらゆる場所に使われ、イスラム建築のシンボルともいえる。もとは装飾性よりも耐久性から生まれたデザインで、室内に奥行き感をもたらす効果も。

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廊下からリビングに通じる窓にもアーチ。
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グリーンのリビングにある窓にはジオメトリック(幾何学的)なパターン装飾が。
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洗面所の扉前のアーチ。
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中庭を挟んだ窓にもイスラムアーチ。
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ベッドルームの入り口のアーチ。風景を切り取る効果も。

デルフィーヌさんのHouse DATA

●場所…マラケシュ中心街から車で約40分
●広さ…敷地は約10ヘクタール、建物は150平米
●間取り…リビング×2、ダイニング、キッチン×2、ベッドルーム×3、バスルーム×2、ゲストハウス建設中
●家族構成…夫とふたり暮らし
●住んで何年?…約9年(マラケシュ市内の家と半々)

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PHOTO :
篠あゆみ
EDIT :
田中美保
取材 :
鈴木ひろこ