今、世界の人口の1/3を占めるようになったとされているのが、Z世代。
そこで、雑誌『Precious』3月号では【フラットな「異世代コミュニケーション」術】と題して、Precious世代の後輩となる、このZ世代との違いをおさらいしながら、よりよいチームになるためのコミュニケーション術を探りました。
本記事では、先輩世代としてフリーアナウンサー・堀井美香さん、後輩世代に実業家・辻 愛沙子さんをお招きし、リアルな悩みを語っていただきました。

「ゆるっとつながりながらも、しっかり信頼し合いたくて、日々悩んでいます」
部長職まで務めた先輩世代の堀井美香さんと、Z世代でありながら、自身も先輩・上司である辻 愛沙子さん。それぞれの立場からのリアルな悩みを語ってもらいました。
堀井さん(以下敬称略)…会社員時代、後輩世代の言葉のニュアンスの受け取り方の違いは感じていました。「そんなに頻繁に連絡しなくて大丈夫よ」と言うと全然しなくなったり。「塩少し」ではなく「小さじ1」と伝えないと齟齬が出てくるのだな、と。
辻さん(以下敬称略)…Z世代のひとつの特徴で、正解を求めがちということもあるかもしれません。物心ついた頃からSNSやAIがあり、求める答えがすぐ得られる一方、「わからないときは聞いて」と言われても質問の前例や正解がないと聞けない、みたいな。
「言葉の受け取り方の差が難しい。“程度”も言語化するようにしています」(堀井さん)

堀井…仕事では現状維持でいいという人も多く、どうすればやる気を出してもらえるのかも悩ましかったです。
辻…“静かなる退職”ですよね。私もZ世代ですが、自分らしさを問われすぎて、個性の開示を強要しないでほしい、目立ちたくない、浮きたくない、という人は増えているのかも。
堀井…そういう後輩ほど「この仕事に何の意味が?」と問いがちで、業務がその人にとってどんな効果があるかまでを提示することも必要でした。仕事は過程が大事で、がむしゃらにやるのも気持ちいいよと思うけれど、それは言っちゃいけないんだろうな(笑)。
辻…損をしたくない思いがより強い世代かもしれないですね。それだけ不安定な時代なので。ヒットを出せないリスクがあるのならバッターボックスには立たないと。でも、立たない限りは打てないし、バットを振ることで自分のスタイルが分かったりもする。“何のために”が後からついてくることもあるよと伝えたいです。
「AIで正解がすぐに手に入るから、前例がないことには躊躇しがちかも」(辻さん)

堀井…私はすべてにおいてだいたい中腰な上司でしたから、アタリは強くなかったと思いますし、職場では常に機嫌よくいるようにしていました。管理職になってからは、皆を「さん」付けで呼んでいましたね。仕事上では一定の距離感をとっておきたくて。
辻…私も年齢関係なく敬語で話しています。そのほうが相手を尊重する思いも伝わりますし。
堀井…一時期、上の世代の男性たちの間でいわゆるオネエ言葉がはやっていましたね。「これやっといてくれな〜い?」みたいに、やわらかく話すと言いやすいとひらめいたんでしょう(笑)。私自身も誤解を与えないように気をつけていましたが、あまりに相手を思いすぎて言葉を選んだりしていると逆にストレスがかかることありますよね。
辻…先輩世代は注意して発言されているんだろうなと思うこと、あります。私も相談されたら、具体的な指南や解決策の前にまず、「そう感じたんだね」と一度受け止めています。共感ではなく理解の意を示すこと、ですね。
堀井…信頼関係を構築したり、本音を話してもらったりしたくてコミュニケーションをとろうとランチや飲み会に誘おうと思うけれど、今や“飲みにケーション”もNGな時代で…。
「世代間ギャップを嘆く前に、こちらがマネージメントを見直します」(辻さん)
辻…もどかしいですよね。私自身は会食もほとんど行かないですし、飲みにいくぞ! みたいなコミニュケーションスタイルが得意ではありません。一方で、メディアやSNSで価値観や思想を開示し発信することでカルチャーフィットしているメンバーが集まったり、信頼関係が増している実感も。私の場合、自分のスタンスを表明していたことがよい関係につながったのかも。
堀井…最後に責任をとるのは上司ですから、「何かあったとき、この人はどれだけカロリーを使ってくれるのか」を見られているとも感じます。私は「ほめて伸ばす」と、ただのほめすぎとのバランスも難しかったです。
辻…それぞれに最適解がありますものね。尊敬する元上司は自由にやらせてくれた人で私にとっては最高の上司でしたが、逆に道を示して欲しいタイプの部下だったら相性が悪かったと思います。今、上司としては、業務が滞っているときに「なぜ?」と相手に問う前に「この人に合うマネージメントではなかったのかも」と見直していますが、これも悩ましいです。
堀井…積極的に聞いてきてくれる子には全力で応えたいと思いますよね。管理職研修で後輩とは一定の距離感も必要だと知り、来る子には手厚く、来ない子にはおせっかいはしないと決めたのですが、「堀井さん…」と来られない子がやっぱりいるんですよね。
辻…その人が輝くためのボールを投げても受け取めてもらえなかったり…。
「信頼関係を深めたいけれど、雑談は嫌だと言われると心が折れます」(堀井さん)
堀井…ボールをもらっても投げ返さずになでて終わる人もいる(笑)。反応してくれないというか…。「○○さんには教えていたのに」と言われると、「いやいや、聞きに来ないから」と思うけれど、公平に対応すべきだったと反省しました。相手がどんなタイプでも同じ時間をかけるべきなんでしょうね。
辻…逆に、積極的に自走できる人はこっちが安心して、ちゃんと向き合いきれなかったりすることもあって、フラットでフェアな対応って難しいです。
堀井…だからこそ、相手を知りたい、ビジネスライクな関係になりすぎないようにしたいのに、後輩世代への読者アンケートで「雑談が嫌」という声があって、心が折れます(笑)。
辻…強さを誇示するのではなく、自身の弱さを意識的に開示するようにしています。完璧な人なんていないので、だからこそチームがあり会社がある。弱さの開示を自らすることで、社員も困ったときに共有しやすくなるなと。
堀井…それはチーム力にもつながりますよね。私は相談を受けたときはクールダウン期間をもつようにしています。急いで調整すると、「そこまではしてほしくなかった」ともなるので。何日か培養させて、動いていいと確信をもてた時点で調整していました。そういえば最近、「ミーティングは前座」という話を聞きます。ミーティングでは本音が出ないから、終わった後にひとりずつ呼んで本音を聞き出す、と。
「私自身の弱さの開示をしたら信頼関係が弱まったことも」(辻さん)
辻…ありますよね。うちは社内コミュニケーションにSlackを使っているのですが、全員に「愛沙子の脳内」みたいなチャンネルをつくっています。使い方は自由で、興味があることを書いたり、ちょっとした提案をしたり。書きっぱなしにできるゆるっとした場所で、これが意外と活用されていて。
堀井…ちょっと言ってみただけの場所って、双方向の雑談と違って気楽ですよね。ゆるさとは異世代間のひとつのキーワードかもしれませんね。やっぱり、組織や先輩側がひと手間をかけ続けていくことも大事ですね。
「“ゆるさ”も職場のコミュニケーションでは必要ですね」(堀井さん)
辻…上司も大変ですが、私、“互助会員”(※)になってから、自分らしいままでも偉くなれるんだと思える先輩の背中が見えて心強いんです。もう変に寄り添いすぎず、自分らしく接してもいいのかもと思ったりしています。
堀井…うれしいです! お互いに関わることを諦めずにいたいですね。ゆるっとつながりながらも、しっかり信頼し合いたくて、日々悩んでいます。
互いの違いを認めて少しのコツで心地いい関係に

1990年代半ばから2010年代前半生まれのいわゆるZ世代はSNSネイティブ。テクノロジーが進化し、多様な価値観のなかでスペシャリスト志向が強い一方、コスパやタイパを求め、キャリアには保守的な考えも強いといわれます。世代間の違いを取り入れて組織やチームの成長につなげたいけれど、先輩世代としてはそのギャップに戸惑うのも正直なところ。
Precious読者へのアンケートでも、Z世代はSNS等で広いつながりを求めながらも、「職場ではビジネスライクに接したがる」、36協定、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)などによる働き方改革で職場環境が改善されるなか、「権利の主張だけは強い」、相手を理解しようとコミュニケーションをとりたくても「ハラスメントになりそうでドライな対応になりがち」という嘆きも。でも、よりよい関係のためにコミュニケーション上でできることはまだあるはず。新しい組織やチームが生まれる季節、先輩世代も伝え方や距離の保ち方を見直しながら、後輩世代との関わり方を考えてみたいものです。
【先輩世代の本音】
「これが悩ましい」
●注意をしづらい(50代)/●指導する言葉がパワハラにならないか悩む(60代)/●口頭では何も発しない割に、レポートやアンケートには言いたい放題(40代)/●本人が「嫌だ」と思えばハラスメントになる風潮(40代)/●タメ口、ありえない(40代)/●常に自己肯定感の上がる伝え方をしないと仕事が進まない(40代)/●プライベートなことを聞くとハラスメントになるのではと躊躇する(50代)/●「心理的安全性」の範囲がまったく異なるので、コミュニケーションが怖い(60代)/●職場の規律、接遇を指導していたら、「考えを押しつけられるのは嫌」と辞められた(50代)/●権利主張ばかり得意な人が増えている(50代)/●自分の思いどおりにしたい気持ちが強く、こちらがしっかり意思をもって話を聞かないと振り回されそうになる(40代)
「失敗したこと」
●怒れないので甘やかしすぎたら全然上達しない(50代)/●優しくしすぎてなめられた(50代)/●振り返りを反省会と言ったときに「感想会」と訂正された(50代)/●テレビドラマの話で会話のきっかけをつかもうとしたら「テレビ観ないので」とバッサリ(50代)/●雑談をしていたら、「話より仕事してください」と言われた(50代)/●わからないことを聞いてくるまで待っていたら2年経っても聞いてこなかった(60代)/●どこまで踏み込んでいいのかわからず、当たり障りのない会話になる(60代)/●特に失敗したことがないのは、私がコミュニケーションをとらないことを選択したから(50代)
「職場の理想の関係」
●深入りしすぎず、ほどほどの緊張感を相手にもたせる存在(40代)/●仕事に関しては尊敬され、プライベートの相談もできるような関係(60代)/●目的を同じくする仲間(50代)/●つかず離れずで年に2回くらいは食事など(40代)
【後輩世代の本音】
「これはやめてほしい」
●過去の自慢話(20代)/●プライベートについて聞かれる(30代)/●休日、深夜の業務連絡(年齢未回答)/●考え方や方針の押しつけ(40代)/●ネガティブなことしか言わないのでやる気がなくなる(30代)/●間違いを認めない(20代)/●好き嫌いで仕事する(40代)/●自分たちの「こうあるべき」論が時代遅れであることに気付かない(30代)/●主語がなく、何をしたいのか理解が難しい(30代)/●どうしても緊張して言いたいことがうまく言えず、話しにくさを感じる(30代)/●仕事が立て込んでいるときに雑談されると仕事が進まない(40代)
「苦手なこと」
●気のきいた返事をしようと何か言わなきゃと思うほどよけいなことを言ってしまう(年齢未回答)/●人の好き嫌いが激しい上司は話しにくい(30代)/●苦手な飲み会を毎回断ること(20代)/●先輩をたてすぎてイエスマンになってしまい、自分の気持ちが疎かに(年齢未回答)
「職場の理想の関係」
●信頼はできるがプライベートな話はしない(40代)/●いつでも助けを求められる(30代)/●部下の状況を鑑みて仕事ぶりを理解してくれる(30代)/●挨拶や仕事の話のみのビジネスライクな関係(40代)/●信頼関係を築き、オンオフをきちっと切り替えられる間柄(30代)/●なんでも言い合える仲(30代)/●和気あいあいと、仲よくしたい(30代)/●言い争いにならないように意見交換がしたい(40代)
「先輩・上司への要望」
●若い世代の考え方はどんどん変わっているのだから、柔軟に受け入れてほしい(30代)/●上の世代、下の世代だと区切るのではなく、スペシャリスト同士だという意識を持ってほしい(40代)/●休み返上で仕事した、みたいな過去の遺産みたいな話をしないでほしい。苦しんだ日々を若者に押しつけないでほしい(30代)
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- PHOTO :
- 樽木優美子
- HAIR MAKE :
- 藤原リカ(ThreePEACE/堀井さん)、megu(辻さん)
- EDIT&WRITING :
- 松田亜子、福本絵里香(Precious)