年をとればとるほど、どんどん仕事がデキる人とデキない人の差が明確になってきます。できれば、埋もれた人材になるのは避けたいもの。他の人より突出した才能やスキルを活かし、差別化したいですよね。
実際、世の中で超一流と呼ばれる人たちは、どんな状況下でもズバ抜けたパフォーマンスを発揮しています。一体どうすれば、卓越した力を身につけられるのでしょうか?
それは、「インプロ力」を身につけること。日本アクティブラーニング協会理事長の相川秀希さんはこのインプロ力の修得が、成功するためのズバ抜ける力を高める一番の近道だと言います。
インプロとは、即興を意味するインプロヴィゼーションの略。つまり、即興力です。想定外のことが自分の身にふりかかっても、動揺せずに冷静に頭を働かせ、その場でのベストな能力を導き出す能力こそが、インプロ力。実際、超一流の人々はどんな不測の事態でもスマートに対応できるので、評価が高いですよね。
では、日頃からどんなことを気を付けていると、この目に見えない能力を得られるのでしょうか。世界の超一流の人々を知る相川さんに、超一流の人々が持つインプロ力が身につく習慣を6つ、おうかがいしました。
■1:問題の「裏に隠された」メッセージを読み取る
仕事を成功させるためには、点数化したり数値化できない「目に見えない能力」=「非認知領域」が重要となります。この非認知領域の能力を高めるには、常に何がベストプラクティスなのかを考え続けなければいけません。
常に「考えることを鍛える」訓練が必要になるのです。テストで言うならば、何か問題を出されたら、想像力を働かせ「問題の作成者は何を言おうとしているのか?」「この問題に隠された意味は何か?」と、問題の裏に隠されたメッセージを読み取ることで、答えが導き出されるようになります。
これはテストの問題だけでなく、日々の仕事上で取り組む問題にも同じことが言えます。問題の中に潜むメッセージや真の題意を捉えて取り組むことで、表面上だけではない、本質的な問題を発見し、解決に近づけることができるのです。
では、物事の真の題意を汲み取る力を高めるために、どのような習慣を持てばいいのでしょうか? 相川さんは、情報を書き残すことを習慣にしているそうです。
「私は日常的に、A4のスケッチブックを持ち歩いています。使い方は簡単で、ふと目に止まったものや、何気なく心を打ったことなどを、書きなぐるように残すのです。はじめは単独のメモという感覚なのですが、あとになって振り返ってみると、ひとつひとつの情報が有機的に結びついて新たな考え方に気がついたり、自分を超えた発想が生まれたりするのです。瞬間的に抱いたことは、瞬間的に忘れがち。しかし、それらを振り返れるようにちょっとした痕跡を残すだけで、モノの見方や考え方、そして世界の見え方がガラリと変わってきます」(相川さん)
手書き習慣で、問題の裏に隠されたメッセージを読み取る癖をつけ、インプロ力を高めていきましょう。
■2:基本をひたすら積み重ねていく
応用問題を解くには、基礎がわかっていないといけません。基本となる公式を覚えているから、複雑な連立方程式を解くことができ応用問題が解けるのです。ゴルフなどのスポーツでも、これは同じですね。基本のスイングがしっかりできてこそ、アイアンやドライバー、パターなどのさまざまなクラブを使いこなし、コースを回ってよいスコアを出すことができるのです。
これと同じで、インプロ力を極めるには、基本を積み重ねていくことが大切です。非常に地味なことかもしれませんが、超一流で活躍する人は人知れずこういったことを行っています。
「12年前から、私は竹中平蔵先生とともに、現役高校生のためのグローバル教育プログラムを開発しています。世界に羽ばたく若い世代に、本物に出会う場を提供するカリキュラムです。先生はいつも、その時代に地球の裏側で起きているリアルなアジェンダをテーマに、現役高校生と闊達に議論をされます。
竹中先生ほどの人物ですから、多分野にわたる知見や経験は誰よりも豊かなのですが、私が最も印象的なのは、そんな先生が常に、現役高校生の若い意見を真正面から受け、言葉を手元に書き留めていらっしゃる姿です。この、どんなことでも掴み取ろうとするということが、ここで言う基礎を積み重ねることと同義だと私は思うのです」(相川さん)
世界の表舞台で活躍する竹中平蔵氏も、基本を忘れずに若い人々からの意見を聞き、基礎となるものを積み重ねているのです。インプロ力アップのために、基本をひたすら積み重ねていきましょう。
■3:やらざるを得ない状況に自分を追い込む
何かひとつやりたいことが決まったり、「これだ!」と思えることが見つかったら、まずそれを90日間、信じて続けてみましょう。「石の上にも3か月」というわけですが、何かを90日間もやり続けるのは、なかなか根気がいるものです。
通信教育の添削サービスやスポーツジムなど、「いつやってもいい」「行っても行かなくてもいい」というような放置型のサービスを続けられる人は、実はかなり少ないそう。人は弱いもので、ついつい楽な方へ流されてしまうのです。そこで重要なのは、「やらざるを得ない」という状況をつくること。何かを続けたいのであれば、ある程度の強制力が必要なのです。
「この強制力を課すために、私はちょっとしたことを心に決めています。それは、セミナーやシンポジウムの質疑応答の際、誰よりも先に挙手をするということです。『それがどうした?』と思われるかもしれませんが、この挙手のスピードが私にとっては重要です。挙手をした段階で皆の注目が私に集中するため、必然的に『何か発言しなければ』という強制力が働きます。
私はこのことを『質問があるから挙手をする』のではなく『挙手をしてから質問を考える』というトレーニングみたいなものだとも考えています。強制力という言葉は、誰かにやらされるというイメージが強いですが、すべて“自分への挑戦”だと思って、日常を自分に打ち勝つゲームのように捉えてしまったらどうでしょうか。石の上にも3か月も、最初の1歩こそが肝心です」(相川さん)
もちろん、自らが強い意志を持ってひとつのことを続けられるなら、それが一番です。しかし、そうではない人のほうが圧倒的に多いですよね。その場合、あきらめるのではなく、この強制力を行使すれば、何かを続けていくことができるのです。自力だろうが他力を利用しようが、やらざるを得ない状況に自分を追い込む。これをとにかく90日間続けていれば、インプロ力も高まっていきます。
■4:気が済むまでとことんやる
やりたいことが見つかったら、それをとにかく気が済むまでやってみることが大切です。徹底的にやってみることで、気づくこと、わかることも多いのです。やりたいと思ったことはできる限り経験してみることも大切だと思います。
それが悪習慣や好ましくないことであっても、一度でも我慢せずに徹底的にやってみれば、それを吹っ切ることもできるでしょう。徹底的にやってみることで、それをとことんやってみた後で、自分はどんな気持ちになるのか……。「もっとやってみたい」と思うのか、「もういいや」と思うのか。真相にある自分の気持ちがわかります。
「数年前、ベストセラー『シリコンバレー式 自分を変える最強の食事』(ダイヤモンド社)の中で、朝のコーヒーにグラスフェッドバターとMCTオイルを混ぜて飲むことで、脂肪の燃焼を高めるという完全無欠コーヒーが紹介されました。2年半もの間、私は毎日これを欠かさずに続けています。
最初のうちは、バターとオイルが身体に与える影響に着目していましたが、今では違います。実は、これを毎朝やり続けることの意味の方が大きくなっているのです。どんな些細な習慣でも、決まり事のように徹底してみることで、自分の中に確定的な軸が形成されるような感覚が生まれます。
私のカンパニーでは『行動は心なり』という言葉を使うのですが、意味があるから行動するというより、行動する中に意味を見出すということが、モノの見方に変革を起こす鍵だと私は思います」(相川さん)
他人の体験を見聞きしたり本を読んで得たりした知識よりも、自分で実際に経験したことのほうが深く心に残ります。学ぶものも、格段に多いのです。「恥ずかしい」「くだらないかも」などとためらうことなく、インプロ力アップのためにもぜひ、一度気が済むまで何かをとことんやってみましょう。
■5:情報はどんどん「人と共有」する
カリスマ販売員、カリスマ塾講師など、ひとりで大きな成果を上げるカリスマ的なプロフェッショナルは、独自に築き上げた必勝法ともいえるノウハウをそれぞれ持ち合わせています。
しかし、それらの知識は自分だけのものだと考えているようで、たいていの場合、他のスタッフとノウハウを共有しようとしません。知識を開示すると自分より成績を上げるものが出てきて、自分の立場が脅かされるのでは、と考えるのかもしれません。しかし、いくらノウハウをおしえてもらったとしても、誰もがトップに立てるわけではありません。
でも、このような情報が開示されることは、組織にとっては大きなプラスになります。情報が共有されることであるべき姿がみんなの中に共通認識として広まり、そこから一体感が生まれるのです。多くの人がこれまでより上のレベルの施策を試してみることにより、そこから新たな気づきや変化が生まれることがあります。
チーム力が格段にアップしていくのです。また、情報を人に伝えるために言語化することで、本人の認識も深まっていき、新たな気づきや発見を得たり、新たなつながりが生まれたりすることがあるのです。
「私たちは、現役高校生がフロリダのディズニーワールドでホスピタリティやマネジメントを学ぶプログラム『Disney Youth Program』を提供していますが、このプログラムは意外なプロセスで実現しました。『ディズニーを学びに変えるプログラムがやりたい!』という強烈なイメージが先にありましたが、ディズニーにはなんのツテもありませんでした。
そこで、とにかく『自分たちにはこんな知見があるので、ディズニーと共にこんなことを実現したい』と周囲の人に言い続けたのです。すると、言い続けて1年ほど経ったときに、思いも寄らないところからプログラムの話が舞い込んできました。この時私は、とにかく情報を人に伝えることの大切さを再認識しました。
弊社のファウンダーは、よく『お風呂の水理論』と名付けて社員に伝えていましたが、湯船に浸かり、水を前へ押し出すと、その反動で自分に向かって大きな波が返ってきます。これと同様に、惜しまずに情報をアウトプットし続けることが、結果的に大きなインプットにつながるのです」(相川さん)
自分の技や思いを開示しても、それが目減りすることはありません。むしろ、アウトプットすればするほど、インプットされるものも増えてくるのです。自分の知識や未来への思いはどんどん開示しましょう。それによりあなたのインプロ力がどんどん培われていくのです。
■6:次のステージを常に見据える
今、ひとつのプロジェクトに真剣に取り組んでいたとしても、いつまでもそのプロジェクトが続くとは限りません。そのプロジェクトが終わってしまったり、その仕事の内容が通用しなくなることもあるはずです。そんな時に、いつまでもその仕事に固執していたらどうなるでしょうか。人生、うまくいっている時には目先のことばかりに目が行き、その先のことなど考えることもしなければ、気づきもしないことが多いものです。
「そもそも人間は、自分の認識できる領域だけで物事を判断しがちです。例えば、初めてiPhoneがこの世に誕生した時 『こんなものが普及するだろうか』と懐疑的な人も多かったはずです。
しかし、あれから10年以上経ち、スマホは当たり前の世界になってしまいました。このような先の見えない世界で一歩先を見据えるにはどうしたらよいのでしょうか? 私はそのひとつの答えとして、『希望を演じる』という考え方を実践しています。『こうありたい』と『希む力』こそが、AIに取って変わられない人間らしい能力なのです。
自分自身が希求するあるべき姿を、その瞬間演じてみることで、確実に自分自身が未来に近づいている実感が得られます。インプロは時に即興などと訳されますが、今、この瞬間に行動によって物事を現出させることこそが、一歩先を意識し、未来を先取りする方法だと思うのです」(相川さん)
今、見えている世界から一歩踏み出す勇気がないと、足元をすくわれることがあります。今の地位を極めることももちろん大切ですが、それだけに固執するのではなく、常に「その先をどうするか?」を考えられる目を持ちましょう。そしてその先の未来にいる自分があるべき姿を演じる習慣を持つことで、次のステージへの階段を上ることができるのではないでしょうか。
インプロ力の高い超一流の人々は、これらの6つを習慣とし、ズバ抜けた結果を出しています。ノウハウや知識などの仕事のやり方ではなく、本人のあり方を磨き、人生そのもの考え方そのものを高めることが、結果につながるのです。まずは、日々の習慣を変え、インプロ力を得るための訓練をしていくこと。その結果、ズバ抜けた力を発揮することができるようになるはずですよ。
『世界の超一流に学ぶ ズバ抜ける力』相川秀希・著 キノブックス刊
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 松村知恵美