2017年3月9日(木)~19日(日)に、表参道ヒルズ スペース オーにて開催された「エルメスの手しごと展」“アトリエがやってきた”。なかなか目にすることができない、エルメスを支える熟練の手しごとを肌で感じられる大規模なイベントとあって、テレビやSNSでも話題となりました。
【参考記事:ものづくりを愛する人必見!エルメスの手しごと展が東京初開催】
本展を観られなかった人や、もう一度観たいという方のために、見どころや知っていると楽しいポイントをご紹介いたします。
まずは入口の撮影スペースで記念撮影
一見、ランダムに並べられたように見える大小のフォントのオブジェ。ですが、ある1点から撮影すると、きちんと「エルメスの手しごと展」のロゴとして並ぶように!
ベスト撮影ポジションには、スマホ台が設置されているので、記念撮影もばっちり。フォントの間に入り込んでいるような、不思議な写真を撮ることができました。
■職人1:日によって違う工程が見られる「鞍職人」
馬具工房からスタートしたエルメスにとって、馬具というのは特別な存在。乗り心地と信頼性を保証し、乗り手と馬の体型にぴったり寄り添う鞍づくり。会期中は1週間でひとつを仕上げるペースで作業していたので、訪問する日によって違う工程を観ることができたのも特徴。
■職人2:ケリーを縫い上げるのに20~25時間「皮革職人」
カットされた革のパーツを縫い合わせる皮革職人。グリフ(菱目打ち)という歯が並んだ道具で、革に縫い目の印をつけます。この印に沿って穴をあけて糸を通すと、ひと針ずつ糸を交差させる「サドルステッチ」が完成! 細かいパーツを縫い合わせ、ひとつのケリーバッグを制作するのに、この熟練した職人の作業だけで20~25時間かかるそう。
■職人3:石を置くだけじゃない!「石留め職人」の緻密な手しごと
宝石を土台となる金属に固定するのが、石留め職人。石を置く箇所に空けられた穴に、土台の金属の個性や石ひとつひとつの個性を見極めて、セッティングします。最初は、てっきり「石を置く」工程かと思っていたのですが、目に見えないくらいの小さな爪を持ち上げて、ひとつひとつ留めているんです。確かに、石「留め」職人…!
東京展の会期中に制作されていたのが、左のブレスレット。0.8~1.2mmの石を2300個留める必要があり、1時間に留められるのは約10個。果てしない作業です。右は原型から鋳造されたジュエリーのツリー。これをひとつずつ外して、磨く作業が行われます。
■職人4:手描きの原画をデジタルで再現!「シルクスクリーン製版職人」
この美しい原画から、シルクスクリーンプリントを行うために、デジタル化する必要があります。専用のツールを使い、スキャンした原画を忠実に再現し、色ごとに分ける繊細な工程です。
原画の線や塗りの雰囲気に合わせて、色やペン、ブラシを選択し、なぞっていきます。「もとのデザインをいかに忠実に再現できるか」が腕の見せどころなんだとか。このカレ(スカーフ)は44色使用しているため、製版作業におおよそ1600時間。通常の30色使いのカレの場合、600時間程度かかるそうです。
■職人5:ひとつずつ色をのせる“リヨン式プリント”、「シルクスクリーンプリント職人」
上でご紹介した、シルクスクリーン製版職人が色ごとに分けた版にしたがって、シルクスクリーンプリントを施してゆくプリント職人。エルメスはカレ(スカーフ)をシルク生地そのものから制作しており、90cm四方のカレ1枚分のシルク生地をつくるのに、約300個の繭が使われるそうです。
動画はこちら。
■職人6:「時計職人」はスイスのアトリエから来日
緻密な部品を組み立て、エルメスの美しい時計をつくる「時計職人」。彼らはフランスではなく、スイスにアトリエがあるそう。ひとつの腕時計の組み立てはシンプルなもので2、3時間かかるとか。エルメスの時計の魅力は?と聞くと「時を刻むだけではなく、独創的でエレガントなアイデアが盛り込まれている」と教えてくれました。
たとえば、この真ん中の時計、アルソー タンシュスポンデュ。フェイスの右上のボタンを押すと、時計の針が止まります。
「楽しい時間が過ぎるのは早いもの。時間が止まればいいのに…」
実際には時計は裏側できちんと動いていて、もう一度ボタンを押すと針が正しい時刻に動くのですが、そんな切ない願いを機能として盛り込んだのでしょうか。遊び心があり、かつロマンチックです。
■職人7:1本の糸で縫い上げる「ネクタイ職人」
エルメスのネクタイは、表地と裏地のほかに、内側にウールと綿の芯地が張られています。職人は、ふんわりとボリュームが出るように布地を折りたたみ、さらにしなやかさを保つため、1本の糸で縫い上げます。これらはすべて、手しごとで行われているのです。
■職人8:革づくりから始まる、肌に吸いつくような手袋をつくる「手袋職人」
エルメスのグローブは薄くやわらかで、まるで手と同一化しているかのようなフィット感があります。その秘密は、手袋職人による革の下ごしらえともいえる工程にありました。
適当な大きさにカットされた革を、手でじっくりと引き伸ばしていきます。厚さにムラがないよう、何度も繰り返し、一番いい状態の場所を手袋にすべくカット。
そして縫製担当の職人からあがってきた手袋を、手の形をした高温の金属にかぶせ、はめたときにきつい部分がないように充分にストレッチ。最後の仕上げまでしっかり確認されています。
■職人9:カレの美しさを守る「縁かがり職人」
エルメスのアイコンアイテム、カレ(スカーフ)を手に取ると、縁が折り畳みではなく、丸まっていることに気づきます。このフランス特有の巻き縫い「ルロタージュ」を施しているのが、縁かがり職人。そろった縫い目はもちろんのこと、指先の力を一定にしてまったく同じ幅で縁を巻き上げるのは、とても難しい工程。習ってから、できるようになるまで1年はかかるそうです。そこから、研鑽を重ね、熟練した職人が90cm四方のカレ1枚を仕上げるのにかかる時間が45~50分ほど。厚みを出さず、ピシッと角をつけるのがいちばん難しいんだとか。
■職人10:何度もテストを重ねて理想の色を出す「磁器絵付け職人」
手描きされたデザインを、磁器に落とし込む役割を担う、磁器絵付け職人。繊細なデザインを見て、どういう順番で焼くか考えるところから始まります。色をつけて焼いてはまた色をつけ…を繰り返し、右奥の花瓶のような大きなものだと、制作期間は2か月ほど。
焼き物は温度や釉によって、色の出方がまったく違うもの。エルメスの磁器では、釉の色をそのまま単色で使用することはほとんどなく、混ぜ合わせては焼いてテストを繰り返し、ようやく配分が決まるんだとか。細かな絵付け作業だけでなく、その前段階でも大変な手間がかかっているのです。
これらのほか、会場ではVRを利用し、実際にサンルイ・クリスタル工房見学をしているかのような体験も可能に。クリスタル職人たちがどんなところで、どのように働いているのかがわかる、臨場感あふれる展示となっていました。
こんな稀有で見ごたえのある催しが、今回なぜ日本で開催されたのでしょうか? その疑問は、エルメスジャポン社長・有賀昌男氏とともに登壇したエルメス本国のエグゼクティブ・バイスプレジデント、ギョーム・ドゥ・セーヌ氏の言葉で腑に落ちました。
「日本は、職人というものに対し、理解と尊敬がある国だから」
ある程度の規模のマーケットが存在する国を、ただ順番に巡るのではなく、日本は職人技を見せる価値のある国として捉えられていたのです。
近年、特に職人やものづくりへのリスペクトが高まる風潮のなか、ベストなタイミングで行われたこのイベント。2017年10月には名古屋、博多での開催が。予定されています。
【関連記事:大ヒット「エルメスのてしごと展」が博多、名古屋でも開催】
■エルメスの手しごと展“アトリエがやってきた”
表参道ヒルズ 本館B3F スペース オー
期間/2017年3月9日(木)~19日(日) ※終了
入場/無料
www.maisonhermes.jp
住所/東京都渋谷区神宮前4-12-10
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- クレジット :
- 構成/安念美和子