無理なく今の時代に即するコミュニケーション術を考えます【やわらかな「雑談力」を身につけるには…】

リモート作業やオンラインミーティングに慣れてきた今、リアルな場面で起きる「誰も話さない静けさ」が妙に気になるときも。

相手の警戒心を解き、よい関係を築くためのコミュニケーション手段として、アイスブレイクとして、雑談は効果があるといわれます。さらりと、ゆるやかに雑談するための考え方をトークのプロに聞いてみました。

“ラジオのプロ” ジェーン・スーさん × “雑談の人” 桜林直子さん
「雑談は信頼関係があるからできるもの。おすすめだけれど取り扱いは注意です」

愛ある毒と軽快なトークが人気のジェーン・スーさんと、雑談サービスが注目を集める桜林直子さん。ポッドキャスト『となりの雑談』で愉快で深い雑談を繰り広げるふたりが雑談について語ります。

インタビュー_1
左から/桜林直子さん、ジェーン・スーさん
桜林直子さん
(Naoko Sakurabayashi)1978年東京都生まれ。洋菓子業界での会社員を経て、2011年に独立し、クッキーショップ「SAC about cookies」を開店。noteで綴ったエッセイが注目を集め、現在は「雑談の人」として、マンツーマンでの雑談サービス『サクちゃん聞いて』を主宰。専門家に “生きづらさ” について取材した最新刊『つまり “生きづらい” ってなんなのさ?』(光文社)が発売中。
ジェーン・スーさん
コラムニスト、ラジオパーソナリティ
(Jane Su)1973年東京都生まれ。TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』、ポッドキャスト番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』のMCを務める。著書『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)で第31回講談社エッセイ賞を受賞。最新刊は、80代の父親のケアに奔走した5年間を綴った『介護未満の父に起きたこと』(新潮社)。

やわらかな「雑談力」|トークのプロが雑談を斬る

――おふたりは雑談をされますか?

スーさん(以下敬称略):得意ではないけれどします。そもそも、雑談には種類があるんですよ。初対面の人やつき合いの浅いご近所さんに「敵意はない」ことを表す雑談、パーティなどで積極的に自分を知ってもらうための雑談、深い話をするための入り口になるような雑談とか。

桜林さん(以下敬称略):相手を知りたいという意思表示の雑談では聞き役になるとか、対応も変わってくるよね。

スー:そう。雑談が苦手という人は、曖昧になっている雑談の種類を整理してみるといいですね。サクちゃんがやっている雑談サービス『サクちゃん聞いて』は、どんなふうに雑談しているの?

絶対に聞いてくれる相手には誰しも話せるものです

桜林:1対1で、話したいことをひたすら話してもらいます。1回きっかり90分で、月に1回、5回連続で行っています。30代、40代の女性が多いかな。「雑談が苦手」と言っていた方が、「自分がこんなに話すなんて」と驚くこともあります。確実に話を聞いてくれる相手の前では話せないことはないのだと思います。

「相手と距離を縮めるためにいきなり雑談を使うのは悪手!」ジェーン・スーさん

――雑談が苦手な人の共通点というと?

桜林:「この話をしたら自分がどう思われるか」という不安から話せなくなっている気がします。相手にどう思われるかを重視しすぎると自分の思いがわからなくなるし、会話でいい球を返そうとするほど次に何を話そうかと考え、相手の話を聞けなくなってしまいます。

スー:他者が自分をどう思うかを心配して話せないのは、裏を返せば、自分のことしか考えていないということ。雑談相手を自分の人生に介入してきた、自分を評価する他人だととらえているのは、とても不遜なこと。警戒心丸出しだと相手がどういう気持ちになるか考えてみて。

桜林:相手に関心をもって聞くことに注力するといいかもしれないです。

――「雑談は時間のムダ」という若い世代も目立ちますが……。

スー:彼らは雑談が嫌いなわけじゃないと思う。私の周りにも、趣味のことを何時間でも話してくる子もいますし。

桜林:上司の雑談の仕方が面倒にさせている気がする。若い世代はオンとオフを分けたいから私的なことは話したくないのに、「休日は何してた?」とか聞いてしまうから雑談するのが嫌になったり。

雑談で仲よくなれるのは幻想、まずは信頼関係の構築を

ジェーン・スーさん
 

「雑談が苦手な人は、自分のことしか考えていない可能性も」ジェーン・スーさん

スー:上司や先輩側が距離を縮めるための手段として、いきなり突っこんだ雑談をするからだよね。特に昭和・平成世代は、プライベートのことを知り合うと距離が縮まるという幻想をまず捨ててほしい。お近づきになる手段としての雑談が許されるのは、同世代、転勤先の人、ママ友みたいに、ほぼ対等な関係性においてのみ。下の世代がノーと言えない権力勾配がある会社組織で、特にプライベートなことを聞くのは悪手です。

桜林:それより、何があってもあなたの話を聞くよ、という態度でいるほうが相手も話しやすいよね。

スー:彼らがChatGPTとお友達になるのも、AI相手なら否定やからかいで傷つかずにすむからだしね。そもそも、雑談でプライベートな話題ができるのは、信頼関係が築かれている相手。本当は仲よくなってからするのが、そういう雑談だもの。上司や先輩世代はまず、彼らの仕事をよく見て、ときにはほめて、安心できる関係性をつくることが大事だよね。

「“毛繕い”トークも必要。正直さをもって雑談をしたい」桜林さん

――雑談をするとき、どんなことに気をつけていますか?

桜林:“毛繕い” は大事だと思います。「そのお洋服かわいいね」みたいに、「私は敵じゃないよ」と伝えるための毛繕いトーク。雑談ができる場をつくるために相手とトーンを合わせる時間も必要。

スー:そうだね。雑談は内容以上に、楽しそうに聞いてくれる、この場所は安全だと感じられることが大事だし。私自身は「どう思われてもいい」という開き直りと共に、不愉快な思いをさせないということを大事にしています。反応を見て自分の高すぎる熱量も調整するし。

桜林:「正直さ」も大事だと思う。私の雑談サービスでは「正直さだけをもってきて」と伝えています。私がどう思うかは気にせず、正直に話してもらいたいから。『となりの雑談』でも、私の話に対してスーさんが「それどういうこと?」と聞くことがおもしろくなるポイントだというリスナーさんも多いよね。わからないから教えてほしいと正直に言ってくれる人に対して真摯に話す姿勢も大事。関係性はそこから始まる気がします。

桜林直子さん
 

「雑談の効能は、言葉にすることで自分を知ることです」桜林さん

――雑談の効能というと?

桜林:考えていることを言葉にすると、250個あると思っていた悩みが3個だった、みたいなことがあったりします。たわいもない雑談で頭や心の中を外に出すと、考えや問題が整理できますし。

スー:いわゆる “脳外上場” ね。言葉にすることで自分の悩みを客体化でき、問題解決にいたることがあるけれど、問題が体内の腫瘍の一部みたいになっている限り客観視できないから、一度切り出して外に出すのは効果的だと思う。

桜林:そう思うと、雑談は、自分を知るという効能が大きいのかもね。

スー:雑談はおすすめ。だけど取り扱いには注意です!

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PHOTO :
野呂知功(TRIVAL)
HAIR MAKE :
yumi(ThreePEACE/ジェーン・スーさん)、 MYOKEN(ThreePEACE/桜林直子さん)
EDIT :
松田亜子、福本絵里香(Precious)