第1回は「ムーブメント」についてお話しさせていただきましたが、今回のテーマである「マニュファクチュール」とは、時計の心臓分である「ムーブメント」を自社内で開発製造できるメゾンということになります。
もしかしたら、ファッションブランドやジュエラーではなく時計ブランドなら、「ムーブメント」を自社内で開発製造するのは当たり前なのでは? と思われる人もいるかもしれませんね。いや、それがまったく当たり前ではないんです!
ごく限られたメゾンしか「マニュファクチュール」と呼べない?

ムーブメントというのは本当に数多くの微細な部品で構成されていますが、1mmにも満たない部品から全て自社内で製造するというのは、とても手間隙とコストがかかること。「信念」や「情熱」そして「矜持」がなければできることではありません。
もちろん組み立てにも非常に高度なクラフツマンシップを要するので、「マニュファクチュール」であるということは技術力の高さの証明でもあり、時計界でも別格。リスペクトされる存在です。

しかしひと口に「マニュファクチュール」と言っても、自社製ムーブメント搭載モデル以外に、ムーブメント供給会社などの他社製のものを搭載したモデルも展開しているメゾンもあり、いや、むしろそのほうが遥かに多く、「自社製ムーブメントしか搭載していません!」というガチの「マニュファクチュール」はほんのひと握り。それらはやはり、時計専業の名門になります。
今回はそんな生粋の「マニュファクチュール」をご紹介しましょう。
■1:創業150周年を迎えた「オーデマ ピゲ」
1875年、スイスの時計産業の聖地であるジュウ渓谷にあるル・ブラッシュという町で創業した「オーデマ ピゲ」。今年創業150周年を迎え華やかな話題をふりまいています。

偉大なアイコンであり、「ラグジュアリースポーツウォッチ」という分野を牽引した『ロイヤル オーク』のイメージがあまりにも強いけれど、伝統的に複雑機構を搭載したコンプリケーションを得意とする世界最高峰のウォッチメゾンのひとつと謳われています。
古くから女性用のジュエリーウォッチを手がけ、現在も女性へのリスペクトが込められたクリエイションが光る「オーデマ ピゲ」。2025年は「パーペチュアルカレンダー」という非常に高度な複雑機構を搭載しながら、38mmというコンパクトなケース径を実現させた新作を発表し、名門「マニュファクチュール」の存在感を示しました。

■2:ドイツの高級時計を代表する名門「A.ランゲ&ゾーネ」
ドイツの高級時計メゾンの象徴であり、徹底的に手仕事にこだわったウォッチメイキングで知られる「A.ランゲ&ゾーネ」。その故郷はドイツの東部、ドレスデン郊外にあるグラスヒュッテという山あいの町で、1845年にその歴史がスタートしました。
しかし第二次世界大戦によってドイツが東西に分断。「A.ランゲ&ゾーネ」は東ドイツ国営公社に管理統合されてしまったため休眠を余儀なくされました。その後東西ドイツが統合された4年後となる1994年に、創業者一族の4代目、ウォルター・ランゲによって華麗に復興。

以来、グラスヒュッテの地で、自社で時計師を育てることから始まる気高いウォッチメイキングを続けています。2025年は、創業者の生まれ年をモデル名に関した『1815』から、34mm径という小ぶりな新作を発表。シンプルさがかえって時計本来の美を際立てる、まさにクワイエットラグジュアリーなタイムピースに仕上がっています。

■3:実用腕時計の最高峰で輝き続ける「ロレックス」
日本で、いやおそらく世界でいちばん知名度が高いウォッチメゾンであろう「ロレックス」も、もちろん完全な「マニュファクチュール」です。堅牢な「オイスターケース」に象徴されるように、いわゆる「コンプリケーション」よりも日常やプロフェッショナルな職業の日知人が使うために必要な機能性や耐久性、高精度を追求し続けており、実用腕時計の最高峰としての地位を揺るぎないものにしています。

2025年は、ムーブメントからケース、ブレスレットも新たに開発された『オイスター パーペチュアル ランドドゥエラー』を発表。スリムになった「オイスターケース」から、全てのリンクがフラットになった5連の「フラットジュビリー」ブレスレットがシームレスに繋がり、よりエレガントに。新開発のムーブメントも、これまでのものよりスリムでいながら、ブランド初の36,000回の高振動かつ高精度で、「ロレックス」の革新性を改めて印象付けました。

■4:真摯なウォッチメイキングで絶対的信用を集める「ゼニス」
クロノグラフの絶対的名品ムーブメント「エル・プリメロ」を生み出し、時計史に金字塔をたてた「ゼニス」。スイスの山あいの町、ル・ロックルで、1865年に創業しました。今年は160周年というアニバーサリーイヤー。しかしその長い歴史の間には、大きな危機がありました。
1969年に発売されたクオーツ時計が世界を席巻し、当時の経営トップは機械式時計を製造し続けることは困難と判断。時計師たちに、設計図から製造に必要な金型、部品まで全て処分するように指示しました。しかしここでひとりの時計師、シャルル・ベルモ氏が発奮! 「ゼニス」の機械式時計製造の技術を守るために、全ての道具を屋根裏部屋へ隠したのです。

歳月を経て、やがて機械式時計隆盛の時代が到来し、ベルモ氏の思いは結実しました。
そんな物語がある「ゼニス」は、その高精度ムーブメントへの信頼の高さから、他メゾンに供給もしています。
また、どちらかといえば男性的なイメージが強いメゾンですが、女性へのエンパワーメントを込めたフェミニンな機械式ウォッチも展開。時計の真価を追求する女性たちから、熱い支持を受けています。

近年では、数々のジュエラーやファッションブランドも真剣に自社製ムーブメントを手がけるようになり、女性のための機械式ウォッチの選択肢は広がり続けています。私たち女性にとって時計はファッションの一部としてのジュエリー的位置付けでもあるから、まだまだムーブメントには興味ないという人も多いかと思いますが、今回ご紹介したガチの「マニュファクチュール」をはじめ、すべての自社製ムーブメントには「物語」が宿っているのです。
時刻を知るためだけならデジタルデバイスがあれば十分という現代においては、腕時計を手に入れることは、「物語」やロマンを手に入れると同義なのだと思います。
※掲載商品の価格は、すべて税込みです。
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- TEXT :
- 岡村佳代さん 時計&ジュエリージャーナリスト