創刊から「大人の女性の手元にふさわしい」名品時計の数々をお届けしてきたPrecious。時計特集や、Precious.jpでご紹介している新作ウォッチのニュースで、さまざまな時計用語を使っていますが、専門的な言葉も多く理解しづらいこともあると思います。

なので、今、“そもそも”の部分に立ち返って。時計の基礎知識をお伝えするこの連載を始めることにしました。

少しずつでも知識を深めていけば、ラグジュアリーウォッチの世界がもっと楽しくなるはずです!

正しく知っておきたい!「機械式時計」と「クオーツ式時計」の違い

まずはここから! 最初のテーマは「ムーブメント」についてです。

そもそも「機械式時計」とは…?

シリーズでお届けしている『2025年新作ラグジュアリーウォッチNEWS』ですが、現時点(2025年3月11日)でご紹介している4つのメゾンの11種類のウォッチコレクションのうち、時計を動かす心臓部「ムーブメント」が機械式の時計はなんと24本! それ以外の1本の時計は、「クオーツ式」ムーブメントとなります。

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「カルティエ」の永遠の名品“タンク ルイ カルティエ”の自社製手巻きムーブメント搭載モデル。

「クオーツ式」の定義は「水晶発振子で調速する、電気で動く時計」で、水晶=クオーツが、電圧をかけると正確に振動するという性質を利用したもの。ざっくり、「電池で動く時計」というのがわかりやすいと思いますが、何せ機械式時計より精度が高いのが大きな魅力。

機械式時計の精度は一般的に日差−10秒〜+20秒程度と言われているのに対し、クオーツ式時計は一般的に月差−20〜+20秒程度。1969年に「セイコー」が世界初のクオーツ式アナログ腕時計を発売して、世界の腕時計界を席巻しました。

そのことで大打撃を受けたのが「機械式時計」。

ここでようやく「機械式時計」とは? という本題に入ります! 私もよく、わかりやすくというか、それこそざっくりと「ゼンマイ式」、つまり「巻き上げたゼンマイがほどける力を動力源として針や歯車を動かす時計」と説明しているけれど、これは実は正解ではありません。

厳密にいうと、「機械式」の定義は「動力機構」にはなく、時計が進む速度を一定に保つ「調速機構」にあるのです。

私自身も正直、機械には疎いですし、多くの女性にとっては興味が湧かないお話でしょう。しかし、歯車の回転の停止と解放を一定周期で繰り返す「脱進機」という機構で調速を行う。それこそが「機械式時計」の定義ということを、頭の隅にでも入れておいていただけたらと思います。

少し難しい話はこれでおしまい!

正確で、量産できるようになったため比較的安価なクオーツ式ムーブメント(以下、クオーツと略します)の登場で、一時は存続の危機に陥った昔ながらの「機械式時計」ですが、1990年代に入った頃から徐々に人気が復活。やがて男性時計愛好家たちの間では、「機械式時計を選ばなければ時計好きとはいえない」といった風潮さえ生まれたほどでした。

そして2000年代に入ると、機械式ムーブメントを搭載した女性向けモデルも増え始め、「時計の真価」をムーブメントに見出す女性も増加。現在では、「マニュファクチュール」と呼ばれる時計専業のメゾンのみならず、ジュエラーやトータルファッションメゾンも時計製造に注力し、自社内で一貫製造した機械式ムーブメントを搭載した時計を手がけるようになっています。

「機械式時計」には「手巻き」と「自動巻き」の2種類がある

年々、機械式ムーブメント搭載のレディスモデルは増え続けていますが、「機械式時計」は「手巻き」と「自動巻き」の2種類があり、その違いは「ゼンマイの巻き上げ方」にあります。

「手巻き」はその名前のとおり、リュウズを回すことでゼンマイを巻き上げる、「機械式時計」でもよりクラシカルなタイプ。

基本的に毎日、リュウズを回してかまってあげないと止まってしまうので、それが不便とか面倒という人もいることでしょう。でも、私はそれこそが「機械式時計」の醍醐味だと思っていて、毎日リュウズを回していくうちに、まるで生き物のように愛しく感じてくるのです。

慌ただしく過ぎていく毎日のなか、やがてそのひとときがかけがえのないものになっていくに違いありません。

「カルティエ」の“タンク ルイ カルティエ”

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「カルティエ」が自社内で製造した“キャリバー 1917 MC 手巻きメカニカルムーブメント”を搭載。ムーブメント製造会社から供給されたものではなく。自社内で製造したムーブメントというのは一般的により高い価値を有し、メゾンの格を語る。
「タンク ルイ カルティエ」SM ¥1,848,000(カルティエ) ●ケース:ピンクゴールド ●ケースサイズ:縦29.5×横22mm ●ストラップ:アリゲーター ●ムーブメント:手巻き Vincent Wulveryck(C)Cartier 
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縦16.0×横12.95×厚さ2.9mmという小ぶりなサイズを実現した“キャリバー 1917 MC 手巻きメカニカルムーブメント”の表(左)と裏(右)。優美なトノー形シェイプのムーブメントは珍しく、通常見えない部分の仕上げの美しさからもメゾンの美学を感じとることができる。

「自動巻き」は、ムーブメントに内蔵された「ローター」という扇形の部品が、手首の動きによって回転し、歯車にその動きが伝わることによって自動的にゼンマイを巻き上げてくれるという仕組み。「手巻き」にはないローターにデザインを施しやすいためか、ケースの裏をサファイアクリスタルにして、ムーブメントを見せる通称「裏スケ」を採用するモデルが。「手巻き式」より多い印象です。

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「ブレゲ」のアイコン、“クイーン・オブ・ネイプルズ 8918”のケースバック。美しい仕上げを施したムーブメントを目で楽しむことができる人気の意匠。

自動巻きの時計の魅力といえば、毎日使っていれば手でリュウズを巻き上げる手間がかからず便利なこと。でも、手巻きの時計のリュウズを巻き上げるときに感じる生き物のような感覚を、ローターが回転する振動が手に伝わったときに味わうことができ、それも魅力のひとつです。

「ブレゲ」の“クイーン・オブ・ネイプルズ”

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フランスの洗練とスイスの伝統的な時計製造技術をあわせもつ稀有なウォッチメゾンとして憧憬を集め続ける「ブレゲ」。エッグフォルムの優美なケースがアイコニックな“クイーン・オブ・ネイプルズ 8918”は、このモデルのために設計された小型の自動巻きムーブメントを搭載。ジュエリーウォッチのエレガンスを宿す本格機械式ウォッチの代表格。
「クイーン・オブ・ネイプルズ 8918」¥7,502,000(ブレゲ) ●ケース:ホワイトゴールド×ダイヤモンド ●ケースサイズ:縦 36.5×横28.45mm ●ストラップ:アリゲーター ●ムーブメント:自動巻き

2020年、ユネスコはスイスの「機械式時計の職人の技能」を無形文化遺産に登録しました。みなさんもきっと、「高級時計といえばスイス・メイド」というイメージをもっていることでしょう。今回ご紹介した「カルティエ」の“タンク ルイ・カルティエ”も、「ブレゲ」の“クイーン・オブ・ネイプルズ 8918”もスイス製です。

でも、日本にも高度な機械式時計を自社一貫製造している名門マニュファクチュールがあります! そう、「グランドセイコー」や「クレドール」といったブランドを擁するセイコーウオッチです。

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文字盤の仕上げの美しさにおいても世界的に高い評価を集めている「グランドセイコー」。桜の花を雪が覆い隠す「桜隠し」から着想を得た“ヘリテージコレクション STGK031”は、繊細な型打ち模様とグレイッシュなピンクの色味で、日本の美しい情景を映し出して。

大谷翔平選手の愛用ウォッチとしても知られている「グランドセイコー」ですが、年々、レディスモデルのバリエーションも増加中。なかでも小型で薄い自動巻きムーブメント“キャリバー9S27”を搭載したモデルは、まさに「才色兼備」を体現するクワイエットラグジュアリーな機械式ウォッチです。

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「グランドセイコー」の機械式自動巻きモデルのなかでもっとも薄い、10.5mmというケース厚を実現した“ヘリテージコレクション STGK031”。

「グランドセイコー」の “ヘリテージコレクション”

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「グランドセイコー ヘリテージコレクション STGK031」¥880,000(セイコーウオッチお客様相談室〈グランドセイコー〉) ●ケース:ステンレススティール ●ケース径:30mm ●ブレスレット:ステンレススティール ●ムーブメント:自動巻き ※2025年4月発売予定、グランドセイコーブティック、グランドセイコーサロンおよびグランドセイコーマスターショップでの限定販売

今回は「機械式時計」の“そもそも”の部分について改めてお伝えしました。もちろんクオーツにはクオーツのよさもありますし、女性にとって時計はファッションの一部でありジュエリー的な存在ですから、ムーブメントに関してはさほどこだわりをもっていない女性はまだまだ多いでしょう。また、確かに機械式時計はクオーツに比べると高価で手がかかるというネガティブな要素もあります。

でも、機械式時計は、壊れてしまったらもう手が施せないことがほとんどのクオーツに対して、メンテナンスさえしっかりしていけば一生ものどころか、次世代、その次の世代へと伝えていくことができます。

「時計」に対して、自分が何に価値を見出すか? 一度ゆっくり向き合ってみてはいかがでしょうか?

※掲載商品の価格は、すべて税込みです。

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この記事の執筆者
東京都出身。大学在学中から雑誌『JJ』などで執筆活動を開始。女性向け本格時計のムックに携わったことから、機械式時計に開眼。『Precious』などの女性誌において、本格時計の魅力を啓蒙した第一人者として知られる。SIHHとバーゼルワールドの取材歴は、女性ジャーナリストとしては屈指のキャリアの持ち主。好きなもの:海、ハワイ(特にハワイ島)、伊豆(特に下田)、桑田佳佑様、白い花、シャンパン、純米大吟醸酒、炊きたてのご飯、たまご、“芽乃舎”の野菜だし、“エルメス”のバッグと“シャネル”の靴、グレーのパーカー、温泉、スパ、素敵旅館、村上春樹、宇野千代先生、神社、日本の陶器(特に唐津焼)、朝ドラ、ドラミちゃん、長文のインタビュー原稿