【目次】
【第28回のあらすじ】
天正10(1582)年6月2日未明、明智光秀(要潤さん)の謀反によって京都・本能寺の炎に消えた織田信長(小栗旬さん)。第28回「急げ!秀吉」の冒頭では前回放送のハイライトシーンが35秒ほど流れ、一気に1週間前に視聴した「本能寺の変」へと引き戻されたのではないでしょうか。
オープニング後、本能寺の焼け跡で信長の亡骸が見つからず、イラつく光秀。御首級(みしるし)がなければ(信長が死んだ証拠がなければ)、われに従わない者が出てくるはず、というわけですね。「首級」は「印」と同語源で「討ち取った首」という意味。中国の戦国時代・秦の法で、敵の首をひとつ取ると1階級上がったところからこう呼ばれるのだとか。
光秀は小一郎(仲野太賀さん)を捕らえよと、家臣の斎藤利三(内藤剛士さん)に命じます。このときの光秀の「災いの芽は早々に摘まねばならん」というセリフ、信長の時代が終わっても、その遺志を継ぐ秀吉(池松壮亮さん)の時代に移り変わるだけ…と予感していたかのようです。秀吉の“頭脳”である小一郎を、災いの芽だと言うのですから。
燃え盛る本能寺を目の当たりにして、これはヤバいとひとまず遊女屋へ身を隠した小一郎たち。遊女屋の女将・吉祥として本作初登場となったのが鶴田真由さんです。なんと「篤姫」(2008年)以来18年ぶりの大河ドラマ出演とか。
小一郎は、長浜にいる家族に逃げるよう伝えること、諸将には光秀に加担しないよう書状を届けること、そして信長が生きているという噂を広めることなど、テキパキと家臣に指示。そして最も大切で気の重い役目、兄・秀吉に信長の死を伝える文を書くのです。
実父をその兄・信長に討たれた織田信澄(尾形敦さん)は、20年もの間、信長の側で父の仇討ちの機会を狙っていました。その目的を果たした今、義父である明智光秀と合力して「正しき世を取り戻す」と息巻きます。信長が目指した天下一統とは、空のように境目がなく争いのない世をつくることでしたが、光秀・信澄の正しき世とは?
さて、堺の商人・津田宗及(マギーさん)のもとにいた徳川家康(松下洸平さん)は、本拠地・岡崎に戻って軍勢を整えねばと進言する家臣に、「見誤ったわ」とポツリ。つくべきは信長ではなかった、というわけですね。
本作では、老獪(ろうかい)で食えない奴といった意味で「たぬきオヤジ」などと呼ばれた家康像を、松下さんがい~い感じに可視化しています。家康は、信長や秀吉といったカリスマの陰でじっと耐え、本心を明かさず、周囲を油断させ、最後に天下をさらっていくのですから。
津田宗及も相当なたぬきオヤジですね。「何かのお役に立つかもしれまへん」と家康に砂金を進呈しておきながら、家康が伊賀の山を越えて岡崎へ戻ることを光秀にチクるわけです。「誰に風が吹くかわからん」と。もちろん家康はそれを見越して伊賀を越えると言ったわけで、実際は海路を使います。たぬきオヤジ同士の騙し合い、というシーンでした。
さて、備中攻めの最中の秀吉のもとに、小一郎から信長が討たれたという文が届きます。もちろん秀吉は信じません。信じられない、信じたくない、嘘じゃ、嘘じゃ…。亡骸が見つかっていないことが唯一の救いでしょうか。「上様は逃げのびて、われらの助けを待っておられるに違いない」と信じたい秀吉の気持ち、わかります。一刻も早く秀吉と対策を相談したい小一郎は、「生きているはず」という一縷(いちる)の望みを秀吉に残したのです。
秀吉は、信長に起きたことを気取られないようにしながら、すぐに毛利との和議を結ぶのだと言います。そう、秀吉は信長を喪失した現実をしっかり受け止めていたのでした。月明かりのもと静かに涙を流す秀吉に、筆者は視聴者ではありますが、掛ける言葉もありませんでした。
そして本能寺の変からわずか2日後。毛利方の外交担当である安国寺恵瓊(立川談春さん)と、再び和睦交渉の場に臨んだ秀吉。キャンキャン落ち着きのない小猿だった秀吉は、達観した表情で毛利が示した和議の条件を受け入れると提案。しかも、信長が3万の兵を率いて向かっているとうそぶくのです。「これは双方が生き延びるための策。われらが目指すはひとりが勝つ世ではなく、皆が力を合わせてつくる万事円満の世じゃ」と、弟の受け売りだと言いつつ、信長が理想とした国づくりを語ります。恵瓊はそれを「嫌いではない」と、毛利と織田の和睦交渉を引き受けるのです。
この安国寺恵瓊を「暗黒JK(あんこくじぇいけい=あんこくじえけい)」と表記して盛り上がるネット民のセンス、談春師匠は「嫌いではない」ようで、この第28回放送前に行われた独演会のまくらでも、またまたネタにしていました。
さて、越中の魚津城を守っていた織田家筆頭家老の柴田勝家(山口馬木也さん)も、信長の死を受け入れられないひとり。しかし勝家を「おやじ殿」と父のように慕ってきた前田利家(大東駿介さん)の渾身の説得で、受け入れざるを得ず…。この「鬼柴田」と呼ばれた暴れん坊勝家は、こののち信長の妹・市(宮崎あおいさん)と人生(といっても先は短いのですが)を共にします。
京の遊女屋に身を隠したままの小一郎は、光秀の盟友・細川藤孝(亀田佳明さん)に問いかけます。ついこの間まで共に戦っていた光秀に対し、どうしたらよいのかと。考え悩み抜いても出ない答えを、お知恵拝借と問いかけるのは小一郎の得意技ですね。姑息な手も使うけれど真正面から切り込む小一郎、恵瓊じゃないけど「嫌いじゃない」です!
そうこうしているうちに、備中から2万5000の兵を率いて秀吉が姫路城へ入ったとの報せが届きます。現在の岡山県岡山市から、兵庫県姫路市までの約100kmを、わずか2日で走り抜けた計算です。戦国時代の武将が兵を率いて移動する距離は、長くても20~30kmとか。どれだけ秀吉が急いだのかわかりますね。これが俗に言われる秀吉の「中国大返し」。
2万5000の秀吉軍、現代に置き換えると労働基準法に抵触すること間違いなしのブラック企業ですが、雨降る夜半にたどり着いた村では、水も飯も馬の替えも用意されていました。小一郎が信長の西国出陣のため支度したものでしたが、夜通し走り続けるだろう兄のために利用したというわけです。小一郎のシゴできぶり、ここでも発揮されましたね。
驚いたのは明智勢。通常なら4、5日はかかる道のりを、わずか2日で駆け抜けるとは尋常ではないのですから。しかも、毛利との和議の証しに交換した旗が、織田と毛利が結託したことを方々へ知らせることに。織田方か明智方か決めかねていた諸将も、織田方に続々とつく…と、これも小一郎が描いたシナリオ通りでした。
尼崎城で合流した小一郎と秀吉。光秀を倒し、信長が目指した国づくりをわれらの手で…と、次回放送「天下への道」へと続きます。
【「是非もなし」は究極の開き直り?憤り?武将の名言】
中盤のハイライトとなった第27回「本能寺の変」と第28回「急げ!秀吉」ですが、「ん、なんだか聞き覚えのある…」と気付いた人も少なくないのでは? どこかで聞いたことのある名セリフが、信長や光秀の口から飛び出しました。
■敵は本能寺にあり――明智光秀
今回の放送の冒頭、大谷翔平さんの先頭打者ホームラン級にインパクト大の光秀の言葉です。備中高松城攻めの秀吉に加勢すべく出立した光秀でしたが、信長に軍装を見せるためと偽って入京。桂川を渡り、ようやく「わが敵は本能寺にあり!」と号令し、攻撃の対象が信長であることを明かしました。
主君への謀反ですから、受け入れられない家来もいるでしょう。躊躇する間を与えず、士気が高まり上げたこぶしを下すことが出来ない状態になってからの本心を明かしたのは、タイミングの勝利ですね。
しかし信憑性が高いとされる『信長公記(しんちょうこうき)』や、本能寺の変を生き延びた武士の手記などには、このセリフは記載されていないことから、後世の創作であるとの見方もあります。
■是非もなし――織田信長
中国出陣のためわずかな近習を従え、京の本能寺に入った信長。6月2日未明の騒動が光秀の謀反だと知った際の信長のひと言がこれ。「是非もなし(に及ばず)」の一般的な意味として『デジタル大辞泉』には【当否や善悪をあれこれ論じるまでもなく、そうするしかない。どうしようもない。しかたがない。やむを得ない。】とあります。本能寺で就寝中だった信長を1万3000の兵が取り囲んだのですから、万事休す、もうどうしようもないという心情での「是非もなし」でしょうか。
第15将軍代足利義昭の幕臣だった光秀は、信長によって義昭が追放されたのち、当の信長の家臣になりました。光秀の本当の忠誠心は義昭にあったので、ふたりの主君をもつ両属というわけ(簡単に言えばふた股ですね)です。信長はそれを承知の上で光秀を側に置いていたので、いつかこうなると予感していたからの「是非もなし」だったのでしょうか。
今回のドラマでは、死ぬ間際、弟の幻影に「われらの人生はろくでもない」と言われて、豊臣兄弟のふたりを思い出しながらの「是非もなし」でした。そのため、SNSでは「脚本的には(豊臣兄弟の仲のよさは羨ましいけれど)しかたがない、自分の人生に悔いはないという意味では?」といった考察もされていました。
■大義はわれらにあり――明智光秀
「大義」とは、人として守るべき道義、国家・君主への忠義、親への孝行などを言います。また重要な意義、大切な事柄といった意味も。本能寺の変ののち放った光秀の「大義はわれらにあり」とはどういう意味なのでしょう。 表向き主張した「大義」と、現代の研究によって推測される「本心(真の動機)」を整理すると、いくつかの姿が見えてきます。
光秀が掲げた表向きの「大義」は、暴君・信長から、天下・朝廷を守ること。天皇や朝廷を軽視し、比叡山焼き討ちなど寺社を冒涜(ぼうとく)し、伝統や秩序を壊し続ける信長を正す、という名分です。
一方、歴史研究家などが推す説のひとつが、このままでは一族もろとも滅びるという危機感からの保身です。
また、近年発見された『長宗我部家文書』などの史料によって有力視されているのが、長宗我部との同盟の突然の破棄によって面目を潰された光秀の怒りによるものという説。長宗我部元親と信長の間を取り持つ外交担当だった光秀は、理不尽極まりない信長にとうとうブチ切れた、という見解です。
いずれにしても、信長の光秀への態度や扱いは、今ならコンプラ委員会でやり玉に挙げられる事案が多すぎた…といったところでしょうか。
【次回 『豊臣兄弟!』第29回「天下への道」あらすじ】
織田信孝(結木滉星さん)から、明智討伐の差配を任された秀吉(池松壮亮さん)。焦らず敵を追い詰め、光秀(要潤さん)を生け捕りにすべきと考えるが、信長を失った織田勢の足並みは揃わず、はやった高山右近(市川知宏さん)らが敵陣に攻め入る。小一郎(仲野太賀さん)は初陣の与一郎(大西利空さん)を残し、自身は援軍として戦場へ。だが与一郎は、刺客から信孝を守って負傷してしまう。
一方、小一郎は秀吉に、どうしても光秀と話したいと頼まれ…。
※『豊臣兄弟!』第28回「急げ! 秀吉」のNHK ONE配信期間は2026年7月26日(日)午後8:44までです。
※宮崎あおいさんの【崎】は「たつさき」が正式表記です。
- TEXT :
- Precious編集部
- WRITING :
- 小竹智子
- 参考資料: 『デジタル大辞泉』(小学館)/『日本国語大辞典』(小学館)/『NHK大河ドラマ・ガイド 豊臣兄弟! 後編』(NHK出版)/『信長公記―戦国覇者の一級史料』(中公新書)/『NHK大河ドラマ 歴史ハンドブック 豊臣兄弟!-豊臣秀長とその時代』(NHK出版)/『一日一言 名称名言録』(角川学芸出版) :

















