ラグジュアリーな羊の皮を被った狼とは、もともと「羊の~」というたとえは、高性能を秘めた、一見普通に見える4ドアセダンに対して付けられたもの。パワートレーンの進化や電子制御技術の導入で、ベーシックなセダンでも十分以上のパフォーマンスを発揮するようになった現在、その言葉が当てはまるクルマは少なくなったように思える。
だが、羊の群れのごとく都会に氾濫するセダン勢のなかで、ひっそりと心に牙を持つ「アンダーステイトメントな猛獣」は、今も確かに存在する。それがBMW『M3』だ。
心に牙を持つ「アンダーステイトメントな猛獣」を味わえ!
BMW『M3』
'80年代半ば、市販車をベースとしたレーシングカーで争う、ドイツのツーリングカー選手権で、ライバルとしのぎを削っていたBMWは、『3シリーズ』の2ドアをベースにした高性能モデル『M3』を開発した。2世代目からは、レース参戦よりも日常での使い勝手を重視した設計が取り入れられ、標準モデルとの外観上の差異は、より少なくなった。また、新たに4ドアも追加され、現行型における『M3』は、4ドアのみだ(2ドアは『M4』に改称)。
ストイックな味付けを突き詰めた結果、なんらかの形で快適性を犠牲にした高性能モデルならともかく、『M3』は常用域での快適性をまったく損なうことなく、サーキット基準のパフォーマンスを実現している。
そのうえ、スピード感あふれるクーペスタイルの2ドア(『M4』)に比べて、4ドアの『M3』はこれ見よがしな雰囲気がない。街中ではだれにも気づかれることなく静々と走り、深夜の高速道路でスロットルを開け放つ贅沢も、「ラグジュアリー・スポーツカー」の特権なのだ。
だから『M3』に関してなら、より「上」を目ざすのもありだ。実は2017年モデルから、さらなる走行性能を追求した、その名も「コンペティション」なるグレードが加わっているのだ。最高出力は19馬力高められ、足回りや姿勢制御システムにも専用セッティングが施されたこのモデルは、サーキットでの使用を考慮しながらも、快適性を十分に保っているのが特徴だ。
やや大きめの排気音が硬派な雰囲気を高めているものの、乗り味は路面の衝撃をしっかりといなすスマートさで、とにかく走りにムダがない。スポーツセダンづくりで長い歴史を持つ、BMWならではの絶妙なセッティングだ。
ときおり、そのただならぬ雰囲気に気づいたスポーツカー乗りが、素性を確かめるように仕掛けてくるかもしれない。だが、そんな誘いに乗ってはいけない。クルマにおいても、TPOに合わせた振る舞いに徹するのが紳士だ。街で見かけることが多い人気シリーズだからこそ叶う心の贅沢を、とくと堪能されたい。
BMW『M3 コンペティション』
ボディサイズ:全長4,685×全幅1,875×全高1,430㎜
車両重量:1,640kg
エンジン:直列6気筒DOHCターボ
総排気量:2,979cc
最高出力:450PS/7,000rpm
最大トルク:550Nm/2,350~5,500rpm
トランスミッション:7速M DCT(AT)
価格:¥11,629,630(BMW カスタマー・ インタラクション・センター)
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- TEXT :
- MEN'S Precious編集部
- BY :
- MEN'S Precious2018年夏号ラグジュアリー・ スポーツカーを味わい尽くす
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- クレジット :
- 撮影/柏田芳敬(車両)構成/櫻井 香