■フランスの牛乳チーズを知る。まずは基本から
フランスの牛乳チーズは、牛乳を凝固させて水分を抜き、塩を施し、必要に応じて熟成させてつくられます。製法や熟成方法によって、ブリーやカマンベールの白カビ、エポワスやマンステールのウォッシュ、コンテやボーフォールのハード、サン・ネクテールやモルビエのセミハード、ブルー・ドーヴェルニュなどの青カビ、 フロマージュ・ブランなどのフレッシュタイプと、多彩なタイプに分かれます。
もうひとつ知っておきたいのがAOP(原産地呼称保護)。その土地で受け継がれてきた原料や製法と産地との結びつきを守る制度で、フランスでは現在47のチーズがAOPに認定されています。コンテやブリー・ド・モーもそのひとつ。AOPチーズの4分の3以上が無殺菌乳からつくられており、乳に由来する微生物を生かすことも、フランスのチーズ文化を語る重要な要素です。
■1:チーズ専門店「アレオス(Alléosse)」の熟成庫で知る、チーズを“食べ頃”に仕上げる仕事
「18か月熟成のコンテ」「いまが食べ頃」。チーズショップでそんな言葉を目にしても、その熟成の間に何が行われているかを知る機会は多くありません。パリ17区のアレオスは、若いチーズを最適な状態まで熟成させる「アフィナージュ」を手がける専門店。フィリップ・アレオスと息子のエルヴァン・アレオスも、熟成を担うアフィナーです。店舗から車で約5分の熟成施設には、ハード、白カビ、シェーヴル、ウォッシュとタイプ別に4室があり、常時180〜250種類を管理しています。アフィナーは、若いチーズの状態を見極め、どの環境に置き、どんな手入れを施し、いつ送り出すかを判断します。温度や湿度を整え、表面をブラッシングし、上下を返し、ときには塩水や酒で洗いながら食べ頃へ仕上げます。
ウォッシュタイプでは、ブルゴーニュのマールやミラベルのオー・ド・ヴィを使うことも。酒を用いる場合は何度も繰り返して風味を浸透させます。反転も欠かせず、500個を週に一度返せば4週間で2000回。1回に3〜4時間を要することもあるそう。原料乳は季節や年で変化し、温度や湿度でも熟成の進み方は異なります。45年にわたりアフィナージュに携わるフィリップも「今も学び続けている」と話し、技術を身につけるまでには7年ほどかかったといいます。熟成庫は通常の観光施設ではありませんが、17区の店舗には、こうして仕上げられたチーズが並びます。「いま食べ頃のものを」と相談しながら選ぶのも、専門店ならではの楽しみです。
チーズ専門店|アレオス(Alléosse)
13 Rue Poncelet, 75017 Paris, France
https://fromage-alleosse.com/
■2:チーズ専門店「タカ&ヴェルモ(Taka & Vermo)」で出合う、美しいチーズプラトー
ホームパーティーやホテルの部屋でワインを楽しむなら、チーズ専門店でプラトーをオーダーするのもおすすめ。タカ&ヴェルモでは、人数やシーンに合わせ、食後用からアペリティフやパーティー向けのカクテルスタイルまで注文できます。
店主のロール・タカハシがプラトーで意識するのは「幾何学的な形と動き」。ブルーチーズやブリーは食べやすく切る一方、とろりとやわらかなものは大きなまま。丸、四角、三角を組み合わせ、整然と並べすぎず、プラトーにリズムをつくります。夏ならイチゴやサクランボ、秋ならイチジクやブドウなど、季節のフルーツも欠かせません。色だけでなく季節感まで一枚に取り込む発想です。
店内には150〜200種類ほどのチーズが並び、フランス産を中心にイタリアやオランダ産も扱います。クルミやイチジク、ヘーゼルナッツ、ハーブなどを加えたものや、日本の山椒を合わせたサン・ネクテールなど、店でひと手間加えたチーズも。また、扱うチーズの約9割が無殺菌乳。地域の気候や土壌、牛が食べる草の違いがミルクの味に表れるため、ビオ認証の有無以上に、土地の個性が味わいに残ることを重視しています。
チーズ専門店|タカ&ヴェルモ(Taka & Vermo)
61 bis Rue du Faubourg Saint-Denis, 75010 Paris, France
https://takavermo.fr/
■3:チーズ専門店「フロマジュリー・ヒサダ・パリ(Fromagerie Hisada Paris)」で学ぶ、チーズプラトーの基本
フロマジュリー・ヒサダ・パリでは、チーズプラトー作りのレッスンを行っています。「重要なのはチーズのセレクト。産地を揃える、色で選ぶ、異なる食感を組み合わせる、ゲストの出身地やゆかりの産地にちなむなど、テーマを決めると楽しいプラトーになります」と、アフィナーの久田惠理さん。
味や見た目が似たものばかりにせず、硬いものとやわらかいもの、穏やかなものと個性の強いもの、色や形の異なるものを取り合わせるのが基本。食後に楽しむなら、ひとり1種類につき20〜25g程度が目安です。伝統的なプラトーでは3種類ほどを塊のまま盛り、ひとつを端に、次を反対側に置き、その間に3つ目を配するとバランスよくまとまります。
アペリティフやパーティーなら、チーズを食べやすく切り、フルーツやナッツ、ピックなどを添えたカクテルスタイルに。塊で供する食後のプラトーとは異なり、そのまま手に取って食べやすく、見た目にも華やかです。持ち運ぶ場合は、プレートの隙間を埋めるように盛ることで、中身が動きにくくなります。
プラトーに使うチーズを買うときは、「いつ食べるか」も伝えたいところ。「チーズにも、メロンやバナナ、アボカドのように食べ頃があります」と久田さん。今日食べるのか数日後なのかによって、選ぶべき熟成状態も変わります。種類や量だけでなく、食べるタイミングまで考えて選ぶことが、おいしいプラトーにつながります。
チーズ専門店|フロマジュリー・ヒサダ・パリ(Fromagerie Hisada Paris)
プラトー作り体験レッスン(120分・完全予約制)
1名160€47 Rue de Richelieu, 75001 Paris, France
https://www.hisada.fr/
■4:老舗ビストロ「シェ・フレッド(Chez Fred)」で楽しむ、圧巻のチーズワゴン
1945年創業の老舗ビストロ、シェ・フレッド。チーズも食事を構成する大切な一皿として、いまでは少なくなった食後のチーズワゴンの文化を守り、約40種類を揃えています。
アレオス、デュボワ、ブジョンといった名だたるアフィナーから届くチーズを、好みに合わせ、フランスのAOPチーズを中心に、そのラインナップは常時なんと約40種類。羊乳。コンフィチュールやチャツネなどの甘い添え物は使わず、合わせるのはシンプルなバゲットのみ。熟成したチーズそのものの香りと味わいを楽しませるのがこちらスタイルです。
料理のあと、ワインとともにもう一皿。チーズワゴンまで含めて楽しみたい、チーズ好きのためのビストロです。
ビストロ|シェ・フレッド(Chez Fred)
熟成チーズ盛り合わせ 4種22€/7種34€
190 bis Boulevard Pereire, 75017 Paris, France
https://www.chezfreddepuis1945.com/
■5:マルシェ「マルシェ・プレジダン・ウィルソン(Marché Président Wilson)」で見る、パリの日常のチーズ
専門店だけでなく、マルシェにもチーズは欠かせません。パリ16区のマルシェ・プレジダン・ウィルソンは、近隣住民の日常使いの場でありながら、イエナ広場やパレ・ド・トーキョーにも近く、旅行者も立ち寄りやすいマルシェです。野菜や果物、肉、魚に交じって複数のチーズ店が並びます。パリには約80のマルシェがあり、市民のおよそ3人に1人が週に一度、マルシェで食料品を買うのだとか。
出店者のなかには、ノルマンディーから週2回、車で約2時間半かけてやってくるチーズ農家も。羊、山羊、牛の乳からチーズやヨーグルトをつくり、実店舗を持たずマルシェを中心に販売しています。地方でつくられたチーズが、売り手の手から街の人の日々の食卓へ。ここには、特別ではない日常のチーズの風景があります。「「フロマージュリー・ド・ソフィー」で働き始めて1年になるというアナイスは、馴染みの顧客も増え、その好みもだんだんわかってきたとか。「壁の中ではなく、青空の下で新鮮な空気を吸いながら仕事できるなんて快適!」と語ります。
マルシェ|マルシェ・プレジダン・ウィルソン(Marché Président Wilson)
Avenue du Président Wilson, 75016 Paris, France
https://www.paris.fr/lieux/marche-president-wilson-5510
■6:パリからモーへ。ブリー・ド・モーの歴史と製法を知る「メゾン・デュ・ブリー・ド・モー」
パリのショーケースには、フランス各地からチーズが集まります。その背景まで知りたくなったら、産地へ行ってみるのもおすすめ。パリの東に位置するモーは、パリ東駅から電車で約25分。白カビチーズの代表格、ブリー・ド・モーの名を冠する町です。ブリー・ド・モーは1000年以上の歴史をもつとされ、1815年のウィーン会議では「チーズの王」に選ばれたという逸話も。1980年にAOCを取得し、現在はAOPとして原料乳や製法、生産地域などが定められています。
町の中心部にあるメゾン・デュ・ブリー・ド・モー(Maison du Brie de Meaux)では、その歴史とともに、乳を凝固させ、型に入れ、水分を抜き、塩を施して熟成させるまでの工程を展示で紹介。見慣れたブリー・ド・モーも、製法や土地との結びつきを知ると見え方が変わります。パリから気軽に足を延ばせる、チーズ好きなら旅程に加えたい小旅行です。
ブリー・ド・モーの資料館|メゾン・デュ・ブリー・ド・モー(Maison du Brie de Meaux)
5 Place Charles de Gaulle, 77100 Meaux, France
https://www.meaux-marne-ourcq.com/en/maison-du-brie-de-meaux/
7|「フロマジュリー・ラ・パンティノワーズ」の店主に聞く、フランスのチーズ事情
パリの東隣、ポンタンでフロマジュリー・ラ・パンティノワーズ(Fromagerie La Pantinoise)を営むセバスチャン・ドリックは、20年間ジャーナリストとして働いた後、2016年にショップをオープン。日々、市場や流通、客が何を求め、何を選ぶのかを見続けています。
「流行のチーズは?」と尋ねると、ワインのようにはっきりしたトレンドはない、とドリック。パリには各地の出身者が集まり、故郷や祖父母の家で食べた味を求める人も多いといいます。アルザス出身ならマンステールなど、それぞれの土地のチーズへ。チーズは新しさだけでなく、出身地や家族の記憶とも結びついた食べ物です。
そんななかでも圧倒的な人気を誇るのがコンテ。店では来店客5人のうち3人ほどが買うといいます。12か月、18か月、31か月と熟成期間で味わいが異なり、子どもも食べるなら若め、仲間と酒を飲むなら熟成の進んだもの、とシーンによって選び分けられています。
食べ方も変化しています。かつてはメイン料理の後、デザートの前が定番でしたが、いまではアペリティフに盛り合わせを囲んだり、グラタンやパスタ、サラダに使ったり。肉の消費が減る一方でチーズの需要は高まっている、とドリックは話します。健康志向からフレッシュチーズや、乳糖の少ないものを求める客もいるそう。
店で扱うのは農家製チーズ。単一農場でつくられ、季節や土地によるミルクの違いが表れやすいものを選んでいます。無殺菌乳を支持するのも、気候や草花、動物が食べるものによって生まれるミルクの個性を残したいからです。
そしてドリックは、フランス人にとってのチーズをこんなふうに語ります。「パンや肉のように、なくてはならないものではありません。でも、祖父母の家にみんなで集まり、食卓を囲んだときのことを思い出させてくれる。チーズには、そんな価値があるのです」。
土地の味であり、日々の食べ物であり、家族の記憶にもつながるもの。ドリックの言葉は、フランスでチーズが食文化の一部であり続ける理由を端的に物語っています。
チーズ専門店|フロマジュリー・ラ・パンティノワーズ(Fromagerie La Pantinoise)
34 Rue Hoche, 93500 Pantin, France
https://www.lapantinoise.fr/
【こちらもチェック! チーズ好きなら立ち寄りたいアドレス】
チーズショップ&バー「バフ・パリ ― バール・ア・フロマージュ/フロマジュリー(BAF Paris – Bar à Fromage / Fromagerie)」
難しいルールに縛られず、気軽にチーズに触れてほしいというのがコンセプト。チーズとワインのペアリングも楽しむことができます。
60 Rue du Faubourg Saint-Martin, 75010 Paris, France
https://www.instagram.com/bafparis/
チーズミュージアム「ミュゼ・ヴィヴァン・デュ・フロマージュ(Musée Vivant du Fromage)」
サン=ルイ島にある、チーズをテーマにしたミュージアム。フランス各地のチーズや製法を知ることができ、ワークショップも開催。
39 Rue Saint-Louis en l’Île, 75004 Paris, France
https://musee-fromage-paris.com/
フレンチレストラン「レストラン・リニシアル(Restaurant L’Initial)」
日本人シェフの藤沼一幸さんが腕を振るうフレンチ。MOFローラン・デュボワがセレクト/監修するチーズを楽しめます。
9 Rue de Bièvre, 75005 Paris, France
https://restaurant-linitial.fr/
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- PHOTO :
- 谷 宏美
- EDIT&WRITING :
- 谷 宏美

















