仕事に集中するあまり、所作や姿勢がおろそかになっている、ということはありませんか? 忙しいと、そこまで気にしていられない、というのが本音かもしれません。しかし、意外に人からはちょっとした仕草を見られているものです。それで、うっかり自分の印象を下げてしまう可能性も……。

具体的には、どんな動きが品がないと思われやすいのでしょうか? 本記事では、日常のさまざまな分野でエレガンスを追究・実践する“エレガンシスト”のマダム由美子さんから、仕事中にやってしまいがちだけれど、上品に見えない8つの所作と、上品に見えるために気をつけるべきポイントを教えていただきました。

マダム由美子さんによると、仕事中も品のある所作をするためには「鼻呼吸を意識するといい」とのこと。実はこれが、美しい所作の最大原則なのだそうです。

普段あまり意識していないかもしれませんが、意外と人は鼻呼吸ができていません。そのため、口からため息のような息を吐いている人が少なくないのだそうです。ただ鼻呼吸を意識するだけで、落ち着いて行動することができるようになってゆきます。

また、美しい所作のために手、上半身、下半身、それぞれの基本形があるとのこと。手の基本形はまず、手を開いて、親指と中指を常にピンと伸ばし、人差し指はアクセサリーのように少し離す。

同じく上半身の基本形は、首・胸元・脇の3点を縮こめないこと。首の下にリンゴが1個入っているような気持ちで胸元を開き、脇にもリンゴ1個を意識すると、美しく見えるそう。

そして下半身の基本形は腰・膝・足首の3点を伸ばすこと。立っていても座っていても、美しい姿勢はとても大事だということです。

それでは、この基本形を踏まえつつ、以下から注意したいNGな所作を見ていきましょう。

仕事中にやりがちだけど「実は下品な8つの所作」

■1:猫背でキーボードを打っている

背もたれに寄りかかるのはNG
背もたれに寄りかかるのはNG

キーボードを打っているとき、椅子の背もたれに寄りかかって、肘を伸ばし、首をにゅっと前に出しては打つ姿勢になっていませんか? これは、見た目がよくないだけでなく、体にもよくないのだとか。

「猫背になってしまう人は、椅子と背中の間にクッションを入れるなどして、背中が丸まらないようにしましょう。頭の重さは4〜5キロですが、首を曲げると24〜25キロの負荷が体にかかるそうです。それでは、肩こりや頭痛になるのも当たり前ですね。姿勢を保つことは、体のためにもいいのです」(マダム由美子さん)

頭や首から骨盤まではずっとつながっており、背骨の両脇に平行に走る長い筋肉・脊柱起立筋が、姿勢維持のためには大切な筋肉。首から腰をまっすぐ保つようにすると、太りにくい、体脂肪がつきにくい体になるそうで、一石二鳥ですね。

「手首をデスクにつけて支えにして、脇にはりんご一個を意識しましょう。体、特に首と肩の疲れ具合が違います。慣れるまでは、机の上に小さな鏡を置くといいでしょう。息を抜きたいときに、ふっと鏡を見ると自分の姿勢がわかります。これで姿勢が治ったという人は多いんですよ。躾(しつけ)という漢字は”身を美しくする”と書きます。自分をしつけていくのです」(マダム由美子さん)

つい猫背になっている人は、まず机に鏡を置くところから始めてみましょう。

■2:背中を丸めて「首を前に出して」資料を手渡している

続いては、資料を誰かに渡すときのNG所作。渡すという意識が強くなり、背中を丸めて首が前に出てしまう姿になっていませんか? この姿勢は、美しくありません。しかしそれが、たった1秒か2秒でガラリと印象が変わるポイントがあるそうです。

「資料をいったん自分のおへそのあたりに引き寄せてから、渡すといいでしょう。そして、渡す時には自分の鎖骨を相手の鎖骨に向き合わせるようにすると、相手を大切にしている、温かみを感じさせる印象になります。ほんの1秒でも、落ち着いて何かしているというのは、誰が見ても”いいな”と思うものです。

最初はぎこちないかもしれませんが、日常の中でも練習できますよ。例えば、食卓で家族に『醤油を取って』と頼まれたときに、ただ手を伸ばして渡すのではなく、一度自分の方に引き寄せてから渡してみましょう。普段から家でやって身についていれば、会社でも自然とできるようになります」(マダム由美子さん)

資料に限らず、モノを貸し借りするときも、自分の鎖骨と相手の鎖骨を向き合わせることを意識したいですね。

■3:壇上で話しながら、いつの間にか足が開いている

朝礼や定例会などで、壇上で立ってスピーチする機会は多いもの。しかしそのとき、次第に足が開いて、内股やガニ股になっていきがち。この所作は、下品に見えてしまいます。

「足を閉じて、まとまっているだけで綺麗に見えます。バレエでは3番の足型というのですが、内側の土踏まずの前に、もう片方の足のかかとをくっつけて立ちましょう」(マダム由美子さん)

3番の足型
3番の足型

スピーチでマイクを持つ場合もコツがあります。

「マイクは握りしめるのではなく、手をパーにして、親指と中指を伸ばして挟むように持つと美しく見えます」(マダム由美子さん)

同僚たちは登壇者の顔だけしか見ていないわけではないのです。足元、手先までしっかり気を配りましょう。

■4:会議や打ち合わせ中に「大きくうなずいている」

声を出してうなずくのもNG
声を出してうなずくのもNG

会社勤めしていると、逃れられない会議や打ち合わせ。このときについやってしまいがちなのが、人の話を聞きながら、うなずく動作。これも注意すべきです。

「『うん、うん』と声を出して大きくうなずいたり、小刻みにうなずく姿も美しくないのでやめたほうがよいです。声を出すと、話している人の言葉も聞こえないのでよくありませんね。話に集中できるように、ゆっくりと、話している人の方にデコルテ(胸元)を向け、声を出さずにうなずくとよいでしょう」(マダム由美子さん)

発言者の方は、目や首だけでなく、なるべくデコルテを皆さんの方に向けるようにすると、より印象がよくなるということです。

■5:「体を縮めながら」名刺交換をしている

名刺を渡すときも背中を丸めるのはNG
名刺を渡すときも背中を丸めるのはNG

名刺交換をするとき、姿勢のことまでなかなか気が回らないもの。つい背中を丸めながら渡してしまいがちですよね。でも、それでは上品には見えません。

「これも、いちばん初めの基本の形を思い出してください。顎の下にりんご1個分の空間をつくりながら、親指と中指を伸ばして名刺を挟みながら渡します。その際、“先端持ち”をお勧めします。名刺の角を持つようにすると繊細に綺麗に見えます」(マダム由美子さん)

初対面の方の第一印象が決まる、と言っても過言ではないほど重要な名刺交換。背筋を伸ばして、相手の目を見ながら、美しい手の形で名刺を渡せたら、仕事もスムーズに進みそうですね。

■6:「足首を絡めたり」「膝が開いたり」しながら座っている

デスクワークをしているとき、意識すべきは背筋だけではないのです。いつの間にか足元をもぞもぞさせていませんか?

「足首を絡めたり、内股にしたり、膝が開いている座り方は、よくありません。つい、デスクに隠れているからと油断しがちですが、360度どこの角度から見られてもいいように、■3の足型で、膝を閉じて座りましょう。できればヒールの高めの靴を履くと、繊細で綺麗に見えるのでお勧めです。

自分では見えないので意識しないかもしれませんが、意外と後ろからよく見られているものです。私はよく『前3割、後ろ7割』というのですが、首と背中から年を取り、老けていきます」(マダム由美子さん)

背中が丸まっていると美しくないですし、老けて見えますよね。今日から、見えない後ろにも気を配っていきたいものです。

■7:体を開いて「大きな声で出しながら」携帯電話で話している

体を開いて話すのはNG
体を開いて話すのはNG

携帯電話は仕事だけでなく、日常生活にも欠かせないもの。

「大きな声で、体が開きっぱなしで喋る姿は、下品に見えてしまいます。音の響きを最小限にするために、手の甲の上に携帯を持っている側の肘を乗せて、体をコンパクトにまとめましょう。携帯を持つ時も、親指と中指で角を持ちましょう。話す時は、首を斜め45度に傾け、控えめに話すと上品に見えます」(マダム由美子さん)

ちょっと手を添えるだけでも、印象は大きく変わります。“控えめ”ということも、上品な大人の女性には重要なポイントといえるでしょう。

■8:大きな音を出しながらオフィスの廊下を歩いている

最後は、廊下を歩くときのNG所作を。急いでいるとき、大きな音をガンガン響かせながら、真ん中をどしどし歩いていませんか? このような姿も美しくありません。

「足をかかとから下ろすと、うるさい音が響いてしまいます。足指を伸ばして、爪先から足を下ろすと音が半減します。スニーカーでも練習できますよ。それから、廊下の端に寄って歩きましょう。道を歩くときもそうですが、数人で広がって歩くのはよくないですね。端に寄って、後ろへの配慮ができる人になりましょう」(マダム由美子さん)

マダム由美子さんは「ハイヒール研究家」として、ヒール靴での美しい歩き方も提唱していますが、足指が縮まってあまり使わないことで、膝や腰、背中の歪みなどトラブルにつながるのだそうです。筋力をつけて、姿勢を美しく保ちましょう。

仕事中の振る舞いは、職場内だけでなく、取引先やお客様など外部の方にも見られています。日頃から、意識せずに自然と、上品な所作が出るよう努力したいですね。

マダム由美子
エレガンシスト
(まだむ ゆみこ)社団法人日本ハイヒール協会理事長、ハイヒール研究家、中世西洋文化研究家。6才よりクラシックバレエをはじめ、ジャズダンス、アルゼンチンタンゴを習得。ライフテーマは、西洋のクラシックでエレガントな文化・芸術(バレエや香水、ファッションなど)から受け継がれる、女性本来の美しさの追究と新しいエレガンスの創造。外見・内面・ライフスタイルなどの幅広い分野で、中世西洋のエレガントな「美しさ」を 見つめ直し、現代の日本でも違和感のない形で取り入れ、 各メディアで「美しい生活」の提案を行っている。
公式サイト
この記事の執筆者
TEXT :
Precious.jp編集部 
2018.10.23 更新
Precious.jp編集部は、使える実用的なラグジュアリー情報をお届けするデジタル&エディトリアル集団です。ファッション、美容、お出かけ、ライフスタイル、カルチャー、ブランドなどの厳選された情報を、ていねいな解説と上質で美しいビジュアルでお伝えします。
WRITING :
あわいこゆき