「つみたてNISA」とは? 初心者におすすめの投資信託の銘柄とは?
【ケーススタディ】自宅マンションで、イタリアのナポリ料理を教えているナオコさん(53歳)。夫のカズヒロさん(55歳・会社員)もナオコさんの料理教室には協力的で、「長く続けられるように」と、5年前に念願のオープンキッチン付きのマンションに買い換えました。
買い換えたマンションの住宅ローンは、カズヒロさんが60歳になるまでに終わるので心配していませんが、気になっているのが夫婦の老後資金。カズヒロさんの定年までに少しでもお金を増やす方法はないかと考えていたとき、友達から「投資でお金が増えた」という話を聞いたのです。
貯金は1000万円ほどありますが、銀行にお金を預けておいても、ほとんど利息はつきません。「投資をしたい!」と思ったものの、ナオコさんもカズヒロさんも、これまで投資とは無縁の生活を送ってきました。
【前編】初心者が「投資」を始めるなら、この5つのポイントを押さえておけばいい
そこで、ファイナンシャル・プランナー資格を持つフリーライターの高橋晴美さんに、初心者が投資を始めるときの5つの注意点について教えてもらいました。次の5つのポイントを守ると、初心者でも安定的にお金を増やせる可能性があります。
《投資を始めるときの5つの注意点》
■1:使い道の決まったお金で投資しない
■2:生活費の1年分程度のお金をもっておく
■3:始めようと思ったときが吉日
■4:積み立てで購入して買い付け単価を平均化する
■5:始めたら日々の値動きに一喜一憂しないで長く続ける
余裕資金の一部を使って、ひとつの商品を一定額ずつ積み立てで購入していくと、投資につきものの価格変動リスクを抑えながら、安定的にお金を増やしていける可能性が高くなります。
そして今、こうした積み立て型の投資を始めるのに最適なのが、税制優遇の受けられる「つみたてNISA(ニーサ)」を使った投資信託での運用です。
そこで、今回は「つみたてNISA」の制度内容、初心者におすすめの投資信託の銘柄などについて、前回に引き続きフリーライターの高橋晴美さんにアドバイスしてもらいます。
20年間で、投資資金800万円に対する利益が「非課税」になる!
「NISA(ニーサ)」の正式名称は「少額投資非課税制度」といい、2014年1月に始まった一般の人(個人投資家)向けの税制優遇制度です。
通常、株式や投資信託などの金融商品に投資して、得られた売却益や配当には約20%の税金がかかりますが、「NISA」の専用口座を利用すると、預入金額が一定額までは非課税になるというお得な制度。イギリスのISA(Individual Savings Account)という個人貯蓄口座の日本版で、NISA(Nippon Individual Savings Account/ニーサ)という愛称がつけられました。
2016年1月に、未成年者を対象とした「ジュニアNISA」がつくられ、そして今年(2018年)1月に積み立てによって投資をするための「つみたてNISA」が始まりました。
「つみたてNISA」の正式名称は、「非課税累積投資契約に係る非課税措置」といいます。
「難しい名前がついていますが、一般の人の資産形成を促すために、積み立てによる投資でも、NISAと同様に税の優遇を設け、通常なら運用益に課税される約20%の税金が、非課税になる制度です」(高橋さん)
「つみたてNISA」の口座開設ができるのは、日本で暮している20歳以上の人で、ひとり1口座まで。「つみたてNISA」を利用すると、その他の「NISA」口座は利用できないので、その点は注意が必要です。
1年間に投資できる金額は40万円まで。本家の「NISA」の年間120万円、「ジュニアNISA」の年間80万円に比べると少なくなります。
ただし、「つみたてNISA」の非課税期間は20年間。「NISA」や「ジュニアNISA」の非課税期間が5年(ロールオーバーという制度を利用すると最大10年)なのに比べると、長期運用する上で有利な設定になっています。
たとえば年間40万円ずつ、20年間ずっと積み立てると、合計800万円の投資資金に対する運用益が非課税になるので、最大投資額が「NISA」の600万円、「ジュニアNISA」の400万円に比べると、より多くの投資ができることになります。
「『つみたてNISA』は、一般の人が長期間かけて資産形成していくことを支援する制度です。そのため、積み立てられる商品は、購入時の販売手数料がゼロ、運用期間中にかかる信託報酬が低い、運用期間が無期限、毎月の分配金の支払いがないなど、長期投資に向くという基準で金融庁が厳選した、投資信託とETF(株式市場に上場されている投資信託)に限られます」(高橋さん)
世界中の株式に分散投資して、老後資金を安定的に運用する
「つみたてNISA」にラインナップされているのは、投資信託が149本、ETFが3本で、合計152本(2018年7月3日現在)。投資対象を大きく整理すると、次のようになります。
○投資対象
株式のみに投資するものもあれば、株式、債券、不動産などさまざまな資産に分散投資するバランス型というタイプもあります。
○投資地域
日本国内のみのものもあれば、世界の様々な国々に少しずつ分散するもの、新興国など経済成長の幅が大きな国に投資するものなどがあります。
○目標とする値動き
日経平均株価やニューヨークダウなどの指数と同じような値動きをする「インデックス型」、市場平均よりも高い利益を目指そうとする「アクティブ型」があります。
目標とする値動きがわりやすいのは「インデックス型」。投資の初心者でも、自分が保有している投資信託の値動きがわかりやすい、というメリットがあります。
投資信託は、投資対象、地域、目標とする値動きの組み合わせによって、さまざまなタイプがありますが、高橋さんのおすすめは「世界の株式に分散投資する、インデックス型投信」です。
「リスクを軽減しながら安定的に資産を増やしていくには、株式のほか、債券などもバランスよく持つのが理想。株式が値下がりしても、債券がカバーしてくれるといった、分散効果が期待できるからです。そのため、投資信託もバランス型のほうがいいと思うかもしれませんが、投資するお金だけではなく、預貯金なども含めて、トータルで資産のバランスを考えることが大切です。ナオコさんのようにまとまった預貯金がある人は、『つみたてNISA』は、株式に投資する商品をメインに選んでもよさそうです」(高橋さん)
株価は企業や国の経済成長を反映する性質があり、投資対象が国内株式だけでは、日本経済の成長にしか投資できませんが、世界の国々の株式に少しずつ投資するものを選べば、世界経済の波に乗ることができます。
もちろん、値下がりリスクはつきものですから、なくなったら絶対に困るお金、すぐに使う予定のお金は投資には回さず、「じっくり値上がりを待てるお金」を使ってください。
「値下がりはとても怖いけど、投資してみたい」という人は、株式に投資する投資信託と、債券に投資する投資信託を組み合わせるのもありです。
金融機関によっては、月1000円程度から始められるところもあるので、家計と相談しながら無理のない範囲ではじめて、慣れてきたら積立額を増やすのもいいでしょう。
「ネット証券」が手数料が安く、商品ラインナップも豊富
実際に「つみたてNISA」を始めるときに必要になるのが、専用口座です。
「銀行、ゆうちょ銀行、証券会社、ネット証券などが、『つみたてNISA』を取り扱っていますが、いろいろと考え合わせると、ネット証券の口座が使いやすいと言えます」(高橋さん)
理由のひとつは、ネット証券は「つみたてNISA」の対象となる商品を数多く扱っており、商品を選びやすいことです。
また、投資に慣れてくると「つみたてNISA」以外でも投資したくなる可能性がありますが、ネット証券では国内外の株式、債券、FXなど、さまざまな商品を取り扱っており、銀行や対面販売の証券会社に比べると、売買手数料が割安です。
銀行や証券会社の口座が増えると管理が大変になるので、口座はできるだけひとつにまとめておきたいもの。その点、品数が多く、手数料が安いネット証券なら、今後、他の商品にも挑戦したいと思ったときにも便利です。
対面で相談できないことをデメリットに感じる人もいますが、実はこれはメリットでもあります。自分で注文して、自分で購入するので、投資でよくありがちな「よくわからない金融商品を、勧められるままに買ってしまった…」といった失敗を防げるからです。
手数料や商品ラインナップ、ネット画面の操作方法などを比較して、自分が使いやすいところを見つけてみてくださいね。
「つみたてNISA」は、長期保有することで、時間をかけて資産形成していくのに向いている制度です。目的は自由ですが、老後資金のほか、子どもが小さなうちから始めれば、教育資金づくりにも利用可能です。
たとえば、月5万円ずつ積み立てする場合、3万円は元本保証の定期積立預金にして、残りの2万円を「つみたてNISA」で運用するといった方法もあります(ただし、元本割れのリスクもあるので、ベース資金は預貯金で用意するのが安心です)。
ここまで長期期間の税制優遇を受けられる制度は、なかなかありません。そして、制度を利用するかしないかによって、資産形成には大きな差が出てくるのです。ナオコさんとカズヒロさん夫婦のように、老後資金づくりはもちろんのこと、長期運用できる余裕資金があるなら、『つみたてNISA』の活用を考えてみましょう。
- TEXT :
- 早川幸子さん フリーランスライター