都内からのアクセスも良く、人気のビーチリゾートである湘南。神奈川県相模湾沿岸に広がるこのエリアは、長年人々を魅了してきました。
ですが……、この湘南、一体どこからどこまでを指すのか?というと、具体的には限定がなく、「湘南どこからどこまで問題」は、たびたび論争が繰り広げられてきたのです。
相模湾沿いには13の市や町がありますが、湘南という地名は実はどこにもありません。車には湘南ナンバーがあるのに、地名としては存在しない……このあたりも、「湘南って具体的にどこなの?」と思わせる原因になっていますよね。
そんな論争にひとつの答えを出した、ということでSNSで話題になったのが、10月13日に放送されたNHK『ブラタモリ』。同番組は、タモリさんが全国各地を訪れ、街の知られざる歴史に迫るお散歩番組。
この回では神奈川県南部の海沿いの街を巡りながら、湘南エリアが人気スポットとして栄えるようになった経緯を探りました。テーマは「湘南人気のヒミツは“いとしのヘリ”にあり♪」。サザンオールスターズの名曲『いとしのエリー』の誤植…ではないようです。一体、どういうことなのでしょうか……?
NHK『ブラタモリ』で解決した「湘南はどこからどこまでを指すのか問題」
■意外な湘南誕生の地が見つかる
タモリさんの中では、「湘南は鎌倉から大磯まで」のイメージだそう。番組ではまず、湘南とはどのあたりなのか江ノ島を臨む海岸で聞き込み調査を開始! ところが、返ってくる答えはバラバラ……。案内人の大磯町郷土資料館の学芸員・北水慶一さんによれば、「皆さんの心の中に、湘南の範囲のイメージがあるんです」とのこと。
ちなみに900人にとったアンケートによると、
藤沢市、茅ケ崎市を指すと思う人 90.6%
鎌倉市、逗子市、葉山町も指すと思う人 66.3%
平塚市、大磯町も指すと思う人 48.7%
二宮町も指すと思う人 17.2%
小田原市以西、横須賀市以南も指すと思う人 5.5~9%
と、かなりの幅が見られました。
そこで一行が向かったのは大磯。大磯を湘南と思っている人は半数以下という結果ながら、この地は「湘南発祥の地」という石碑があり、湘南に欠かせない場所なのだとか。
江戸時代初期に建てられた俳句を楽しむ場所・鴫辰庵(神奈川県中郡大磯町)に、答えがありました。
そこの石碑には、「大磯の景色は湘南に似て素晴らしい」という意味の文字が。ここでいう湘南は、中国にある景勝地・湘江の南を指します。中国・洞庭湖を臨む湘江の南の景色と、相模湾を臨む大磯の景色が似ていたことから、詠まれた詩だそう。
つまり、大磯が日本で湘南と呼ばれた最初の土地として有力なのです!
■湘南エリアの人気の秘密とは
それでは、なぜ湘南の地が現在のような人気エリアになったのでしょうか? 大磯といえば海水浴場が有名ですが、ここがオープンしたことに関係があるそうです。
オープンした明治18年当時は、今のようなレジャーとしての海水浴ではなく、潮湯治といって温泉に浸かる湯治のように病を治すために海に浸かって海水浴をしていました。
番組に登場した平野市博物館の学芸員・野崎 篤さんによると、松本 順さんという医師がいくつもの地理的条件を鑑み、最も潮湯治に適した土地として、この大磯の海岸を選んだそう。
大磯周辺は、北アフリカプレート、フィリピン海プレートが押し合う大陸プレートのヘリだったんです。プレートが押し合ってできた山々が、冷たい北風を遮る風よけとなって、大磯は潮湯治に適した場所として選ばれた、というわけでした。このヘリが、番組テーマ名の「いとしのヘリ」。『いとしのエリー』とヘリをかけた洒落だったのでした。
この見解には、SNSでも「いとしのヘリは、大陸プレートのヘリなのか!」「大磯の海底地形が興味深い」などと大盛り上がり。
「いとしのヘリ」のおかげで海水浴場ができ、海のリゾートとしてのイメージが定着していった大磯=湘南。
そしてもうひとつ、湘南の知名度を上げた事実がありました。
大磯は、大物政治家の別荘が多く建てられた土地。歴代総理のうち、8人が大磯に別荘を持っていたというから驚きです。大隈重信の別荘だけでも毎年数万人が訪れ、大磯会議と呼ばれる政治集会が開かれていたそう。
このことから、「海の別荘地といえば大磯」というイメージがつき、このエリアはさらに有名になっていきました。
■ついに湘南の範囲が決定する!?
続いて番組一行が訪れたのは、加山雄三やサザンオールスターズを輩出した人気の観光地・茅ヶ崎。湘南の中心地ともいえる茅ヶ崎ですが、実は注目されたのは最近のこと。ここにも「いとしのヘリ」が関係していたのです。
サザンオールスターズのヒット曲『勝手にシンドバッド』で「砂まじりの茅ヶ崎」という歌詞がありますが、これは広い砂浜の砂が風によって飛ばされたことから、砂ぼこりが多い地域であることを表しているのだとか。
これにはSNSでも、「潮と塩害の歌だったのか」「茅ヶ崎の地理、気象的特性を表現していたとは」と目からウロコを落とす人が続出。
内陸まで砂が飛来するため、人気がなかった茅ヶ崎ですが、1970年代のサーフィンブームが到来すると、サーファーであふれかえることに。なぜかというと、ここにはサーフィンに適した波があったからなのです。
茅ヶ崎の海岸は海底にサンドバーができやすく、このサンドバーこそが、サーフィンに適した波を作り出す要因。近くの河川から運ばれてきた砂が茅ヶ崎の遠浅の地形にとどまって、サンドバーができやすくなっているのです。
なぜこのあたりが遠浅の地形なのか? それは、今では大磯あたりにある大陸プレートのヘリが、一千万年前には茅ヶ崎あたりにあり、フィリピン海プレートに押されてできた隆起部分が平坦に侵食された結果。というわけで、「砂まじり」だったからこそ、茅ヶ崎はサーファーに人気のエリアとなっていったのです。
そして湘南のシンボルといえば「烏帽子岩」。これは、隆起した大陸プレートの硬かった部分が、侵食されずに残った部分なのだとか。江ノ島も同様です。
「湘南人気のシンボルを生み出したのはすべてプレートのヘリ。まさに『いとしのヘリ』だったんですね」という番組ナレーションには納得です。
最後にタモリさんは、「逗子・葉山も湘南に入れる人がいるんですけど、これもある意味ヘリですよね?」と気づきます。江ノ島の地層を追っていくと、葉山のほうにまで広がるのだそう。「(昔の)ヘリから(今の)ヘリへ湘南がつながった」とタモリさん。番組は、「湘南は“ヘリとヘリの間”」と結論づけました。
この結論には、SNSでも「湘南の文化もすべて地形・地層で説明できてしまうのか」「湘南に住んでずいぶん経つけど、知らないことばかり」「最後にうまくまとまった!」とうなる声が多数あがりました。
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地名としての湘南がないことすら、意外と知らない人もいたのでは?
ましてや、発祥の地が大磯だったことや、大陸プレートのヘリによって海水浴場やサーフィンのメッカになっていったことなど、誰もが知る人気観光地であるにも関わらず、まだまだ知らないことがたくさんありました。
湘南に遊びに行ったときは、今回の『ブラタモリ』の見解を思い出しながら、街歩きしてみるのもおもしろいかもしれません。
番組情報
- ブラタモリ
- 出演:タモリ、林田 理沙アナウンサー
#118 富良野・美瑛 ~富良野・美瑛の合言葉 残りモノには福がある ~
2018年11月17日(土) 午後7時30分~8時15分
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2018年11月24日(土) 午後7時30分~8時15分
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- こばやしあさみ