「今、おすすめの日本酒は?」そう何人かの日本酒党に尋ねれば、必ずと言っていいほど挙がる銘柄があります。「全国新酒鑑評会」や「SAKE COMPETITION」など名だたる日本酒コンテストでたびたび1位に輝き、その人気ゆえ全国の酒販店でも常に品薄状態であることから「幻の酒」とも呼ばれる日本酒。

それが、「冩樂(写楽)」です。そこで、「冩樂」を醸す、宮泉銘醸(福島県会津若松市)を訪ね、蔵元杜氏を務める宮森義弘(みやもりよしひろ)さんの弟で専務の宮森大和(みやもりやまと)さんにお話を伺いました。常に未来を見据え、ひたむきに研鑽を重ねる酒造りの背景に迫ります。

今、最も飲みたい日本酒「冩樂(写楽)」の蔵元へ

昭和30年創業の宮泉銘醸

——会津若松という土地と酒造りの関係について教えていただけますか?

宮森大和さん(以下、宮森さん):会津若松は鶴ヶ城のお膝元ですから、江戸時代からやはり酒造りが盛んでした。周囲を山々に囲まれ、夏は暑く冬は雪に覆われるここの気候は酒造りに適しています。良質な米が育つ米どころでもありますからね。そして磐梯山の伏流水は、適度な軟水で酒の味をふっくらと膨らませてくれます。

宮泉銘醸は、昭和30年(1955年)に創業しました。兄である宮森義弘(42歳)が2007年より製造責任者に、そして2010年からは代表取締役として、蔵のすべてを取り仕切っています。働いている蔵人の平均年齢は、30歳代前半ですから比較的若い蔵ですね。兄が経営者として蔵に入ると、酒造りの「改革」とともに大規模な設備投資も行ってきました。 

衛生管理が徹底された蔵内

「技術革新」と「手間」の両輪

——兄である義弘さんの蔵入り後、大きく変わったのですね。

宮森さん:変わりましたね。これまでの慣例に捉われず、「おかしい」と感じたものは一つひとつ切り換えて、経営も現場も変革を進めていきました。例えば、精米した米を洗う「洗米」の仕方ひとつとっても、です。

日本酒の原料は、米と水、そして米麹です。酒造りは、米の外側を削る「精米」からスタートします。精米した米は、まず「洗米・浸漬(洗米した米に吸水させる)」をします。うちでは、ざるに細かく分けて洗い、一つひとつのざるごとにタイマーで時間を測り浸漬します。小分けにせずに一気にやってしまった方が早いかもしれません。でも、こうすることで、米ぬかをよりきれいに取り除くことができ、米一粒一粒への吸水のムラを無くすことができるんです。

一度浸漬したら、反転させ(「ざる返し」)さらに米の中に水分を行き渡らせます。5分ほど置いたところで、米への吸水具合をチェックし狙い通りのところにもっていきます。

水は、地下から引き上げた水を引き上げ時と使用する直前で2回ろ過をかけ、徹底して不純物を取り除いてから、仕込み水として使用します。

先代まではこういった水への処理を、コンクールに出品する大吟醸クラスの酒にのみ使用するのが通例でした。酒造りの全体を通して、定番で製造する酒と鑑評会に出品する酒への力の入れ具合に大きな差があるというのは、うちの蔵でも当たり前のように行われていました。すべての酒に全力で手間をかけるのは、やはり並大抵の情熱ではできませんから。

しかし僕らがここで造る酒には、「この酒だから力を入れる」「この酒だから手間を省く」といったレベル分けは一切ないんです。

「冩樂」に使用している福島県産米の「夢の香」「五百万石」のほか、「山田錦」「雄町」「愛山」といった全国の契約栽培米を造りたい酒に合わせて用いる。銘酒「十四代」(山形県/高木酒造)の蔵元が生み出した、「酒未来」という特別な酒米も扱う。
「冩樂 純米吟醸」の洗米〜浸漬作業

おいしい酒のためにできることはすべてやる

——設備投資を進める一方で、細かな作業の積み重ねなんですね。

宮森さん:人件費の削減や作業効率を上げるための機械導入、ではなく手間をかけるべきところに手間をかけたいがゆえ。すべては酒質の向上のためなんです。そのための手間は惜しみません。小さなことに見えますが、その積み重ねで味は変わってきますから。

「洗米・浸漬」の次は、米を蒸す作業です。日本酒造りでは、「炊く」のではなくて「蒸す」ことにより、酒米を麹菌の繁殖しやすい状態に持っていきます。

その後「製麹(せいぎく)」という作業を行います。「麹」とは、ひと言で言うと日本酒を造るための「菌」です。麹室(こうじむろ)という専用の部屋で、日本酒造りに必要な量の「菌」を酒米に付着させ繁殖させるんです。酒米に付着させた麹菌を繁殖させることによって、米に含まれているデンプンを分解し糖化させます。こうして生み出された麹米を、今度は麹室からタンクへ移動します。そこに「酵母(微生物)」を添加し発酵させることによりアルコールを生成します。

日本酒の工程は複雑で難しく感じるかもしれませんが、原理は「米のデンプンを麹によって糖に変え、糖を微生物によりアルコールに変える」ことなんです。麹室では麹米がブドウ糖をつくりやすい温度になるように常に調整をします。2名から3名で、米にきれいに麹菌がつくように1~2時間ほど作業します。酒の味に大きく関わる、重要な工程ですね。次に、アルコール発酵に必要な酵母を培養するための日本酒の元、「酒母」を仕込みます。

麹用の蒸米を乾燥させ、雑菌が繁殖しないよう冷やして保存する「枯らし台」。
麹菌を振った後の酒米は、米のデンプンがブドウ糖に変わっていくため、口にするとほんわりとした甘みを感じる。

日本酒の元となる「酒母」

——お酒の母体、ですね。

宮森さん:糖分があっても酵母がなくては、アルコールは生成されません。つまり、米麹にも酵母がなくてはお酒にはならないんです。この酒母造りで上手く酵母を培養できるかどうかが、香りや味わいを決める大きな要素になります。酒母は、「酛(もと)」とも呼ばれますね。

仕込み水、麹、蒸米、酵母を混ぜ合わせ発酵を促します。プクプクしているのは二酸化炭素です。ほのかに甘い芳醇な香りでしょう。初めてこれを嗅いだとき、「こんなにいい香りがするのか」と、とても感動しました。7日~10日ほどかけ、酒母が完成します。 

酒母室内には、バナナやメロンのような芳醇な香りが漂う。

——こうしてできた原料をタンクに入れるのですね。

宮森さん:はい、ここからが本格的な仕込みです。酒母、蒸米、麹米、仕込み水をひとつのタンクに投入し、醪(もろみ)として管理していきます。醪は、圧搾して日本酒になる前の、発酵中の状態です。およそ1か月かけてアルコール発酵を進めます。米と水だったものが、酒に変化するわけです。

その後、醪を圧搾して酒(液体)と酒粕(固体)に分離します。この「搾り」の作業を経て、いよいよ「酒」が出来上がります。

1日数回、5分〜15分間の「かい入れ(かく拌)」をする。
醪(もろみ)の状態

——しぼりたての新酒は、すぐに瓶詰めされるのですか?

宮森さん:はい、タンクによる清酒貯蔵はしません。新鮮な酒はすぐに瓶詰めして「生酒」もしくは「火入れ」した状態で貯蔵します。すぐに瓶に詰めることにより、酒の酸化を防ぎ、高い酒質を高いレベルのまま保存することができるんです。火入れは、酵母の活動を止め味の変化を防ぎ、殺菌の役割も担います。「生酒」の場合は、火入れはしません。火入れを終えたら、貯蔵冷蔵庫に直行します。ここをスピーディーに行うことで、鮮度に加え、味わいのバランスやすっきりとした後味を保つことができるんです。

日本酒という「伝統」の上に「今」がある

——検査機器が並ぶ部屋があるのですね。

宮森さん:ここが「分析室」です。兄が四代目として蔵入りする前はこういったものはなく、酒造りのトップである杜氏しか入ることの許されない小部屋(杜氏部屋)がありました。現在は、経営者も杜氏も兼任する「蔵元杜氏」制です。酒造りをする人が、経営者であることで、造りたい酒をより実現しやすくなるんです。決定も早いですしね。

今はデータを皆で共有します。杜氏である兄が酒の設計をし、蔵人たち全員で一丸となってそれを実現する、という感じです。兄の幼なじみで、現在“右腕”の製造部長の山口は、元別業種のエンジニアです。兄も元々はシステムエンジニアを経てから、日本酒について学んでいます。

昔は、製造した酒に関する分析やデータについては「自分だけができる、扱える」という、いわゆる杜氏の特権でもありました。それを蔵全体で共有化したわけです。日本酒という伝統のある歴史と経験の上に、データの蓄積や品質管理の徹底など、高品質な酒を造るためにできることはすべて重ねていきたいと思っています。

分析室。麹米の糖度を測る機器など、酒造りのための精密機器が並ぶ。

シンプルに「美味い」と思える酒を造りたい       

——無数のこだわりの中でも特にどのような想いを酒造りに込めていらっしゃるのでしょうか。

宮森さん:至極シンプルで、僕らがみんなと飲んで「美味い!」と思う酒を造りたいですね。自信を持って「美味いでしょ?」と言いたい。造っている僕らが心からおいしいと思える酒なら、きっとみんなもそう感じてくれると思っています。

技術的な努力や追求は、当たり前のようにします。温度管理や環境管理、衛生管理にも細心の注意を払いますし、数値データの積み上げもします。けれど最終的には、詳しい技術やデータを聞くよりも、ひと口飲んで「美味いかどうか」ですよね。「売れるために何をするか」を考える、というよりも「おいしくするには何をやるか」のほうが大事ですね。

——酒蔵では、「冩樂」は販売していないのですよね。

宮森さん:酒販店で買う、もしくは飲食店で飲んで頂きたい。というのが僕らの考えです。酒の魅力の伝え手は、酒販店と飲食店の皆さんがメインであっていいと考えています。伝えることも造ることも、お互いに信頼のある関係でいることで、日本酒の未来につながると思うんです。

最近は「日本酒ブーム」とも言われていますが、ここ会津でも昔に比べて酒蔵はかなり減りました。ひと昔前は、酒販店や飲食店のラインナップに入れてもらうのも本当に難しい時期もあったくらいです。

僕は、4年前に蔵に入りました。兄が造った酒がおいしかったんですよね。16年前、斜陽産業とも言われた日本酒業界の中で深刻な経営難にあったうちの蔵を、兄は「自分の手で変える」という強い覚悟と信念を持って継ぎました。だから僕ら蔵人たちも同じく、ひたすらその道を追求していきたいと考えています。

宮森大和 専務

——これからの展望について教えていただけますか。

宮森さん:とにかくおいしい酒を造っていく。その一点です。そのために、原料選び、そして造りから貯蔵までの一貫したレベルも常に引き上げていかなければなりません。宮泉銘醸では、定番商品に加え季節ごとの限定商品も造っています。しかしそれは、定番の「冩樂 純米酒」と「冩樂 純米吟醸」というベースがあってこそ。土台がしっかりあるから、酒米や製法に変化を加えても僕らの中の軸に迷いやブレはないんです。

——最後に、「冩樂」のおすすめの飲み方やこれから限定出荷される商品についても教えていただけますか。

宮森さん:冷やで食事と一緒に楽しんでもらいたいですね。これまで日本酒を飲んで来なかった方にも「冩樂」を飲んで「日本酒ってこんなにおいしいんだ!」と感じてもらえたらうれしいです。

12月は、生酒ですね。「初しぼり」という生酒が限定出荷します。おいしいですよ。フレッシュ感とほのかな甘みが口の中に広がるんです。今、福島県の若手の酒蔵も切磋琢磨しています。全国に目を向ければ、各地でいい酒造りをみんなでしていて、おいしい酒が手に入りやすくなっています。色々な種類を試してみて、ご自分の好みを見つけてくださいね。

冬季限定の「冩樂 純米酒 初しぼり」。定番商品に加えて、その時期ならではの魅力を凝縮した季節限定商品も豊富。

日本酒は、水、米、微生物、人による緻密な共同作業の積み重ねです。妥協のない酒造りを語る宮森さんの言葉の端々に、職人としての矜持がにじんでいました。フレッシュ感のある果実味のあとに、しっかりとした旨味がのび広がる「冩樂」は女性をも虜にさせる味わいです。晩酌として楽しむのはもちろん、ホリデーシーズンのギャザリングに持ってゆけば、食卓をさらに華やかに彩ってくれること請け合いです。

※蔵では、「冩樂」を販売していません。矢島酒店を始め、全国の正規取扱店にて購入が可能です。

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PHOTO :
渡辺修身
EDIT&WRITING :
八木由希乃