今年の「観る・聴く・読む」を先読み!2019年カルチャーの新潮流

2018年に話題になったもの、ブームを巻き起こしたものから、いったいどんな傾向が読み取れるのでしょうか。そして、今年はどんな知的体験に注目するべきか、エンターテインメント界で活躍を続けているプロのみなさんと一緒に、その新潮流を独自に検証しました。

この方たちに話をうかがいました

「日経BP総研」上席研究員 品田英雄さん
ブックディレクター 幅 允孝さん
映画ライター 坂口さゆりさん
舞台評論家 藤本真由さん

■1:ライブビューイングなど、映画館は観に行くところから、体感しに行くところへ!

N.Y.のメトロポリタン劇場(通称:MET=メト)の最新オペラをスクリーンで上映する『METライブビューイング2018-2019』。写真は新演出が話題のヴェルディの『椿姫』(2月8~14日)より。このほか6月13日まで、順次5作を上映。©Marty Sohl/Metropolitan Opera

ここ数年、人気映画とオーケストラの生演奏がセットになった“シネマ・コンサート”が、名画の新しい楽しみ方として登場。2018年も『スターウォーズ』や『ラ・ラ・ランド』などの人気作がこの手法を採用し大盛況に。

「この傾向は、ますます盛り上がります。映画のもつ性質が変わりつつあって、映画館はただ映像を観に行くだけではなく、臨場感を味わう場としても進化しそうです。今年はライブビューイングが充実しています」(品田さん)

「人気の『METライブビューイング』ほか、『カラヤン・シネマ・クラシックス』など今年ならではのライブビューイング、さらにライブコンサートやスポーツの試合中継も。遠くて参加できないなどのハンデなしに、映画館ならではの大画面と大音量で楽しめる時代に突入しました」(坂口さん)

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『英国ロイヤル・オペラ・ハウス 2018/19シネマシーズン』上映中~ 8月29日/『カラヤン・シネマ・クラシックス シーズン2018~2019』上映中~ 4月7日/『ボリショイ・バレエ・inシネマ シーズン2018-2019』上映中~ 6月26日

■2:意思のある書店が日本中に増殖中! 居酒屋と書店のコラボまで登場

「誠品生活」は、かつて『TIME』誌で、アジアで最も優れた書店に選ばれたことも。

入場料を払って入店する書店など、全国で異色の書店が増えている。10年以上前から、人と本の出合う場所を世の中のいろいろな所に点在させようと活動してきた、ブックディレクターの幅さんたちのムーブメントが一気に加速しそうだ。

「例えば、京都にある『レボリューションブック』は、立ち飲みのカウンターの奥に書棚部屋があり、食や料理の本がズラリと並んでいます。お客さんたちはホロ酔いで、お酒と読書を楽しんでいます。個々の磁場に合った選書により、自然と深く本の世界に入り込む快楽に、消費者が目覚めたのでしょうね」(幅さん)

「この秋には、日本橋に『COREDO室町テラス』がオープンします。そこに台湾の大型書店『誠品生活』が出店予定。本を中心にしたライフスタイルの提案、目利きによる選書が世界的にも評価が高く、そのノウハウが注目されます」(品田さん)

■3:自由な創作を続ける、「3人の演出家の舞台」で、新しい感性が刺激されそう!

  • 多彩なコラボレーションを得意とする名演出家、白井 晃さん 1957年、京都府生まれ。美意識の高い緻密な演出で定評がある。俳優としても舞台や映像で活躍。今年で開館9年目の「KAAT神奈川芸術劇場」で’16年から芸術監督を務める。撮影/二石友希
  • 演出家・劇作家・俳優として3つの顔をもち海外経験の豊富さも強み、長塚圭史さん 1975年、東京都生まれ。’08年には文化庁新進芸術家海外研修制度にて、1年間イギリス・ロンドンへ留学。2月に、井上ひさしによる宮沢賢治の評伝劇『イーハトーボの劇列車』で演出に挑む。
  • 史上最年少の39歳で新国立劇場演劇部門の芸術監督に就任、小川絵梨子さん 1978年、東京都生まれ。’10年に第3回小田島雄志・翻訳戯曲賞を受賞。翻訳家としても高い評価を得る。アメリカで演劇を学び、劇団組織に属したことがない珍しい経歴のもち主。

舞台演出家の蜷川幸雄さんが亡くなり、大きな喪失感を抱えた日本の演劇界。そんな演劇界で、揺るぎない信念をもつ3人の演出家に注目が集まる。

「ストレートプレイからミュージカル、オペラまで手がける白井晃さん。1月には演劇とダンスの境界線を越えた舞台表現を試みる『出口なし』が控えます。また、演劇ユニットを結成し、客演を迎えて公演を行ってきた演出家の長塚圭史さんですが、2018年に新生『阿佐ヶ谷スパイダース』として劇団へと転換。昨年11月上演の『セールスマンの死』では、アーサー・ミラーの名作戯曲に緻密な演出を施し、今後の新たな展開を感じさせました。続いて、新国立劇場演劇部門の芸術監督の小川絵梨子さん。“演劇システムの実験と開拓”を掲げ、4月には劇場初となる、全役オーディションで決定したチェーホフの『かもめ』を上演。新しい舞台体験を味わえそう!」(藤本さん)

■4:改元目前で祝賀ムード漂う、今の気分にぴったりの英国王室映画が豊作!

最愛の夫と従僕を亡くし、心を閉ざしていた英国女王と王室のしきたりを無視し女王に寄り添うインド人従者の交流を描いた『ヴィクトリア女王最期の秘密』。監督/スティーヴン・フリアーズ 出演/ジュディ・デンチ、アリ・ファザルほか、全国公開中。

まもなく改元される日本。その日に向かって、日本でもいつになく皇室が注目されるこのタイミングに、映画界では英国王室ものが相次いで公開される。

「『ヴィクトリア女王 最期の秘密』は、ヴィクトリア女王と、女王が心開いたインド人従者の絆を描いた人間ドラマ。続く『女王陛下のお気に入り』は、エマ・ストーンが貴族へ返り咲く野心を抱く召使い役に。3月には『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』が。長い歴史に彩られた宮廷ドラマを観て、日本に思いを馳せるのも一興!」(坂口さん)

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『女王陛下のお気に入り』2月15日より公開。『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』3月より公開予定。

■5:本は、人間の五感のスタートスイッチに!?

アメリカの84歳のテキスタイルデザイナー、シーラ・ヒックスの作品集。世界的なブックデザイナー、イルマ・ボームによる装丁は、既存の本の常識を逸脱。いつまでも指先で触っていたくなる、不思議な魅力が詰まっている。

世界中の一流デザイナーたちが、今、本の装丁を競い合う時代に突入したという。

「電子書籍やWEBの登場で、紙に印刷した本の存在感は、消滅の危機どころか、逆に鮮明になりました。この分厚いお豆腐のような単行本は、ページの小口がギザギザで不ぞろいになっています。やわらかい手触りを感じて初めて、本の内容と装丁が一体化していることがわかるのです。要するに、本の重さや紙質などを五感で感じることで、人間の知性が動きだし、脳の回転が始まるわけです」(幅さん)

■6:天才講談師・ 神田松之丞を知らないで、どうする !?

1983年、東京都生まれ。’07年に3代目神田松鯉さんに弟子入りし、講談の世界へ入るが、’12年には早くも二ツ目に昇進。35歳という若さで130以上ものネタをもち、躍動感あふれる語り口が人気。撮影/栗田 論

歌舞伎や落語など、日本の古典芸能のなかにあって、なかなかスポットが当たらなかった講談が、大盛り上がりを見せている。その中心にいるのが、異色の才能をもつ講談師・神田松之丞さん。

そもそも、講談とは時代物や軍記物を、張扇(はりおうぎ)で釈台をたたきながら、独特の調子で語る話芸のこと。天才的なスピードでネタを会得し、講談初心者をも夢中にさせる松之丞さんの話芸を目撃しようと、チケットは即日完売するほど。今年はなんとしてでもチケットを手に入れ、神田松之丞の話芸を目撃しに行くしかない!

■7:建築ブームに乗り遅れないよう、まずは ル・コルビュジエ建築からチェック!

パリ、ジャコブ通りの自宅におけるル・コルビュジエと《多数のオブジェのある静物》(部分)1923年 パリ、ル・コルビュジエ財団 ©FLC/ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2018 B0365

日本建築界を担う次世代スターが、続々と輩出されている。パリを拠点に活動する田根 剛や人工の森「水庭」を発表したばかりの石上純也など、その建築をひと目見ようと、海外まで足を運ぶ建築ファンが多数。

国立西洋美術館の外観 ©国立西洋美術館

そんな建築ブームに沸く今、見ておきたいのがル・コルビュジエが本館を設計した「国立西洋美術館」。2月から開館60周年を記念した企画展が開催されるので、彼に師事し、実施設計した前川國男、坂倉準三、吉阪隆正らの仕事も楽しめる絶好の機会。巨匠から新星まで、建築を堪能する年にしたい。

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■8:DJがクラシックを大胆にもミックスする史上初のスタイルが日本を席巻!?

’18年9月、クラシックの名門レーベル「ドイツ・グラモフォン」の創立120周年で演奏するAoi Mizunoの様子。

クラシック音楽とクラブ・ミュージックの融合を試みたコンサート活動を続けている、テクノミュージシャンでDJのジェフ・ミルズ。その彼を迎えたコンサートが日本に初上陸したのが’16年。日本では聴きなれない、ジャンルすら確立されていない音楽スタイルが話題に。

「そんな系譜を引き継ぐかのように、後続のアーティストが続々誕生しています。日本では、史上初のクラシカルDJとして活躍するAoi Mizunoに注目。ザルツブルクでカラヤンの後輩としてクラシック音楽を学んだ正統派でありながら、型にとらわれないクラシックの楽しみ方は、初心者にも新鮮に響くはずです」(品田さん)

■9:待ってました! じんわり心にしみ入る大人の恋愛映画

日本、パリ、N.Y.を舞台に描く、切なくも美しい大人のラブストーリー。福山雅治と石田ゆり子の初共演でも話題の『マチネの終わりに』。原作/平野啓一郎 監督/西谷 弘 出演/福山雅治、石田ゆり子ほか 秋公開予定。©2019「マチネの終わりに」製作委員会

ティーンを主人公にした恋愛映画が多いなか、今年、目を引くのは大人の恋愛映画。

「なかでも秋公開の『マチネの終わりに』は、渡辺淳一文学賞を受賞した平野啓一郎の同名小説の映画化。17万部のベストセラー小説がどう視覚化されるか、また福山雅治と石田ゆり子の共演も興味をそそります。さらに、映像作家の岩井俊二が自ら執筆し、監督する『Last Letter』にも注目。手紙の行き違いをきっかけに始まる、ふたつの世代の男女が繰り広げる恋愛物語。今から期待が高まります」(坂口さん)

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『Last Letter』原作・脚本・監督/岩井俊二 出演/福山雅治、松 たか子ほか ’20年公開予定

※本記事は2019年1月7日時点での情報です。

EDIT&WRITING :
宮田典子・剣持亜弥(HATSU)、喜多容子(Precious)