Dior(ディオール)が2019年春夏のオートクチュールで発表したテーマは、数々の芸術家のイマジネーションを刺激してきた「サーカス」。実は、ディオールとサーカスにも、深い関係がありました。
ディオールとサーカス、その深い関係とは?
まずフォーカスするのは、伝説的フォトグラファー、Richard Avedon(リチャード・アヴェドン)によって撮影された『ドヴィマ・ウィズ・エレファンツ』。ムッシュ ディオールが心待ちにしていた「シルク・ディヴェール(冬のサーカス)」を舞台に、彼が思い描くスタイルの真髄を、見事映し出したアヴェドン。オートクチュールの壮麗さを切り取った写真は、ファッション史に残るほど著名な作品に。
そして、次にサーカスに焦点を当てたのは、鬼才のファッションデザイナーとして名を馳せたJohn Galliano(ジョン・ガリアーノ)。当時アーティスティック ディレクターを務めていたガリアーノにより放たれたのは、ファンタジーのなかにも現実的な側面を宿した、儚く幻想的なサーカスの世界でした。
時を経て再びコレクションのテーマに選んだのは、現アーティスティック ディレクターのMaria Grazia Chiuri(マリア・グラツィア・キウリ)でした。前回のコレクションに続き強くしなやかな肉体美に魅了されている彼女は、女性のみで構成されているイギリスのサーカス団・Mimbreによるアクロバティックなパフォーマンスを交えたランウェイを発表しました。
「あれは男性、それとも女性?どちらでもない、それはピエロ」
マリア・グラツィアが追い求めたのは、彼女自身が思い描く“パレード”の再現。切なさすら感じさせる涙風のアイメイクの上には、ヘルメットのような帽子がすっぽりと被せられ、その瞬間、男性でも女性でもない、個としての存在を隠したピエロへと変化を遂げます。そこからは、現代社会に生きる女性像が描かれているようにも感じます。
ドレスの下で物語を奏でるモデルの素肌に施されたタトゥーや風を孕む軽やかなチュール、ヌードカラーから、次第に色づいていく衣装の数々。ピエロを象徴する幾何学的な模様や猛獣使いのジャッケットなど、彼女らしい感性が生きたサーカス団が完成しました。
クリエーティブへのこだわり
マリア・グラツィアの作品の特徴として毎シーズン注目されるのは、やはり過去のクリエーションへのリスペクトと、それを彼女らしくブラッシュアップするアプローチでしょう。今回彼女がこだわったのは、オールハンドメイドでスパンコールを縫い付けた「エンブロイダリー」でした。今回は、その制作秘話を特別にお話しいただきました。
制作時間800時間を要した「エンブロイダリー」
マリア・グラツィアが1930〜40年代のアーカイブからインスパイアされ誕生したのは、ピエロを連想させるダイヤ型が全面に施されたロングドレスでした。手作業でスパンコールが縫い付けられた“キーユ”と呼ばれる三角形の差し込み布は、軽やかに揺れるよう、計算しながら大きさ違いの3枚の布が重ねられています。
あらゆるものを包み込み、さまざまな感情が交錯する「サーカス」。モデルたちが演じた両性的かつ中性的なピエロは、現代社会における人権の平等が表現されているようにも感じます。密かに女性と社会の関係性を主張するアプローチは、なんともマリア・グラツィアらしい仕上がりに。女性支持者がますます増えそうなメッセージ性あるランウェイは、キャリア女性も注目すべきコレクションといえます。
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- TEXT :
- Precious.jp編集部
- EDIT&WRITING :
- 石原あや乃