女性の職場進出はもちろん、個人のニーズに合わせた働き方を選択することが当たり前になっている昨今。選択肢が多い反面、自分にいちばん合った働き方や、もっと収入を上げる方法を見つけることは難しくなっているのではないでしょうか。
ベストセラー作家の橘 玲さんは、お金持ちになるには「長く働く、一緒に働く」がいちばんだと言います。一緒に働くは共働き、つまり世帯内での働き手を増やすことです。
「人生100年時代」では、夫が大学を出てから定年まで同じ会社でコツコツ働いて、妻は専業主婦として家事・育児に専念するという典型的な日本人のライフスタイルは通用しなくなりました。60歳が定年だとすると、夫が40年間働いて貯めたお金で、夫婦でそれぞれ40年、計80年生きていかなくてはならないのです。
そこで、以下ではお金持ちになれるか否かを分ける設問を紹介し、どちらがより有利かを橘さんに伺います。自分はどちらに当てはまるかを考えながら読み進めて、ぜひ今後のキャリアアップの参考にしてください。
お金持ちになれる働き方・考え方はどっち?
■1:一流のキャリアをつくる or 変わったキャリアをもつ
ひと昔前なら、有名企業に就職したり公務員になったりすることが、成功の条件と言っても過言ではありませんでした。働く人ならだれでも競争率の高い一流企業に就職したいと思うものですよね。
しかしながら、橘さんによると「だれもがうらやむような一流のキャリアをつくれるのは、せいぜい1%」なのだとか。では、残りの99%はどうすればお金持ちになれるのでしょうか。
「自分なりのキャリア、すなわち変わったキャリアならすべての人がもてます。大事なのは、勲章のようにキラキラのキャリアを貯め込むことではなく、『あなたは何をやってきましたか?』と聞かれたときに『いろいろやってきた結果、この生き方(働き方)を選びました』と答えられることです。
ここで相手が求めているのは、納得できる説明です。一流のキャリアでなくても、相手が納得するような『物語』があれば、変わったキャリアも高く評価されるでしょう。
私は大学卒業時に就活を放棄して、出版業界の最底辺からキャリアをスタートしました。その後、24歳のときに友人と編集プロダクションをつくって失敗し、ひどい目に遭いましたが、その話をすると大手出版社のエラいひとたちは『君って面白いね』と喜んでくれました。
『一流大学を出て、一流企業に就職して、順調に出世してます』では面白くもなんともありません。大事なのは、キラキラのキャリアをつくることではなく、相手が驚いたり感心したりする魅力的な『物語』をもつことです」(橘さん)
お金持ちへの道は、一流のキャリアを積むことだけではありません。いろんな経験をして、自分なりのキャリアで相手を納得させられるような物語をつくることが、自分の価値を高める近道なのですね。
○ → 変わったキャリアをもつ
■2:自分が優位性をもてる分野を探す or 競争の激しい分野へ挑戦する
スポーツのような勝負事の世界で、自分と同等かそれ以上の競争相手がいると、お互いに競い合って成長できる、と聞いたことはありませんか? しかし職場やビジネスでは、優秀なライバルがいて思うように活躍できないことも。
「ライバルに対して優位に立てなければ、競争には勝てません。スポーツでも芸能でも、競争の激しい分野に挑戦して一番になるのがみんなの夢ですが、それを実現できるのはほんのひと握りの幸運な人だけです。それに対して自分に優位性がある分野なら、ほぼ確実にライバルに勝てます。
最近は、多くの外国人が和食の勉強のために日本へ来ています。といっても、日本で働くためではありません。日本料理は海外でとても人気があって、『日本の名店で修業しました』とアピールできれば世界中で引く手あまたです。『日本で修行して海外で働く』というのは、大きなアドバンテージ(優位性)を得られるとても賢い戦略なのです」(橘さん)
女性に人気のある職場では、ライバルが多くてなかなか活躍できないということにもなりかねません。あえて男性ばかりの業界を選ぶというように、競争相手が少なく、自分の特技を活かせる場所を探してみるのもいいかもしれません。
○ → 自分が優位性をもてる分野を探す
■3:定年までコツコツ働く or スペシャリストとして独立する
ひとつの企業に定年まで勤めるのが当たり前だったのは、昔の話。現在は、自分の得意分野に磨きをかけて、できる限り長く働くことが、お金持ちへの道だと橘さんは言います。
「人生100年時代と言われる昨今では、定年まで働き、老後は退職金をもらって悠々自適という人生設計は望めません。老後=働かない期間が長ければ、それだけ余分に貯えが必要になります。『老後問題』というのは老後が長すぎるという問題なのですから、長く働くことで老後を短くすれば問題そのものがなくなります。
定年で会社を辞めるのは、フリーエージェント(自営業)になるのと同じ。60代で独立するか、30~40代で独立するかの違いでしかなく、『人生100年時代』にはだれもがいつかはフリーになるのです」(橘さん)
定年まで同じ企業に勤めることも選択肢のひとつですが、さらなるキャリアアップを目指すなら、得意分野のスペシャリストとなって、より待遇の良い環境へ移るのも手です。
○ → スペシャリストとして独立する
■4:仕事はなんでも引き受ける or 向かない仕事は無理にやらない
上司や取引先から仕事を振られたとき、「断ってしまうと評価が下がるかも」と考えて、無理にでも引き受ける、という人はいませんか?
とにかく仕事をこなすことがキャリアアップにつながるかというと、必ずしもそうではありません。むしろ、自分の能力を超える仕事や、明らかに不向きな作業を無理に引き受けると、仕事の遅れやミスを引き起こし、かえって評価を落としてしまうことも……。
「今では日本人だけでなく、『自信家で楽天的』といわれていたアメリカ人も過労死や職場うつで悩んでいます。仕事が辛くなってしまう理由の多くは、人間関係のトラブルと、自分には向かない仕事をやらされるからでしょう。
適性がない仕事や、能力を超える仕事を抱え込むと、管理できなくなってパニックを起こしたり、燃え尽きたりしてしまいます。『こうしなきゃいけない』『こういう自分にならなきゃいけない』と、会社のやり方に無理に合わせることはありません。自分にできることをやれる環境に移れば、自然と仕事も楽しくなってくるはずです」(橘さん)
無理をして失敗したり、体調を崩したりしては元も子もありません。自分には何ができて、何ができないのかを把握することを心がけましょう。
○ → 向かない仕事は無理にやらない
■5:自分探しは何歳からでも遅くない or 自分探しはほどほどにする
だれでも一度は「好きなことを仕事にしたい」と思ったことがあるのではないでしょうか。しかし、好きな仕事を見つけるために転職を繰り返してもよいのは20代~30代前半まで、と橘さんは言います。
「20代のうちなら、自分探しのために転職したり、海外で働いてみたり、いろんな体験をした方がいいでしょう。ですが、いつまでも自分探しを続けていると、どんどん選択肢がなくなっていきます。30代半ばまでには何で生きていくかを決めないといけません。
本当を言うと、『これだったらいける』と決めるのは、早ければ早いほどよいでしょう。なぜなら、それだけ多くの実績を積めるから。いつまでも目移りしていると、そのことだけを必死にやってきたライバルに追いつけなくなります。
仕事を選ぶとき、『好きなこと』と『得意なこと』が違うというのはよくあります。これは考え方次第ですが、たいていは『得意なこと』を優先した方がうまくいくと思います。得意なことはうまくこなせるので、続けるうちに楽しくなってくる。それが結果的に好きな仕事になるのでしょう」(橘さん)
仕事選びは恋愛によく似ています。いつまでも運命の人を待ち続けているうちに30代、40代……となってしまわないように、「これだ」と決めたらそこに集中してみましょう。
○ → 自分探しはほどほどにする
■6:直感を信じる or 信じない
理屈ではなく直感で、好き・嫌いを判断することは、だれにでもあるはず。ですが、これは仕事や働き方にも当てはめてよいのでしょうか?
「人間は無意識で好き嫌いを決めていて、直感が間違えることもよくあります。でも、自分の無意識(直感)が本当に嫌だと思うことを我慢して続けても、ろくなことはありません。
スペシャルなキャリアをつくるには『圧倒的な努力』が必要ですが、それができるのは好きなこと、得意なことだからです。やっていると楽しいし、みんなが褒めてくれるから、もっと頑張ろうと思う。この好循環(ポジティブ・フィードバック)によって『天職』になっていくのです」(橘さん)
給料がよいから、土日祝日に休めるから、などの「理性」で判断しても、直観的に嫌いな仕事では努力ができず、長続きもしないもの。ときには自分の直感を信じて決断することも大事かもしれませんね。
○ → 直感を信じる
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上記に、思わずハッとした選択肢もあったのではないでしょうか。
繰り返しになりますが、「長く働く、一緒に働く」がお金持ちになる近道です。この主張の裏付けとして、橘さんは厚生労働省所管の調査機関である労働政策研究・研修機構のデータを挙げています。
データによると、大学・大学院を卒業した平均的な女性が正社員として60歳まで働いたときの生涯賃金は2億1,800万円(退職金を含まない)。男性サラリーマンの生涯収入は大卒で3~4億円ですから、共働きなら単純計算で5~6億円になります。
この数字からも、「長く働く、一緒に働く」のパワーがおわかりいただけるはず。ぜひ本稿を参考に、自分なりのキャリアをつくりあげていきましょう。
公式サイト
- TEXT :
- Precious.jp編集部
- WRITING :
- 上原 純