申告書の提出後、医療費の領収書が出てきました。確定申告をやり直すことはできますか?

ここ数年、歯のトラブルに悩まされてきたノゾミさん(52歳・会社員)は昨年、一念発起して歯科クリニックの門を叩きました。

「歯を削るときのキィーンという金属音が苦手で、歯医者さんからは足が遠のいていたのですが、昨年のお正月明けに、突然、歯が欠けてしまったんです。観念して、久しぶりに歯医者さんに行ったら、他にも悪いところがいろいろ見つかって…。この機会に全部、治してもらうことになりました」

毎週のように歯科クリニックに通い、昨年12月にようやく治療が終了。ノゾミさんの歯のトラブルは解消しましたが、受けた治療のなかには健康保険の効かないものもあったため、1年間に支払った費用は60万円になりました。

歯医者で健康保険の効かない治療も受け、かなりの医療費を使った

かなりの出費になりましたが、医療費がたくさんかかった人は、確定申告すると医療費控除を受けられ、税金を取り戻せる可能性があります。

そこで、ノゾミさんは、今年の年明けから確定申告の準備を始め、2月18日に受け付けが始まると、すぐに手続きを済ませました。

ところが、申告期限終了まで、あと1週間となった時のこと。夫のトモユキさん(55歳・会社員)が、バツの悪そうな顔をして、ドラッグストアの領収書を、ノゾミさんのところに持ってきたのです。

「ごめん。会社の引き出しを整理していたら、ドラッグストアで買った薬のレシートがいっぱい出てきたんだけど、もう確定申告しちゃったよね……」(トモユキさん)

「・・・・・・・・・・」

 医療費控除の対象となる医療費は、病院や歯科診療所などに支払った医療費の自己負担分だけではなく、医療機関までの交通費、薬局で購入した市販薬なども認められています

トモユキさんが購入した市販薬も、医療費控除の対象になりますが、ノゾミさんはその存在を知らなかったため、自分が使った歯科治療に関する費用のみで、確定申告してしまったのです。

「申告する前に、夫には医療費の領収書があったら渡してほしいと言っておいたのですが、今になってもってくるなんて! 夫は頭痛もちで、花粉症もあるので、ふだんからけっこう市販薬を使っているんです。領収書を計算したら、合計3万円。これも併せて申告すれば、もっと税金を取り戻すことができたはずなのに。確定申告は、やり直すことができるのでしょうか?」(ノゾミさん)

年末調整では処理してもらえない医療費控除は、確定申告が必要

個人の確定申告は、おもに自営業者やフリーランスの人が、その年の1月1日~12月31日の収入から課税所得を確定し、国に納税額を申告するために行うものです。

サラリーマンは、あらかじめ給与やボーナスから税金が源泉徴収されていますが、これは収入や扶養家族の人数などに応じた予定額です。1年の途中で、収入が予定より増減したり、扶養家族が増えたりすると、本来納めるべき税額と源泉徴収された金額が異なる場合があります。この差額を払い戻したり、徴収したりするのが、勤務先で行われる年末調整です。

年収が2000万円を超えたり、給与以外の所得が年間20万円以上になったりした人を除いて、ほとんどのサラリーマンは、この年末調整で納税手続きは終わります。ただし、年末調整では処理しきれないものもあります。

課税所得は、納税額を計算するもとになるもので、収入全体からさまざまな「控除」を差し引いて確定します。控除額が多いほど、課税所得は少なくなるので、使える控除は無駄にしないで、正しく利用することが、節税する上で重要なポイントになります。

サラリーマンの場合、基礎控除、扶養控除、配偶者控除、給与所得控除などは勤務先で自動的に処理してくれますが、自分で確定申告しないと利用できない控除もあり、そのひとつが、ノゾミさんが申告した「医療費控除」です。

医療費控除=治療にお金を費やした人のための優遇措置

医療費控除とは?

医療費控除は、医療費がたくさんかかった人の事情を考慮して、税金を優遇するために導入されている所得控除です。

昨年1年間に使った医療費のうち、10万円を超えた部分(総所得金額が200万円未満の人は、総所得金額の5%を超えた分の医療費)を収入から所得控除することで、課税所得を引き下げ、結果的に納税額が少なくなるという仕組みです。

医療費をたくさん使ったかどうかは個別の事情で、勤務先では把握しきれないので、自分で確定申告しないと、税金を払い過ぎたままになってしまう可能性があります。

この医療費控除の対象となる医療費は、病院や診療所に支払った医療費の自己負担分だけではありません。次にように、医療費として認められているもの、認められないものがわかれています。

【医療費として認められているもの】

原則的に、治療目的や医師の指示で使ったものは認められます。

・病院や診療所、歯科診療所などに支払った医療費の自己負担分
・医療機関に通院、入院するための交通費
・薬局やドラッグストアで購入した市販薬
・妊娠・出産のための定期検診代、出産費用
・不妊治療や人工授精の費用
・レーシックの手術費用
・子どもの通院のための付き添いの交通費
・生計を一にしている人の医療費
・介護用のおむつ代(初年度のみ医師の証明書が必要)
・医師の指示で行った鍼治療
・病気が見つかって治療することになった人間ドッグの費用など

【医療費に認められないもの】

個人の希望や予防、美容目的のものは認められません。

・個人的な事情で利用した入院の個室代
・薬局で購入したドリンク剤
・予防接種の費用
・入院中の出前
・美容整形の費用
・美容のための歯列矯正代
・健康増進のためのサプリメント
・個人的な理由で購入した漢方薬
・眼鏡やコンタクトレンズの購入費用など

個人の都合で使ったもの、予防や美容目的のものは認められませんが、原則的に治療目的や医師の指示で使った費用は、医療費の対象になります。還付金をたくさん受け取るためには、使ったお金の中から医療費として認められているものは、余さずに申告することが大切です。

また、申告する本人が使った医療費だけではなく、「生計を一にしている家族」のものは、すべて対象になります。同居の家族はもちろんのこと、離れて暮らしていても、仕送りしている子どもや年老いた両親、単身赴任の夫などの医療費は、まとめて申告できるのです。

そのため、所得があれば、家族のなかで誰が申告してもかまいません。ただし、所得税の仕組み上、税率の高い人が申告すると還付金が増えるので、収入の高い人が申告したほうがお得です。

ノゾミさん、トモユキさんは共働きで、夫婦ともに収入がありますが、年収500万円のノゾミさんの所得税率は10%、年収1000万円のトモユキさんの所得税率は20%です(大学生と高校生の子どもが一人ずついて、トモユキさんの扶養家族に入っている。社会保険料は年収の15%の場合)。

そのため、トモユキさんを申告者にして、ノゾミさんは医療費控除の申告を行いました。

ノゾミさんが歯科診療所に支払った医療費は、60万円。このうち10万円を超えた部分の50万円が医療費控除の対象です。この金額に、納税者であるトモユキさんの所得税率20%をかけた10万円が、還付金の目安です。

でも、あとからトモユキさんからレシートを渡された市販薬の購入費用、3万円を加えて計算すると、還付金はあと6000円多くなるのに、このままではせっかくの還付金を増やすチャンスを逃すことになってしまいます。

医療費控除をやり直す3つの方法!  期限内なら「訂正申告」で

確定申告

このように、いったん医療費控除の申告をしたあとで、他にも使った医療費の領収書が見つかったような場合は、実は確定申告のやり直しが可能です。

ただし、申告し直す時期が、申告期限前なのか、申告期限後なのかによって、手続き方法が異なります。

■1:確定申告の締め切り「前」は「訂正申告」

まず、申告期限前なら、「訂正申告」という方法で、確定申告のやり直しができます。同じ申告者から、複数の確定申告書が提出された場合、税務署では最後に提出したもので納税額を確定します。

とくに決まった書式はありませんが、すでに提出した申告書の「控え」と一緒に、修正した確定申告書の上のほうに、赤字などで目立つように「訂正申告」と書いて提出します。

期限内なら何度でも訂正申告はできますが、すでに還付処理が行われていると、申告期限内でも受け付けてもらえないこともあるので、その場合は税務署に問い合わせてみましょう。

■2:確定申告の締め切り「後」は「更生の請求」

一方、3月15日の申告期限を過ぎた場合は、「更生の請求」という方法で還付金を取り戻すことになります。こちらは、訂正内容が分かる領収書などを添えて、「更生の請求書」を提出します。

更正の請求は、税務署で申告内容を確認したうえで、納税者の主張が正しいと判断された場合に還付を行うものなので、申告内容が正しくないと判断されれば、還付を受けられないこともあります。訂正申告よりハードルが一段あがるので、できれば申告期限内に手続きを済ませてしまいたいもの。

このように、時期によって方法は異なるものの、確定申告はやり直せるので、ノゾミさんのように、あとから医療費の領収書がたくさんでてきたというケースでは、あきらめずに再度、確定申告してみるといいでしょう。

■3:家族のなかに納税者が複数いれば「セルフメディケーション税制」も使える

ノゾミさんやトモユキさんのように、共働きなどで、家族のなかで所得税を納めている人が複数いる場合は、医療費控除に加えて、「セルフメディケーション税制」も利用するという方法もあります。

セルフメディケーション税制は、市販薬の使用を促し、国の医療費を削減することを目的に導入された制度で、ふだんから病気予防や健康増進に努める人の税金を優遇しようというものです。

対象になる市販薬は、「スイッチOTC」と呼ばれている医療用成分配合のもので、2019年1月現在、1718品目が対象となっています(対象商品は、厚生労働省のHP参照)。

控除できる金額は、1年間に自分や家族が購入したスイッチOTC薬の合計が1万2000円を超えた金額で、最高8万8000円まで。

納税者ひとりにつき、医療費控除とセルフメディケーション税制は、どちらか一方しか使えませんが、ノゾミさんやトモユキさんのように、家族のなかで複数の納税者がいる場合は、夫が医療費控除を申告して、妻がセルフメディケーション税制を申告するといったことは可能です。

トモユキさんは、すでに医療費控除の申告をしていますが、ノゾミさんはセルフメディケーション税制の申告ができます。

ただし、セルフメディケーション税制の控除対象になるのは、1万2000円を超えた部分の薬代なので、頭痛薬や抗アレルギー薬をの費用3万円のうち、控除できるのは1万8000円。これを所得税率10%のノゾミさんが申告しても、還付金は1800円です。

ノゾミさん&トモユキさん夫婦の場合、おすすめは■1の「訂正申告」

薬代は申告期限内に急いで「訂正申告」するのがいい

一方、所得税率20%のトモユキさんが、医療費控除とまとめて薬代も申告すると、増える還付金は6000円なので、このケーススタディの夫婦においては、やはり申告期限内に急いで「訂正申告」する方がよさそうです。

家族内で、医療費控除とセルフメディケーション税制をダブルで使ってお得になるのは、「夫婦で同じ所得税率」「夫が医療費控除を受けたことで所得税が0円になった」などのケースです。

所得税の還付は、収めた税金の範囲内でしかお金を取り戻せないので、医療費控除によって所得税が0円になっていると、いくら市販薬をたくさん購入して医療費が高額になっていても、納税額以上は還付を受けられないからです。

2018年分の所得税の申告期限は、2019年3月15日まで。期限内なら、何度でも訂正申告は可能ですし、場合によっては家族内でセルフメディケーション税制を併用することで、還付金を少しでも増やせるかもしれません。

本日は3月9日、申告期限はあと1週間あります。

「すでに申告したけど、間違いが見つかった」「医療費の領収書がまだあった」という人は、あきらめずに確定申告のし直しに挑戦してみてください。


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この記事の執筆者
1968年、千葉県生まれ。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。医療や年金などの社会保障制度、家計の節約など身の回りのお金の情報について、新聞や雑誌、ネットサイトに寄稿。おもな著書に「読むだけで200万円節約できる!医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30」(ダイヤモンド社)がある。