誰もが知っている『学問のすゝめ』の前文。でも、福沢諭吉の意図まで理解している人は、意外と少ない!

『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず』

新元号「令和」の発表に合わせたかのように、2024年から使われる新たな紙幣のデザインが発表され、デザインや肖像画、偽造防止技術などが、何かと話題になっていますね。

次代の一万円札の顔となる肖像画は、実業家の渋沢栄一氏に決定しました。「ユキチが足りない」「ユキチをたくさん持ってそう」など、『お金』の隠語として定着するほど世の中に馴染んでいた、福沢諭吉の一万円札とのお別れは、なんだか寂しいような…。

そんな福沢諭吉と言えば、著書『学問のすゝめ』はあまりにも有名。日本文学史の最低限の一般教養として、中学時代にセットで覚えた、という方も多いのではないでしょうか? そしてこの本の冒頭の、有名な一節まで覚えている、という方もいらっしゃることでしょう。

『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず』

この一文です。

長い間、親しまれた福沢諭吉の一万円札

この名言を、会話に引用したことがある方もいらっしゃるかもしれません。たとえば、仕事上の愚痴を言う男性を励ますときなど。

「結局、サラブレッドにはかなわないのかもな。俺みたいなたたき上げが、いくら頑張ったって、たかが知れてるんだよ」

「そんなこと、言わないで?『天は人の上に人を造らず』って、福沢諭吉も言ってるじゃない。頑張れば、評価してくれる人は必ずいるわよ」

…ありがちな会話ですが、これ、実は大間違いなのです。

『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず』という一文を、福沢諭吉が平等をうたった言葉、と解釈している人は少なくありません。

しかし実はこの一文、最期の締めまで達していない、ぶつ切り状態のものが、世に知れ渡っているのです。

正しい全文は

『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず、と言へり。』

です。福沢諭吉が、アメリカの独立宣言の序文『すべての人間は、生まれながらにして平等である』を意訳して引用した上で、「と言われている」と伝聞で締めています。「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」は、福沢の考えですらなかったのです。そしてその後には、まったく逆の意味の主張が続きます。

いささか長いので意味だけをお伝えすると、「しかしながら実際には賢い人と愚かな人、貧しい人と富んだ人、身分の高い人と低い人がいて、雲泥の差がついている」という意図の文章が続きます。

これこそが、諭吉の意図した主張で、「だからこそ、その不平等な差を埋めるため、生まないために、勉強して自分を磨くことをお勧めする」と説いているのです。

勉学や教養は、人生のステージをあげてくれる

このような主張をしていた福沢諭吉の文章の、一部だけをカン違いして引用してしまうのは、まさに「自分を磨く勉強をしていない」ことになってしまい、恥ずかしいこと、この上ありません。

さきほどのような励まし会話に『学問のすゝめ』を引用するなら、正しくは以下のようになります。

「そんなこと、言わないで? 福沢諭吉も『世の中は平等じゃないけれど、勉強すれば不平等の差を埋めることができる』って説いてるわよ。頑張れば、それなりの評価が得られるようになるはず。へこたれないで!」

名言の引用には、さりげなく教養を感じさせる効果がありますが、解釈を間違えていると、諸刃の剣になってしまいます。

意外な知識を持っていると「この人との会話には発見があるな」「面白い人だな」と興味を感じてもらえますよね。まさに『学問』は人生のステージをひき上げてくれるのです。

正しい教養を身につけて、より豊かな人生を切り拓いていきましょう!

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小出真朱