「令和」を迎えた今こそ、30年続いた「平成」を振り返りたい時期。そこで平成時代が生んだスイーツを取り上げる本シリーズ。今回は、「エッグタルト」のブームの背景や、生まれた経緯、ちょっとした豆知識などを、マカオに拠点を置く邦字ニュースメディア「マカオ新聞」の創刊編集長である勝部悠人さんに伺いました。

エッグタルトはなぜ日本で火が付いたの?

ロード・ストウズ・ベーカリーのエッグタルト(勝部さん撮影)

エッグタルトとは、パイ生地に卵黄多めのプリンのようなカスタードクリームを流し込んで焼いたスイーツのこと。日本では平成11年(1999年)に火が付いたといわれています。なぜブームになったのでしょう? 勝部さんは次のように話します。

「1999年といえば、マカオがポルトガルから中国に返還された年にあたります。現地旅行社の方に話を聞いたところ、返還前後は日本でもマカオに対する注目が上がり、多くの日本人観光客がマカオを訪れたとのこと。その際、本場のエッグタルトを口にする機会もあったのではないでしょうか」

マカオ名物エッグタルトを生んだ立役者、アンドリュー・ストウ氏 © Lord Stow’s Bakery

「また、1999年にはマカオの『ロード・ストウズ・ベーカリー』という店が『アンドリューのエッグタルト』の名で日本(大阪)に進出しています。これをきっかけに注目され、日本でエッグタルトに初めて出合ったという方も多いと思われます。現在『アンドリューのエッグタルト』は大阪、神戸のほか、西日本に複数の店舗を展開しています」

エッグタルトが生まれた経緯

オープン当時のロード・ストウズ・ベーカリーの本店 © Lord Stow’s Bakery

ブームになるには、きっかけがあったようですね。そもそも、エッグタルトとはどんなスイーツなのでしょうか? エッグタルトの生まれた経緯を勝部さんにお聞きしました。

「今やマカオの名物スイーツとしてすっかり定着していますが、もともとはポルトガルの伝統スイーツです。

マカオのホテルでポルトガル料理店のマネジメントを担当していた英国人のアンドリュー・ストウ氏が、1980年代にポルトガルのリスボンへ旅行した際、1837年創業の老舗カフェ『パステイス・デ・ベレン』を訪れ、名物のエッグタルト、ポルトガル語で『パステイス・デ・ナタ』に出合い、感動したとのこと。

これをマカオで再現すべく、レシピ開発をスタートさせ、英国のエッセンスを盛り込んだ独自のエッグタルトをつくり上げ、これを看板メニューとする『ロード・ストウズ・ベーカリー』をコロアン島のコロアンビレッジに1989年にオープンさせました。

その後、口コミで評判が広まり、多くのメディアで紹介されるようになるなど、世界的に知名度と人気が上がり、現在に至ります」

オープン当初の佇いを今に伝えるマカオ・コロアン島のロード・ストウズ・ベーカリー本店(勝部さん撮影)

エッグタルトは海外でどのくらい食べられている?

ところで、エッグタルトは現在、海外ではどの地域で、どのくらい食べられているのでしょうか?

「ポルトガルはエッグタルトの本場ですから、カフェやベーカリーで定番メニューのひとつとして取り扱いがあります。マカオでは、地元を代表するスイーツとしてすっかり定着し、今では、マカオのカフェ、レストラン、ベーカリー、土産店など、多くのお店がマカオ名物としてエッグタルトを取り扱っています。香港も多くのお店で取り扱いがあります」

勝部さんによると、この香港のエッグタルトとマカオのエッグタルトとは異なるのだそう。

「香港でもエッグタルトはメジャーなスイーツのひとつですが、マカオのものとは異なります。

まず、マカオでは、エッグタルトは際立った存在で、わざわざ食べに行くものなのですが、香港では、飲茶(点心)の定番メニューのひとつになっており、飲茶の合間につまむもの、といった存在です。

またマカオでは、クロワッサンのようなサクサクのパイ生地を使い、表面を焦がし、中身のカスタードクリームはアツアツ、トロトロというスタイルが一般的で、サイズもやや大きめですが、香港ではタルト生地を使い、表面に焦げ目はつけず、中身は少し硬めになっているのが一般的。そして香港では数多くの飲茶メニューのひとつとあって、サイズもやや小さめです。

もちろん、店舗によってレシピが異なるので、一概には言えませんが、マカオ式と香港式を食べ比べてみるのはおもしろいと思います」

エッグタルトといってもさまざまな種類があるのですね!

エッグタルトの魅力とは?

ところで、エッグタルトのスイーツとしての魅力にはどんなものがあるのでしょうか?

■1:食感

「やはり、サクサクしたパイ生地とトロトロのカスタードの絶妙なマッチングは、エッグタルトの一番の魅力だと思います」

■2:香ばしさ

甘い香りが食欲をそそります。

「食欲をそそる香りで、別腹モード全開に! 私も香りに誘われついつい買ってしまいます」

■3:コスパがよい

「ロード・ストウズ・ベーカリーでは1個9パタカ=約125円。カスタードがたっぷり詰まっており、ずっしり重く、十分お腹を満たしてくれるので、コスパがよいのも魅力。マカオ全体を見渡しても、だいたい値段は1個100〜200円前後です」

■4:現地でしか食べられない貴重さ

「エッグタルトは保存がきかないので、マカオのエッグタルトは現地でしか食べることができない貴重さがあります」

■5:温かい

できたてのエッグタルトは絶品。

「スイーツといえば、冷蔵系が多いイメージがありますが、マカオのエッグタルトは、店頭で買ったばかりの状態ではアツアツ、もしくはほんのり温かい状態です。中華圏女子の間では、冷たいものはお腹を冷やすので体によくないという考え方が根強く残っていますが、温かいエッグタルトならその点も安心、という声も聞きます」

エッグタルトは進化している!?

日本にエッグタルトブームが来てから20年。今、日本では勢いは衰えているようですが、最近、マカオではどうなのでしょうか?

新ブームのスイーツにも負けない!

「マカオでは、エッグタルトの勢いは決して衰えていません。ロード・ストウズ・ベーカリーの支店も次々とオープンしているほどです。エッグタルトの次に来るスイーツとして注目されている『セラデューラ』というものがあり、最近では、マカオのカフェやレストランでメニューに採用する例も増えているように感じますが、エッグタルトには及びません。

セラデューラもポルトガル発祥のスイーツです。冷やした生クリームと砕いたビスケットが層になっているもので、口の中でひんやりした生クリームと砕いたビスケットのザラザラ感が溶け合う不思議な感覚が味わえます。サッカーポルトガル代表が2002年の日韓W杯のときにマカオで合宿をした際、宿舎として使っていたホテルのカフェが選手たちにセラデューラを提供したのをきっかけに、マカオでセラデューラが浸透したという話を聞いたことがあります」

新しいスイーツにも劣らないエッグタルト。根強い魅力があるようですね。さらに、勝部さんによると、エッグタルトも進化を続けているのだとか!

新作「カルテット」シリーズ

評判となった日本人パティシエが手がけた進化系エッグタルト、グランドリスボアホテルの「カルテット」シリーズ © Grand Lisboa Hotel

「昨今、注目を浴びているのが、マカオの『グランドリスボアホテル』が2018年7月に発表した新作エッグタルト『カルテット』シリーズです。同ホテルでエグゼクティブ・パティスリー・シェフを務める村中徳仁さんが手がけたもので、伝統的なエッグタルトをバニラ、宇治抹茶、柚子、塩カラメルの4つのフレーバーでバリエーション展開したもので、観光客はもとより、地元客からも好評を博し続けているといいます。

今後もこういった斬新なアイディアが出現し、注目を浴びることで、令和の時代になっても、エッグタルトの世界はまだまだ広がって行くと思います」

マカオ返還20周年で再沸騰?

「今年2019年はマカオ返還20周年に当たります。成田とマカオを結ぶマカオ航空の直行便が、7月からダブルデイリー化を予定しているほか、2018年10月の港珠澳大橋の開通により、香港経由のアクセスも向上するなど、日本でもあらためて脚光を浴びそうです。もしかしたら、エッグタルトの名前を聞く機会が増えるかもしれません」


エッグタルトの日本でのブームはまだまだ記憶に新しいものです。今でも多数の日本のお店で扱われています。そんなエッグタルトは、令和ならではのスイーツとして発展していくかもしれませんね。

勝部悠人さん
「マカオ新聞」創刊編集長
(かつべ ゆうじん)マカオ在住の編集者で、マカオに拠点を置く唯一の邦字ニュースメディア「マカオ新聞」の創刊編集長。現地の最新ニュース&トピックを様々な媒体を通じて日本へ向け発信している。マカオ新聞
この記事の執筆者
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WRITING :
石原亜香利
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