ビーチに設営された大スクリーンで、自然を感じながら映画を鑑賞できる人気イベント「逗子海岸映画祭」が、2019年も開催されます。期間は、4/26(金)~5/6(月・祝)。

映画上映のみならず、湘南エリアの人気飲食店や世界のクリエイターが集い、多彩な食や文化が体験できるワークショップもあり、サーカスのような非日常空間が現れる11日間です。

この映画祭をつくり上げてきた主宰のひとりが、長島源さん。逗子のカルチャーを発信基地でもある『CINEMA AMIGO(シネマ・アミーゴ)』の館長であり、ミュージシャン、モデルとしても活躍しています。

カルチャーが生まれる「場」を、地元につくりたかった

逗子で育ち、10代のころから旅が好きだったという長島さん。大学時代はイギリスへの音楽留学も経験。ミュージシャン活動と並行して、人々の記憶に残るさまざまな場づくりに携わってきました。

なかでも『CINEMA AMIGO』は、『逗子海岸映画祭』の起点とも言える町の映画館。わずか21席ながら、アンティークの調度品に囲まれた懐かしくも温かみのある空間は、ゆったりとした雰囲気。日常の喧噪を逃れ、東京や他県からも幅広い世代が足を運んでいます。

長島 源さん
長島 源さん
逗子海岸からほど近い場所にある『CINEMA AMIGO』は、民家をリノベーションして誕生した映画館
逗子海岸からほど近い場所にある『CINEMA AMIGO』は、民家をリノベーションして誕生した映画館
ーー『CINEMA AMIGO』を立ち上げられたのが、今から10年前、長島さんが30歳のときだそうですね。どのような経緯で始まったのでしょう?

18歳のころから、夏は海の家を手伝っていたんです。兄が葉山で開いた海の家、『ブルームーン』の立ち上げから参加し、3年目からはバーマネージャーとして運営や音響に携わりました。場をつくってそこからコミュニティが生まれたり、 カルチャーを発信したり。今の活動の原点だと思います。

26歳からは友人と一緒に、秋谷で企業の保養所だった建物を改装して、飲食や音楽を中心に楽しめる『SOLAYA』というスペースをつくり、そこで同世代の仲間との繋がりが強くなりました。1年半という短い時間でしたけれども、すごく蜜で濃い時間でしたね。 

ーー湘南エリアで面白いことをしているクリエイターや、お店の人たちが集まったという伝説的なスポットですね。

その後は、しばらく各々の活動で独立し、僕自身もモデル活動をスタート。また、元々サステイナブルライフに興味があったので、並行して世界各地のエコビレッジを見て回るなど、フィールドを広げる時期に。

僕が30歳ぐらいのタイミングで、もう一度自分たちの地元で「場」をつくってみようかという話になりました。 当時はみんな東京ベースでしたが、できることなら地元で仕事ができるようになれたらいいなと。 なおかつそこでちゃんとカルチャーが生まれていくように、独立した個人の集合で何か一緒につくっていく基地にできないかと、「BASE」という会社を始めたんです。

その一環で 『CINEMA AMIGO』という映画館をつくることになりました。映画を切り口にした空間で、テーマによっては食や音楽、写真のことも絡められる。ここから何か生まれていけばと思って。

上映作品は長島さんがセレクト。ゴールデンウィークの映画祭期間中は、『CINEMA AMIGO』は休館
上映作品は長島さんがセレクト。ゴールデンウィークの映画祭期間中は、『CINEMA AMIGO』は休館

積み重ねた時間が、つながりを強くする

やがて『CINEMA AMIGO』は、シネマコンプレックスでもミニシアターでもない「第三の映画館」として認知されるように。現在では、地元の野菜や海の幸を使ったデリが味わえるカフェや、フラワーショップを併設し、さまざまな人が交流する場になっています。地方から視察に来る人も多く、影響を受けて誕生したお店もあるのだとか。

長島 源さん
長島 源さん
ーー最近でこそ、映画を上映するカフェや地域のスペースは増えましたが、その草分け的存在ですね。

元々映画業界にいたわけでもなく、まだまだ小さな存在。ただ、都会のミニシアターがなくなっていく中、たまたま自分たちの始めたスタイルが、地域に点在する小さな場のはしりになれたのかな…と思っています。

ーー始められるときは、「続けていくこと」を大事にされたとか。

住宅中心の土地ですから、これまでやってきた音楽をベースにした空間をつくるというのは、どうしても近隣との問題も出てきてしまいますし、うまくいかないんじゃないかなと。映画であれば、毎日イベントを行いながら、他のカルチャーも絡めていける。もう一歩サステナブルな活動にできるんじゃないかな、という思いがありました。

ーー最初の5年は無休で、館長の長島さんご自身も、お休みをとらなかったそうですね。なかなかできることではないなと。苦ではなかったですか?

苦ではありましたね(笑)。というのも、それまであちこち旅して回っていた人間が、ずっとどこにも行かずに張り付いていたので。最初のうちは人を雇う余裕がなく、自分がここに立って経営するのが前提でした。

ただ、「続ける」って、やっぱり人の信頼が変わるんだなと。だいたいみなさん「面白いことを考えて立ち上げたけど、打ち上げ花火みたいにパッと終わるんだろうな」と思っていて。そうやって一歩離れて見ていた人たちが、5年くらいたつと「あ、こいつら本気なんだ」とやっと近づいてきてくれる実感はあります。

時間を忘れて、映画の世界に浸れる
時間を忘れて、映画の世界に浸れる
逗子を中心に、葉山や鎌倉、藤沢など近隣のお店やイベントのフライヤーも紹介
逗子を中心に、葉山や鎌倉、藤沢など近隣のお店やイベントのフライヤーも紹介
ーー『CINEMA AMIGO』から派生した『逗子海岸映画祭』は、今や地元の方々に愛される一大イベントですが、逗子は海水浴場の規制もいち早く行っていた町。住民の環境を大切にしているからこそ、厳しさもあると思います。地域といい関係性を保ちながら、持続していく秘訣はありますか?

やはりコミュニケーションでしょうか。 強みとしては僕がこの町で育っているので、たとえば海岸近くの通りに住む方々はほとんど知り合い。子供のころから付き合いのある僕が、こういう活動しているというところで、理解を示してくださっている部分は大きいと思います。

実は、音量チェックを自主的にしてくださっている方もいて。苦情のためではなくて、本当にフェアに「これ以上大きくなると周囲で気になる人もいるだろうから、デシベルチェックして教えるね」と。

『CINEMA AMIGO』から歩いてすぐの逗子海岸。こののどかな砂浜で、映画祭が開かれる
『CINEMA AMIGO』から歩いてすぐの逗子海岸。こののどかな砂浜で、映画祭が開かれる
ーーむしろサポートしてくださっている感じですね。

もちろん、何かを始めてすべての人に100%OKをもらえるということはなく、砂浜を占有しているとか、普段の生活が変わることそのものがイヤだな、と感じる人もいるでしょうし、その気持ちもすごくよくわかります。一歩間違えれば感情的になってしまう話題でも、「こうするとお互いよくなるから」というポジティブなやりとりができているのはありがたいですね。

単純に企業や人を集めているわけではなく、いいものを自分たちでつくろうよ、という気概とクオリティを評価してくださっているのかなと。あとは幅広い世代に来ていただける雰囲気でしょうか。特定の世代だけしか楽しめないと、その間口の狭さで自分たちとは関係ないと思われてしまうかもしれないのですが、子供たちから50代、60代の方まで来てもらえる。だからこそ、受け入れていただけている感触はあります。

日没と共に映画上映。富士山や江ノ島を背景に、夢のようなひとときが始まる ©ZUSHI BEACH FILM FESTIVAL
日没と共に映画上映。富士山や江ノ島を背景に、夢のようなひとときが始まる ©ZUSHI BEACH FILM FESTIVAL

インスタ映えは、狙わない

大人の心を満たすセンスフルな空間でありながら、子供も年配の方も一緒になって参加できる親しみやすさは、『逗子海岸映画祭』の大きな魅力のひとつ。筆者も初めて訪れたときは、「小さなうちからこんな場所に遊びにこられたら、感性が磨かれそう!」と、衝撃を受けた記憶があります。

海外の遊園地のようなエントランスから、非日常の世界へ! ©ZUSHI BEACH FILM FESTIVAL
海外の遊園地のようなエントランスから、非日常の世界へ! ©ZUSHI BEACH FILM FESTIVAL
毎年、子供たちに大人気のメリーゴーラウンド ©ZUSHI BEACH FILM FESTIVAL
毎年、子供たちに大人気のメリーゴーラウンド ©ZUSHI BEACH FILM FESTIVAL
ーー会場の心地よさも特別だなと思いますが、お客さんに向けて意識していることはありますか?

需要に合わせてはつくっていないんです。変な話ですが、「インスタ映え」も狙っていなくて(笑)。たまたま10年やってきて、ここ数年はその流れがマッチしたのかなとは思いますが、自分たちがこういう空間があったら素敵だなと思うものを表現していると、志向性が一致したお客さんが来てくださるのかなと。

ーー逗子海岸映画祭のスタイルは、移動式映画館の活動である『CINEMA CARAVAN』として、海外でも展開されていますね。現地ではどのような演出になるのですか?

規模や場所によって、必ずしも映画をやるわけではないんです。メンバーには、ダンサーもカメラマンも大工も料理人もいるので、空間づくりや音楽を含めたインスタレーションですね。

インドネシアで開かれる『ART JOG』という現代アートのイベントに招待していただいたときは、写真を中心にアート寄りに。オランダの『SONSBEEK』に呼ばれたときは、オープニングアクトを担当しました。それも、インドネシアのアートディレクターが担当していた縁で。

日本では新潟の『大地の芸術祭』のように、空間アーティストとして呼んでいただくパターンも。現地の人と一緒につくり上げるプロセスや、その土地にあるものを活かすことを大事にしています。

"Play with the Earth ″をコンセプトに、世界を旅する『CINEMA CARAVAN』の活動を展示するコーナーも ©ZUSHI BEACH FILM FESTIVAL
"Play with the Earth ″をコンセプトに、世界を旅する『CINEMA CARAVAN』の活動を展示するコーナーも ©ZUSHI BEACH FILM FESTIVAL
ーーローカルに留まらずに、さまざまな地域と影響し合うところが魅力ですね。

僕らは旅好きばかりですが、それは育てていくベース、拠点があったうえでの旅。ひとりひとりが出かけた土地で生まれた交流によって得た刺激を、またベースにもって帰る。そうやって循環させていくことを意識していますね。『逗子海岸映画祭』というのは、年に一度、そのつながりや循環を発信する場。毎年アップデートすることで、会場や一緒につくり上げる人たちに還元できるんじゃないかと。

当日は写真を撮って終わりというよりは、僕らが『CINEMA CARAVAN』の活動を通じて出会った、さまざまな土地の人たちが来て、一緒につくり上げてくれるその場を見てほしい。人とのつながりから生まれたカルチャーやメッセージを感じてほしい、というのが何よりもコアにあります。「映画祭」と名はついていますが、そのための空間づくりであり、プログラムですね。

映画、音楽、アート、アクティビティ、食…逗子の魅力を体感する一日に

2010年のスタートから、手づくりの会場で、世界とのつながりの扉を開く活動を続けてきた、長島さん。最終日には、ミュージシャンとしても参加します。星空の下、波音に包まれながら観る映画はもちろんのこと、『逗子海岸映画祭』には、五感を使って体で感じる楽しみが満載。自然の中で、さまざまな文化を体験し、地球と遊ぶ。そんな彩り豊かな休日が待っています。

ビーチヨガのプログラムは予約必須。少し早起きして、潮風に吹かれながら深呼吸の時間を ©ZUSHI BEACH FILM FESTIVAL
ビーチヨガのプログラムは予約必須。少し早起きして、潮風に吹かれながら深呼吸の時間を ©ZUSHI BEACH FILM FESTIVAL
ーーいよいよ4月26日からスタートする、2019年逗子海岸映画祭の作品ラインアップのポイントを教えてください!

今年はこの10年間の集大成のように感じています。第1回で上映した映画『サヨナラCOLOR』をアンコール上映。まだ海のものとも山のものともわからなかった初回に参加を快諾してくれた、監督・主演の竹中直人さんや、竹中さん率いる『オレンジ気分バンド』も登場予定です。

人気のキッズデー、インドデーに加えて、2年目で好評だったクラシックフィルムも久しぶりにやってみようよということで、チャップリンを選んだり。最終日のフィナーレでは『CINEMA CARAVAN』代表の志津野雷が監督した映像に、僕たちの生演奏をのせて公開します。やっと自分たちのオリジナルをつくっていけるようになった、という思いですね。

ーー初めて体験される方に、おすすめの楽しみ方はありますか?

まずは、前売りをやっていないので、朝から来てチケットを確保していただくことですね。実はこれには意図がありまして。一日トータルに逗子に滞在して、このあたりのお店や普段は体験できないようなスペシャルな演出に触れていただけたらなと。今年は入場スタンプを見せると、サービスしてくれるお店もあります(※当日配布のタブロイドに掲載)。どこに反応するかは人それぞれなので、ぜひご自身の楽しみ方を発見してほしいですね。

日替わりでフードを提供してくれるみなさんにも、僕らがオーダーするというよりは、今年はどんなことをしてくれるかなとワクワクしながら、本番当日を迎えます。

そしてここからは注意点で、みなさん、夜の寒さを甘く見ないで(笑)! 昼間はすごく暖かいんですが、夜はグッと冷えます。ダウンがあると寒さを気にせず、ゆっくり満喫していただけるかなと思います。

日替わりのレストランやフードコートでは、オーガニック素材を活かした料理やスイーツ、ドリンク、自然派ワインなども堪能できる ©ZUSHI BEACH FILM FESTIVAL
日替わりのレストランやフードコートでは、オーガニック素材を活かした料理やスイーツ、ドリンク、自然派ワインなども堪能できる ©ZUSHI BEACH FILM FESTIVAL
ーー最後に、これからやってみたいことを伺えますか?

この春、『CINEMA AMIGO』の隣で、『AMIGO INN(アミーゴ・イン)』という宿を始めたんです。映画祭にかぎらず、何かイベントがあったときに宿泊施設がないと夜まで楽しめない。逗子という街に人が滞留したり、移住するきっかけになったりすると、町が経済的にも発展して盛り上がっていくのではないかと。

実際、この1か月でいろいろな国の人が来てくださっています。その発展や面白さから、人の新陳代謝が起きるといいなと思っています。

逗子海岸映画祭2019
2019年4月26日(金)~5月6日(月祝)に開催!
期間中の来場者が1万5,000人を超える人気イベント。映画上映のほか、日替りでのフード&ドリンクの販売や、ライブやワークショップなど、さまざまな催しが楽しめる。環境に配慮し、今年からリユースカップを使用。なるべくゴミを出さないようにという取り組みで、飲食物の持ち込みはNGなのでご注意を。盛り上がった夜の帰り道は、住宅街を通るのでマナーへの配慮もお忘れなく! 上映作品やプログラムは、公式サイトで確認を。
逗子海岸映画祭公式サイト
長島 源さん
『逗子海岸映画祭』実行委員長/CINEMA AMIGO館長/ミュージシャン
(ながしま げん)1978年、神奈川県生まれ。逗子で生まれ育ち、10代のころから音楽活動を始め、19歳でインディーズデビュー。その傍ら、葉山で海の家の立ち上げや運営に関わったことで、コミュニティづくりの面白さを体験。2009年に小さな映画館『CINEMA AMIGO』をオープン。2010年には『逗子海岸映画祭』をスタートさせ、県外からも多くの人が訪れる逗子の名物イベントに育て上げた。共に、映画のみならず、音楽、食、アートの発信基地として地元に愛される存在になっている。
『CINEMA AMIGO』公式サイト
この記事の執筆者
1980年兵庫県神戸市出身。津田塾大学国際関係学科卒業後、2003年リクルートメディアコミュニケーションズ(現・リクルートコミュニケーションズ)入社。結婚情報誌のディレクターを経て、2010年独立。編集、ライターとして活動。インタビューをメインに、生き方、働き方、恋愛、結婚、映画、本、旅など幅広いテーマを担当。2008年より東京から鎌倉へ移り住む。ふたりと一匹(柴犬)暮らし。
PHOTO :
佐藤岳彦