「目には目を、歯には歯を」という言葉は「復讐してOK」という意図ではない!?

現時点で、人類史上最古の記録された法典と言われている『ハンムラビ法典』。学生時代、世界史の授業でこの中の「目には目を、歯には歯を」という一説を聴いたことがある、という方も多いのではないでしょうか?

「目には目を、歯には歯を」は、復讐について定めた一説です。「こちらがやられたことと、同等の報いを相手にも与えてよい」という意味の一説であるのは確かなようですが、この法典をよくよく紐解けば、この一説の意図は「復讐してヨシ!」という、単純なものではないようなのです。

では、ハンムラビ王は一体どのような意図で、この一説を法典に入れたのでしょうか?

『ハンムラビ法典』のこの一説の意図は?

弱小国を一代で盛り立て、バビロニア帝国の初代王となったハンムラビ王は、かなりの知性派!?

ハンムラビ法典が定められたのは、紀元前1700年以前。現在の研究情報の真偽を確実に確かめる手立てはないものの、ハンムラビ王がかなりの知恵者であったことは推察されます。

ハンムラビ王が父王から受け継いだ地域は、今でいうならかなりの弱小国。大国からはあまり意識されない、ささやかな王国だったようです。しかしハンムラビの治世になってから、大国アッシリアと同盟を結ぶなどして一代で勢力をのばし、ついに歴史に名高い「バビロニア帝国」の初代王として即位するのです。

現代人の知るハンムラビ王の一番の功績は、ほかならぬ『ハンムラビ法典』。法律が定着していない時代に、これをまとめた王の意図とは?

『ハンムラビ法典』の形状は近代のような紙の書物ではなく、巨大な岩の彫刻です。高さ2m以上の巨大岩を美しい形状に整えた上で、そこに楔型文字で、法の全文が刻み込まれています。

当時、多くの人間が「法典」として内容を確認するため、この形状になったのでしょう。岩に刻まれた法典、と言っても短文ではなく、前書き・本文・後書きの3部構成からなる、282条ものボリュームで構成されています。

岩にぎっしりと刻まれた『ハンムラビ法典』。出典:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)

この法典の真価のひとつは「法を定め、法の下で生活する」という習慣が、人類全体に定着していなかったと思われる時代に、これを行った、ということにあるでしょう。

本文は、過去の慣習法(みんなになんとなく「そうすべき」と意識されていたルール)を、条文として整理した形でつくられたようです。

みんながなんとなく「そうするのが常識的じゃない?」と考えていても、法典がなければ、暴れ者の勝手がまかり通ってしまうこともあるでしょう。『ハンムラビ法典』は、こうした無法者の抑止力として必要だ、と、ハンムラビ王が考えたからこそ、「ないところにつくった」のでしょう。

「目には目を、歯には歯を」という言葉は「復讐してヨシ」ではなく、「復讐はしすぎるな」という抑止の意図だった!

そこで「目には目を、歯には歯を」という一説の真意ですが、「こちらがやられたこと以上の過剰な復讐をしてはならない」と、過剰な報復合戦を防ぐ目的で条文化されたのではないか?という学説が有力になっています。

つまり「やり返せ!」と煽るのではなく、むしろ「やられて悔しい人は、同じ程度の復讐をする程度でとどめなさい」という、抑止の意図でつくられた、と考えられるのです。

『ハンムラビ法典』の後書きには、王の願いとして「強者が弱者を虐げないように、正義が孤児と寡婦とに授けられるように」との文言も記載されています。条文だけでも法典として成り立つものを、あえて後書きに王の願いとしてこうした内容を記載しているあたり、ハンムラビ王は良心ある賢帝だったのであろう、と推測できます。

もちろん、現代的な価値観で見ると残酷に感じる内容も多々ありますが、ハンムラビ王は、国民の最大公約数が納得できる『法』とは何か?という課題に、誠実に真摯に向き合ったうえで、法典を編纂したのではないでしょうか?

ハンムラビ王の像(東京都 中野区 哲学堂公園)は、法律の主流をつくった人物として聖徳太子の像などと並んでいる。

現代でもイスラム文化の特徴のひとつに、一夫多妻制があります。これを男性上位の制度、と見る向きもあるようですが、実はイスラムの歴史的・地理的背景の中、戦闘等で家長や男手を失った寡婦や子供が、生活に困窮しないよう、力のある男性は複数の家庭を養うべき…という意識でこの文化が生まれた、という側面もあるようなのです。

ハンムラビ王の像のある中野区立哲学同公園は、いま、緑がとても気持ちのいい季節です。

一見、理解し合えないようなお相手や事象でも、よく知ると意外な発見があるかもしれません。いつまでも柔軟な心と好奇心を持ち続け、人生を楽しんで参りましょう!

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ILLUSTRATION :
小出 真朱
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