安価なワインばかりを造っていたカリフォルニアにおいて、世界的な銘酒「ロバート・モンダヴィ」、「オーパス・ワン」を生み出すなど、世界のワイン史を塗り替えたロバート・モンダヴィ氏(1913年〜2008年)。

彼はなぜ、カリフォルニアワインの地位を、現在ほどにまで向上させることができたのでしょうか? 今回は、その理由を探るべく、彼がこだわったナパ・ヴァレーをはじめとするカリフォルニアの気候特性や、彼自身の歴史を、関係者のインタビューを通じて振り返ります。

4つのポイントから紐解く!カリフォルニアワインが「一流」と呼ばれるようになった理由

■1:ぶどう栽培に最高の「風土」が、カリフォルニアワインの強み

カリフォルニアワインの産地として名高いナパ・ヴァレー。1839年にワイン用のぶどう栽培を始め、1861年に初めて商業用ワイナリーが誕生します。

現在のジョージアのあたりで紀元前8000年頃にはワインが飲まれていたと考えられているヨーロッパに比べると、その歴史は浅いものの、「オーパス・ワン」など、世界的な銘酒もあり、ワインの産地としてポジションを着実に築いています。

ナパ・ヴァレーにある「ロバート・モンダヴィ・ワイナリー」のぶどう畑
ナパ・ヴァレーにある「ロバート・モンダヴィ・ワイナリー」のぶどう畑

ワイン造りにおけるナパ・ヴァレーの魅力は、なんといってもその気候の良さ。ナパをはじめカリフォルニアは地中海性気候で温暖ですが、寒暖差があるためぶどうの糖度や酸などが上がりやすく、成熟期に雨が少ないため成長を妨げません。

ロバート・モンダヴィ・ワイナリー
ナパ・ヴァレーにある「ロバート・モンダヴィ・ワイナリー」

地区によっても少しずつ気候が異なり、30種以上の土壌が混在しているので、さまざまな品種を育てることができることも、幅広いワインを造るうえでの魅力となっています。

■2:カリフォルニアワインの「流れ」を変えた、ロバート・モンダヴィ氏

ぶどう栽培に適した気候のナパ・ヴァレーですが、その知識や技術は長い歴史をもつヨーロッパには及ばず、安ワインの生産地に甘んじてきました。その流れを変えたのがカリフォルニアワインの父と呼ばれる、ロバート・モンダヴィ氏

1979年にはフランスのシャトー・ムートン・ロートシルトを所有するバロン・フィリップ・ロートシルトとの共同経営ワイナリーを創設し、「オーパス・ワン」をリリースするなど、カリフォルニワインの歴史に偉大なる足跡を残しています。

■3:「新技術やマーケティング」を駆使し、カリフォルニアワイン地位向上を目指す

イタリアから移民してきた両親の長男として、1913年に生まれたモンダヴィ氏は、家族用のワインを造る父の手伝いをしながら若き日を過ごします。

幼少期
モンダヴィ一家。両親がイタリア移民だったため、料理とワインを楽しむ文化があり、自然とワインに触れ合っていた幼少期

ワイン産業で成功するには、ワイン造りの専門知識と同じくらいマーケティングが重要という彼のワイン造りの哲学を補強するために、スタンフォード大学で経済・経営を専攻。カリフォルニアで最高のワインを造りたいという情熱をもち続け、53歳のときに念願であった自らの名前を冠した「ロバート・モンダヴィ・ワイナリー」を設立します。

品質向上のため、ヨーロッパの伝統と技術に、アメリカの最新テクノロジーや経営・マーケティングの専門知識と組み合わせ、テクノロジーの近代化を積極的に進めます。

モンダヴィ氏
収穫したぶどうを手に笑顔のモンダヴィ氏

彼がカリフォルニアワインにもたらした功績のひとつに、ワインを熟成させる「樽」があります。ヨーロッパの洗練されたワインは、すべてオークの小樽で熟成されていることに気づき、それまで巨大なアメリカ杉の樽で熟成させていたのを止め、フランス産オークの小樽での熟成を導入しました。

■4:「カリフォルニアワインと芸術の融合」で、新たな文化を築く

モンダヴィ氏はワイナリーでジャズやクラシックのコンサート、美術品の展示会、フランスの一流シェフを招いて料理教室などを開催。これは「ワインは素晴らしき人生の一部である」という、彼の想いを形にしたものです。

モンダヴィ氏
生涯、カリフォルニアワインの発展に尽力したモンダヴィ氏

「ワイン造りは芸術であり、文化である」と語り、2000年にワインスペクテイター誌のリーダーズ・チョイス賞で、アメリカで最も重要なワイナリーに選ばれました。モンダヴィ氏がナパ・ヴァレーとワイン、文化・芸術の融合のために始めた音楽祭は、今も毎年大変な盛況で名物で、彼の残した功績は今もなお色濃く息づいています。

ロバート・モンダヴィ氏の精神を受け継ぎながら進化!新作「ロバート・モンダヴィ プライベート・セレクション」とは?

そんなモンダヴィ氏が、大切な人との時間を楽しむために生み出したプレミアムワインが「ロバート・モンダヴィ プライベート・セレクション」。高級ワインとデイリーワインの中間に位置し、誕生から四半世紀を迎えてもなお愛され続けている、同シリーズを現在手がけているのがジェイソン・ドッジ氏です。

今回は特別に、ドッジ氏にとってのモンダヴィ氏の存在、「ロバート・モンダヴィ プライベート・セレクション」について、お話を伺いました。

ジェイソン・ドッジ氏
現在「ロバート・モンダヴィ プライベート・セレクション」の指揮を執るジェイソン・ドッジ氏
Q. 世界中にワインメーカーはありますが、ジェイソンさんが「ロバート・モンダヴィ」で働こうと決めたのはなぜですか?
A. アメリカのみならず世界にカリフォルニアワインを広めたパイオニアであり、世界の人々に愛されるワインを造りたいという気持ちに共感したからです。憧れもありますが、モンダヴィの残した功績は私の目標とするところでもあります。
Q. モンダヴィ氏の仕事に対する姿勢で、影響を受けているところを教えてください。
A. 常に新しいアイディアを考え、チャレンジ精神が旺盛なところ。そしてみんなを牽引し、目標を実現する力をもっているところです。さらにアートが好きで、寄付などで社会貢献へ尽力していた点も尊敬しています。そのすべてに通底する、彼のクリエイティビティーは、自分も仕事をするうえで、かなり意識しています。
Q. モンダヴィ氏の哲学をどのようにワイン造りに生かしていますか?
A. 飲む人のことを考えたワイン造りと、伝統を大切にしながらも新しい技術を取り入れたワインを造っていること。彼の哲学でもあるこの2点は、私のワインメイキングにおいても重要な指針となっています。彼の意志を継いだ「ロバート・モンダヴィ プライベート・セレクション」は、まさに伝統と新しい技術を融合させたワインといえます。
ロバート・モンダヴィ プライベート・セレクション
現在、ドッジ氏が造っている「ロバート・モンダヴィ プライベート・セレクション」。左から「バーボン・バレルエイジド シャルドネ 」¥2,640・「バーボン・バレルエイジド カベルネ・ソーヴィニヨン」¥2,640(参考小売価格・税抜)

ワインを飲む文化をアメリカでもっと広めていきたいので「ロバート・モンダヴィ プライベート・セレクション」は、手の届きやすい価格で、消費者の期待を裏切らない、安定した品質を保つことが大前提にあります。そのうえで、クオリティーは誕生以来、少しずつ上がっています。

毎年高いクオリティーのワインを提供するために、私自身ぶどうの生育状況に細かく目を配り、収穫時期などを綿密にハンドリング。醸造も私が指揮をして、細かくチューニングしています。すべての工程で、自分の舌や職人の経験が重要です。

ぶどう畑でチェックする様子
最高のぶどうを栽培するため、長い時間ぶどう畑でチェックを行う
Q. 「ロバート・モンダヴィ プライベート・セレクション バーボン・バレルエイジド」は、バーボン樽で熟成させているのも特徴とうかがいましたが…
A. アメリカにはカリフォルニアのワイン造りと、ケンタッキーのバーボン熟成技術があり、そのふたつを融合させたいと思いました。私がバーボンも大好きなことも、大きな理由ですが(笑)。

バーボン樽由来のキャラメルやトーストしたココナッツ、甘いスパイスなどのフレーバーは絶対ワインに合う。そのふたつのお酒の親和性を確信した結果、導入しました。それにモンダヴィは、フレンチオークの小樽をカリフォルニアに最初に取り入れた人でもあります。彼のイノベーション精神に、敬意を払ってもいます。 

ワインの味わいを確かめる様子
バーボンバレルで熟成させたワインの味わいを確かめる

発展途上であるからこそ、果敢に挑戦できるのがカリフォルニアワインの強み

Q. 青いワインなど、最近では目新しいワインが誕生しています。ジェイソンさんがチャレンジしたい新しいワインのアイディアはありますか? 
A. バーボン・バレルエイジドシリーズがアメリカで非常に評判がよく、他の蒸留酒樽を使っての熟成を、と考え、昨年カリビアンラムの樽で、メルローを熟成した赤ワインをつくりました。口当たりはやわらかく、ラムのコクのある甘さが感じられます。アメリカではすでに市場に出ていますが、日本では未発売なので、ぜひ日本でも販売したいですね。
Q. ジェイソンさんの造るワインをはじめ、カリフォルニアワインの強みはなんだと考えますか?
A. カリフォルニアワインは歴史のあるヨーロッパのワインに比べると、まだベイビー。発展途上にあるところは強みだといえます。カリフォルニアは温暖な気候でありながら、太平洋からの涼しい風が吹いてくる地域がたくさんあります。寒暖差があり、ぶどうの生育にとても良い環境です。
セントラルコースト
「ロバート・モンダヴィ プライベート・セレクション」のぶどう畑の一部があるセントラルコーストは、シャルドネやピノ・ノワール、メルローの栽培に理想的な環境

しかし、これまでは好きな場所にぶどうを植えるだけでした。最近はそれぞれのぶどうに適した土地に植え替え、品質向上に努めています。気候だけでなく、ロジックも加わったたことで、さらに素晴らしいぶどうが生まれるでしょう。

カリフォルニアワインは、まだまだ成長の余地が多分にあります。攻めの姿勢を忘れず、これからも変化していくカリフォルニアワインに注目してほしいですね。


今回は、カリフォルニアワインの地位を向上させることに成功したロバート・モンダヴィ氏の精神を引き継ぎ、アメリカでワインと食の文化を定着させた「ロバート・モンダヴィ プライベート・セレクション」にフォーカスしました。

自宅でのディナーやポットラックパーティのワインリストの1本に、加えてみてはいかがでしょうか?

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この記事の執筆者
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WRITING :
津島千佳
EDIT :
石原あや乃