日本初開催、ラグビーワールドカップを10倍楽しむために知っておきたい3つのルールとは?
まもなく開幕するラグビーワールドカップ。第9回となる今回大会は、初めて日本で開催されます。
「興味はあるものの、ルールがよくわからない」という方のために、ラグビー元日本代表で、現在はラグビー解説者としてご活躍中の大西将太郎さんに、初心者にもわかりやすいルールや、今大会の見どころ、注目選手などについて教えていただきました。
大西将太郎さんTwitter
ラグビーで覚えるルールは「3つ」だけ!
Precious.jp(以下同)――ラグビーをまったく知らない方に、簡単にルールを教えてください。
ラグビーのルールは基本的には3つだけです。
■1:前にボールを投げてはいけない(スローフォワード)
■2:前にボールを落としてはいけない(ノックオン)
■3:ボールより前にいる人たちはプレーができない(オフサイド)
この3つだけです。
――点数は、どのように加点されていくのでしょうか?
点数を取る方法は4つあります。
■1:トライ 5点
ゴールラインを越えて、ボールをしっかり置く
■2:コンバージョンキック 2点
トライの後に、トライをした場所の延長線上からキックをして、ボールがHポールの間を通過
■3:ペナルティキック 3点
相手が反則した地点からキックしてHポールが通過(相手が反則した時は、ペナルティキック、もしくは、その地点から外に蹴りだして自分たちのボールとしてゲームを再開できる)
■4:ドロップゴール 3点
インプレーの中で、ボールを一度地面に落としてからキックをして、Hポールの間を通過
――1から3はよく見かけますが、4のドロップゴールは、あまり見ないプレーだと思うのですが…?
そうですね、なかなかみられないですね。でも、ワールドカップのような、選ばれた国同士の戦いの中では、このプレーが見られる可能性があります。
例えば、10対10で点数が動かないとき、最後、残り1分とか、残り1プレーになったとき、トライを狙いにいくより、このドロップゴールの3点を狙いにいく、という選択をすることがあります。ワールドカップのような大舞台だからこそ、十分にあり得ますね。
2019年のラグビーワールドカップ、日本は史上最強のチームで臨む!
――今回のラグビーワールドカップは日本初開催となりますが、概要を教えてください。
ラグビーワールドカップは4年に一度行われており、今回が第9回大会です。世界ランキング上位20国が参加し(例外もあり)、その20か国が4グループ、5か国ずつ、プールA/B/C/Dに分かれて、総当たり戦でリーグ予選が行われます。今大会では、日本はプールAで、同じプールには、アイルランド、スコットランド、ロシア、サモアがいます。
その後、リーグ予選を勝ち抜いた上位各2か国、計8か国が、決勝トーナメント戦へと進みます。
――見どころはどこでしょう?
まず、すべての意味で大切なのは、9月20の開幕戦となる、日本―ロシア戦。この試合が、この大会の日本代表の成績だけでなく、大会そのものの、成功のカギを握っている試合です。
――それは、なぜでしょうか?
初戦で「日本が勝った」となると、当然盛り上がりますよね。それまでラグビーに興味がなくて観なかった人も、きっと興味を持ってくれると思うんです。昨年のロシアのサッカーワールドカップで、日本が初戦でコロンビア戦に勝って、いっきに盛り上がったのと同様です。
プールAの戦いの行方は?
――初戦のロシア戦の予想は?
日本が完勝すると思います。ロシアは繰り上がりでワールドカップに出ることになりました。日本は世界ランキングでも、ロシアより上位にいます。
また、9月末の日本の気候、自国開催であること、日本は今までのワールドカップ大会、すべてに参戦しているのに対し、ロシアは2011年しか参戦していないこと、なども含め、日本がラグビーの魅力を存分に見せつけて、完勝すると予想しています。
――では、日本のプールAの結果予想は?
3勝1敗、でプールリーグを突破する可能性が高いですね。アイルランド以外には勝って、初の決勝トーナメント進出になると思います。
――いままで、日本は決勝リーグに進んだことがないのでしょうか?
そうなんです。2015年の第8回大会では、リーグ戦で3勝1敗だったのにも関わらず、決勝トーナメントに進めなかったという、黒歴史があるんです。ワールドカップの歴史の中で「3勝したのに、決勝トーナメントに進めなかった唯一の国」が日本。同じ3勝していた、南アフリカと、スコットランドに、「ボーナスポイント」で負けてしまいました。
――第8回大会で3勝もした、と聞くと、日本は強いイメージがあるのですが、過去のワールドカップでの成績はどうだったのでしょうか?
第2回ラグビーワールドカップで、ジンバブエに1勝、それ以降は13連敗していました。第6回大会で、3敗1分、第7回大会も3敗1分、そして、前回大会の第8回大会で3勝1敗と、大きく躍進しました。
日本ラグビーが躍進した背景と、現在の日本代表は?
――第8回大会で、突然3勝もできたのはなぜでしょうか?
日本代表監督に、エディー・ジョーンズという監督が就任し、日本のラグビーのマインドを変えてくれたことが、大きな要因です。「どうせ頑張っても、世界では勝てない」というマインドセットを切り替えたんです。「勝てる」と思えるチームに、日本代表選手たちを変えていきました。
過酷な練習、緻密な戦略と戦術。負け癖がついていた日本代表を、勝てるチームに変えていったんです。彼は、オーストラリアの代表監督を長く勤め、2003年自国開催の、第5回オーストラリア大会で、準優勝に導いた経験のある監督。勝ち方を知っている名将でした。
エディ―・ジョーンズには日本人の血が入っていて、日本人は「事細かく指示を与えたらその通りに動ける」し「過酷な練習をやり遂げられる国民性である」ことも、わかっていました。
――現在の日本の監督は?
ジェイミー・ジョセフという、ニュージ―ランドから来た監督です。エディー・ジョーンズは選手にロボットのようにやらせるタイプでしたが、ジェイミー・ジョセフはまったく違うスタイルで、日本代表を変えてきました。「自主性」を重んじる日本代表を構築したんです。
ラグビーのひとつの魅力として、「グラウンドに立てば、監督のサインや指示などは関係なく、自分たちの判断で繰り返されるゲームである」、ということが挙げられます。目の前で起こっている事象に対して、「どう対応していくか」、を自分たちで判断することが求められます。
監督のサインを、いちいち見ない。監督はベンチに入らない。基本的に、選手たちで話し合い、コールを聴いてみなで動き始める。ラグビーというのは、元来そういう自主性を重んじるスポーツなんです。
――協調性を重視する日本人に、自主性を求めるのは難しいのではないでしょうか?
自主性を持つためには、フィジカル面の強化、十分な経験が必須です。また、チームとしてアタックの方向性や方法が、きちんと共有できていること。ひとりひとりの成熟度があってこそ、自主性戦略ができるようになります。
2015年のワールドカップの後に、日本は「スーパーラグビー」(※)に参戦しました。スーパーラグビーは、1回のシーズンで地球2周分くらい移動するほど、タフなスケジュールが組まれています。その経験を経て、世界に近づけるメンタルができていきました。
そしてジェイミー・ジョセフが2016年、監督に就任し、その相乗効果が生まれて、今、日本代表のひとりひとりの選手の経験値が、過去とは比べ物にならないほど成長しました。2015年からの、この4年間の伸びしろは過去にはないものです。
――そうすると、2019年の今回大会は本当に期待が高まりますね。
間違いなく、過去にない、史上最強の日本代表ですね。
今大会の注目選手は「リーチ・マイケル」「田村優」
――日本代表の注目選手は?
絶対に外せないのは、キャプテンのリーチ・マイケル選手。精神面でも、プレー面でも大きな比重を持っているのが彼ですね。彼がいるか、いないか、で勝敗も変わってくるし、選手たちの安心感が変わります。日本代表にとって大きな存在です。
もうひとり、注目したいのがスタンドオフの田村優選手。いままで、このスタンドオフというポジションは、外国出身の選手が多かったんです。スタンドオフというのは、グラウンド上のボスです。サインを出したり、人を動かしたりする役割があります。前回のワールドカップから4年間、スーパーラグビーなどの経験もして、彼は成長を遂げ、現在とても良いパフォーマンスができています。
前回大会から半分くらい、代表選手は変わっていますが、前回大会にも、今回大会も出る選手たちがキーファクターになります。あれだけの地獄なような練習と、トレーニングをして、3勝したのに決勝トーナメントに進めなかった「悔しさ」。そのひとつの「線」みたいなものを知っているので、前回大会以上の事をしないと、決勝トーナメントには進めない、ということを身に染みてわかっている選手たちですから。
日本の順位予想は? 自国開催は有利?不利?
――今大会で日本の順位予想は?
まずは、プールAのリーグ戦を3勝で勝ち上がり、決勝トーナメントへ行けると思います。そして、その決勝トーナメントでは混戦が予想されます。
ティア1と呼ばれる10か国(ニュージ―ランド、イングランド、オーストラリア、アイルランド、南アフリカ、ウエールズ、スコットランド、フランス、アルゼンチン、イタリア)が、テストマッチで予想もしなかった結果を出していることもあり、どこが優勝してもおかしくない状況です。
決勝トーナメントに進むことさえできれば、日本が優勝できる可能性もあると思います。
――自国開催というのは、やはり有利なのでしょうか?
自国開催ということ、前回大会で3勝したということで、日本は有利なスケジューリングや移動が可能となりました。リーグ戦では、試合と試合の間は1週間あり、十分にリカバリーしてから次の試合に臨めます。
また、日本の予選リーグの試合は、9月20日の東京の味の素スタジアムから始まり、静岡、豊田、横浜、と移動も少ないので、フィジカル的な負担が少なくて済みます。メンタルも経験値も過去最強の日本代表が臨む、自国開催のワールドカップ。すべての条件がそろった大会となります。
だからこそ、今回の大会は日本代表にとっては「ノーエクスキューズ」です。
――最終合宿を経て8月29日に選ばれた、日本代表31名の仕上がり具合を教えてください。また、ワールドカップの前哨戦となった、9月6日の南アフリカ戦についてコメントをお願いします。
ワールドカップで2度の優勝経験のある、南アフリカという相手と、本番前に本気の戦いができたことは、日本代表にとって、絶対にプラスになると考えています。
今までの試合がうまく行き過ぎていたことが多く、見えにくかった課題が明確になりました。ハイプレッシャーで、上手くいくこと、いかないこと。
この経験を生かして、ワールドカップ本番では、さらに進化した日本代表の姿を見たいと思います。
ラグビーワールドカップは、ラガーマンの最高到達点
――大西さんは第6回ワールドカップに出場されていますが、ラグビー選手にとって、ワールドカップとはどのようなものなのでしょうか?
ラガーマンの目標の最高到達点が、「ラグビーワールドカップ」だと思います。
小さいころは遠い存在でしたが、2000年に大学生のときに日本代表に選ばれて、ワールドカップ出場というものに、現実味が帯びてきました。けれど、その2年後、日本代表から外され、2003年のワールドカップに出られず、悔しい思いをしました。その後ヤマハ発動機でプロ契約をしていた2006年に、4年4か月ぶりに代表に復帰しました。うれしかったし、選ばれたからには、このまま2007年のワールドカップに向かって突っ走りたいと思いました。
日本代表であっても、4年に1度の、そのタイミングで日本代表になっていなければ、出場できない。その前3年間調子が良くても、ワールドカップのその年に、調子が悪ければ選ばれない。限られた人にしか出られない、夢の舞台がワールドカップなんです。
自国開催ワールドカップは日本各地でラグビーやプロに触れ合えるチャンス
――Precious.jpの読者へ、メッセージをお願いします。
2019年ラグビーワールドカップは、北から、札幌、釜石、熊谷、東京、横浜、静岡、豊田、東大阪、神戸、福岡、熊本、大分、全国12都市で行われます。また、各国の代表チームのキャンプは日本各地、60か所以上で予定されています。
日本のどこに住んでいても、今大会に触れられますし、観に行きやすいと思います。僕自身、今までラグビーを観たことがない方にも、「ラグビーって面白い」と思ってもらえるような、掘り下げた解説をしたいと考えています。
アジア初のラグビーワールドカップとなるので、選手以外の方々も、それぞれ関わる方法があると思いますし、皆さんの心に残るワールドカップになってほしいですね。
――では、最後に、今大会の日本代表31名の勇士へ向けてメッセージをお願いします。
ラグビーをすることで、家族や、自分の時間など、計り知れないほど犠牲にしてきたことが多くあると思いますが、その犠牲にしてきたものの、何倍もの大きなものを得られるのが、最高到達点である「ワールドカップ」というものです。
今大会の「一生に一度」というキャッチフレーズ。選手ひとりひとりが、その言葉を心に刻んで戦う舞台になると思います、一片の悔いも残らないように、全てをかけて戦ってきてください。応援しています。
※
以上、ラグビー元日本代表で、ワールドカップでもご活躍された、大西将太郎さんにお話をお伺いしました。
ちなみに筆者は9月6日、熊谷ラグビー場で行われた南アフリカ戦を観に行きました。10年ぶりのラグビー日本代表試合の観戦でしたが、そこには、確実に10年前より進化し、強くなった日本代表の姿がありました。
2019年ラグビーワールドカップが、選手、関係者だけではなく、観客ひとりひとりの「心に残る」大会になることを願っています。
大西将太郎さん、この度は熱い思いを語っていただき、本当にありがとうございました。
- TEXT :
- 岡山由紀子さん エディター・ライター
- BY :
- 『ラグビーは3つのルールで熱狂できる』(大西将太郎、ワニブックス)
公式サイト:OKAYAMAYUKIKO.COM
- EDIT&WRITING :
- 岡山由紀子