女優ペネロペ・クルス、妖しくも清らかなその二面性の正体は?

好評連載「官能コスメ」の第21回目は、ペネロペ・クルスのスモーキーアイについて。ダークなカラーで囲んだ強めのアイメイクが醸し出す妖艶な魅力を、美容ジャーナリストの齋藤 薫さんが読み解きます。

アイシャドウ_1
パルファム ジバンシイ プリズム・イシム・アイズ の魅力をGIFアニメーションでお届け

この人の存在を初めて意識したのは、やはりあの時……トム・クルーズとの関係が電撃的に伝えられた時だったと思う。なぜなら当時のトム・クルーズは、ブレイクしつつあったニコール・キッドマンと結婚していて、その離婚報道とほぼ時を同じくして出てきた熱愛話だったからなのだ。

世の中は、何となくこう首を傾げたもの。なぜ、あんな美女を捨ててまで? 単純に、あの頃のペネロペ・クルスは、妻よりも見劣りすると思われていたのだ。

私自身、妻のほうのファンになりかけていたから納得できずにいたが、おそらく背徳の出会いの場になったであろう『バニラ・スカイ』という映画で、ペネロペ・クルスを改めて見た時、じつはちょっとした衝撃を受け、納得せざるをえなくなった。

映画_1
映画『バニラ・スカイ』の1シーン

これはちょっとカルト的な映画で、夢と現実が交錯、ペネロペ・クルスは主人公にとって「夢の女」として登場する設定だったからかもしれないが、少女のような透明感と、聖母のような穏やかさ温かさを秘めた女は、役柄の上とはいえ、別格の素晴らしさだった。

単に無垢なだけの清らかさではない、トム・クルーズ扮する男と激しく愛し合うのに、「聖女」のけがれなさを保ち続けている。だから「夢の女」なのだけれど、その生身の聖女っぷりは、この人が天性持っている個性なのだろうと感心させられたもの。

かくして、トム・クルーズが現実にそこまで入れ込んでしまう理由がわかった気がした。ちなみに、ペネロペ・クルスは『オール・アバウト・マイ・マザー』でも、また濃厚なバイオレンスを描いた問題作『悪の法則』でも、そうした「聖女」を演じている。

誰かが彼女を、宗教画の聖母マリア像にどことなく似ていると言った。なるほどそういう側面があって、その顔立ちから、処女のままキリストを身籠ってしまうような、極めて懐の深い大人の清らかさを醸し出すのだろう。

でも一方で、この人は「妖婦」の役をも数多く演じてきた。『ウーマン・オン・トップ』でも、『恋愛上手になるために』でも、また『NINE』や『ローマでアモーレ』、また『それでも恋するバルセロナ』でも、極めて存在感の強い「妖婦」を。たとえヒロインでなくても、空気を全部持っていってしまうような。

そうそう、この人は『セックス・アンド・ザ・シティ2』でも、女たちにとって最も危険な女を演じている。男たちが、どうしても心を奪われ、惑わされ、翻弄されずには済まなくなる女を、さまざまなシチュエーションで演じているのだ。

豊満なバストの持ち主ということもあるけれど、露出もたっぷりのコールガールもさらりと演じ、それでもやっぱり空気を持っていく女なのだ。

ここでもまた強く思わされたのは、この人の色気はありきたりのものではないということ。簡単に「セクシー女優」で済まされる存在ではない。いかがわしさギリギリの扇情的な女を演じても、やっぱり男の夢となり得てしまう、特別な妖艶さを持った人であること。

ひょっとするとその二面性の正体は、人一倍の女性ホルモン、なのではないか。まさしく「聖女」から「妖婦」まで、まったく対極にある女の魅力を同時に併せ持ち、聖女の時にもただならぬ魔性を持ってしまうのは、女性ホルモンの力にほかならない。それこそ、処女にして身籠もれるような女性性も、そこから来ている気がしてならないのだ。

たくさんの恋の噂がありながら、結局のところ母国スペインの、やはり強烈な個性を持つ俳優ハビエル・バルデムと結婚。ここまで男性ホルモンの塊のような男でないと、この女性ホルモンの塊のような女を受け止めることができないのだと、妙な納得がこの結婚にはあったもの。

セレブ_1
ペネロペ・クルスとハビエル・バルデム

で、何を言いたいのかといえば、この人は黒髪に黒い瞳。ラテン系にして、インドの血も入っているような(入っていないけれど)、アジアの匂いもどこかで宿している。

少なくとも、同じように男の夢になり得る金髪系のハリウッド女優より、私たち日本人が身近に感じられる佇まい。だから何となくでも、1か所でも、その果てしない魅力を盗み取りたい気がするのだ。

そこでひとつなぞってみたいのは、ペネロペ・クルスが「妖婦」系の女を演じる時に、共通して見せるスモーキーアイ……言うまでもなくそれは、目の周りをダークなカラーで黒々と縁取るような、強めのアイメイク。それが、聖女にも見えるこの人の顔を、このうえなく官能的に見せているのだ。

映画_6
第71回カンヌ国際映画祭(2018)

そもそもこのスモーキーアイ、誰もが文句なく美人に見える非常に有り難いテクニック。メイク効果100%、まったく無駄なく美人の顔をつくるストレートなメイクである。それも単純に、まつ毛も瞳も黒、これを強調することに徹したから。ある意味でシンプルだからこそ、失敗がなく、下品には見えない。気品を保ちながら女をゴージャスな美人に見せる、素晴らしいテクニックなのだ。

映画_7
METガラ(2019)
映画_8
第43回トロント国際映画祭

とりわけ、黒髪と黒い瞳にはよく映えるのにもかかわらず、日本女性が尻込みするのはたぶん、メイクとしてパワフルすぎるから。しかし奇しくも2019年の秋、このスモーキーアイがトレンドとなっている。試してみない手はないと思う。それこそ、ペネロペ・クルスのアイメイクをお手本にして。

セレブ_2
第76回ゴールデングローブ賞(2019)

ひょっとするとスモーキーアイは、最も色濃く女性ホルモンを形にするメイクなのかもしれない。だからこその、メイク効果100%。赤い口紅にこそ女性ホルモンを感じるという声もあるけれど、実際は違う。神秘的でもあり、どこか知的でもあり、でも絶対のパワーで女を縁取る黒々した目元、その魅惑に勝るものはないのだ。それを今、自ら試してみてほしいのである。

セレブ_3
第76回ゴールデングローブ賞(2019)
セレブ_4
ペネロペ・クルス

ペネロペ・クルスをお手本に取り入れる、スモーキーアイメイク

全員が美人に見えるスモーキーアイは、モノトーンの濃淡でつくる

アイシャドウ_2
シャネル レ キャトル オンブル 334 ¥6,900(限定発売中)

そう、シーズンのトレンドを見極めるうえで、確かな目安となるのが、シャネルの提案。そこで今シーズンのレ  キャトル オンブルの色を見てほしい。見事にスモーキーアイをつくるためのモノトーンのグラデーション。紛れもない美人色。このシンプルな濃淡こそが、全員を美人顔に導く決め手なのである。

濃い色から少しづつ、淡い色を重ね塗っていくのが、スモーキーアイづくりの鍵

アイシャドウ_3
パルファム ジバンシイ プリズム・イシム・アイズ No.1 ¥7,600(限定発売中)

スモーキーアイのつくり方として、最も重要なのは、モノトーンの自然なグラデーションをつくること。でもこのグラデを単色で表現するのはやはり難しく、こうした濃淡の多色パレットを用意してほしい。目のキワから濃いほうを塗り、徐々に外側へ淡い色を塗り重ねていくとうまくいく。同じモノトーンでも、濃淡を上手に描ける色が自在に選べる、こんな多色パレットが重宝だ。

色の奥に黒がある……そんな表現がスモーキーアイをよりドラマチックなものにする

アイシャドウ_4
Amplitude コンスピキュアス ダブルアイズ 01 ¥6,000

アンプリチュードは今シーズン、透け感あるダークを表現。黒の奥に色がある、あるいは色の奥に黒がある……そういった提案によって、全く新しいダークアイ、ドラマチックなスモーキーアイを見せてくれている。逆に目元を黒々と囲むのは抵抗があるという人は、ここから始めてみてもいい。黒の上に赤を重ねて。あるいは赤の上に黒を重ねて。洗練された上品なスモーキーアイが誰でも難なくつくれるはずだから。

※掲載した商品の価格はすべて税抜です。

問い合わせ先

この記事の執筆者
女性誌編集者を経て独立。美容ジャーナリスト、エッセイスト。女性誌において多数の連載エッセイをもつほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザー、NPO法人日本ホリスティックビューティ協会理事など幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。近著『大人の女よ!も清潔感を纏いなさい』(集英社文庫)、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)ほか、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。好きなもの:マーラー、東方神起、ベルリンフィル、トレンチコート、60年代、『ココ マドモアゼル』の香り、ケイト・ブランシェット、白と黒、映画
PHOTO :
戸田嘉昭、池田 敦(パイルドライバー)、Getty Images