私たちを夢中にさせる、奥深きシャンパンの「泡」の世界

シュワッと立ち上がるゴールドの泡。のどごしの爽やかさはもちろん、その華やかなビジュアルも相まって、シャンパンやスパークリングワインの人気は高まる一方です。

さらにここ数年、かつてはその複雑な製造方法により、大手メゾンしかつくれなかった高品質のものが、技術や情報、流通の発達により、小さなつくり手のものも楽しめるようになりました。

その土地の風土を生かした味、近年ブームの「ビオ」といったつくり手の哲学が光るものなど、個性豊かな一本が世界中で誕生し、「泡」の世界はますます広がりを見せています。

「特別な日だからとりあえず!」から、一歩進んで、シャンパン&スパークリングワインをもっと楽しめる大人になりたい!

乾杯のときだけでなく食事中ずっと楽しむお酒として定着し、「朝シャン」や「締めシャン」という言葉も登場、休日の昼下がりにも軽く一杯。

すっかり敷居が取り払われた、大人の「泡」をさらに楽しむために、基礎知識や豆知識について、ワインジャーナリスト斉藤研一さんにお話を伺いました。さあ、奥深き泡の世界へ!

斉藤研一さん
ワインジャーナリスト
(さいとう けんいち)新聞記者を経てワインの世界へ。ワインスクールを主宰し数千人のソムリエを育てたほか、大ヒット漫画『神の雫』でアドバイザーも。現在は「いまでやSAKEコンシェルジュ」としても活躍。著書に『シャンパーニュから始まるスパークリングワインの世界』など。

シャンパンの基礎知識&豆知識7

きめ細かな泡立ちはもちろん、ふくよかな香りも楽しめるシャンパーニュ専用グラスは、「リーデル」の代表作『ソムリエ シリーズ』の『ヴィンテージ・シャンパーニュ』¥17,000(税抜)。端正なシルエットは、熟練の職人によるハンドメイドでつくられている。

■1:シャンパンとスパークリングワインの違いって?

「ワインには大きく分けて、泡の出ないワイン=スティルワインと、発泡性ワイン=スパークリングワインがあります。

スパークリングワインは、スペインでは『カバ』、イタリアでは『スプマンテ』など、生産国によって呼び名が違います。また、さまざまな製造方法があるのも特徴です」と斉藤さん。

では、「シャンパン」との違いはなんなのでしょう?

『シャンパン』と呼べるのは、フランス・シャンパーニュ地方でつくられたスパークリングワインだけ。おもに3品種(ピノ・ノワール、ムニエ、シャルドネ)のブドウを使い、伝統的な製法(シャンパーニュ方式)でつくられたワインだけに許される呼び名が『シャンパン』なのです」(斉藤さん)

■2:すぐ飲むべきか、寝かせるべきか。

スパークリングワインは買ったらキンキンに冷やしてすぐ飲むべき! そう思っている人、多いのでは? 「もちろんすぐ飲んでもおいしいですし、適温といわれる5℃に冷やすと、爽快感が引き立ちます。

ですが、個性豊かなスパークリングワインが続々登場している昨今では、2、3年以上寝かせることで、ローストしたナッツのような芳香が生まれ、なめらかさが増し、味に深みが生まれるものもあります。あくまで好みですが、きちんと保管すれば熟成は可能です。

また、重厚感や複雑感をもつ一部のシャンパンは、8〜12℃くらいで楽しむのが妥当。冷やしすぎると魅力が半減するものもあります」(斉藤さん)

正しい保管方法は、10℃前後の部屋で、横に寝かせて置くこと。紫外線は厳禁!

「ちなみに、栓を開けたあとに飲みきれなかった場合ですが…ガス圧は落ちますが、高品質なものであれば原酒そのものがおいしいので、密閉栓をして冷蔵庫で保存すれば2、3日は楽しめます」(斉藤さん)

■3:気のきいた「泡コメント」、教えてください。

イラスト/平田利之

青リンゴや柑橘系フルーツのさわやかな香り、洋梨や熟したリンゴのような芳醇な香り、白い花の華やかな香り。ローストしたナッツや焼きたてパンの風味。リッチで肉厚、あるいは軽やかな飲み口。大人の女性なら、「お、わかってるな」と思われる気のきいたコメントをもっておきたいもの。

ワインと違うのは、やはり『泡』に関する表現です。きめ細かい泡がグラスの底からしっかりと立ち、口の中でプチプチッとはじけるような飲み口なら、『フレッシュでクリスピーな泡立ち』などと言ってみては? でも、無理をして気どったコメントをしなくても、まずは感じたままに、素直な感想を伝えてみましょう」(斉藤さん)

ちなみに「シャンパンの祖」といわれるドン ペリニヨンは、偶然でき上がった泡の出るワインを口にした瞬間、「まるで星を飲んでいるようだ」と叫んだとか。

■4:「RM」と「NM」って?

イラスト/平田利之

RM(レコルタン・マニピュラン)とは、自社の畑のブドウでシャンパンをつくる栽培醸造家のこと。自社畑で勝負するので、テロワール(土地固有の特徴)が出やすく、つくり手の哲学が反映されやすい小規模な生産者です。1990年代末にブレイクしたジャック・セロスが有名ですが、インターネットと物流の発達によって、以降、各地で個性的なRMが出てきています。

対して、NM(ネゴシアン・マニピュラン)とは、『モエ・エ・シャンドン』や『ポメリー』などのいわゆる大手メゾンのこと。契約栽培農家から購入したブドウや、一部自社畑のブドウをブレンドして自社スタイルのシャンパンを安定的に製造。シャンパンの全体の売り上げの7割がNMです」(斉藤さん)

■5:「美しきコルドン」、知っていますか?

イラスト/平田利之

「シャンパンの泡のことをフランスでは『ペルル』(パール=真珠)と呼びますが、そこから、グラスに注がれたシャンパンの表面に泡がつながっている様子を、『真珠のコリエ(首飾り)』と呼ぶようになりました。確かに、横から見ると、白い泡の部分はパールの首飾りのようですよね。

また、『コルドン』もよく耳にすると思いますが、フランス語で『リボン、紐』という意味。そこからも、美しい泡シャンパンのを『美しきコルドン』と表現するようになったとか。

ちなみに、地位の高い人が身につけていたのが、リボンのついた勲章。そこから、青や赤、ゴールドなどの紐やリボンのモチーフが、シャンパンボトルのネックによく使われるようになったともいわれています」(斉藤さん)

■6:「プレステージ・シャンパン」とは?

つくり手が面目をかけてつくる、通常のラインナップとは別の最高級シャンパンのことをいいます。日本では『プレステージ・シャンパン』といういい方が一般的ですが、業界では『キュヴェ・プレステージュ』とも呼ばれます。

良作年の、特級畑のブドウなど、厳選した素材を使い、手間と時間を惜しまず、極上の原酒(キュヴェ)でつくられるゆえ、味はもちろん値段も別格です(笑)。

当時の権力者の要望で特別につくったといわれる、『ルイ・ロデレール』の透明なボトルが特徴の『クリスタル』、1936年に発表された『ドン ペリニヨン ヴィンテージ 1921』が、プレステージ・シャンパンの始まりともいわれています。

いずれにしても、メゾンの威信をかけたフラッグシップモデルなので、パッケージのデザインや瓶も実に豪華。目にも麗しい逸品がそろっています」(斉藤さん)

■7:「グラン・クリュ」とは何か。

シャンパーニュ地方には、独自の格付け制度があり、1919年に定められた『エシェル・デ・クリュ(村の等級)』に基づいています。

クリュ(村)のブドウの取引価格によって、100〜80%の数字で区分けされ、100%=グラン・クリュ、99%〜90%=プルミエ・クリュと格付けされました。つまり、グラン・クリュとは、格付け100%の特級の村のことをいいます。

シャンパンをつくることが認められている319の村のうち、グラン・クリュは17、プルミエ・クリュは42の村に限られます。

現在、この制度は廃止されましたが、品質の基準と価格の目安として慣習的に残っており、17の村の原料だけでつくられたシャンパンは、『グラン・クリュ』とラベルに記すことができますから、やっぱりつくり手はこだわりますよね」(斉藤さん)

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PHOTO :
川上輝明
ILLUSTRATION :
平田利之
EDIT :
田中美保、佐藤友貴絵(Precious)