人生を重ねた大人の女性だからこそ見えてくる、豊かな暮らしとは?を、Precious編集部が総力取材。計7名のお宅を取材した中の、お一人目。建築家・半谷 仁子さんのご自宅兼事務所をご紹介します。

建築家・半谷仁子さんの風と光を感じる家を拝見

東京のど真ん中にありながら、明るい光と涼やかな風、グリーンが眩しい開放的な住まい。まるで「リゾート」のような空間に、訪れた人は皆、心地よく酔いしれ、ついつい長居してしまうそう。

「私自身、軽く飲みながら料理して、ゲストの方にどんどんワインをすすめちゃうから(笑)。でも、人が集って賑やかに楽しく過ごしてもらえるのがうれしくて。皆さんが帰ったあと、空になったボトルを眺めながら洗いものをするのが至福のときです」

と笑うのは、建築家の半谷仁子さん。カフェやレストランほか、個人の住宅も多数手がけています。さっそく、そのお宅を拝見していきましょう。

半谷仁子さん
建築家
(はんがい じんこ)「モンスーンカフェ」ほか話題の店舗や住宅を多数手がける。2018年より「ギャラリーサロン 守破離」を主宰。季節を大切にする日本の気持ちのいい暮らしをテーマに、不定期でワークショップを開催している。

半谷仁子さんのHouse DATA

間取り…2LDK 家族構成 …ふたり 住み始めて何年? …約25年

「オンとオフをきちんと切り替えたくて、リゾートのような開放感あふれる空間にしました」

「この家は、25年前、自宅兼事務所として設計しました。当時、子供がまだ小さくて、仕事と子育てを両立させるには職住近接が効率的だと考えたのです。

1階が事務所、2階と3階が自宅でしたが、オンとオフをきちんと切り替えたくて、"日常がリゾート"をテーマに家づくりをしました。大きな窓を多く配し、天井を思いきり高くして、光と風と緑を感じられる仕様にしています」(半谷さん)

■1:大きくて深いシンクのあるキッチン

建築家・半谷 仁子さん宅のキッチン。
建築家・半谷 仁子さん宅のキッチン。

キッチンのこだわりはシンクの大きさ。魚をさばきたくて、大きくて深いシンクを特注されたそうです。ゲストが多く訪れる半谷邸は、大皿料理がメインで、国内外で買い求めた大きな器がずらりと並びます。「ご飯が冷めてもおいしい」と、「栗久」のおひつを愛用。

■2:ダイニングとリビングをつなぐバルコニー

半谷さん宅のバルコニー。
半谷さん宅のバルコニー。

全開口の窓が心地よい、ダイニングとリビングをつなぐバルコニーは、室内と屋外が一体になったような開放感です! インド・ジャイプールで買ってきたという丸い石のテーブルは、鮮やかなグリーンの植物たちとの相性抜群。

■3:上からも下からも緑にあふれたリビング

半谷さん宅のリビング。
半谷さん宅のリビング。

「日当たりがいいせいか、ぐんぐん育ってジャングルみたい(笑)」と、半谷さんが話すリビングにはたっぷりの植物が。

カーテンは"フジエテキスタイル"の白とバーガンディ。日中はカーテンを閉めていても、明るく壁を彩る色や素材をセレクト。夜は一転、ほのかな灯りのなか、ソファで読書を楽しむのだそう。

「たとえば週末、家から一歩も出なくても、思いきりリフレッシュできる空間にしたかったんです。

ただ、開放的すぎて、わが家はトイレにもバスルームにも扉がいっさいないオープンなつくり。夏は虫が入ってくるし、冬はやっぱり寒い(笑)。

でも、多少の不便って、逆に愛しいものです。暮らすうちに慣れるし、どうしても気になれば家を改造していけばいい。家は生きもの。暮らす人と一緒に、進化していくものですから」(半谷さん)

■4:屋上ガーデンにつながるダイニング

半谷さん宅のダイニング。
半谷さん宅のダイニング。

ダイニングの床のテラコッタタイルは、一枚一枚、職人が素焼きしたものをイタリアから取り寄せ、窓のサッシはすべて温もりのある木枠に。

3.4メートルのダイニングテーブルは、樹齢600年の杉の木をカットしてクレーンで搬入、大谷石にのせてセット。そこかしこに飾られている絵画やオブジェ、花瓶や器、30年以上愛用している名作椅子の数々…。すべてに半谷さんの「好き」が詰まっています。

ヨーロッパでひと目惚れして購入、抱えて持ち帰ったという古い時代のボードゲーム。インテリアとしても素敵。
ヨーロッパでひと目惚れして購入、抱えて持ち帰ったという古い時代のボードゲーム。インテリアとしても素敵。
好きなものは隠さず、茶箪笥を使って「見せる収納」に。季節や気分によってディスプレイを変えて、楽しまれているそうです。
好きなものは隠さず、茶箪笥を使って「見せる収納」に。季節や気分によってディスプレイを変えて、楽しまれているそうです。
2階の自宅玄関。「海岸でかわいい石やサンゴ、貝殻があれば、重くてもつい持ち帰ってしまう(笑)」という半谷さんの収集品がお出迎え。
2階の自宅玄関。「海岸でかわいい石やサンゴ、貝殻があれば、重くてもつい持ち帰ってしまう(笑)」という半谷さんの収集品がお出迎え。

「家はどんどん変化するもの。だって、自分の"好き"と"人生"が詰まっているから」

「本当に好きだと思って手に入れたものとなら、工夫しながら長く一緒に過ごせると思います。

たとえば若いころに買って、好みが変化したなと思う家具でも、年齢を重ね、価値観が明確になった今なら、自分なりにおもしろがってアレンジするのも楽しいはず。

それは、ものへの執着というより、その瞬間、ワクワクしながら手に入れた"時間"に対する思い入れともいえるでしょう。

自分の好きなものに囲まれて暮らすというのは、自分が歩んできた"人生"と"好き"と暮らすということ。40代・50代はそれが楽しめる年代だと思います」(半谷さん)

■5:デイベッドのある屋上ガーデン

3年前につくったという屋上ガーデン。「夕暮れどき、ワイン片手にデイベッドでくつろぐ時間がたまりません」とのこと。
3年前につくったという屋上ガーデン。「夕暮れどき、ワイン片手にデイベッドでくつろぐ時間がたまりません」とのこと。
もともとあった窓を屋上への出入口に改造。そのための階段も取り付けたそうです。
もともとあった窓を屋上への出入口に改造。そのための階段も取り付けたそうです。

半谷流、今すぐ取り入れられるインテリアのヒント

床の間がなくても、壁や板を使って、床の間に見立てる

半谷さん宅のダイニングの一角の床の間に見立てたスペース。
半谷さん宅のダイニングの一角の床の間に見立てたスペース。

半谷邸の一角には、床の間に見立てたスペースがあります。

「この日は、ダイニングの壁に大きな養蚕籠をかけ、水車板の古木を台にして床の間に。

ロンドンで活躍する注目の若手金工作家・中島真太さんの花瓶に南天の枝を生け、強さと涼やかさを演出し、珊瑚や石も添えて、遊び心を加えてみました。

かごやざる、板や箱などをかける、重ねる、置くことで"床"はつくれます。自由な発想で季節のしつらえを楽しんでみてください」(半谷さん)

PHOTO :
川上輝明
EDIT&WRITING :
田中美保、古里典子(Precious)