「モンデリーズ・ジャパン」営業本部長・下出香織さんに聞く「働きやすい職場環境づくり」
子供から大人まで、幅広い世代に愛されているビスケット「オレオ」、お口の爽快感で有名な「クロレッツ」など、有名な菓子の製造販売を手掛ける「モンデリーズ・インターナショナル」。
その日本法人「モンデリーズ・ジャパン」の営業本部長を務めているのが、下出香織さんです。営業を極めた下出さんに、営業の極意やマネジメント論、キャリアチェンジなどについて、お話をお聞きしました。
Precious.jp編集部(以下同)――経歴と現在の職務内容を教えてください。
上智大学を卒業後、社会人をスタートするときに、「身近なものを取り扱う会社に入りたい」と思い、新卒でサントリーに入社し、洋酒のマーケティングからキャリアをスタートしました。
その後、ハインツ日本、ブルーベル・ジャパン、ダノンジャパン、バカルディジャパンを経て、現在のモンデリーズ・ジャパンに入社したのが2013年です。2017年から2018年の1年間、メルボルンへ駐在していました。
新卒からずっとマーケティング畑を歩んできたのですが、ダノンジャパンでヨーグルトのBIOのブランドマネージャーをしていたとき、当時の社長の勧めで営業部に異動し、そこから営業職に従事しています。
現在、モンデリーズ・ジャパンで取締役兼営業本部長として、約60名の営業社員のマネジメントを主に行っています。
大人になると、同じ場所にとどまることで、成長することが少なくなる
――転職を何回かなさっていますが、その理由はなんでしょうか?
「常に成長したい」と思っているからです。子供って日々、成長しますよね。歩けるようになって、話せるようになって、走れるようになって。でも大人になると、同じ場所にとどまることで、成長することが少なくなると思うんです。
昨日より今日、去年より今年、と、仕事でもプライベートでも「常に前進」を意識していますね。好奇心が旺盛なんです。
営業としての心得は、「ソリューションプロバイダー」であること
――マーケターから営業職に変わられていますが、営業職という仕事の魅力はなんでしょうか?
マーケティングも営業も両方、面白いと思います。10年間マーケティングを経験し、その後10年間営業をやっていますが、現在は営業職にとても魅力を感じています。もちろん、そこに良い商品があることが前提なのですが、その商品を、「人が介在して、個人力をつけて」届けられるのが、営業の醍醐味と魅力です。
そして、数字として結果がはっきり見えるのも、営業の魅力だと感じています。
――下出さんが、営業として結果を出し続けている秘訣は何でしょう?
■1: 明確な戦略とプランニング
■2: 想像力や先を読む力
■3: 結果を出したいと思う気持ち
この3つです。世の中には様々な営業向けのビジネス書が存在しますが、私はそういったビジネス書は読みません。それはその人の成功論であって、自分のやり方ではないからです。
営業においては、結果が数字ではっきりと表れますので、明確な戦略が欠かせません。
また、その戦略を信じて行動していても、外的要因や内的要因で、見据えた先が違うと感じたならば、それをいち早く読み取って、周りと話し合い改善策を見出します。
そして、何より大切なのは、「自分が結果を出したい」という強い気持ちです。その強い気持ちがなければ、数字を達成することはできません。
また、もうひとつとても大切なことで、自身で常に心掛けていること、そして部下に常に伝えていることとして「ソリューションプロバイダー」であるべきだと。ソリューションプロバイダーとは「解決策を提供する人」という意味です。
例えば、得意先のお客様が問題を抱えて悩まれているときに「モンデリーズの営業に相談してみよう」と思われるような営業人であることです。
印象や記憶に残る「香り」を味方につける
――営業ウーマンとして、他にも意識していることなどはありますか?
ブルーベルジャパンにいたときに、香水の担当をしていたのですが、「香り」は印象や記憶に残るものなので、T.P.O.によって香水を使い分けています。
会議があるときなどはシトラス系のものを、プライベートではやわらかいフローラル系のものを選んで、気分転換をしています。
また、営業本部長という立場上、会食や大きなミーティングなども多くありますので、スーツやワンピースなど、先方様に不快な思いをさせない服選びも心がけています。
ココ・シャネルの潔さ、その生き方があこがれですので、シャネルの香水やバッグ、小物なども好んで使っています。
マネジメントで大切なのは、自分のしていることを「誰かが見ていてくれる」とメンバーが思えること
――営業本部長として、何名の部下のマネジメントをされているのでしょうか?
ダイレクトマネジメントしているのは10名ですが、営業は約60名います。全社の男女比は半々くらいなのですが、営業は9割男性です。
――多くの男性社員をマネジメントすることは、大変ではないですか?
あまり、ジェンダーを意識したことがないので、大変だとは思いません。また、社員からも「女性」と思われていないかもしれません(笑)。男性でも女性でも、常に「一人間」として見ています。
男性であっても女性であっても、それぞれに得意、不得意な部分があると思いますので、その部分を補いながらやっていければいいのではないか、と考えています。私自身は20年を超えるキャリアの中で「女性だから」という理由で、特につらい思いをした、ということはありません。
――下出さんがマネジメントをする上で、最も大切にしていることはなんでしょうか?
まず何より「話を聞く」ことです。営業は全国にいますので、ひとりひとりの動向を毎日追えるわけではありません。でも、社員とできるだけ話をして、気が付いたことをフィードバックする、そして誰に対しても「あなたがやっていることは、会社に貢献しているんだよ」ということを、伝えるようにしています。
社会人として自分のしていることを「誰かが見ていてくれる」と思えることって、とても大切なことだと思うんです。褒められることだけでなく、怒られることも、その会社で仕事を続けていく上で「誰かが見ていてくれている」ことがモチベーションになりますよね。
業績の大小にかかわらず、可能な限り、社員ひとりひとりにフィードバックするように心がけています。大人数の営業社員がいますが、彼、彼女たちにとって、営業本部長は私一人なので、その自分が発する言葉や行動は少なからず、影響を与えるものだと思います。
言葉を選びながら、モチベーションにつながる声掛けをするよう心がけています。他部署のメンバーにも声掛けして、円滑なコミュニケーションを図るようにしています。
そして、リーダーである以上、さらに強いリーダーを育てることもマネジメントの役目のひとつですので、「自分で問題を解決できる人間になる」よう指導しています。
上司に相談をするのは悪いことではありませんが、提案を持たずに相談するのではなく、何かしらの解決法を持って相談すること。「この問題に対し、自分はこういうように考えているのですが、どうでしょうか?」といった、具体的な解決法や提案を持ち、自分で考える習慣をもつことで、強いリーダーが生まれると考えています。
――営業のサポートをするバックオフィスの社員は、数字が見えにくく評価しづらいと思うのですが、その方々へはどのような心掛けをされていますか?
ひとりひとりと話し合うのはもちろんですし、悩みや相談を吸い上げて、解決するようにしています。すべての社員が必要だからそこにいるのであって、必要じゃない社員なんて一人もいないんです。数字として結果が見えなくても、とても重要なんです。
バックオフィスのサポートのお陰で営業の仕事が成り立っている、ということを営業の社員が認識していて、例えば営業のある社員が表彰されたときに「バックオフィスの○○さんの協力がなければ、この結果を出すことはできませんでした、ありがとうございました」などの感謝の気持ちを伝える姿が見られます。それを聞いて、私もとてもうれしく思いました。
「We win, I fail.」。成功は皆のもの、失敗は自分だけの責任
――社員によくかける言葉は何ですか?
「マネジメントを信じて、ついてきてほしい」と常に言っています。
成功するときは「私たち」という言葉を使いますし、失敗したときは、私個人が全責任を負う。「We win, I fail.」。それが私のマネジメントです。
年初のキックオフミーティングや、常日頃から言っていますが、「マネジメントを信じてついてきてほしい」「最終的に責任は私が負うから、安心して仕事をしてほしい」とあえて宣誓しています。
そうすることで、社員が思い切り仕事をすることができるのではないか、と考えているからです。何かあれば自分が責任を取る。常にその覚悟で仕事に向き合っています。
ーーそういった覚悟は、どのように生まれたのでしょうか?
実は、就職して数年目、まだジュニアだった頃に、大きな失敗をしたことがあるんです。あるプロジェクトを任される機会がありました。そのプロジェクトでは「コスト管理」に高い意識を持たなければならず、自分の意識がコスト管理ばかりに向いていました。
他部署を含めた大きなプロジェクトで、経験豊富なデザイナーさんも関わっていて、素晴らしいデザインを提案してくださっていたのに、「これはコストが合わないからダメです」と言いのけてしまったのです。
そしたら、その時の上司に「下出さん、チームとしてやっていくわけだから、相手の意図も汲みながら、チームをまとめていこうね」と。
その時は目の前のコストの事ばかり考えていて、素晴らしいデザインを考えてくださった、年長者の方に非常に失礼だったなと、今でも年に数回思い出すんです。そのことがあってから「相手の気持ちを汲む」「相手に共感し、理解する」ことができるようになりました。
若いころは注意されると落ち込んだりしていましたが、上司になってわかったこと、それは「叱られるほうより、叱るほうがエネルギーも気も遣う」ということです。
ありがたいことに、今まで働いてきた会社では、常に「こんな人になりたい」という上司ばかりに恵まれてきました。成功はみなのもの、失敗は自分の責任。いままで学びを与えてくれた、素晴らしい上司のお陰です。自分もそんな上司でありたいと思っています。
駐在で学んだ大切なことは「自分の意見を躊躇なく言う」こと
――1年間のメルボルン駐在では、どのようなことを?
46歳で初めての海外生活でしたので、すべてが初めてのチャレンジでした。周りに、知人友人などがいない環境だったので「レジリエンスする力」がついたと思います。ある意味の強靭さ、ですね。
「日本では当たり前にできていたことができない」、ネイティブスピーカーの大きなミーティングの中で戸惑うこともありました。しかし、現地の方々の積極性な姿勢や、物おじしない発言などから学ぶことも多く、「自分の意見を躊躇なく言う」ということができるようになりました。
それは、日本に戻ってから、とても役にたっています。例えば、弊社の代表は外国人なのですが、コミュニケーションをとりやすくなりましたし、自分が会議などで躊躇なく発言するようになったことで、周りの人も積極的に発言しやすくなったように思います。
外資系の会社ですので、海外の方々とのやり取りの中でも、躊躇せずに意見を言えるようになったことも大きな収穫でした。
働きやすい職場環境づくりが、業績UPにつながる!
――御社は働きやすい会社だと聞いていますが、社員のみなさまは、どのような働き方をしているのでしょうか?
弊社は、2016年から「ワークフロムホーム」「スーパーフレックス」を導入しています。業務に支障がなければオフィスへの出社日数も決まっていませんし、フレックスですが、コアタイムもありません。
オフィス内はフリーアドレスで、誰がどこに座って仕事をするのも自由です。社員を信じているので、きちんと結果を出せるなら、働き方は問いません。有給休暇の消化率も高いです。よく「その仕組みだと、さぼる人がでてくるのでは?」と聞かれるのですが、私が心配したのは、社員の姿が見えないからこそ逆に、「働き過ぎる社員がでてくるのではないか」ということでした。
ですので、社員が働き過ぎないよう、気をつけて管理しています。また、自由がゆえに「他の社員と接点がなくてさみしい」という声が上がってきたことがありました。そういう声に耳を傾け、社員が働き過ぎたり、さみしい思いをしないように、皆で集まる時間をつくるようにしました。
――子育てされている女性にとっても働きやすいですね。
そうですね。お化粧や通勤に時間をかけて疲れて仕事をするより、自宅からの業務であれば、隙間時間は家事などをしながら働けますので、女性社員が産休、育休から復帰しても厳しくない環境だと思います。
自主性に任せられている、信頼されている、という事を社員が感じているのだと思います。離職率も低く、現在のところ問題が起きていないので、これからもこの環境を継続していく予定です。
趣味のゴルフは「自己鍛錬」の場
――先ほど、好奇心旺盛とおっしゃっていましたが、ご趣味はなんですか?
ゴルフです。5年ほど前から初めて、先月ベストスコアの80を出しました。ホームコースでは月例会などにも参加しています。先ほども申し上げたように、「常に成長」したいと思っていますので、ゴルフでもベストを更新したいと思っていました。それまでのベストスコアが84でしたので、前進できて、とてもうれしかったです。
――ゴルフは仕事に生きていますか?
ゴルフと仕事は似ていると思います。数字が見える。人のせいにできない。自分との闘い。何より、ゴルフを始めて、一喜一憂することがなくなりました。
ゴルフに「たられば」はないんです。終わってしまったことは事実だから、引っ張らずに、すぐに次に切り替えるという事が大切だと学びました。ゴルフはリフレッシュの場であるとともに、私にとっての「自己鍛錬の場」でもあります。
――最後に、下出さんの座右の銘をおしえてください。
大学時代に出会った、マザーテレサの言葉を大切にしています。
「思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。言葉に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから」
※
以上、モンデリーズ・ジャパンの下出香織さんにお話をお伺いしました。
「姉御肌」という言葉がぴったりと当てはまる、さっぱりとした、非常にフェアな女性でいらっしゃいました。「人にやさしく、自分にきびしい」方だとお見受けし、こんな方が上司だと、社員も働きやすいだろうな、と感じながら、お話を聞かせていただきました。
明確な営業極意とマネジメント論のもと、多くの社員とともに結果を残している、素晴らしい日本人女性にインタビューさせていただき光栄でした。
下出香織さん、この度は本当にありがとうございました。今後のますますのご活躍をお祈りしております。
- TEXT :
- 岡山由紀子さん エディター・ライター
公式サイト:OKAYAMAYUKIKO.COM
- EDIT&WRITING :
- 岡山由紀子