今回、美容医療についてお話を伺ったのは、栄養管理から外科までこなす、東京・広尾にある「天現寺美容クリニック」松宮敏恵先生(形成美容外科医・美容皮膚科医)。第一回目は「入門編」として美容医療とはどのようなものなのか、そして施術を受ける前に自分でできることについて教えていただきました。
———まず、先生のところに相談に来る40代の女性たちは、どのような悩みを抱えているのですか?
松宮先生:40代以降の悩みでいちばん多いのは「たるみ」です。薄いシミならメイクでカバーできるし、40代のシワは、既に治療を受けたことがある方が多く、注射でかなり改善するので。ほうれい線が気になる、フェイスラインがくずれてきた、上まぶたが重たくみえてしまう(眼瞼下垂)、目の下の涙袋が下がってくる(バギーアイ)といったお悩みの方が多く、そういった症状はたるみが原因です。たるみのない状態の自分の顔を見るには、鏡を手にしたままソファーの背もたれにのけぞってみましょう。その状態で消えるのが「たるみ」で残るのが「シワ」。ほうれい線が深くみえてしまうのはシワではなく、たるみが原因です。
———上記の悩みを抱えている方が利用する「美容医療」。そもそも美容医療とはどのようなものなのでしょうか?
松宮先生:美容医療には美容皮膚科と美容外科があります。そもそも美容医療とは、容姿や容貌を美しくするために治療を行なうところ。疾患を伴うものではないため、特殊な場合を除いて健康保険が適用されず、自由診療となります。美容皮膚科は、シミ取りのためのレーザー治療、シワ取りのためのボトックスやヒアルロン酸注入などのプチ整形がメインで、メスを使用した外科手術を行う場合は美容外科となります。
———先生のもとを訪れる方々は、どういう経緯でいらっしゃるのでしょうか?
松宮先生:ほくろを取りたい、シミを取りたい、というピンポイントで手術をご希望の方もいらっしゃいますが、美しさを保ちたい、むくみを改善したいなど、身体全体のコンディションを高めたいという要望も多くみられます。後者では美容医療にたどり着く前にエステに通われていた方も多いですね。マッサージや、美容機器を使ったさまざまな施術を受けたものの、エステのでは十分な効果を実感しにくくなり、より高い効果を求めて、美容医療の門をたたくという流れも多いです。
美容医療の第一歩は、まず「自分を知ること」
松宮さんによると、美容医療を受けたいという方の中には、自分のことをよくわかっていない方も多いとのこと。
松宮先生:患者さんの話を聞いていると、「生活習慣を見直すことで症状が改善しそう」と感じる方や、「この方は体調を整えないと手術後の治りが遅そう、とかダウンタイムが長引きそう」と思うことがあります。美容医療の効果を最大限に高めるための3つの大事なポイントをご紹介します。
(1)今の自分の状態を知る。自分の問題点に直面!
美容皮膚科の多くは熱や機械刺激などで組織に一時的にダメージを与え、その回復力(自己修復力)でキレイになっていくメカニズムを利用しています。外から養分与えるだけでなく、内側の回復力を呼び覚ますものなので、そもそも免疫が落ちていたりして体の回復力が弱っていたり、栄養不足でコラーゲンを作る材料が体内で不足していたりするとせっかく美容治療を受けても効果が出づらく、また傷の回復も長引いてしまいます。なのでまずは自分の健康状態、栄養状態を知る検査をすることで、客観的に自分を知るのがお勧めです。結果が数値化されることでこちらもしっかりとアドバイスができ、施術の効果を高めることができます。
(2)どんな自分になりたいのかを具体的にイメージして!
美容医療では「なんとなくよくなった」ではダメなので、施術前後の評価は必ず行います。患者さんの中にはダウンタイムは長くても効果の高いのが良い方もいれば、マイルドでよいので周りの人にわかられたくない治療を受けたいという方もいらっしゃいます。ご自分のライフスタイルと目指したい結果に応じて、治療内容やスケジュールを相談し決めていきます。また、美容外科の手術を受ける際には、思い描くイメージは人によって違いますので、施術後に“思っていたのと違う”とならないように、できればなりたい人や昔のご自分の写真などで、ご自身の理想のイメージをしっかり伝えて。
(3)SPORTS・SLEEP・SMILE・・・日常生活を見直そう!
- ストレスを溜めない(ストレスがかかりすぎると、血管に負担がかかります)
- 筋肉を沢山つかう!(筋肉は一番のエネルギー産生場所。疲れにくくなるだけでなくメンタルの安定にも〇)
- 体に悪いものを入れない(タバコ、お酒飲みすぎ、加工食品、食品添加物、大型魚など)
- 腸内環境を改善する(便秘は絶対解消!砂糖・グルテン・乳製品・カフェインは控えて)
- 365日日焼け対策を(光老化を防ぎます)
- ブルーライトは極力カット(肌の老化を促進することがわかってます)
- 睡眠不足は美肌の敵
———では、自分を知るためにどのような検査をすればいいのでしょうか?
松宮先生:最近はアンチエイジングドックなどで検査することができます。たとえば私のいる天現寺美容クリニックでは「肌診断」でしみ・シワ・毛穴・たるみなどの老化度を計測したり、「血液データ分析」での栄養解析や、体の酸化度やテロメア長を測ったり、体内の有害金属や必須ミネラル、解毒力を知ることができる「毛髪ミネラル検査」もオススメしています。自分の知らない遅延型の食品アレルギーが引き起こしている可能性を探る「食物アレルギー検査」、腸内細菌の善玉菌や悪玉菌の割合など腸内環境をみる「便検査」、腸内細菌の代謝物から腸内環境やエネルギー代謝などを見る「有機酸検査」。そのほかにも、「筋肉評価」「唾液ホルモン検査」などがあります。検査結果と症状を統合した上でアンチエイジングカウンセリングを行っています。
特に免疫を司る腸は大事。腸内美人という言葉もありますが、腸を整えただけでも肌がキレイになります。結果を受けて、必要なサプリを飲む、アレルギー品目の食品を抜く、食事のバランスを考えるなど、自分に必要なことが明確になります。
下記は、松宮先生自身の検査結果です(上から順に毛髪ミネラル検査、便検査の一部、食物アレルギー検査)
実際に数値化され、客観的にみることで、自分が思っていたよりも気にしなければいけなかったことが浮き彫りになったり、今の悩みの原因が見えてきたりすることも。「脂肪代謝が悪く、脂肪酸が必要だと判明したら、その脂肪酸は体内でつくり出すことができないため、補うためにココナッツオイル摂る」など、その人に合わせた診断をすることができます。自分に足りないものもはっきりとわかるので、自分の判断でやみくもに健康食品を買ったりしなくていいという利点も!
松宮先生:とりあえず美容医療を受ければOK、ではなく、検査などで自分自身の体の状態を正確に把握することが、これからの美容医療でもますます必要になってくると思われます。食生活を改善し腸内環境を整える、血液の状態を正常に保つ、不足している栄養素をサプリや食事で補充する、これだけでも肌の状態はかなり改善されます。それでも思うように見た目の悩みが改善されないときに美容医療を選択する、のでもいいと思うんです。外から治療するだけでなく、まずは体の土台を作って老化スピードを緩めておかないと、せっかく若返り手術をしても戻りが早くなってしまいます。逆に体が健康だと手術後の傷の治りも早いし、効果も持続期間も長くなります。何より、見た目だけでなく体全体が元気になりますので、ぜひご自分を見直してほしいですね。
———とはいえ、いろいろな検査をすることで、キレイになるまでの道のりが遠すぎるような気がしてしまいます。
松宮先生:事前検査を受けて自分を知り、サプリメントや食生活を見直して結果が出てから…というと半年くらいかかってしまうこともあります。その間にも当然老化は進行してしまいます。そんなに長く待てないのが女ゴコロですよね(笑)。なので、検査結果が出たら、施術と同時進行で体調管理をしていく方がほとんどです。施術で肌にハリが戻っても、体調管理を怠っているとすぐに施術前に戻ってしまいますし、汚れた毛穴をキレイにしても、体内の抗酸化力が落ちているとまたすぐに皮脂が酸化して毛穴が詰まってしまいます。美容医療と並行して正しいお手入れや体調管理をすることで、きちんと効果を実感していただけます。
まとめ
敷居が高いと感じる方が多い「美容医療」。まずは自分の状態を知ることから始めるとなると、そのハードルはグンと低くなることがわかりましたね。松宮先生曰く、「美容クリニックを美容院のように思っていただき、気軽に相談してほしい」とのこと。シャンプーやコンディショナーで毎日髪を洗うように、自宅で自分をメンテナンスしながら、ヘッドスパやエステに行くように美容皮膚科へ通い、パーマなど大幅なイメチェンをしたいときは美容外科へ…というように。もちろん、クリニックを訪れたからといって、必ずしも外科的な手術をする必要はありません。まずはアンチエイジングの相談という形で訪れてみてはいかがでしょうか。
第二回の記事では、美容皮膚科編でできることや診療内容について紹介します。
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PROFILE
松宮敏恵(まつみや としえ)さん
形成美容外科医。天現寺美容クリニック、昭和大学藤が丘病院形成外科勤務。日本形成外科学会専門医、抗加齢学会専門医、リハビリテーション科学会専門医、分子栄養医学認定医、美容外科医として働く傍ら、形成美容外科・リハビリテーション科・分子栄養医学の3つの観点から、見た目・身体機能・栄養からのアンチエイジング医療を提唱している。美しくなるためには、外面と内面(主に食事)両方からのアプローチが大事!がモットー。
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この記事の執筆者
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- WRITING :
- 竹林和奈
- DIRECTION :
- 青木 笑