一般的に「よく働く」と言われている日本人は、やはり睡眠時間の短さは他国と比較しても顕著であり、問題にもなっています。2018年の経済協力開発機構OECDの国際比較調査で、日本人の睡眠時間が加盟国中最も短く、特に女性の睡眠時間の短さが報告されています。

そんな日本人にも朗報が!今、「トリプトファン」という物質の摂取が睡眠のカギを握ると、話題に。一体その物質はどんなもので、どうすれば簡単に取り入れられるか、睡眠コンサルタントの友野なお先生にお話を伺いました。

 
友野なお先生

睡眠コンサルタント  株式会社SEA Trinity代表取締役

(とものなお)千葉大学大学院 医学薬学府 先進予防医学 医学博士課程にて予防医学の観点から睡眠を研究。順天堂大学大学院 スポーツ健康科学研究科修士。日本公衆衛生学会、日本睡眠学会、日本睡眠環境学会 正会員。 自身が睡眠を改善したことにより、15kg以上のダイエット、さらに体質改善に成功した経験から科学的に睡眠を学んだのち、睡眠の専門家として全国にリバウンドしない快眠メソッドを伝授。 著書に『昼間のパフォーマンスを最大にする正しい眠り方』(WAVE出版)、『疲れがとれて朝 シャキーンと起きる方法』(セブン&アイ出版)など多数。

注意したい!冬の睡眠の質低下

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目覚めの悪さは日中の行動にも悪影響となる。

睡眠の質の低下要因となるものには、日常生活の乱れや不安事があるなど様々ありますが、特に冬の睡眠時の質低下の要因は、「気温の低下」「日中活動量の減少」「日照時間の短縮」と言われています。

「入眠の際、手や足先から熱を放出し、内臓の温度を下げることで眠りにつくと言われます。しかし、寒さによって四肢が冷えてしまうと、放熱がうまくいかなくなります。よって、気温の低下による冷えは睡眠の質を下げてしまうのです。

日中の活動量の減少も、眠りには影響します。良質な睡眠には、適度な疲労も必要です。冬は低い気温の中で、外出することが面倒になったり、運動量が減る傾向にあります。日中の活動量が減少することは、適度な疲労を得られなくなってしまうのです。

日照時間の短縮は、睡眠において悪影響を及ぼします。そして、良質な睡眠が取れることは朝の目覚めにも関係しており、日の出の遅い冬は朝の光の刺激が少ないことで、目覚めが悪くなります。起床時の光不足は、体内時計のリセットや覚醒を促すホルモン分泌を妨げることになり、目覚めが悪くなってしまうと考えられているのです」(友野先生)

質の低い眠りによる悪影響とは?

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睡眠の質低下は脳にも体にも影響が大きい。

「睡眠の質は美や健康の質、人生の質といっても過言ではありません。それは、これまで多くの研究が明らかにしています。睡眠の質が高まることで、昼間の主観的な健康感やQOLが高くなることが報告されています。

睡眠の質の低下による悪影響は様々ありますが、例えば肌荒れです。肌が再生するには、肌の内部で細胞分裂が起こることが必要で、その細胞分裂は睡眠中に成長ホルモンが分泌されることで促進されるため、いい睡眠が取れないとうまく細胞分裂が起きないのです。

あとは、睡眠不足は食欲の中枢を乱して空腹感の増大を招くなど、食べることにも影響します。睡眠時間と肥満の関連は様々な研究結果も出ています。

また、冬特有の症状として 季節性感情障害、つまり冬季うつと呼ばれる症状も注目されています。 日照時間の短さによる日光不足は、心の不調や過眠、過食等に関与していると言われており、昼間の意欲的な活動を後押しするセロトニンの分泌も減少傾向にあるのです。体内リズムや生活リズムが乱れることで自律神経のバランスも崩しやすくなってしまいます」(友野先生)

睡眠ホルモン分泌を促し、セロトニンを生み出す「トリプトファン」に注目!

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外から上手に摂取することで快眠に導く。

「深い睡眠を促すには、睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンの分泌が大きく関わっています。メラトニンの分泌を促すのが、セロトニンという脳内物質です。セロトニンは、日中、元気でいることや癒しの源となる神経伝達物質です。夜になると脳の松果体でメラトニンに変換されます。

このセロトニンを生み出すのが「トリプトファン」という必須アミノ酸です。このトリプトファンは、体内で合成することができず、食べ物から摂取する必要があります」(友野先生)

効率よく「トリプトファン」を摂取し、良い睡眠につなげるには・・・

「トリプトファンを摂取し、セロトニンを生み出すことで睡眠ホルモンを分泌させるのが良いわけですが、よりよく眠るためにはトリプトファンを多く含む食材を摂取すれば良いというわけではないのです。トリプトファンの他に、炭水化物やビタミンB6を組み合わせることが重要なポイントとなります。

トリプトファンは、乳製品や卵、大豆やナッツなどのたんぱく質に含まれますが、しっかり眠るためにはいも類などの炭水化物と、豚肉や魚類などに多いと言われるビタミンB6を合わせることが必要なので、これらの食材を意識したバランスの良い食事を取れると良いでしょう」(友野先生)

スーパーフルーツ「バナナ」で簡単に快眠生活!?

トリプトファン、炭水化物、ビタミンB6の3つをバランスよく摂取できる。
トリプトファン、炭水化物、ビタミンB6の3つをバランスよく摂取できる。

快眠を目指し、トリプトファン、炭水化物、ビタミンB6の3つをバランスよく摂取した食生活を送ることができればもちろん良いですが、忙しい毎日で献立を考え続けるのもなかなか心が折れそうなもの。そこで、この3つをバランスよく摂取できるというスーパーフルーツを発見!

昔から食べ続けられているお馴染みのバナナにこんな効果があったと、今、改めて見直されているのです。

「バナナは、トリプトファン、炭水化物、ビタミンB6の全てが含まれています。食材それぞれで見ると足りないものがありますが、バナナであればこの3つが揃うため、朝の習慣にすると良いでしょう」(友野先生)

効果的にトリプトファンを摂取できるバナナメニュー

入手しやすいフルーツは続けやすい食習慣の味方に。
入手しやすいフルーツは、続けやすい食習慣の味方に。

良質な睡眠には、トリプトファンを摂取するタイミングも大切とのこと。どのタイミングでどのようにバナナを摂取するとより効果的なのでしょうか。

「朝、トリプトファンを摂取することは、日中の意欲的な活動が後押しされるため、メラトニン分泌ということだけでなく、活動的に過ごすことで上手に疲労することができるという点からも、快適な眠りをもたらすことができます。

快眠をサポートするためのアプローチ法は、様々な角度から存在していますが、快眠体質に生まれ変わるために最も重要なのは無理なく続けられることです。トリプトファンを含むバナナは、体にもお財布にも優しく、美味しく続けられる習慣になるので、日常的に食べることをおすすめしています。

特に快眠サポートとして一押しの摂取の仕方は、朝、バナナの手もみジュースを1杯飲むことです。そのままバナナを食べるのも良いですが、トリプトファンを同じように含む牛乳と摂取することで、トリプトファンの摂取をより強化することができるのです」(友野先生) 

■簡単!「バナナと牛乳の手もみジュース」の作り方

食材をひと口大のサイズにちぎって袋のなかに入れ、約1分、手でもみ、グラスに移す。これだけで美味しく栄養たっぷりのフレッシュバナナジュースの完成です。

食材を手で揉むことは、酵素の活性化にもつながり、健康と美容効果も期待できます 。アレンジレシピとして、バナナ1本/イチゴ5粒/ヨーグルト100g/牛乳100ml/ハチミツ小さじ1を合わせたフレッシュジュースもおすすめです。火も使わず、ジューサーも不要なのでシンプルで簡単。腹持ちも良いので、毎朝忙しくゆっくり朝食を取れないという方にも!

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寒さの厳しい冬ほど、健康のために睡眠について本気で考えてみると良さそうです。日中にできる限り光を取り込むように意識したり、入浴により適度に体を温めることで自律神経のバランスを整えたり、入眠前に音や香りにこだわってリラックスする時間を持つなど、日常生活で少し工夫を凝らして睡眠の質を高めることも大切です。

まずは、季節を問わず手に入れやすいバナナを日常的に摂取する習慣で、今冬から快眠の対策をしてみませんか?

この記事の執筆者
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EDIT&WRITING :
Sachi Tamura
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