木漏れ日が南国へと誘う。エルメスのテーブルウエアシリーズ「パシフォリア」の展示会レポート
「パシフォリア」の展示発表は、パリ3区にあるパリ市の文化施設ゲテ・リリックで開催されました。ゲテ・リリックは、以前は劇場だったという建物です。
扉を開けて会場に入って行くと、真っ暗。そこに木漏れ日のような光が天井から射して、光のなかに体や手を入れると、鳥のさえずりが聞こえるという仕掛けです。強い光を浴びて鳥のさえずりを聞いていると、パリの真ん中から突然、南国に空間移動してしまったかのような錯覚に陥ります。
詩的なインスタレーションの次の部屋に「パシフォリア」が展示されていました。
美しい花弁をもつトケイソウ科のつる性の植物「パッシフローラ・インカルナータ」がインスピレーション源となり、花に宿る力、情熱、歓喜、さまざまな葉の形が「パシフォリア」という名前に込められています。
「パシフォリア」の製作にあたったのは、アート・ディレクターのブノワ=ピエール・エメリーさんと、デザイナーのナタリー・ロラン=ユッケルさん。
ブノワ=ピエールさんがパーソナリティーをもち、共鳴する感性のアーティスト、デザイナーをセレクトし、一緒に製作にあたります。
ナタリーさんは、植物とアートを結びつける独自の世界をもつデザイナー。この「パシフォリア」で「エルメス」とのコラボは3回目となります。
クリエイティブ・ディレクターとデザイナーが語る、「パシフォリア」誕生秘話
どのように「パシフォリア」は誕生したのでしょうか?
「ナタリーと私は新しい花の物語を創りたいと思いました。ナタリーは以前、花をモチーフにした仕事をしておりますが、今回はもっとオーガニックで、構成されすぎていないよりナチュラルなものにしたいと思いました」とブノワ=ピエールさん。
「私はすっかりブノワ=ピエールの話に共感しました。深い緑のジャングルというか…旅や夢のようなものです。数年来、植物は私の作品のテーマでしたので、このテーマに取り組むのは私にとって明白だったのです」。
植物を好むナタリーさんはストラスブールにある植物園によく行くそうです。
今回のテーブルウエアのモチーフになった「パシフォリア」は、以前、ナタリーさんの妹が彼女にプレゼントした花をスケッチしたもの。
「といっても、私は植物学者ではないので、ありのままに描いてはいません。足りないなと思うところに付け加えたりして、言ってみれば『新しい種』を生み出しております」とナタリーさんは微笑む。
「パシフォリアは、その名にあるように『パッション(情熱)』を表現するものであり、さまざまなものを象徴しています。実際に庭で見たこの花や、実在しない想像上の植物も加えて世界を表現しました。
花で構成した17、18世紀のフランドル絵画にも影響を受けました。この絵画は、異なる地域に生える季節の異なる花で構成された実現不可能なブーケが描かれているんです。私たちは自然を写実しているのではなくて、ナタリーが先ほど言ったように、表現しているのは『夢』なのです」とブノワ=ピエールさん。
テーブルウエアとして実現されるまでには、1年に渡りこの4倍ほどの数のデッサン画を描いたそうです。なんと32色もの多色使い。リモージュの工房で製作したそうです。
「『エルメス』だけが実現できる印刷のクオリティです」
考え抜かれた美しさ。イマジネーションが広がる「パシフォリア」
葉が1枚だけ描かれている皿もあれば、さまざまな植物が描かれている華やかな皿もあります。これは皿1枚の完成度もさることながら、複数の食器をコーディネートしてテーブルセッティングをしたときに、柄が多すぎてうるさくなってしまわないように、シンプルな柄の皿も用意しているためです。
葉の上に食物を置き皿のようにして使うアジア・太平洋地域の文化からもインスパイアしているそうです。
インタビュー中に原画を見せていただきましたが、とても美しく、原画展をしないのですか? と聞いてしまうほどでした。
ブノワ=ピエールさんによると、「半分描き込んで、半分まだ描きかけだったときのデッサンもとても美しかった」とのこと。
ナタリーさんとブノワ=ピエールさんがご自身でこのテーブルウエア「パシフォリア」を使うなら、どのようなシチュエーションでお使いになるのでしょうか?
ナタリーさんは、「私は朝食のシーンで使いたいですね。そうしたら一日中、晴れやかな気分でいられるわ」
「私はディナーで使いたい。大きな、でもローテーブルで、クッションを置いて。本当の花を添えて…」とブノワ=ピエールさん。
素敵なテーブルウエアだけに、使い方にもイマジネーションが膨らみます。まさに日常に旅や夢をもたらしてくれるテーブルウエアなのです。
問い合わせ先
- TEXT :
- 安田薫子さん ライター&エディター
- Top Photo :
- Audrey Corregan