キュレーターの林 綾野さんが、大人の女性におすすめしたい春の展覧会は『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』『ルオーと日本展』『ボストン美術館展』の3つ。いずれも、美術ファンならずとも「これだけは観ておきたい!」と思う傑作ぞろいの展覧会です。さっそく、その内容を詳しく見ていきましょう。

※昨今の状況を鑑み、感染拡大防止の観点から、展覧会の開催時期が延期・変更になる可能性があります。訪問を検討されている方は、各展覧会のホームページを事前に確認されることをおすすめします。

■1:どこを観ても名宝しか展示されていない、歴史的規模の展覧会『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』@上野

「いつかこの絵を観てみたい」、画集をめくりながらそう思う絵が、だれにでもあるのではないでしょうか。『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』では、そんな夢のいくつかがかなうかもしれません。

若きレンブラントが自らを描いた《34歳の自画像》。フェルメールの最晩年の作品《ヴァージナルの前に座る若い女性》。ベラスケスが宮廷画家になる前に描いた《マルタとマリアの家のキリスト》など、名画がずらりと並びます。

今回展示される61点すべてが日本初公開。本来であれば、ロンドンまで行かなければ観ることのできない作品に、東京と大阪で出合えるという貴重な機会です。

ゴッホやモネ、ルノワールなど、日本で広く愛される画家たちの絵もやってきます。

なかでもゴッホの《ひまわり》は、めったに自作にサインを入れないと言われるゴッホが、自信をもって「Vincent」とその名をつづった傑作です。

当時、南仏のアルルに暮らしていたゴッホは、夏、かの地に咲き乱れるひまわりの力強さに心打たれ、この絵を描きました。そして秋、一緒に絵を描くためにやってくるゴーガンの部屋にこの絵を飾ります。たくましく咲く花と実り始めた種。ひまわりの生命力を表そうと幾重にも塗り重ねられた絵の具。実物の作品でなければ感じ得ない存在感に圧倒されます。ゴッホの熱い想いが感じられる一点です。

フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》
フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》 1888年 油彩・カンヴァス 92.1×73cm ©The National Gallery, London. Bought, Courtauld Fund, 1924
ヨハネス・フェルメール 《ヴァージナルの前に座る若い女性》
ヨハネス・フェルメール 《ヴァージナルの前に座る若い女性》 1670-72年ごろ 油彩・カンヴァス 51.5×45.5cm ©The National Gallery, London. Salting Bequest, 1910

Information

  • 『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』
  • 世界屈指の美の殿堂「ロンドン・ナショナル・ギャラリー」がコレクションする西洋絵画が来日。英国外で所蔵作品展が開催されるのは史上初。展示される61作品すべてが日本初公開となる。
  • 会場/国立西洋美術館
  • 会期/〜2020年6月14日(日)
  • 開館時間/9:30~17:30(金曜日、土曜日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで 月曜日休館(※但し、5月4日は開館)
  • 観覧料/一般¥1,700、大学生¥1,100、高校生¥700
  • 住所/東京都台東区上野公園7-7
  • TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)

※開幕延期。開催期間の詳細は展覧会公式サイトで。

大阪展 国立国際美術館 2020年7月7日(火)~10月18日(日)


■2:日本ゆかりのルオー作品が大集結する『ルオーと日本展 響き合う芸術と魂 – 交流の百年』@汐留

人格者だった象徴主義の画家、ギュスターヴ・モローの指導で感性を磨いたジョルジュ・ルオー。1902年ころから、社会の底辺の人々の悲哀や社会の矛盾を題材にした、独自の画風を確立するが、次第にキリスト教信仰による画風へと変わる。1958年、86歳で死去すると、フランス政府による国葬が行われるなど、20世紀最大の宗教画家としても知られる。

そのルオーの作品は、日本においては「東洋的なるもの」として賞賛されることも多く、本展ではその同質性が論じられた作品の展示も。また、パリに留学していた日本人芸術家の梅原龍三郎や里見勝蔵らが、パリで出合ったルオー作品に衝撃を受け、日本にもち帰っている。そうした日本人芸術家が賞賛したルオーの1930年ころまでの作品なども並び、時代や芸術のジャンルを超えて愛され続けるルオー芸術の普遍性に触れられる。

「《クマエの巫女》など宗教性を湛えた作品を数多く描いたルオー。黒く太い輪郭線と厚く塗り込められた絵の具。どこまでも深く静かな画面は見る者の心を落ち着かせてくれます。日本との関わりが深かったことを知ることでその絵をより身近に感じることができます」(林 綾野さん)。

ジョルジュ・ルオー《クマエの巫女》
ジョルジュ・ルオー《クマエの巫女》 1947年 油彩/紙(格子状の桟のついた板で裏打ち)  個人蔵、パリ

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  • 『ルオーと日本展響き合う芸術と魂 – 交流の百年』
  • 会場/パナソニック汐留美術館
  • 会期/2020年5月9日(土)〜6月23日(火) ​※開幕延期。また、一部展示内容変更の可能性が考えられるため、詳細は展覧会公式サイトをご覧ください
  • 開館時間/10:00〜18:00(ご入館は17:30まで)※5月8日(金)、6月5日(金)は夜間開館 20:00まで(入館は19:30まで) 水曜日休館(但し4月29日、5月6日は開館)
  • 観覧料/一般¥1,000、大学生¥700、中・高校生¥500、65歳以上¥900
  • 住所/東京都港区東新橋1-5-1
  • TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)


■3:古来から芸術作品が担ってきた「役割」にフォーカスし回顧する『ボストン美術館展 芸術×力(げいじゅつとちから)』@上野、福岡、神戸

ボストン市民をはじめとした有志によって1870年に設立され、1876年のアメリカ独立100周年記念日に開館した「ボストン美術館」。古代エジプトからアジア、ヨーロッパ、アメリカなどの作品がコレクションされ、その数は現在では50万点近くにおよび、年間約120万人が訪れる。

本展では、その貴重なコレクションから「芸術と力」に焦点を当てた約60点が集結。権力者たちが自らの権力を誇示するためにつくらせた彫刻や肖像画、世界各国の宮廷を飾った美しい装飾美術などを通して、古来から芸術作品が担ってきた役割にフォーカスし、その芸術の歴史を振り返る。

「奈良時代の学者吉備真備が唐の国で活躍する様子を描いた《吉備大臣入唐絵巻》。鬼が出てきたり、吉備と鬼とで一緒に空中を飛んだりと、日本に残存していれば国宝に指定されていたとされる絵巻は、貴重でありながらもユーモアあふれるその内容が魅力です」(林 綾野さん)。

アンソニー・ヴァン・ダイク《メアリー王女、チャールズ1世の娘》
アンソニー・ヴァン・ダイク《メアリー王女、チャールズ1世の娘》 1637年頃 © Museum of Fine Arts, Boston, Given in memory of Governor Alvan T. Fuller by the Fuller Foundation
《吉備大臣入唐絵巻》 (部分)
《吉備大臣入唐絵巻》(部分) 平安時代後期-鎌倉時代初期、12世紀末 © Museum of Fine Arts, Boston, William Sturgis Bigelow Collection, by exchange
※期間中、展示替えがあります。(前期:第一巻、第二巻/後期:第三巻、第四巻)
●福岡:2020年7月18日(土)〜8月23日(日)/8月25日(火)〜10月4日(日)
●神戸:2020年10月24日(土)〜12月6日(日)/12月8日(火)〜2021年1月17日(日)

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※開幕延期。開催期間の詳細は展覧会公式サイトで。

 

<巡回展>
福岡展 福岡市美術館 2020年7月18日(土)〜10月4日(日)
神戸展 神戸市立博物館 2020年10月24日(土)〜2021年1月17日(日)

 

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この記事の執筆者
TEXT :
林 綾野さん キュレイター・アートライター
BY :
『Precious5月号』小学館、2020年
美術館での展覧会の企画、絵画鑑賞のワークショップなどを行う。画家の創作への思いや人柄、食の趣向などを探求、紹介し、芸術作品との新たな出会いを提案。絵に描かれた“食”のレシピ制作や画家の好物料理を自ら調理、再現し、アートを多角的に紹介している。近著『なにを食べているの? ミッフィーの食卓』ほか、『フェルメールの食卓 暮らしとレシピ』『セザンヌの食卓』『モネ 庭とレシピ』『ぼくはクロード・モネ絵本でよむ画家のおはなし 』(すべて講談社)、『浮世絵に見る 江戸の食卓』(美術出版社)など著書多数。
PHOTO :
©The National Gallery, London、© Museum of Film Arts, Boston
WRITING :
林 綾野
EDIT :
宮田典子(HATSU)、喜多容子(Precious)