部下を指導するのも、上司の仕事のうち。呑み込みの早い部下ばかりだと上司は楽ですが、現実はそうもいかず、何度も同じミスを繰り返したり、そもそも仕事に対する姿勢が消極的だったりするタイプの部下に悩まされている人は多いのではないでしょうか。

部下の問題行動に対して、上司はときには毅然とした態度で叱ることが必要ですが、これがなかなか難しい……。日本アンガーマネジメント協会理事の戸田久実さんは、部下をうまく叱れない上司の実態について、こう話します。

「部下をむやみに叱っては嫌われるのではないか、人間関係を悪くするのではないか、パワハラにあたるのではないか。このように、部下を叱ることにネガティブなイメージを持っている人は、非常に多いです。

しかし、叱ることの本来の目的は、相手の成長を願って意識と行動を改善してもらうことなので、叱ること自体は決して悪いことではありません。本来の目的さえ見失わなければ、叱るという行為は、本人にとっても、職場にとっても、顧客にとってもプラスとなる、有益なコミュニケーションの一種です。

逆に、叱る目的を見失ったままでは、部下の成長につながらず、職場のコミュニケーションにもよくない影響を及ぼしうるので、NGポイントは押さえておくべきでしょう」(戸田さん)

あなたは部下や後輩をうまく叱ることができているでしょうか? 今回は、戸田さんから“やってはいけないNGな叱り方”とその改善点について教わります。

部下をうまく叱れる上司になるために!やってはいけない「NGな叱り方」7選

■1:人前でつるしあげるのはNG

肝心の内容が耳に入らない
肝心の内容が耳に入らない

まず、部下を叱るタイミングについて。職場で部下が何か失態をやらかした際、周囲に誰かがいる場で叱る……というのは、シチュエーションによっては望ましくないようです。

「みんなが仕事をしているところで叱るのは、原則NGです。誰しも自尊心がありますので、公然と叱責されると、申し訳ないという反省よりも、恥ずかしいという気持ちがまさって、何がどう問題なのか肝心の内容が頭に入ってきません。部下を叱るのは、一対一のときにしましょう。

ごく例外的なケースとして、グループ全体で同じようなミスが多発しているときには、人前で叱ってもよい場合もあります。

ただ、この場合も、個人を叱るのではなく、あくまで『この場にいるみなさんへの注意事項です』とわかるような叱り方をすることが不可欠です。また、そうしたメッセージが伝わるには、ある程度の信頼関係があることが前提ですので、やはり人前で叱るのは、できるだけ避けたほうがいいでしょう」(戸田さん)

■2:行動ではなく、人格を否定するのはNG

人格否定はNG
人格否定はNG

「叱るときには、部下の行動や言動、およびそれによって起こった結果や事実にフォーカスするようにしましょう。部下の人格や能力を否定するような叱り方はNGです。

たとえば、部下が指定していた期限内に仕事を完了させなかった場合、『なんで期限を守れないの? 本当にだらしない人ね』とか、『この仕事、向いていないんじゃないの?』などと叱るのは、人格や能力の否定にあたります。

冒頭でもお伝えしたように、上司が部下を叱る本来の目的は、相手の成長を願って、意識と行動を改善してもらうこと。人の行動や言動など、改善できることに対してであればいいのですが、人格や能力を否定することは本来の目的とは異なり、相手を傷つけることにつながり、パワハラ問題へと発展することもあります。

叱ることの本来の目的を果たすには、行動や結果、事実に焦点をあて、部下がなぜ叱られているのか理解できるような伝え方をしましょう。

たとえば、『期限は守ってほしい。半日でも仕事が遅れると、次に引き継ぐ人の仕事のスタートを遅らせることになって、お客様のクレームにつながることもあるから』という具合です」(戸田さん)

■3:「なぜ~」で責めるのはNG

「なぜ」で責めると部下を追い詰める
「なぜ」で責めると部下を追い詰める

「『なぜ、言ったとおりやらないの?』や『なぜ、同じミスを繰り返すの?』など、責める口調で『なぜ?』を用いるのはNGです。

『なぜ?』と責められると、相手は思考停止し、『忙しかったから』と言い逃ればかりしようとしたり、『今やろうと思っていたのに』などと反発心を招いたりなど、よい結果をもたらしません。

もちろん、問題やミスには何か原因があるはずですから、改善に向けて質問するのはよいでしょう。たとえば、『期限が守れないことが続いているけど、どうしたのかな?』など、相手の事情に冷静に耳を傾けることが大切です」(戸田さん)

■4:過去を引っ張り出すのはNG

過去を持ち出すのは逆効果
過去を持ち出すのは逆効果

何度も同じミスを繰り返す部下に怒り心頭……というのは理解できますが、過去の累積した怒りをぶつけるのはNGとのこと。

「『このミス、前もやったよね』とか、『こういうときはこうしてって何度も言ったよね』など、過去を引っ張り出して叱っても、相手を追い詰めるだけです。

例外として、問題点を明確にするために、『ここ3か月で納期に遅れることが2回あったよね』など、事実を確認するために過去を持ち出すのはよいでしょう。

ただ、この場合も、過去いかにダメだったのか、相手をやり込めるのが目的ではありません。あくまで、今後こうしてほしいという未来の改善につなげることが本来の目的なので、冷静なトーンで伝えることが大切です。

それから、『前から言おうと思っていたんだけど』など、怒りをためこんでいたことを表明するのも、おすすめできません。『そんなふうに思われていたのか』という不信感や、『もっと早く言ってくれたらよかったのに』という反発心を招くおそれがあります」(戸田さん)

過去をつい持ち出してしまうのは、相手にわかってほしいという気持ちが強いからこそ。ただ、叱られる立場としては、1回のミスを追及されるだけでも苦痛なのに、過去の累積となると、余計に逃げだしたくなってしまいますよね。

部下に問題点にしっかり向き合ってもらうためには、叱る側が過去に執着せず、「どうすれば再発を防げるのか」と未来に目を向けるようにしましょう。

■5:「いつも・絶対・必ず」というフレーズを用いるのはNG

「いつも・絶対・必ず」は反発を招く
「いつも・絶対・必ず」は反発を招く

「『いつも約束破る』、『必ずこういうときにミスする』、『人の話を絶対に聞いていない』など、相手の非を強調するフレーズも、逆効果にしかなりません。『いつも・絶対・必ず』は、100%の事実ではない限り、言わないほうがいいでしょう。

そもそも、『いつも・絶対・必ず』というのは、叱る側の主観的な判断。言われた側は、自分のミスに向き合うどころか、『そんなことはない』と自己正当化に走るおそれがあります」(戸田さん)

■6:自分の機嫌によって、叱る基準がぶれるのはNG

やっていいこと・悪いことの基準は明確に
やっていいこと・悪いことの基準は明確に

「上司は『部下が~~したら(orしなければ)叱る』という明確な基準を設定する必要があります。その日の気分しだいで、基準を変えてはいけません。

たとえば、部下が遅刻してきたときに、『10分前集合でしょ!』と雷を落とすときもあれば、2~3分遅れてきても何も言わないときもある。

こんなふうに、その日の機嫌によって、叱ったり叱らなかったりというブレがあると、部下は上司の機嫌にばかり注意が向いてしまい、肝心の『時間厳守』というルールが身に付きません。また、叱られた部下は『八つ当たりされた』としか思わず、信頼関係にも悪影響を及ぼします。

一度、部下を叱ったら、その後、同じことが起こったときに、『まあいいか』とスルーするのはご法度です。職場のルールをメンバー全員が共有できるように、叱る・叱らないの基準を徹底しましょう」(戸田さん)

■7:「ちゃんと」「しっかり」「早めに」など抽象的なフレーズを用いるのはNG

指示の内容が部下に伝わっていないことも…
指示の内容が部下に伝わっていないことも…

「部下を叱るときには、ただ問題点を指摘するだけでなく、これからこうしてほしいという改善方法を伝えることが必要ですが、その際、『ちゃんと』『しっかり』『早めに』など、抽象的な言葉を使ってしまいがちです。ただ、抽象的な言葉では、部下に改善方法がうまく伝わりません。

たとえば、書類のミスが多い部下に対して、『ちゃんと(orしっかり)確認してね』。部下としては、ちゃんと確認しているつもりで、それでもミスが発生しているのかもしれません。それにもかかわらず、『ちゃんと確認して』と伝えるだけでは、改善の見込みがありません。

この場合、部下の書類の確認の仕方に問題がある可能性があるので、過去のミスのパターンなどをふまえて、『書類のこの項目を必ずチェックする』など、具体的な改善方法を部下と一緒に考えるほうがいいでしょう。

別の例でいえば、『メールは早めに返信してね』ではなく、『メールは24時間以内に返信してね』など、なるべく明確に指示を出すことが大切です」(戸田さん)

以上、“やってはいけないNGな叱り方”をお届けしましたが、「これ自分もついやっていた!」という点があったのではないでしょうか。

誰からも指導を受けず、はじめから独力で完璧に仕事をこなせる人間など存在せず、部下が成長できるかどうかは上司しだいといっても過言ではありません。ぜひ正しい叱り方を身につけて、職場の生産性を高めていきましょう。

戸田久実さん
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会理事
(とだ くみ)アドット・コミュニケーション(株)代表取締役。一般社団法人日本アンガーマネジメント協会理事。立教大学卒業後、大手企業勤務を経て研修講師に。銀行・製薬会社・総合商社・通信会社などの大手民間企業や官公庁などで「伝わるコミュニケーション」をテーマに研修や講演を実施。近年では、大手新聞社主催のフォーラムへの登壇やテレビ出演など、さらに活躍の幅を広げている。
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この記事の執筆者
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WRITING :
中田綾美