新型コロナウイルスの蔓延に伴い、あらゆるウイルス感染予防策が強いられている今、もともと綺麗好きで手洗いやうがいを基本的にする日本人でも、神経質になって実施している人もいるでしょう。

しかし、頻繁な手洗いや除菌消毒は、手肌の荒れが気になります。そこで、汚れやウイルスをしっかり落とす手洗い方法と、手肌の荒れから守る方法について、野村皮膚科医院の野村有子院長にお話を伺いました。

野村 有子 先生
野村皮膚科医院 院長
(のむら ゆうこ)医学博士。慶応義塾大学医学部卒。同大学医学部皮膚科助手を経て、神奈川県警友会けいゆう病院皮膚科勤務。日本皮膚科学会会員。神奈川県皮膚科医会幹事。1998年より横浜市に野村皮膚科医院を開業。アトピー性皮膚炎患者専用治療室の設置や最新の肌診断機械の導入などが評判になる。わかりやすい丁寧な指導が評判の関東屈指の人気皮膚科医。アトピー性皮膚炎や乾燥性湿疹を中心に、男女を問わず幅広い年代の皮膚疾患の診断、治療を行っている。

間違えた洗い方は手荒れの原因にも

正しく洗えていないと返って荒れてしまう。  
正しく洗えていないと返って荒れてしまう。  

感染症の流行に伴い、予防策として有効と言われる手洗いの重要性が改めて呼びかけられ、手洗いの徹底が叫ばれる一方で、手洗い回数や除菌用アルコール消毒の増加によって、手肌の荒れに悩まされる人も増えているとのことです。なぜ、正しく手洗いができていないと、手荒れが起きてしまうのでしょうか。

「感染症流行の話題が出ると、手荒れを訴える患者さんが目立ち始めます。話を聞いてみると、熱いお湯を使用するなど間違った手洗いをしている方が多くいらっしゃいます。

また、感染症対策に手洗いは重要だと思って手洗いの回数を増やす一方、ハンドケアに対する意識は低い方が多いです。感染症対策を徹底するためにも、正しい手洗いとハンドケア習慣を身につけましょう。

人間の皮膚の一番外側には皮脂膜があり、皮膚の水分を逃がさないように守っています。手を洗う回数が必要以上に多くなると、皮脂が奪われてバリア機能が崩れてしまいます。そして、皮膚の水分が奪われ乾燥が進むと、外部からの刺激等が加わった時に、ひびやあかぎれなどの手荒れ症状が起こります。

感染症対策のために、手洗いやアルコール消毒などの手指衛生管理を徹底している医療関連機関では、近年『手荒れ予防』の重要性に注目しているといわれています。

医療機関では、手洗いやアルコール消毒を行う回数が非常に多いため、手荒れを起こしやすく、症状が悪化すると十分な手指衛生が行えなくなって、感染症につながるリスクが高まるからです。手洗いやアルコール消毒は避けられないので、手荒れを重症化させないためのハンドケアが重要となります」(野村先生)

手荒れしにくい洗い方とは

普段、手洗いは意外と気にせずに、ついながらでやってしまっているのではないでしょうか。実は、手洗いするときに特に気を付けたいのは「水の温度」なんだとか。

「寒いと、手洗いに熱いお湯を使用したくなりますが、皮脂を奪いすぎるのでぬるま湯で洗いましょう。手洗い後の拭き方も意識することで、手荒れの重症化は予防できます」(野村先生)

【手荒れを招きにくい手洗いポイント4つ】

1.ぬるま湯で洗い、こすりすぎない

高温だと皮脂を奪いすぎ、乾燥を招きます。

2.爪の周りや指の間などを忘れずにきちんと石鹸で洗う

忘れがちな爪の周りや指の間も、丁寧に洗いましょう。

3.ハンドドライヤーは使わない

ハンドドライヤーは、指先を乾燥させすぎてしまう傾向にあります。

4.手洗い後、髪や服で手を拭かない

洗った後は清潔なタオルやハンカチで、すぐに水気を拭きましょう。

大切なのは、手洗い後の「ハンドケア」

洗うことと同様、荒れないようにケアをしておくことが大切。
洗うことと同様、荒れないようにケアをしておくことが大切。

ウイルス対策のためにも、手をしっかり洗うということにばかり気を向けてしまいがちですが、それでは手肌は守られません。手洗い時以外のケアこそ、しっかりと行うことが大事なんだとか。

手荒れをしていると、亀裂からいろいろな異物が入る可能性も考えられます。感染症を引き起こすウイルスや細菌は非常に小さく、指の亀裂から入り込む可能性も十分に考えられます。

『繰り返す手荒れの原因と対処法について』という検証実験*では、モニターの手荒れ状態を確認すると、痛みを伴うひび・あかぎれの亀裂がある方は、同時多発的に色々な場所に細かい亀裂がありました。その亀裂をマイクロスコープで観察してみると、細かいゴミや糸くずなどが付着していることがわかりました。

モニター試験では、ビタミン系クリームを使って、使用量・塗り方・塗るタイミングを指導し、実践してもらったところ、指導から3日目には症状が改善し、7日目には亀裂がふさがり、糸くずやゴミ等の付着もなくなりました。

また、かさつきを放置していると皮膚が固くなり、手肌の表面に亀裂が生じやすくなります。重症化を防ぐためには、早めに正しいケアを行いましょう。

ポイントは、手荒れの症状に合ったハンドクリームを選び、塗る量と塗り方をしっかりと意識する事です。乾燥がひどければ、油脂やビタミンE配合のハンドクリームがおすすめです」(野村先生)

*ユースキン製薬との共同実験

 自分の手肌は大丈夫? 手荒れレベルをチェック

「手荒れを初期から最重症期までの5段階にまとめたもので、手荒れの状態をわかりやすく具体的に示すチェックリストで確認することをお勧めします。初期から重症期の段階であれば、ハンドクリームを正しく使用することで、症状を改善することができます。ただし、最重症期の段階になったら皮膚科で受診しましょう」(野村先生)

\手荒れレベルチェックリスト/

*初期〜最重要期に向けて、手荒れの重症度レベルは低→高となります

【段階:初期】
・状態/ごく軽度の手荒れ(手荒れ予備軍)
・特徴/粉っぽい、軽度のかさつき 
・対策/寒い季節だけでなく通年ケアにより手荒れ予防を

【段階:注意期】
・状態/軽度の手荒れ(手荒れ)
・特徴/かさかさ、皮がむける、指紋が消える、軽くひび割れる 
・対策/手洗い後はきちんと拭いてハンドクリームを塗るまめなケアを。ひどくならないよう手を意識することが大切。

【段階:進行期】
・状態/中程度の手荒れ(ひび・あかぎれ)
・特徴/ひび割れ、ゴワゴワと硬い、赤みが目立つ、血が滲む 
・対策/極力水仕事を避ける。まめにハンドクリームをたっぷり塗って、その後に綿手袋をして手を保護する。

【段階:重症期】
・状態/重度の手荒れ(手湿疹)
・特徴/割れて出血して痛む、皮向けがひどい、赤く腫れる、じくじくと痒い 
・対策/水仕事をするときは、必ず綿手袋の上にゴムかビニール手袋をして、素手の作業は避ける

【段階:最重症期】
・状態/最重症の手荒れ(ひどいただれ)
・特徴/猛烈に痒い、じくじく黄色い汁が出る、水ぶくれができる、痛くて指が曲げられない 
・対策/自宅でのケアは難しいためすぐに皮膚科での受診を受ける

ケアにはハンドクリームを上手に使うことがおすすめ

手肌の状態で合うものを選ぶことがポイント。
手肌の状態で合うものを選ぶことがポイント。

手肌荒れ、またこれから手が荒れないようにするためにも、ハンドクリームを上手に使用したいですね。ハンドクリームには色々な種類がありますが、症状に合わせて選ぶことも大事なんだとか。特徴で見ていきましょう。

効果的なハンドクリームの使い分け(選び方)

【症状:乾燥によるガサガサ】
・選ぶべきハンドクリームの種類/ビタミン系
ビタミンE配合のクリームは、血行を改善し、冷え対策になります。水分と油分を補給し、保湿の働きもあります。あかぎれ、しもやけにもおすすめです。全身にも使えます。

【症状:かさつき、粉ふき】
・選ぶべきハンドクリームの種類/保湿系
かさつきや粉ふきが消えても毎日のお手入れとして継続することが大切です。全身の乾燥が気になる箇所に使えます。

【症状:角化してゴワゴワ】
・選ぶべきハンドクリームの種類/尿素系
手・指・ひじ・ひざ・かかとなど角化している箇所に使います。皮膚の角化したところを溶解する働きがあります。ある程度ゴワゴワが取れたら、ビタミン系にするとよいでしょう。

ハンドクリームの効果的な塗り方4つ

効果を得るためには、塗り方も重要。日中こまめにケアできないときは、就寝前の集中ケアがおすすめです。

1.症状の改善効果を得るための、クリームを使う「タイミング」

おすすめは就寝前のハンドケア。寝ながら集中ケアができて翌朝しっとり感を実感できます。

2.最初の3 日はクリームの「量」を意識する。人差し指の第1関節1つ分が目安

人さし指第一関節分を両手に塗ります。症状が気になる部分は重ねづけを。就寝前には手袋を着用すれば、べたつきが気にならず浸透も高まります。特に最初の3 日は、使う量を意識することが大切です。

3.ビタミン系ハンドクリームを使った肌荒れと冷えを予防する「ハンドマッサージ」

血行を改善するビタミン系ハンドクリームを使用する時、同時にハンドマッサージをすることが有効です。マッサージをすることで塗りムラがなくなり、ハンドクリームの効果をより実感できます。さらに末端の血流の改善に役立ち、冷えの予防につながります。

おすすめのマッサージ方法はこちら

1. 手の甲にクリームをたっぷり取る
2. 両手の甲を重ね合わせ少しずつ広げる
3. 手のひらを使いしっかりと擦り込むように馴染ませる(親指側から小指側へ)
4. 指の一本一本に丁寧に塗り伸ばします(親指から順に)
5. 爪の周りを押しながらマッサージ
6. 特に乾燥しやすい指の股は両指で挟み合わせるように
7. 親指と人差し指の間を気持ち良い強さで押す

***

「手洗いとハンドケアはセットで」。感染症対策に気を取られ、肌荒れ対策は怠らないよう気をつけたいですね。今すでに手荒れしている方は、傷口から汚れやウイルスが侵入しないようにするためにも速やかに対処することをおすすめします。正しい手洗いと手肌ケアでウイルスも手荒れも予防しましょう。

この記事の執筆者
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EDIT&WRITING :
Sachi Tamura