「伝説の家政婦」タサン志麻さん初のライフスタイル本『ちょっとフレンチなおうち仕事』より、日常に取り入れたいフレンチ流の極意とは?

フリーランスの家政婦、タサン志麻さんをご存知ですか? 各家庭の家族構成や好みに応じた料理が評判となり、「予約が取れない伝説の家政婦」として注目を浴びています。

そんなタサン志麻さんが、6月に初のライフスタイル本となる『ちょっとフレンチなおうち仕事』(ワニブックス)を発売。「ラクしたい日こそフランス料理!」と提唱する志麻さんに、日々の生活に取り入れるとちょっぴり毎日がラクになる“フレンチ流”についてお聞きしました。

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タサン志麻さん
フリーランス家政婦
(たさん・しま)大阪あべの・辻調理師専門学校、同グループ・フランス校を卒業。ミシュランの三ツ星レストランでの研修を経て帰国。老舗フレンチレストランなどに15年勤務。2015年にフリーランスの家政婦として独立。各家庭の家族構成や好みに応じた料理が評判を呼び「予約がとれない伝説の家政婦」としてメディアから注目される。料理イベント・セミナーの講師や、食品メーカーのレシピ開発など多方面で活動中。
タサン志麻公式ホームページ

誤解されがちなフランス料理「実はとてもシンプル」

『ちょっとフレンチなおうち仕事』は、タサン家の日々の生活や、お料理、築60年の古民家、そして家族……と、盛りだくさんの内容です。

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『ちょっとフレンチなおうち仕事』(ワニブックス)

気になるのはやっぱりお料理のこと。フランス料理というと敷居が高く感じられてしまいますが、「フランスの家庭料理はとてもシンプルなんですよ」と志麻さんは語ります。

「フレンチは重い、というイメージを持つ人も多いかと思うんですが、実は塩で引き出した素材の旨みが調味料代わりになるので、食べたときの印象は意外と軽いんです。

素材の味をしっかりと楽しむのが、フレンチの基本なんですよ」(タサン志麻さん)

調味料は、塩と胡椒のみ。これは家政婦の仕事として各家庭に行ったときにも、よい効果をもたらしてくれるといいます。

「いろんなおうちでつくると、やっぱり調味料の種類は家庭それぞれ違います。和食はいろいろな調味料を使うので、同じレシピでも味がブレてしまうんですよね。それに比べるとフレンチは基本の調味料が塩と胡椒だけなので、味がブレにくいんです」(志麻さん)

タサン志麻さんオススメのレシピを紹介!

フレンチは難しそうに思えて、実はつくり方も「とても簡単」だと話す志麻さん。

本書にはレシピも掲載されていますが、その中から最初につくる一品として何がいいのかお伺いすると、「鶏ときのこのソテー」という回答が。

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「鶏ときのこのソテー」

【材料】(2人分)

鶏もも肉 1枚
しいたけ 2個
マッシュルーム 大2個
しめじ 1/2パック
パセリのみじん切り 大さじ1
にんにく ひとかけ
サラダ油 大さじ2
塩、こしょう 各適量

【つくり方】

1.鶏肉は大きめのひと口大に切り、両面に塩をしっかりめにふる。しいたけ、マッシュルームは半分に切る。しめじは大きめの小房に分ける。
※水っぽくなるので、きのこは洗わず、ペーパーで汚れをふき取る。

2.フライパンにサラダ油を入れ、鶏肉を皮目を下にして並べる。空いたスペースにきのこの切り口の断面が下になるように並べ、フライパンを強火にかける。ここからしばらくは、肉もきのこも触らない。
※弱すぎるとこんがり焼き色が付かないので、最初は強火。音に耳をすまし、しっかり焼けている音を感じたら弱める。

3.焼いている間に、パセリ、にんにくをみじん切りにする。きのこは1個だけ裏を見て、しっかり焼き色が付いていたらひっくり返す。鶏肉は上から見て白い部分が縁に見えてきたらひっくり返し、中まで火を通す。

4.フライパンを傾けて出てきた脂をふき取り、塩こしょうを振って、にんにく、バセリを加え、混ぜれば完成!

「鶏ときのこを組み合わせてソテーする、というのは料理本によくありそうなメニューなんですが、焼き方にちょっとしたコツがあるんです。

日本人は、“炒める”という作業をしてしまいがちなんですが、フレンチで“焼く”というときは『絶対に触らないで』という感じなんです。じっくりと焼き付けるイメージで調理するだけで、味が変わるんですよ。

炒めるときのこから水分と一緒に旨みも出てしまいます。でも、焼き色をつけてあげると、旨みがギュッと中に凝縮されておいしくなるんですよ」(志麻さん)

実際に試してみると、きのこがとてもジューシーに仕上がるので驚き! 鶏肉も、噛むと肉汁が口の中で弾け、普段のソテーとはひと味違ってきます。

そしてこの調理法、おいしいだけではないんです。

「焼いている間触らなくていいとなると、晩ごはんをつくっているときにも少しだけ空き時間ができるんですよ。ちょっと離れて違う料理をつくるなど、別のことができます。例えば私の場合だったら、洗濯物を取り込んで畳みます。煮込み料理じゃなくても、自分に余裕ができるんですよ。

つくり置きの仕事をするときも、短時間で何品もつくらなければなりません。自分ひとりでつくるから、材料を切ったり、下準備したり、野菜を洗ったり。

全部を調理しながらやろうと思うと大変なのですが、フランス料理はそういうちょっとした空き時間ができるから、すごく楽なんですよ」(志麻さん)

重要なのはレシピの順番!

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料理中の様子。何品も同時進行していくのにも、フレンチ流は向いているという

同じレシピで料理をしても、家庭によって少しずつ変わってきます。それは、コンロの火の強さだったり、鍋の大きさだったり、材料にも個体差があるから。

おいしく仕上げるポイントのひとつは、「どういう順番で調理していくかということ」だと志麻さんは話します。

「例えばラタトゥユ。レシピだと最初にすべての材料を切っておいて……と書かれていますが、キッチンが狭いとなかなかできませんよね。

だから、私は普段から野菜を切りながら調理をしていきます。鍋にオリーブオイルをひいて、玉ねぎから炒めていく。塩をかけると脱水作用で水分が出てくるので焦げにくくなりますし、旨みがグッと引き出されるんですよね。

その間に次の野菜をどんどん切りながら炒めていく。時短にもなりますし、こういうちょっとしたことでもっとおいしくなるんですよ。すべての材料を一気に炒めて煮ても、水っぽくなってしまいますから。

料理をおいしくするポイントってそういう順番だったり、塩の使い方だったり、本当にささいなことなんですよ」(志麻さん)

毎日の食事をできるだけ楽しんでほしい

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タサン家のある日の朝食

フランスへの留学経験もある志麻さん。実際にフランスで暮らす中で印象的だったのが、フランスの人々が「時間をかけて料理を楽しむ」ことだったのだそう。

「フランス人と食事をすると、会話がすごく多いんですよ。そして会話が多いと自然と笑顔の数も増えます。

食事は毎日のことだし食べなければ生きていけないんだから、その時間を楽しく過ごせるのはいいな、と思うんです。楽しい時間が毎日の終わりにあると思うと、それだけで元気が出る気がしませんか?

有名なレストランの料理を食べに行ったり、買ったりしなくても、食事は楽しめると思うし、料理人、家政婦としてはぜひ実践してほしいな、と思いますね」(志麻さん)

そして、もうひとつ、取り入れてほしいフレンチ流は「気楽に生活をする」ということ。

「フランス人って、すごく“個性”を大切にするんです。

私自身、小中学校のときは変わり者だったんですが、フランスで生活していたときは、誰も私を否定しないし、違和感なく受け入れてくれた。ひとりの人として違っていていい、違っていて当たり前、という考え方をもともとみんなが持っているんですよね。

日本は『こうでなきゃいけない』とか『人に迷惑をかけちゃいけない』って、周囲を気にしてしまいがち。もっと周りの目を気にせず、誰もが自分たちのスタイルを楽しめるようになるといいと思います」(志麻さん)

フランスで暮らし、フランスが好きでいろいろと勉強してきたという志麻さん。本書に込めたのは「がんばりすぎない生活を送ろう」という想いでした。

「フランス人の生活は、実は質素でシンプル。お金をかけなくても、特別なものを用意しなくても、人生を楽しんでいる感じがするんですよね。素朴で気取っていない生活っていうのがフレンチっぽい。

私は築60年の古民家に住んでいますが、ボロボロでも自分たちでいろいろと手を加えて家族の空間をつくっていくのは楽しいです。

家政婦の仕事でいろいろな素敵なおうちに伺うことはありますが、どのおうちよりも自分の家が好きだし、今の生活が楽しい。そうやってがんばりすぎず、自分らしく生活していくのがいいのではないでしょうか」(志麻さん)


『ちょっとフレンチなおうち仕事』では、フランスの家庭料理の極意や、志麻さんの普段のおうちでの生活を垣間見ることができます。1冊を通して読むと、「すぐにでも真似したい!」というフレンチ流が満載ですよ。ぜひ手に取ってみてくださいね。

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この記事の執筆者
大阪府出身。大学卒業後、フリーランスのライターとしてゲームシナリオを中心に執筆活動を開始。夫とたれ耳のうさぎと暮らしている。好きなもの:料理、文房具、うさぎ、夏フェス、小説、アクセサリー
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EDIT :
小林麻美