2017年で120年を迎えることになった、英国を代表するラグジュアリーブランド「グローブ・トロッター」。世界で最も有名な旅行カバンのメーカーのひとつです。
日本でグローブ・トロッターを扱う、グローブ・トロッターアジアパシフィック代表のMr.TT氏。彼こそが、この素晴らしいスーツケースに、私たち日本人が触れるきっかけをつくってくれた人です。
Mr.TT氏は、日本のファッション界で最も英国社会に造詣の深い人物のひとりです。私、アンドリューは彼こそが英国魂の体現者だと確信していますし、Mr.TT氏と英国について語ることほど楽しいことはないと、常日頃から感じています。
名門英国ブランドとの出合いは、誤解がきっかけだった?
Mr.TT氏はまた、BLBGという会社の代表でもあります。BLBG(British Luxury Brand Group)は、フォックス・アンブレラやスウェイン・アドニーなどの英国を代表するブランドを数多く扱っています。
BLBGが運営するショップ、ヴァルカナイズ・ロンドンは、何から何までもがリアル・ブリティッシュを体現したお店(英国というと霧のロンドン、紅茶、衛兵の交代式、ぬるいビールと、いまだにプロトタイプにしか語られない、not realな英国とは違う、リアルな英国!)。
このヴァルカナイズ・ロンドンで扱っている、ターンブル&アッサーという英国王室御用達のシャツメーカーがアンドリューは大好きです。Mr.TT氏の推薦で、同ブランドの伝説のヘッドカッター(シャツづくりのすべてを決定づける、シャツメーカーにとって最も重要な人物)=ディヴィッド・ゲイルさんの採寸でシャツをつくったことがありますが、あまりの見事で完璧な採寸に、感動したことがあります。
残念ながらディヴィッドさんは引退してしまったけれど、今年も10月にターブル&アッサーのシャツのオーダー会が「ヴァルカナイズ・ロンドン青山」で開催予定なので、アンドリュー、今から楽しみ!
・・・・と前置きが大変長くなってしまいましたが、Mr.TT氏とグローブ・トロッターの物語です。
Mr.TT氏、今では最もリアル英国社会に精通したファッション界の人物ですが、元々は、大のアメリカ好きだったそうです。アメリカ好きが高じてアメリカ中を放浪していたくらいなのだとか。
アメリカ好きのひとつの理由は、アメリカの音楽が大好きだったこと。それで就職時に、当時話題をさらっていた外資系の有名レコード会社に就職! 心置きなくアメリカのポップス、ロックミュージックを生業にできる・・・はずでした。
ところが・・・。
Mr.TT氏が入った会社は、ヴァージン・アトランティック航空。代表は同じリチャード・ブランソン氏ながら、ヴァージン・レコードとはまったく別の会社だったのです。そのことにMr.TT氏は入社するまで気づかなかったのです。
図らずも航空会社に入社したMr.TT氏。しかも大好きなアメリカとは関係ないイギリス企業! ところがこの偶然の間違いが、私たち日本人に、グローブ・トロッターという素晴らしいラゲージ(旅行カバン)をもたらしてくれることになろうとは、当のMr.TT氏本人も、当時は気づくよしもありませんでした。
リチャード・ブランソンの衝撃の言葉
ヴァージン・アトランティック社で黙々と働くMr.TT氏は、ある時、空港で会社の同僚に会います(航空会社だから当たり前のことですが・・・)。英国航空から転職してきたというその英国人の同僚たちは、その時、一様に同じ、シンプルでかっこいいスーツケースを持っていました。
日本人の海外旅行時のスーツケース姿がみっともないといわれた、その時代。この同僚たちの颯爽とした姿と、そこにあったスーツケースのあまりのクールさに、Mr.TT氏は心が震える思いになったといいます。
Mr.TT氏は同僚に「そのスーツケース何? かっこいいね! どこのブランド?」と質問。それに対して同僚は「これ? グローブ・トロッター。知らないの? 前にいた会社では、社給品でみんなこれ使ってたんだよ。うちの会社(ヴァージン・アトランティック)って、BA(British Airways=英国航空)からの転職組が多いだろう。だからみんなこれ、使ってるんだよ」と。
Mr.TT氏はこの話を聞いて衝撃を受けます。「なんとか、このかっこいいスーツケースを日本人にも知ってもらいたい!」。Mr.TT氏は、一念発起して、この見たこともなかった、シンプルなのに存在感抜群のスーツケースを日本で販売することを決意します。
ヴァージン・アトランティック社は、奇想天外な発想で事業拡大を成功させた英国のカリスマ実業家=リチャード・ブランソン氏が代表。故ダイアナ妃と親しかったことでも有名なブランソン氏は、あらゆる面でユニークな発想の持ち主で、自社の社員がアルバイトをすることを認めていました(一説には奨励していたともいわれる)。
ある時Mr.TT氏は、日本に来たブランソン氏から声をかけられます。
「あれ、君、まだうちの会社にいたの? もう独立して別の会社でも起こしているかと思ってたよ。うちの会社、長くいないほうがいいんじゃない? だって給料安いでしょ、うち」
これが、社長の言葉か!? 終身雇用がまだまだ当たり前の昭和を引きずる日本にあって、それは衝撃的な言葉に聞こえました。
アルバイトOKという自由な社風にあって、Mr.TT氏はヴァージン・アトランティック社員のまま、グローブ・トロッターを扱う事業を始めます。今から約20年ほど前のことでした。
ファッションモデルたちがこぞって愛用!
グローブ・トロッターは、新しいものに敏感で、美意識の高い、スタイリスト、モデル、ファッション編集者がいち早く注目し、プライベートで愛用するようになります。2000年代前半、人気モデルたちの私物公開の記事で、グローブ・トロッターが紹介されたことが多々ありました。
それに伴い、Mr.TT氏の事業は拡大。また、グローブ・トロッターの修理や、部品交換も忙しくなり、ついにヴァージン・アトランティック社員との二足の草鞋人生を断念、グローブ・トロッターを扱う社業に専念することになります。
その後のMr.TT氏は、ますます英国製品と英国文化の日本への紹介に命を注ぐことになります。先に述べた、フォックス・アンブレラやスウェイン・アドニー、ターンブル&アッサーはもちろん、スマイソン、グレンフェルといった、色濃く英国文化が香る、あらゆるブランドを日本に紹介。アンドリューも、これまで英国旅行のときにしか購入できなかった数々の英国ブランドを、Mr.TT氏の英国愛によって日本国内で購入することができるようになって、とってもうれしいのです。
今、グローブ・トロッターは、ブランドの代名詞となっているヴァルカン・ファイバーを使ったスーツケースだけでなく、様々に商品ラインナップが広がり、ラグジュアリー・ファッションブランドに発展しています。
昨年(2016年)には、東京銀座の東急プラザ銀座に、大型路面店GLOBE-TROTTER GINZAもオープン。ますます商品購入が身近になったばかりか、修理などのメンテナンス面でも充実した体制となりました。
私アンドリューは、このグローブ・トロッターというスーツケースの持つ、なんともいえないピシッとしたdignity(=威厳)が大好きですが、こんな素晴らしいスーツケースに出合えたのも、Mr.TT氏の着想眼(=good eye)とそれを実現に結びつけた類稀なる実行力、そしてその熱意によるものだと、感謝の一言です。
ところでMr.TTって誰? ミスター・マリックじゃないよね? という皆様、Mr.TT氏の素性は明かしませんが、氏には『ジェームズ・ボンド 仕事の流儀』(講談社α新書)という、英国人気質を知る上での最高の名著がありますので、素性を知りたい方はそちらから調べてみてくださいね。
ということで、今回も、くれぐれも長〜ーーーーーーーくならないように、と言われていたのに、長ーーーーーーーくなってしまい、ソーリー、ソーリー、I'm sorry, indeed. でございます。
それでは今回は日が沈むからさようなら。
- TEXT :
- アンドリュー橋本 Precious非公式キャラクター