「玉虫塗」は、その名のとおり、玉虫の羽根のように艶やかな光沢と鮮やかな色彩が特徴の塗り。独自の質感は、染料を混ぜた透明な表面の下から、銀粉が照り返すことで生まれます。0.01ミリの薄さで、何層にも塗料や銀粉を重ねる繊細な漆芸は、17の工程を経てやっと完成の目を見ます。

特許技術でもあった「玉虫塗」を唯一手がけるのが、1933年に創業した東北工芸製作所です。仙台市青葉区愛子にある工房には、現在4名の職人が在籍。日々「玉虫塗」を制作しています。

従来の漆器にはなかった色鮮やかで艶のある質感が特徴

「見る工芸から使う工芸へ」という、伝統と革新を大切にしたモノづくりの想いは、海外のラグジュアリーブランドにも通じる理念。2014年にはグッチとのコラボレーションで、「玉虫塗」をダイヤルに配した時計を発売。全国で175本が即完売するなど、話題と人気を集めました。さらに、9月10日まで仙台で開催中の「ジョジョ展 in S市杜王町 2017年」では、「玉虫塗」の技法を用いたポストカードも販売。伝統を大切にしながら、新しいものも柔軟に取り入れる姿勢は、東北工芸製作所がつくり出す、商品すべての魅力にも繋がっています。

表面のほこりをていねいに取っていく「ふし上げ」という作業
銀粉をのせた「玉虫塗」の漆器

日本初のデザイン機関。仙台と工芸の深いつながり

仙台は、工芸デザインと深い関わりのある土地だということをご存知でしょうか。1928年、日本初の国のデザイン研究施設である「国立工芸指導所」が建てられたのは、実は仙台でした。あの「桂離宮」の美しさを世界に広めたことで知られる建築家のブルーノ・タウトが顧問を務め、後に世界的なデザイナーの剣持 勇らも輩出した指導所では、当時まだ高価だった漆器を輸出用に改良。良質に量産ができ、手に寄りやすい価格で、海外の生活に合うようなデザインとして開発された背景が、自ずと「玉虫塗」が現代のライフスタイルにも合う理由となっています。

軽くて丈夫、料理を美しく見せる漆器

その色艶と合わせて「玉虫塗」の魅力となっているのが、軽くて丈夫、耐久性に優れていること。さらに、お椀や箸だけでなく、サラダボウルやワインカップなど、これまでの漆器の概念を覆すような用途のバリエーションに、驚かされます。

現代的なダイニングにも合う「玉虫塗」のお椀と箸

「ナノコンポジットコーティング」という特殊加工を施したワインカップは、漆器ながら食洗器にも対応。金箔をていねいに手作業で貼り合わせて、萩の柄を描いた商品は、海外からのファンも多いといいます。

食洗器で洗えるワインカップは、特別なゲストを招く日のテーブルコーディネートに

また、東日本大震災後の2012年には、新シリーズ「TOUCH CLASSIC(タッチ クラシック)」を制作。「伝統工芸の可能性を広げ、使う人の日常を華やかに彩りたい」をコンセプトに掲げた商品は、“今”の感覚を取り入れた、シンプルなフォルムと機能美で、男女問わず使う人を選びません。

そのひとつ、「シリアルボウル」は、まさに“漆黒”という言葉がぴったりな、深みのあるモダンで上品な黒が魅力。シリアルがいつもの何倍にも美味しく感じられそうな器は、小鉢としても料理を品よく見せてくれます。

「TOUCH CLASSIC」シリーズのシリアルボウル

また、東北工芸製作所の常務取締役の佐浦みどりさん、工房の木村真介さんの「商品のよさだけでなく、使うシーンまで提供したい」という取り組みにより、仙台のカフェや日本酒バーでも「TOUCH CLASSIC」の器を用いて、コーヒーや日本酒を提供。仙台市青葉区にある人気店「センダイ コーヒー スタンド」では、”うすはり”で有名な松徳硝子製のガラスに「玉虫塗」の技法を用いたグラスで、美味しいアイスコーヒーと器の使い心地まで楽しむことができます。

「玉虫塗」の商品は、勾当台公園駅より徒歩10分の場所にあるショールームにて、購入することが可能です。毎日の生活を豊かにしてくれる「普段使いの漆器」は、遊び心のあるハイセンスなおもてなしとしてホームパーティや、プレゼントとしてもぴったりです。

実際に商品を購入できるショールームでは、「グッチ」とコラボレーションした時計など、過去に発売した商品なども展示

問い合わせ先

  • 東北工芸製作所 TEL:022-222-5401
  • 営業時間/10:00~18:00
  • 定休日/土日祝日
  • 最寄り駅/仙台市市営地下鉄南北線 勾当台公園駅

■1:暮らしのアイディアも参考に。民芸の名店「仙台光原社」

ここからは、宮城ゆかりの器や雑貨が手に入る、おすすめの2店をご紹介。1店目は、遠方からも多くの人が足を運ぶ「仙台光原社」です。もともと、「光原社」は1924年に、宮沢賢治の童話集『注文の多い料理店』を発刊した出版社として盛岡で創業。その後、「民藝」を提唱した柳宗悦や、染色家の芹沢銈介らと出会ったことで、全国各地の民芸を集めた店へと、業態が移っていきました。その支店として約50年前にオープンしたのが、青葉通り一番町駅から、徒歩10分ほどにある「仙台光原社」です。

店の入り口。甕を用いたディスプレーなども参考になる

外壁に這う蔦と、力強い梁が趣のある店は、看板や鉄行燈を芹沢銈介がデザイン。入口では、睡蓮鉢で涼しげに泳ぐ金魚がお出迎えをしてくれたり、店内では実際の部屋の一角のように手仕事の品が飾られていたりなど、至るところに暮らしのアイディアを探すことができます。

1階の入り口付近は、季節や企画展に合わせてこまめに商品が変わるので、訪れるたびに新しいものに出合える

この「仙台光原社」で扱うのが、温泉地としても有名な秋保の工房で製作される「仙台ガラス」です。市内の西南に流れる広瀬川の砂を用いた器は、爽やかな杜色が特徴。作家の村山耕二さんが作る表面が波打つようなガラスの器は、繊細な光のゆらめきも楽しむことができます。

工房「海馬」で「仙台光原社」のためにオリジナルで製作されているグラス(右)と、小鉢としても使えるもっきりグラス(左)

また、日本全国はもとより、海外からも集められた優れた手仕事は、どれも美しくていねいにつくられたものばかり。常時50~60人のつくり手の商品を取りそろえ、民芸店ならではの手に取りやすい価格も魅力です。同じ器でも、そのフォルムや風合いは少しずつ異なるため、ずらりと並べて、自分の感性にあった“運命の出合い”を探すのも、楽しみ方のひとつ。

数百円から購入できる小皿。釉薬ののり方や模様などが微妙に違うため、じっくり吟味して購入したい

都内のセレクトショップでも取り扱いの多い、小鹿田焼やスリップウェア、同店で人気だという沖縄のやちむんなどもそろいます。特に民芸のテイストが好きな人なら、ぜひ時間をたっぷり取って、足を運んでいただきたい名店です。

趣きがある「仙台光原社」の外観

問い合わせ先

  • 仙台光原社 TEL:022-223-6674
  • 営業時間/10 :00 ~18:30(1~3月は18:00閉店)
  • 定休日/毎月15日(土・日・祝日の場合は営業)
  • 住所/宮城県仙台市青葉区一番町1-4-10
  • 最寄り駅/仙台市営地下鉄東西線 青葉通り一番町駅

■2:デザイン民芸がそろう「東北スタンダードマーケット」

2店目は、東北地方の民芸、雑貨、食品を中心に、約300点の商品を取りそろえる「東北スタンダードマーケット」です。民芸をベースに現代的なデザインを取り入れた雑貨や小物を多く扱っているため、ユニークな仙台土産を探すのにも便利なお店です。ギャラリーショップのような店内は、民芸に詳しくなくとも、デザイン雑貨が好きなら、きっと楽しめる空間です。

店内の商品からは、東北を拠点にモノづくりをする企業や、若手作家のことも知ることができる
壁面のボックスにずらりと並ぶ商品を覗くのも楽しい

こちらで扱われている宮城の民芸は、江戸時代後期に生まれ、仙台で発達した「常盤紺型染め」の手ぬぐい。現在、この技法の保存・復刻を務める「名取屋染工場」に眠っていたオリジナルの木型を使用した手ぬぐいは、江戸時代後期に考え出されたとは思えない、モダンな柄が魅力です。

工房に眠っていた約800枚の木型から、現代にも合うものをセレクト。「東北スタンダードマーケット」オリジナルの手ぬぐい

また、平安時代からつくられている宮城「白石和紙」は、こんにゃく粉を使うことで、強度と和紙ならではのふくよかさを楽しめる品。松尾芭蕉の句にも詠まれ、自身も旅の荷物に忍ばせていたという歴史ある和紙は、かすかな凸凹が美しい模様を際立たせます。

「白石和紙」の名刺入れ。モダンな柄の和紙は、摩擦の多い商品の素材としても使える強度を合わせ持つ

ファッションビル「パルコ2」内という立地から、観光客も多い店内では、地元の食品やアクセサリーなどと併せて、民芸や工芸品を市内でも随一の商品数でラインナップ。JR仙台駅から徒歩3分ほどなので、旅の最後に立ち寄り、そのまま新幹線に乗るスマートな活用法がおすすめです。

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TEXT :
Precious.jp編集部 
2017.9.3 更新
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EDIT&WRITING :
村上杏理