ブシュロンのクリエイションディレクター、クレール・ショワンヌが、この新コレクションで描き出したかったことは、「自然の美しさ、儚い世界の美しさ」だと言います。
空に浮かぶ雲のようなネックレスなど、自然の瞬間を封じ込めた作品群です。この詩的な着想を実現するために採用したのは、意外な素材や最新の技術でした。それぞれのピースを見ていきましょう。
詩的な世界観を表現したコレクション「コンテンプレーション(黙想)」
意外な素材で空を描写する「グット ドゥ シエル(空のかけら)」
コレクションのなかで最も目を引くピースは、大ぶりなペンダントトップがついた「グット ドゥ シエル(空のかけら)」のネックレスでしょう。
「手で触れられないものを形にし、空のかけらを首元に飾りたいと思ったのです」と、クレールは言います。
空の紺青の色調と、その儚さを表現しうる素材を2年にわたり探し続け、たどり着いたのが、NASAが宇宙空間でスターダストを集めるためのパネルに使用している特殊な素材エアロゲルでした。
エアロゲルは、99.8%が空気で、残りはシリカ(二酸化ケイ素)によって構成される素材で、光に応じて色調が変化するのだそうです。これをロッククリスタルの中に閉じ込め、パヴェダイヤモンドを敷き詰めたネックレスのペンダントトップとしてセットしました。
宇宙科学技術の世界で使うこの不思議な素材をハイジュエリーに利用するとは大胆な発想です。ペンダントのロッククリスタルの中を覗き込まずには入られません。
グラフィックに雲を表現した「アン パサン(流れる雲)」
「アン パサン(流れる雲)」は、まさに空を流れていく雲がモチーフとしてグラフィカルかつコンテンポラリーに表現されています。
ネックレスは、マットな質感のロッククリスタルのビーズが並ぶ5連の上に2筋の雲がセットされています。まるで雲から雨が降っているかのようなデザインです。
アート作品からインスパイアした「フネートル シュール シエル(空への窓)」
エアロゲルもさることながら、この新コレクションで注目すべき素材はチタンです。
「フネートル シュール シエル(空への窓)」は、瀬戸内海の直島にある地中美術館に展示されている光の芸術家ジェームズ・タレルのインスタレーション作品「オープン・スカイ」からインスピレーションを得たそうです。
この作品は建築と一体化したインスタレーションで、天井に四角い開口部があり、そこから空が見えるようになっています。
「フネートル シュール シエル(空への窓)」は、チタンをメッシュ状に成形しているため、非常に軽量かつしなやかな着け心地です。また、ハイジュエリーに初めてエアブラシ技術を採用し、空を描き出しています。空の上に鎮座するのは、見事な35カラットもの深いブルーのタンザナイトです。
ダイヤモンドが揺れる「アヴァン ル フリソン(風がそよぐ前に)」
身につける人の動きで揺れるジュエリーはこれまでにもありましたが、このコレクションでブシュロンが披露したのは、タンポポの綿毛の繊細な揺らぎです。これを表現するためにチタンによるトレンブラン技法を採用しています。
トレンブラン技法とは、揺らしたいモチーフの根本にバネを施し、そのスプリングの効果により、身に着けている人の動きに合わせて揺れるというもの。繊細に揺れるようにするには、微小な単位でバネの角度や巻き具合の調整が求められるのだそうです。
今回はゴールドの4倍の軽さ、柔軟性、そして非常に薄くできるチタンのみを極細に加工して使用したことにより、タンポポの綿毛のような軽やかな動きを再現しました。
雲を首元にまとう「ニュアージュ アナペサントゥール(無重力の雲)」
「私が望んだのは、女性の首元を輝きで包み込む雲をよりリアルにジュエリーにすることでした」とクレール。まず、デッサン画ではなく、コットンで雲の模型を製作し、それをプログラマーがコンピュータで解析して、雲のアルゴリズム(計算方法)を作成し、雲の密度を表現するドットの位置や数を設定。
この算法により、思い描く雲の形と、ダイヤモンドやガラスビーズで表現された水滴数を導きだしたのだそうです。チタンのワイヤーの先端に4,018石のダイヤモンドとガラスビーズがセットされています。
手作業による職人技と対極にあると思われていたデジタル技術ですが、最近では、コンピューターが計算し、職人が実現するという役割分担で新しいハイジュエリーの傑作が生み出されています。
ブシュロンの新作コレクションは、最新技術や素材を大胆に使い、ファンタジックな世界観をハイジュエリーに表現した画期的なもの。ブシュロンの新しい未来の扉を開いたといえるでしょう。
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- TEXT :
- 安田薫子さん ライター&エディター