知れば知るほど疑いようがなくなる悪女ぶり

その人は、悪女か否か? 久しぶりにそういうテーマで物議を醸している人がいる。

女優、アンバー・ハード。いや、悪女かどうかより、むしろ聖女か悪女か? を論じたくような透明感を持つ人であるからこそ、彼女を知れば知るほど疑いようがなくなる悪女ぶりが、よけいに神秘性を増してくるのだ。

映画『ロンドン・フィールズ』
映画『ロンドン・フィールズ』

『ロンドン・フィールズ』という映画で、アンバーは3人の男を手玉に取る、魔性の女を演じている。シュールなストーリーだけに、作品自体に対しては好き嫌いが分かれるはずだが、アンバーの非常に危うい魅力を知るうえでは、とても重要な1本だ。この謎の女と、実際のアンバー・ハードが、ちょっと怖いくらいにダブってくるからなのである。

しかもこの映画には、なぜか元夫のジョニー・デップがカメオ出演している。2018年公開だから、撮影中は離婚訴訟の泥沼の真っ最中? ただこの映画、ほかにもさまざまな問題を抱えていて公開が大幅に遅れたことで、奇妙な時期のズレが生まれてる。これを撮影したときは、まさに離婚問題が深刻化しようとするときだったらしい。

映画『ロンドン・フィールズ』に出演するジョニー・デップ
映画『ロンドン・フィールズ』に出演するジョニー・デップ

ご存じのように1年3か月という短い結婚の後、アンバー・ハードはジョニー・デップを相手取って離婚訴訟を起こしており、お互いがDVを訴えるなど泥沼化。一度は沈静化したものの、一昨年、今度はジョニデがアンバーを名誉棄損で訴えるという展開になった。

それこそこの映画をめぐっては、主人公ビリー・ボブ・ソーントンと妻アンバーとの不倫を疑って、ジョニデが妻に暴言を吐くなどの事実があったともいう。まさに因縁の作品なのである。いや実際、ジョニデは当時、妻と共演する俳優がみんなアンバーと関係するのではないかという猜疑心の塊になっていたと言われるだけに、ひょっとすると、ジョニデの意味不明のカメオ出演は、妻の不倫を監視し、突き止めるための幼稚な手段だったのかもしれない。そう思いたくなるほど、妻の共演者を片っ端から疑っていて、ジム・スタージェスなど、ほかの出演者も例外ではなかった。しかもジョニデは、女性の共演者と妻の関係も疑ったとされるのだ。

よく知られているように、アンバー・ハードはバイセクシャルであることを認めている。かつて何度も女性との交際や同棲を報道されているし、最近も撮影監督の女性とのキスシーンがスクープされていたりする。そもそもが恋多き女であるうえに、バイセクシャルとなると、確かにパートナーはたまったものではない。心が安らぐ暇もないのだろう。

映画『ロンドン・フィールズ』に出演するカーラ・デルヴィーニュ
映画『ロンドン・フィールズ』に出演するカーラ・デルヴィーニュ

この映画には、これまたなぜかチョイ役でカーラ・デルビューニュが出演しているが、彼女もバイセクシャルを公言しており、案の定アンバーとの関係が噂されているのだ。この映画で知り合ったのか、その前からなのかは不明だが、ともかくもうぐちゃぐちゃ!

映画『ロンドン・フィールズ』
映画『ロンドン・フィールズ』

この映画の中でアンバーが演じる女は、暴力的なヤサグレ男には“あばずれなバンプ”として接するのに、貴族の男とは“清純そのものの淑女”として振る舞う。そうかと思うと掴みどころのないミステリアスな女となって男たちを翻弄するのだが、これがもはや映画の中の出来事とは思えなくなってくる。

「この役は、彼女より私の方がふさわしい」

そもそもジョニデが泥沼状態を蒸し返すように名誉棄損でアンバーを訴えたのも、DV男として俎上に上げられ、それによって仕事も激減、イメージの回復が急務になったから、とされるが、正直、本気でイメージ回復したいなら、ほかの方法をとったほうがよかったのではないかと思われるほど、やっぱり相手が悪すぎた。

2度目の訴訟もお互い暴露合戦の様相を呈しているが、漏れ聞こえてくるアンバーの“生ける悪女”ぶり、ひょっとするとハリウッドの映画史に残るほどのレベルなのではないかと思われるほど。ジョニデが今更のように「アンバーが名声とお金を目当てに自分に近づいてきた」と毒づくのも、あながち思い込みではなさそうだ。

ふたりの出会いは、『ラム・ダイアリー」という映画。一般的にはジョニデがアンバーにひと目惚れしたというのが定説だったが、どうもアンバーのほうが先に仕掛けたというのが真実のよう。ジョニデにとって、据え膳食わぬは、というパターンだったようだが、結果的には14年続いたヴァネッサ・パラディとの事実婚を解消したうえに、初めての入籍まで果たしている。婚約は何度もしたのに結婚はしない男に、あっけなく結婚を決意させたのだから、大したもの。もうその時点で、並の女でないことはわかっていたが、今考えればそこまでさせたのも、アンバーがただの“魅力ある美女”ではなく、明らかにファム・ファタールの部類に入る、ただならぬ女だったことを物語る。

映画『ラム・ダイアリー』
映画『ラム・ダイアリー』

まず、ジョニデとの結婚で一気に知名度を上げ、それまでとはランクの違う、主演も張れるトップ女優の一人となったのは確か。いやそういう意味で野望をかなえる歩み自体、見事なものだったと言わざるを得ない。意外に長い下積み生活があったとされるが、17歳でモデルを目指して高校を退学というあたりには、成功を目指す少女の安めのストーリーが見えてくるが、モデルとしては挫折、目標を女優に切り変えたあたりから本領発揮となる。長い下積みも努力を重ねたというよりは、手段を選ばぬ捨て身の売り込みを重ねてきたと言うほうが正しいのだろう。

映画『ラム・ダイアリー』
映画『ラム・ダイアリー』

名前が売れてくるまでにこの人はホラー系の映画に何本か出ているが、指示もないのに自ら積極的に脱ぐような売り込み型の演技をしたともされる。そして、どちらにせよ『ラム・ダイアリー』出演が、ひとつの大きなターニングポイントになったわけだが、この「富豪の愛人役」を射止める“努力”もすごい。もともとその役は、スカーレット・ヨハンソンに決まりかけていたと言うが、アンバーは、「この役は彼女よりも私の方がふさわしい」こと、「自分がどれだけこの役を演じたいと思っているか」ということを、綿々と綴った手紙をプロデューサーに送っているのだ。

映画『ラム・ダイアリー』
映画『ラム・ダイアリー』

やがて恋人関係となる二人だが、別れたり、ヨリを戻したりを繰り返しているなかで、嘘か誠か毎日のようにポエム風のレター付きの花束を贈り続けるほどアンバーに夢中だったというジョニデに対し、自由な恋愛を求めるアンバーは結構冷めていて、結婚は望んでいないらしい……そういった記事が当時次々に世に出たことも、今思えば、少々不自然。アンバーの意図的な印象操作のひとつだったのではないかと思えてくる。なぜならばその手の情報は全てアンバー側の「関係者」から提供されていたからだ。こうして結婚まで何度も別れと復縁を繰り返しているが、それも自分にぞっこんの男をジラすための駆け引きだったのではないか。

溺れさせて、魔女かどうか確かめよう?

「アンバーを火あぶりにして、確かに絶命したか屍をチェックしよう。それか溺れさせて魔女かどうか確かめよう」といったメッセージをジョニデが友人に送っていたことも今回明らかになり、事実、そういう心境なのだろうが、驚くべきはこれを裁判所に提出したのはアンバー側。“魔女の疑い”がかけられていることも、自分に有利な証拠になり得ると考えるのは、やはり本物の悪女の余裕だろうか。

ジョニデによる暴力の有無は不明だが、恫喝しながらワインボトルを壁に投げつけたりする映像ははっきり残っている。いや、こんな修羅場の映像が残っているのは、やはりアンバーが煽って煽って男を怒らせて、証拠を残そうとした結果なのではないかとまで思ってしまう。

ただそこまでの悪女に天下のジョニデが夢中だったことは紛れもない事実。これまでの恋愛の多くは、逆に自分主導で、婚約までして別れた女性たちがその後みんな精神的にバランスを崩してしまったほどに、女性たちを夢中にさせてきた。そういう男が初めて女性にソデにされることを経験して、自分を見失うほどに愛しすぎてしまったのは確かなのだ。

ジョニー・デップとアンバー・ハード
ジョニー・デップとアンバー・ハード

従って、全て解決済みと思われたタイミングで、またも名誉棄損で訴えるのはやはり未練なのか? そう見えるのも、アンバーの新恋人がこともあろうにあのイーロン・マスクだったからではないかと言われている。男たちにとっては、ぐうの音も出ない相手。スティーブ・ジョブス以上の天才にして、宇宙開発、自動運転を牽引する未来の男、資産は数千億という、とてつもない成功者である。ジョニデが、自分は踏み台にされたと考えても無理はない。

アンバー・ハードとイーロン・マスク
アンバー・ハードとイーロン・マスク

アンバーの恋愛対象は全く無差別にして無軌道、とはいえそこまで上り詰めるとは! その後、イーロン・マスクとの破局が伝えられるも、その関係は離婚成立前からだったことがあとで判明し、ジョニデにしてみれば、どうしても腹の虫が収まらなかったのだろう。

まさに愛憎相半ば、元のパートナー、ヴァネッサ・パラディが「彼はそんな男じゃないわ」といくらかばってくれても、ジョニデの言動はやはりどこか常軌を逸している。彼はやっぱりファムファタールに狂わされてしまったのだ。

彼女のように360度全方位、いつでもどこでも恋愛を始めてしまう女に、いちいち嫉妬を覚えていたら、それこそ前後不覚になるのだろう。身がもたないどころか、おかしくなる。そういうふうに極めて短期間に男を狂わすことができる女なのだ。

アンバー・ハード
アンバー・ハード

そして一方、男を夢中にさせる女は逆に男を逆上させるのも得意である。だから男を二重に苦しめ、ボロボロにしてしまう。苦しめられ、狂わされ、自分を蔑み、貶める、だからずっと許せない。そこまでの被害を被れば、これは人間の仕業ではない、“魔女の仕業”だと思うしかないわけで、別れが決定的になっててから「彼女は魔女だった」と男がしみじみ思う、思うしかないのが、すなわちアンバー・ハードという女性なのである。

そう、男にとっての悪女も、自覚なき無邪気な悪女ならば、「小悪魔」。作為的で野心丸出し、残酷な悪女ならば、「魔女」となる。アンバー・ハードは紛れもなく後者だが、ただやっぱりそれが通用してしまうくらい、魅力的で美しい人なのは間違いない。いやほとんど奇跡的に。

それにしても彼女の目的は何なのだろう。魔女の目的はいつも世界制覇? 行けるところまで行く。上れるところまで上り詰める。つまり彼女は単に、男を翻弄することが好きなだけの女ではない。だから世の中はさらに戸惑うのである。彼女のような女を測る物差しを持っていないから。あとはただ見守るしかない。傷ついた男の魔女狩りを。少し弱々しいその裁判に、彼は勝てるのだろうか?

この記事の執筆者
女性誌編集者を経て独立。美容ジャーナリスト、エッセイスト。女性誌において多数の連載エッセイをもつほか、美容記事の企画、化粧品の開発・アドバイザー、NPO法人日本ホリスティックビューティ協会理事など幅広く活躍。『Yahoo!ニュース「個人」』でコラムを執筆中。近著『大人の女よ!もっと攻めなさい』(集英社インターナショナル)、『“一生美人”力 人生の質が高まる108の気づき』(朝日新聞出版)ほか、『されど“服”で人生は変わる』(講談社)など著書多数。好きなもの:マーラー、東方神起、ベルリンフィル、トレンチコート、60年代、『ココ マドモアゼル』の香り、ケイト・ブランシェット、白と黒、映画
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Aflo