いつも、スーツケースに詰める本を選ぶ時、旅先での日々を想像して、わくわくします。今回の「松本十帖」は本を持たずに、手ぶらでの訪問。現地で未知なる本との出会いが待っているから。さぁ、じっくり腰を据えて、読書三昧です!

国宝・松本城がそびえる、日本の真ん中、松本。その奥座敷にある浅間温泉は、遠い日の賑わいがそこここにうかがえる、昭和レトロの温泉地です。細い路地や坂道が入り組んだ古い町並みのふもとにある、おやきとコーヒーの店に車を止め、まずはひと休み。信州名物おやきがウェルカムスイーツとしてふるまわれます。この店も、松本十帖の施設のひとつです。

終わった温泉街をブーストするエリア再生プロジェクト

「松本本箱」のエントランス
創業334年の老舗旅館「小柳」をリノベーション。2つのホテル棟が並び、こちらは「松本本箱」のエントランス

松本十帖は浅間温泉に点在する、2つのホテルと書店と生活雑貨店、共同温泉、コーヒーとおやきの店などからなります。一見、終わってしまったように見える町をブーストする、「エリアリノベーション」のプロジェクト。2020年7月23日にプレオープンし、今後もシードル醸造所や、カフェ「哲学と甘いもの」などがお目見えする予定です。

松本本箱
「松本本箱」。左手にシードルの醸造所がオープン予定。ゆくゆくは見学も可能に
「おやきとコーヒー」の店
「おやきとコーヒー」の店。アートレス クラフト ティー&コーヒーのコーヒーを供します
共同温泉「小柳の湯」
「松本本箱」と「ホテル小柳」の間に立つ共同温泉「小柳の湯」。町に息づく隣人で管理しあう“仲間湯”文化を継承

2軒あるホテルは、雰囲気やコンセプトが異なります。館内に書店を併設し1万冊の蔵書を誇る「松本本箱」(24室)は、静寂をキープするために小学生の中学年以上から。コンクリートの打ちっぱなしなどミニマムモダンなデザインです。一方の「ホテル小柳」(14室)は、ファミリーや一人旅、グループ旅行に対応、グローバルデザインも採用し、幅広いゲストに開かれています。1階には地元のお土産や生活雑貨を扱うショップが入っています。

1万冊以上の蔵書の「松本本箱」で、知の泉に突入

今回のお宿は「松本本箱」へ。かつて皇室の方々も滞在された、創業334年の老舗温泉旅館をリノベートした建物で、エントランスは純和風です。のれんをくぐると、ロビーエリアから、圧するほどの本棚が。左手へ行くと、本屋エリアになります。

「松本本箱」内の本屋
「松本本箱」内の本屋。この暖簾をくぐると大浴場を改装したスペースへ。
建築やファッション、写真集を集めたエリア
かつての大浴場を本屋の一画に。建築やファッション、写真集を集めたエリア

本屋の入口付近は雑誌コーナー。ブックディレクターの幅充孝さんがキュレートするコーナーでは「新しい生活様式を考える」をテーマに選書(定期的にテーマは変わります)。文化や音楽、ファッション、マンガ、思想……、あらゆるタイプの本が並び、背表紙を見ているだけで楽しくなります。

本棚の裏の読書スペース
本棚の裏に隠れ部屋のような読書スペースが
絵本が並ぶ「こども本棚」
絵本が並ぶ「こども本棚」。天井はケロリンの洗面器をライトに。本棚が迷路のように配置されています

さらに本屋を進むと、靴を脱いで入るエリアに。2階の「オトナ本箱」はかつて大浴場だった場所を生かしたレイアウト。水の入っていない巨大な湯船に没入して本を読みふけるもよし、洗面台の上に気になる本を並べてチョイスするもよし。地下の「コドモ本箱」は迷路のように本棚が並び、湯船がボールプールと化しています。大人だって、このスペースでは、はしゃぎたくなってしまいます。

目的なく本棚の間をさまよっていると、今まで縁遠かったジャンルにも手を伸ばしたくなりますし、知らなかった世界との邂逅もあります。こうした出会いはオンラインの書店ではなく、リアルな本屋ならでは。松本は日本で最初に誕生した小学校のひとつ「開智学校」が残る町。まさに、知と触れ合うには格好のロケーションといえるでしょう。

レストラン「三六七(さんろくなな)」
元は宴会場だった、レストラン「三六五+二(さんろくなな)」。楢やクヌギなど、いろんな木の薪を使用してグリル料理を焼き上げます
信州豚のディナーのメイン料理
信州豚のディナーのメイン料理。信州産の食材やワインが楽しめます

1階のレストラン「三六五+二(さんろくなな)」では、山に囲まれた松本という土地柄、薪を使ったグリル料理をサーブ。カトラリーレストも、節くれだった枝が使われています。中央に薪窯があり、燃える炎とてきぱき動くスタッフで、レストラン内は活気に溢れています。

レストランの壁にも本棚があり、食にまつわる本が集められています。ちなみに「三六五+二」は千曲川の長さです。

全室に温泉の露天風呂付き

24の客室は、すべてに温泉の露天風呂付きです。電話はタブレットを使用、室内に用意されたタンブラーは館内のコーヒーやドリンクサーバーでおかわりし放題です。

また、プラスチックを室内にできるかぎり置かないよう、廊下のアメニティバーで必要なものをもってくるスタイル。アメニティバーには浴衣や追加分のタオルに加え、オブセ牛乳のキャラメルやフルーツゼリーなど、ご当地のおやつも並んでいます。

グランドスイート
松本市街を一望にする、グランドスイート。とにかく広い!
露天風呂
全室に温泉の露天風呂がしつらえてあります。こちらはグランドスイート
バインミー(ベトナム風サンドウィッチ)
ある日の朝食。信州野菜をたっぷりと

憧れは最上階にある「グランドスイート」。100平方メートルはあるのではなかろうか、という広いスペースの真ん中にベッドがドン。ワイドな窓から、松本の市街地や北アルプスの山並みのパノラマビューが広がります。この眺めがみごと! 冬は連山が冠雪し、一面の銀世界を望むそうです。一角には畳のサブルームやバーカウンター、温泉の露天風呂&バスルーム(この部屋のみ内風呂もあります)を配置。最大5人まで滞在できます。

本屋に並ぶ本は、購入も可能。新たな興味の扉を開けてもらえた今回の滞在、帰りのスーツケースは仕入れた本でパンパンになってしまいました。家に帰ってからの読書が楽しみ。

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問い合わせ先

  • 松本十帖
  • 料金/スタンダードツイン¥31,500~、テラススイート¥102,400~、グランドスイート¥147,200~
  • TEL:025-783-6777
  • 住所/長野県松本市浅間温泉

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この記事の執筆者
ダイビング雑誌の編集者を経てフリーに。海外旅行専門誌でもビーチを担当。月に1~2回、海外を中心に国内外のビーチリゾートへ通うこと、かれこれ四半世紀以上になる。女性誌の旅記事、ライフスタイル誌の連載、ウェブの連載ほか、共著に『奇跡のリゾート 星のや竹富島』など。世界のビーチガイド「World Beach Guide(http://www.world-beach-guide.com ) 」主催 好きなもの:海でボーッとすること、ボディボード、ダイビング、ビーチパーティー、Jazztronik、H ZETTRIO、渋谷Room
公式サイト:古関千恵子ホームぺージ
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WRITING :
古関千恵子
EDIT :
安念美和子、麻生彩佳・原田恵子(イクシアネクスト)