いつも、スーツケースに詰める本を選ぶ時、旅先での日々を想像して、わくわくします。今回の「松本十帖」は本を持たずに、手ぶらでの訪問。現地で未知なる本との出会いが待っているから。さぁ、じっくり腰を据えて、読書三昧です!
国宝・松本城がそびえる、日本の真ん中、松本。その奥座敷にある浅間温泉は、遠い日の賑わいがそこここにうかがえる、昭和レトロの温泉地です。細い路地や坂道が入り組んだ古い町並みのふもとにある、おやきとコーヒーの店に車を止め、まずはひと休み。信州名物おやきがウェルカムスイーツとしてふるまわれます。この店も、松本十帖の施設のひとつです。
終わった温泉街をブーストするエリア再生プロジェクト
松本十帖は浅間温泉に点在する、2つのホテルと書店と生活雑貨店、共同温泉、コーヒーとおやきの店などからなります。一見、終わってしまったように見える町をブーストする、「エリアリノベーション」のプロジェクト。2020年7月23日にプレオープンし、今後もシードル醸造所や、カフェ「哲学と甘いもの」などがお目見えする予定です。
2軒あるホテルは、雰囲気やコンセプトが異なります。館内に書店を併設し1万冊の蔵書を誇る「松本本箱」(24室)は、静寂をキープするために小学生の中学年以上から。コンクリートの打ちっぱなしなどミニマムモダンなデザインです。一方の「ホテル小柳」(14室)は、ファミリーや一人旅、グループ旅行に対応、グローバルデザインも採用し、幅広いゲストに開かれています。1階には地元のお土産や生活雑貨を扱うショップが入っています。
1万冊以上の蔵書の「松本本箱」で、知の泉に突入
今回のお宿は「松本本箱」へ。かつて皇室の方々も滞在された、創業334年の老舗温泉旅館をリノベートした建物で、エントランスは純和風です。のれんをくぐると、ロビーエリアから、圧するほどの本棚が。左手へ行くと、本屋エリアになります。
本屋の入口付近は雑誌コーナー。ブックディレクターの幅充孝さんがキュレートするコーナーでは「新しい生活様式を考える」をテーマに選書(定期的にテーマは変わります)。文化や音楽、ファッション、マンガ、思想……、あらゆるタイプの本が並び、背表紙を見ているだけで楽しくなります。
さらに本屋を進むと、靴を脱いで入るエリアに。2階の「オトナ本箱」はかつて大浴場だった場所を生かしたレイアウト。水の入っていない巨大な湯船に没入して本を読みふけるもよし、洗面台の上に気になる本を並べてチョイスするもよし。地下の「コドモ本箱」は迷路のように本棚が並び、湯船がボールプールと化しています。大人だって、このスペースでは、はしゃぎたくなってしまいます。
目的なく本棚の間をさまよっていると、今まで縁遠かったジャンルにも手を伸ばしたくなりますし、知らなかった世界との邂逅もあります。こうした出会いはオンラインの書店ではなく、リアルな本屋ならでは。松本は日本で最初に誕生した小学校のひとつ「開智学校」が残る町。まさに、知と触れ合うには格好のロケーションといえるでしょう。
1階のレストラン「三六五+二(さんろくなな)」では、山に囲まれた松本という土地柄、薪を使ったグリル料理をサーブ。カトラリーレストも、節くれだった枝が使われています。中央に薪窯があり、燃える炎とてきぱき動くスタッフで、レストラン内は活気に溢れています。
レストランの壁にも本棚があり、食にまつわる本が集められています。ちなみに「三六五+二」は千曲川の長さです。
全室に温泉の露天風呂付き
24の客室は、すべてに温泉の露天風呂付きです。電話はタブレットを使用、室内に用意されたタンブラーは館内のコーヒーやドリンクサーバーでおかわりし放題です。
また、プラスチックを室内にできるかぎり置かないよう、廊下のアメニティバーで必要なものをもってくるスタイル。アメニティバーには浴衣や追加分のタオルに加え、オブセ牛乳のキャラメルやフルーツゼリーなど、ご当地のおやつも並んでいます。
憧れは最上階にある「グランドスイート」。100平方メートルはあるのではなかろうか、という広いスペースの真ん中にベッドがドン。ワイドな窓から、松本の市街地や北アルプスの山並みのパノラマビューが広がります。この眺めがみごと! 冬は連山が冠雪し、一面の銀世界を望むそうです。一角には畳のサブルームやバーカウンター、温泉の露天風呂&バスルーム(この部屋のみ内風呂もあります)を配置。最大5人まで滞在できます。
本屋に並ぶ本は、購入も可能。新たな興味の扉を開けてもらえた今回の滞在、帰りのスーツケースは仕入れた本でパンパンになってしまいました。家に帰ってからの読書が楽しみ。
問い合わせ先
- 松本十帖
- 料金/スタンダードツイン¥31,500~、テラススイート¥102,400~、グランドスイート¥147,200~
- TEL:025-783-6777
- 住所/長野県松本市浅間温泉
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- TEXT :
- 古関千恵子さん ビーチライター
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- WRITING :
- 古関千恵子
- EDIT :
- 安念美和子、麻生彩佳・原田恵子(イクシアネクスト)