作家・三島由紀夫没後50周年となる2020年。記念公演『M』と『MISHIMA2020』が今秋上演されます。
この2作品には、日本を代表するふたりのダンサーが出演します。
ひとりは、東京バレエ団プリンシパルで、20年以上第一線で活躍し続けるバレリーナの上野水香さん。水野さんが出演する『M』は、三島由紀夫の著作や思想、美学が描かれたもの。三島と振付師の故モーリス・ベジャール、ふたりのスピリットの融合を体感できます。
もうひとりは、エネルギッシュで独自のスタイルを貫くダンスに加え、NHK大河ドラマ『いだてん』の演技も話題となった菅原小春さん。菅原さんが出演する『MISHIMA2020』の中の戯曲『憂国』(『(死なない)憂国』)は、「二・二六事件」の決起人となった友人を中尉として討つことができず、自決を選んだ主人公・信二とその妻・麗子の姿を描いた原作を、現代版の解釈で表現したものです。
三島由紀夫という共通項でつながった上野さんと菅原さんの“初めまして対談”の後編をお送りします。
東京バレエ団プリンシパルダンサーの上野水香さん×ダンサー・振付師の菅原小春さんの独占対談・後編
「心で作品と交わっていくと、自然と自分の表現になる」菅原
上野 菅原さん、セリフを覚えるのは大変ですか?
菅原 絶対に覚えられないと思うくらい大変でしたけど、これが覚えられたんです。人間ってやればできるものですね。
上野 すばらしいです。これまで体を使っていた表現手段が言葉に変わっていくのは新鮮でしょうね。でもその一方で、芝居の場合はやはり体同士のものでもあるのかなと。
菅原 表現方法が文字でも体でも、結局ぶつかっているものは「ここ(胸を軽くたたく)」でしかないですからね。私の場合は演技をしよう、セリフを喋ろうと思うと違うものになってしまいます。「こうしよう」という考えや小手先のテクニックを全部取っ払って感情だけで作品と交わっていくと、自然と表現になっていきます。
上野 自然体のよさですね。バレエも「これが美しい」「これが正しい」と理想ばかりを追って型通りに踊るとつまらないものになってしまいます。
菅原 バレエには「こうでないと」という決まった形があるのかと思いました。
上野 基本はありますが、そればかりにとらわれると非常に退屈なアーティストになってしまいます。菅原さんが話していたように、自然体で演じたり、踊ったりすることが観ている人の心を打つのは、真理ですよね。
菅原 私はそもそもテクニックがないので。ダンスもテクニックがないですし……。
上野 そんなことないですよ(笑)。
菅原 テクニックがないから、自分の感情のままに作品にぶつかっていくと、色々な発見があります。信二役の東出昌大さんからは、「なんだ? この動物は」と思われているかもしれないけど(笑)。
上野 ダンサーの菅原さんと俳優の東出さんが同じ舞台の上に立って、どういう表現になるのかな……? どうなるのか想像がつかなくて、面白そう。 公演を見てみたいです。
菅原 ぜひ見てほしいです!
第一線で活躍するダンサーの自分ケア
――ご自身のケアとして、何かされていることはありますか?
上野 なんだろう。落ち込むときはとことん落ち込んでしまうタイプだから……。
菅原 上野さんは、体型維持のために食事制限はしていますか?
上野 はい。しないと太っちゃうので。
菅原 食べたいだけ食べることはないですか?
上野 あるある(笑)。「今日は食べる」と決めたら、思いっきり食べます。
菅原 意外と肉系が好きそうですね。
上野 大好き! でも、なんでわかるんですか?
菅原 なぜかわかってしまうんですよね(笑)。
上野 タンパク質を摂らないといけないから、普段は脂肪分が少ないお肉を少しだけ食べるようにしています。でも、本当に好きなのは口の中でとろけるようなお肉(笑)。
菅原 上野さんの人間らしい一面を聞けました(笑)。私も飲みたいだけ飲んで、食べたいだけ食べるときがありますよ。
上野 たまに自分を解放することは大事。これもケアのひとつですね。
菅原 上野さんを見ていると、つねに体のなかに一本の筋が通っているようで憧れます。姿勢って大事ですね。
上野 そんな……家ではダラっとしていますよ(笑)。私からすると、自分のスタイルを生み出している菅原さんはすごくかっこいいです!
――表現を磨くために、普段から意識されていることはあるのでしょうか?
菅原 表現は、磨くものじゃないですよ。
上野 磨くものではなく、にじみ出るものですよね。その人の生き様というか……。それが個性だと思います。
菅原 人生をどれだけ楽しめるかが大事ですね。うん、いいこと言った! よしよし(笑)。
「人は完璧じゃないから、自分にしかできない表現を大切にしたい」上野
――おふたりが現在までのキャリアを築く過程で、どのような壁がありましたか? 乗り越え方も教えてください。
上野 壁……。私、毎日が壁です。
菅原 私もです。よくインタビューで壁の話を聞かれるけど、私からすると「みんな壁がないの?」と逆に聞きたくなってしまう。
上野 生きていると壁ばかりですよね。「こうなりたい」姿があるのに、鏡に映る自分はその理想とは全然違う……。そういう種類の壁はたくさんあります。でも、人は完璧じゃないから、どれだけ自分だけの表現をできるかを大切にしたいです。
菅原 私は「打ち破るしかないでしょ!」って割とポジティブに壁を壊していきます。だって、それしかないですから。
上野 うんうん(笑)。
菅原 やっぱり、自分にドキドキしていないとダメだと思います。そうでないときに壁が来てしまうと、潰されてしまう。それに、自分を愛せていないと人にも優しくできないじゃないですか。SNSで誹謗中傷する人も自分を愛せていないから、誰かに矛先を向けてしまうのかもしれません。
上野 「自分にドキドキする」っていい言葉ですね。
菅原 最近ひらめきました(笑)。「すごいサラダをつくった自分」にドキドキするみたいな。自分を愛せていれば、「いい壁きたぜ!」と壁すらもポジティブにスコーンと打ち返してしまえそう。
上野 いいですね。私も心に留めておきます。
表現者として生きてきた上野さんと菅原さんだからこそ、わかり合える部分も多いようです。初対面とは思えないほど息の合うおふたりの共演、次回は舞台上で見てみたいものです。
作品詳細
- MISHIMA2020
- 会場/日生劇場
会期/2020年9月21日(月・祝)~22日(火・祝) ※3公演+オンライン配信1公演
『憂国』(『(死なない)憂国』) 出演/東出昌大、菅原小春
『橋づくし』 出演/伊原六花、井桁弘恵、野口かおる、高橋努
2020年9月26日(土)~27日(日) ※3公演+オンライン配信あり
『真夏の死』(『summer remind』) 出演/中村ゆり、平原テツ
『班女』近代能楽集より 出演/麻実れい、橋本愛、中村蒼 - M
- 会場/東京文化会館
- 会期/2020年10月24日(土)14:00~、10月25日(日)14:00~
- 出演/柄本弾、宮川新大、秋元康臣、池本祥真、樋口祐輝、上野水香、金子仁美、沖香菜子、政本絵美、川島麻実子 他
衣装問い合わせ先
- ADEAM(ADEM 東京ミッドタウン店)TEL : 03-3402-1019
- MARIA BLACK(エスケーパーズオンライン)TEL : 03-5464-9945
- ファビオ ルスコーニ(ファビオ ルスコーニ ルミネ有楽町店)TEL : 03-3486-8847
- ERDEM,Malone Souliers(メゾン・ディセット) TEL:03-3470-2100
- TEXT :
- 畑菜穂子さん ライター
Twitter へのリンク
- STYLIST :
- 菅原さん:上杉美雪
- HAIR MAKE :
- 上野さん:石川ユウキ(Three PEACE)、菅原さん:国府田圭
- WRITING :
- 畑菜穂子
- EDIT :
- 小林麻美