「亥の子」という言葉をご存じですか? 特定の地域に伝わる日本古来の行事なのですが、なんと読むのでしょう? この記事では、亥の子に行われる祝いや祭り、その意味や由来、行事や風習などに迫ってみました。また、亥の子に食べる「亥の子餅」やそのレシピなどもご紹介していきます。

■亥の子ってなんて読むの?

亥の子ってなんて読むの?
亥の子ってなんて読むの?

日本古来の伝統行事に「亥の子」があります。亥の子と書いて「いのこ」と読むのですが、何をするのでしょうか。

■亥の子の祝い、亥の子祭りとは

亥の子とは「亥(い)の月に迎える最初の亥の日の亥の刻」に行われる収穫祭のことです。地域によって「亥の子の祝い」「亥の子の祭り」「お亥の子さん」などとも呼ばれています。

2020年の亥の子とはいつ?

亥の子の日付は、毎年異なります。そもそも亥の子の「亥」は「十二支の亥(イノシシ)」を指すものです。十二支は、年だけではなく月や日にも割り当てられており、亥の月とは11月、そして亥の日とは365日の間に12日ごとにめぐってきます。そのことから2020年の亥の子は11月4日(水曜日)です。

ちなみに、十二支は時間にも振られており、亥の刻は21時頃~23時頃になります。

亥の子にお祝いをしたり祭りをする理由

亥の子は、平安時代に中国から伝わった「亥子祝(いのこいわい)」という風習が起源とされています。本来は、無病息災を祈るために行われていた宮中行事でしたが、たまたま収穫の時期と重なっていたため、農業を生業にする庶民にも収穫祭として伝わっていくようになりました。

また、イノシシが多産なことから、子孫繁栄の願いも込められているといわれています。

■亥の子祭りの行事・風習

農作物の収穫祝いをはじめ、無病息災や子孫繁栄を願う亥の子。しかし、亥の子祭りの認知度には地域差があるようです。ここでは、亥の子祭りが実際に行われる地域での行事や風習をご紹介していきます。

亥の子祭りが行われる地域

亥の子祭りは、広島・岡山・大阪などの西日本を中心とした祭りです。東日本ではあまり知られておらず、亥の子祭りそのものが行われていません。代わりに「十日夜(とおかんや)」といわれる収穫祭を兼ねたようなお月見が、亥の子祭りと同時期である旧暦の10月10日に行われています。

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行事・風習1:亥の子餅

亥の子祭りの行事・風習の中で、真っ先に挙げられるものが「亥の子餅」を食べることです。「亥の子=亥の子餅」といわれるほどポピュラーな行事・風習といえるでしょう。亥の子餅とは、その名の通り、イノシシの形をしていたり、うり坊のような縞模様を焼きごてで付けた餅です。

行事・風習2:亥の子つき

「亥の子つき」も亥の子祭りの代表的な行事・風習のひとつです。地域によって多少の違いがあるものの、子どもたちが「亥の子槌(づち)」や「石亥の子」と呼ばれる道具を使い、地面をついたり、叩いたりしながら地域の家々を回ります。訪問された家は、子どもたちに亥の子餅やお菓子、お小遣いなどを渡すのが習わしです。

地面を叩くことにより、邪心を祓い、害獣を退治するといった意味を持つ行事といわれています。

行事・風習3:亥の子唄

「亥の子唄」とは、亥の子つきのときに子どもたちが歌うものです。歌詞は、広島・愛媛・京都など、地域によって異なるのですが、その多くが数え唄や囃子唄となっており、無病息災を願う縁起を担いだ内容となっています。しかし、亥の子餅やお菓子などをふるまってくれない家に対しては、悪口を言うような歌詞も存在するようです。

亥の子祭り以外の行事・風習

亥の子祭り以外の行事・風習
亥の子祭り以外の行事・風習

亥の子には、祭り以外の行事や風習を行うこともあります。それが「こたつ開き」や「炉開き」といわれるものです。古代中国の思想である陰陽五行説において水性に属する「亥」。その亥が火に強いことにあやかって、亥の子の日にこたつを出したり、囲炉裏(いろり)を開くと、火災から逃れられることができるといわれています。

また、茶道の世界でも亥の子に炉開きが行われ、茶席のお菓子に亥の子餅が出されることも多いようです。

■亥の子餅とは

亥の子餅とは
亥の子餅とは

亥の子の行事食といえば、イノシシの形状を模したり、その子供であるうり坊のような縞模様が入った亥の子餅です。古来の日本では、大豆・小豆・大角豆(ささげ)・胡麻・栗・柿・糖(あめ)といった七種類の粉をその年に収穫された新米に混ぜて作られたといわれています。

亥の子餅の由来

亥の子餅は、亥の子の風習とともに中国から伝わってきたものです。中国の無病息災を祈る風習「亥子祝(いのこいわい)」のときに、願をかける縁起物として食べられていました。亥の月、亥の日、亥の刻に亥の子餅を食べれば、病気と無縁になるといわれています。

また、江戸時代に亥の月最初の亥の日を「玄猪(げんちょ)の日」と定めたことから亥の子餅を「玄猪餅」と呼ぶこともあるようです。

いつ食べるのか?

いつ、どのようなタイミングで、亥の子餅を食べるのでしょう? それは、主に亥の子祭りの日、こたつ開きや炉開きの日に無病息災や子孫繁栄を願いながら食べられています。特に亥の刻に食べることがよいとされているため、2020年の今年ならば、11月4日22時前後(午後10時ごろ)がベストのタイミングです。

源氏物語に出てくる亥の子餅

紫式部の長編小説「源氏物語」にも亥の子餅が登場する場面があることをご存じですか? 光源氏と紫の上の巻には「光源氏と一緒にいる紫の上のもとに美しい容器に入った亥の子餅が届けられた」と書かれています。すでに平安の時代から亥の子餅が日本で食べられていたということがわかる一節です。

■亥の子餅のレシピ

無病息災や子孫繁栄を願い、亥の子餅を自分で作ってみましょう。ここでは、亥の子餅のレシピをご紹介します。材料を変えてみたり、イノシシの形を模したりするなど、自分流にアレンジしても楽しめそうです。

材料(12個分)

もち粉(白玉粉):50g
水:90ml
粒あん:240g
グラニュー糖:70g
白ごま:大さじ1杯
栗:適量
干し柿:適量
きなこ:適量

作り方

餡の作り方

1.茹でて皮をむいた栗と干し柿を小さく刻む
2.白ごまをすり潰す
3.栗、干し柿、白ごまと粒あんを容器に入れ、それを混ぜ合わせる
4.12等分にわけ、楕円形に丸める

皮になる求肥(ぎゅうひ)の作り方

1.耐熱性の容器にもち粉、グラニュー糖、水を少量ずつ加えながらよく混ぜる
2.混ぜ終えたら容器にラップをし、1分ほど電子レンジで加熱
3.加熱後、水で湿らせたゴムベラでこね、透明感が出たら12等分にわける (※2と3の工程は、透明感が出るまで数回繰り返す)

仕上げ

1.棒状のもので3を伸ばし、あんを包む
2.その表面にイノシシをイメージした縞模様(すじ)を竹串で入れる
3.そのすじにきな粉を振りかけたら完成

■亥の子餅のおすすめ

亥の子餅は、毎年10月下旬あたりから和菓子店でも販売されます。ここでは、亥の子餅を取り扱うおすすめの和菓子店を厳選してみました。それぞれのお店により、形や色、材料も違うため、食べ比べてみても面白いかもしれません。

とらや「亥の子餅(御膳餡入)」

室町時代後期から京都で創業、500年の伝統を持つ老舗中の老舗和菓子店とらや。ようかんでも有名なとらやの亥の子餅は、鎌倉時代の文献を参考にして作られています。きな粉、干柿、ごまを混ぜ込んだ餅の生地で御膳餡を包んだ期間限定の一品です。
販売期間:2020年11月1日〜11月30日

とらやオフィシャルサイト

甘春堂「亥の子餅・玄猪餅」

甘春堂は1865年の創業から6代に渡り、和菓子作りの暖簾を守ってきた老舗店です。期間限定品の亥の子餅は、白あんと粒あんの二十餡。求肥には、最高級の餅粉といわれる羽二重粉を使っています。その求肥に混ぜ込まれた白ごまの風味も絶品です。
販売期間:2020年10月中旬〜11月30日

甘春堂オフィシャルサイト

無病息災を願い、亥の子に亥の子餅を食べましょう

亥の子とは、平安時代に中国から伝わった西日本の地域を中心とした収穫祭のことです。無病息災や子孫繁栄の願いも込められた亥の子の祝いや祭りでは、亥の子餅や亥の子つき、亥の子唄などの行事や風習が今でも残っています。

また、亥の子に暖房器具や囲炉裏などを使い始めれば、火災から守られるといわれる「こたつ開き」「炉開き」も興味深い風習のひとつといえるでしょう。

2020年の亥の子は11月4日(水曜日)です。当日、亥の刻午後10時ごろに亥の子餅を食べ、自分や家族の無病息災や繁栄の願をかけてみてはいかがでしょうか。

この記事の執筆者
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